慢性痛治療の専門医による痛みと身体のQ&A

巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)NEW

Q:巨細胞性動脈炎とはどんな病気ですか?なぜ痛むのですか?

頭皮を走る大きな動脈(浅側頭動脈など)の壁に強い「炎症」が起き、血流障害と激しい痛みを引き起こす病気です。

他の動画やコラムでも解説しているように、頭痛や慢性痛の多くは、血管の周囲や壁の中で異常な炎症(モヤモヤ血管)が起き、血管と一緒に増殖した神経が強く刺激されることで発生します。

巨細胞性動脈炎もまさに同じ仕組みで、免疫の暴走によってこめかみ付近を走る「浅側頭動脈(せんそくとうどうみゃく:STA)」などの血管壁に激しい炎症が起こります。炎症によって血管壁が腫れて厚くなると、血流が途絶えて酸素不足(虚血)になると同時に、周りの神経が過敏になって激しい痛みを発します。

かつては、こめかみの血管炎が目立つことから「側頭動脈炎」と呼ばれていましたが、大動脈などの大きな血管にも炎症が及ぶことがわかり、現在では「巨細胞性動脈炎(GCA)」という名称に統一され、国の指定難病(告示番号41)に認定されています。

巨細胞性動脈炎

Q:巨細胞性動脈炎の原因は何でしょうか?なぜ血管に炎症が起きるのですか?

加齢に伴う免疫のバランス変化(イムノセンス)をベースに、自分の免疫細胞が血管を誤って攻撃してしまう「自己免疫反応」が原因と考えられています。明確な単一のきっかけは特定されていませんが、体内では以下のようなステップで血管に激しい炎症が進行していきます。

① 免疫細胞の集結と暴走

50歳以上になると免疫システムのバランスが変化しやすくなります。何らかの理由で、本来はウイルスなどを退治するはずのT細胞やマクロファージという免疫細胞が、こめかみなどの血管壁に集まってしまいます。

②「巨細胞」の形成と激しい炎症

血管壁に集まったマクロファージ同士がくっつき合い、大きな「多核巨細胞(病名の由来)」を作ります。この細胞群がIL-6をはじめとする強力な炎症物質を放出することで、血管の内壁が分厚く腫れ上がります。

③ 血流障害(虚血)と激痛の発生

腫れ上がった血管壁によって血管内が極度に狭くなり、血流が途絶えて酸素が行き渡らなくなります(虚血)。これにより過敏になった周囲の神経が強く刺激され、頭皮や顎に激痛や機能障害が起こります。

Q:巨細胞性動脈炎の検査はどういったことをしますか?血液検査でわかりますか?

血液検査だけで確定することはできません血液検査・エコー検査・動脈生検(組織検査)などを総合的に組み合わせて診断します。

血液検査(炎症の勢いを調べる)

血管の強い炎症を反映して、体内の炎症反応を示すCRP(C反応性たんぱく)や赤血球沈降速度(赤沈/ESR)が極めて高い値になります(赤沈は50mm/時以上、しばしば80〜100mm/時を超えます)。貧血や血小板の増加が見られることもありますが、これらだけで病名を特定することはできません。

超音波(エコー)検査

こめかみの浅側頭動脈(STA)をエコーで観察します。炎症で厚くなった血管壁の周りに、黒い輪のような影(ハローサイン:halo sign)が見られるのが大きな特徴です。

動脈生検(最も確実な組織検査)

診断の確実な根拠(ゴールドスタンダード)となる検査です。こめかみ付近の皮膚を少し切開し、浅側頭動脈の血管組織(2cm以上)を採取して顕微鏡で巨細胞や炎症の有無を確認します。

画像検査(CT・MRI・PET)

大動脈など体内の深い場所にある大きな血管に炎症が広がっていないか確認するため、造影CTやMRA、FDG-PET/CT検査などを行います。

Q:巨細胞性動脈炎の診断基準について教えてください

代表的な診断基準(アメリカリウマチ学会基準)では、以下の5項目のうち「3項目以上」を満たす場合に確定診断となります。

  • 発症年齢が50歳以上
  • 新たに出現した頭痛
  • こめかみ(浅側頭動脈)の圧痛(押すと痛む)または拍動の低下
  • 赤血球沈降速度(赤沈)50 mm/時 以上の亢進
  • 動脈生検で肉芽腫性血管炎や巨細胞が確認される

※近年では、エコーのハローサインやPET画像を評価に組み込んだ新しい改訂基準も活用されています。

Q:片頭痛や緊張型頭痛とはどう違いますか?自分で気づく方法(セルフチェック)はありますか?

年齢層(50歳以上)と、痛みの性質(触ると激痛・顎の疲れ・目の症状など)が大きく異なります。若い女性に多い片頭痛や、肩こりからくる緊張型頭痛とは異なり、巨細胞性動脈炎には特有のサインがあります。

