慢性痛治療の専門医による痛みと身体のQ&A

乳房の痛みNEW

Q:乳房に痛みがあり1か月以上続いています。乳がんの可能性はありますか?

乳房に痛みがあると、癌(がん)などの怖い病気になっているのではと不安になると思います。
しかし乳房の痛みは必ずしも乳がんの可能性を強く疑うものではありません。

実際に「乳房の痛み」を訴えて病院を受診した患者さんに、乳がんの検査をして陽性(乳がんあり)となった女性は、日本では0.6〜0.9%です。乳房の痛みがあるからと言って、乳がんが見つかる可能性は非常に低いことがわかります。

一方で、検診などで乳がんが見つかった方で、発見当時に乳房の痛みがあった方は2〜7%と報告があります。このデータからも、乳がんがあるからと言って必ずしも痛いわけではなく、むしろ痛くない方のほうが多いことがわかります。

もちろん、乳房