他の頭痛との決定的な違い

発症年齢:
片頭痛は10~40代に多く50代以降は減りますが、本症は50歳以上(特に70代)で初めて発症します。

痛みの現れ方:
片頭痛の閃輝暗点(光がキラキラ見える)とは異なり、本症では「視野が真っ暗になる」「急に見えにくくなる」といった危険な目の症状が伴います。

触れたときの痛み:
血管がロープ状に太く浮き出て、触れるだけで激痛が走ります。

巨細胞性動脈炎の症例
巨細胞性動脈炎の症例
前額部〜側頭部で、浅側頭動脈の前頭枝が索状に隆起し、蛇行している

自分で気づくための「セルフチェック項目」

以下の項目に当てはまるものがあれば、本症を強く疑うきっかけになります。

  • 1.50歳以上になってから、今までにない激しい頭痛が始まった。
  • 2.こめかみや額の血管が太く浮き出て、押すと強く痛む。
  • 3.髪を梳かしたり、帽子をかぶったり、枕に頭を乗せるだけで頭皮に痛みが走る(頭皮過敏症)。
  • 4.ごはんを食べていると数分で顎が疲れて痛くなり、休まないと噛めなくなる(顎跛行)。
  • 5.目が見えにくくなる、二重に見える、一瞬視界が真っ暗になることがある。
  • 6.肩や腰の周りの筋肉が痛んで、朝起きあがるのが辛い(リウマチ性多発筋痛症の併発)。

Q:髪の毛が抜けたり頭皮が痛む「脱毛症」の症状とも似ているのでしょうか?

はい、「頭皮の血管トラブルや血流不全」という根本のテーマにおいて非常に近い関係にあります。

他の記事で円形脱毛症などの頭皮トラブルについても解説していますが、髪の毛の炎症や抜け毛も、実は「頭皮の免疫異常や血管・血流不全」と深く関係しています。

巨細胞性動脈炎では、浅側頭動脈(STA)という頭皮や毛包(髪の根元)を養うメインの血管に激しい炎症が起きます血管内が狭くなって頭皮への血流が途絶えると、皮膚の知覚神経が刺激されて「帽子が当たるだけで痛い」という頭皮過敏が生じたり、頭皮組織の栄養不足(虚血)が起こります。

つまり、「頭皮の血管に異常な免疫応答や血流障害が起きて障害が出る」という意味で、脱毛症のトラブルと病態の根底で強く通じ合っていると言えます。

円形脱毛症についてはこちら

Q:治療はどのように行いますか?「炎症を抑える」ことで治るのでしょうか?

はい。治療の根幹は、血管の炎症を強力に抑え込んで正常な血流を取り戻すことです。

片頭痛等で行うSTA動注治療が「薬剤で異常な血管・炎症を直接抑えて痛みを引かせる」のと同様に、巨細胞性動脈炎でも「血管の炎症をいかに早く鎮めるか」が最大のポイントです。

1.第一選択薬:副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン)

  • 血管壁の激しい炎症を即効的に沈静化させます。
  • 特に「目が見えにくい」などの危険な兆候がある場合は、失明を防ぐため直ちに高用量のステロイドパルス療法(大量点滴)を行います。

2.分子標的薬(ステロイド減量・再燃防止の最新治療)

  • ステロイドの長期使用による副作用(骨粗鬆症や感染症など)を軽減するため、炎症物質(IL-6)をブロックするトシリズマブ(アクテムラ)や、経口薬のウパダシチニブ(リンヴォック)といった分子標的薬を併用するのが現代の標準治療です。

3.抗血小板薬(アスピリン)

  • 狭くなった血管に血栓(血のかたまり)ができて脳梗塞や失明を起こすのを予防します。

ご自身の判断でステロイドを急にやめたり減らしたりすると、高い確率で血管の炎症が再燃し、失明や脳梗塞、急性副腎不全などの重大なリスクを招くため、医師の指示のもとで慎重に減量していくことが極めて重要です。

またこのような慢性的な痛みに対し、最近になって炎症を抑えるための新しい治療が開発されています。こめかみを通る浅側頭動脈(STA)に極細の針でお薬を流す治療で、外来で受けることができます。同じ自己免疫疾患の脱毛症や片頭痛の治療で、巨細胞性動脈炎にも有効です。詳しく知りたい方は、以下の治療実例のページも参考にしてみてください。

30年来の片頭痛と吐き気、様々な専用薬を試しても治らなかった激痛がSTA動注で改善した治療実例

発症からわずか2週間で髪の半分が抜けた円形脱毛症に対して、動注治療で発毛が得られた症例

Q:何科を受診すればいいでしょうか?医療費助成は使えますか?

受診すべき診療科

全身の血管炎を専門に診る「膠原病リウマチ内科」を受診してください。ただし、かすみ目や視野障害がある場合は失明の緊急事態ですので、すぐに眼科または救急外来を受診する必要があります。

難病指定と医療費助成

国の指定難病であるため、診断基準を満たし、視力障害や活動性血管炎などの基準(重症度分類)に該当する場合、「特定医療費受給者証」が交付され医療費の助成が受けられます。また、症状が落ち着いている時期でも、分子標的薬などの高額な治療を継続する場合は「軽症高額該当」の特例制度を利用できます。

著者プロフィール

奥野祐次 M.D., Ph.D.(医師・医学博士)

オクノクリニック 総院長

専門分野:慢性疼痛、モヤモヤ血管に対する血管内治療、カテーテル治療・動注治療、画像診断(MRI・エコーを活用した精密な痛みの診断)

2006年3月、慶應義塾大学 医学部 卒業。2008年より放射線科医として血管内治療に従事し、2012年3月、同大学大学院医学研究科博士課程を修了(研究テーマ:「病的血管新生」)。同年4月より江戸川病院にて運動器疾患に対する血管内治療を専門に担当。2014年には同院「運動器カテーテルセンター」センター長に就任。2017年10月、神奈川県・センター南にて「オクノクリニック」を開院。
現在東京を中心に全国10院を運営するオクノクリニックの総院長。運動器カテーテル治療の専門医として、長年にわたり痛みに悩む患者の治療に取り組んでいる。

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奥野祐次(医師)

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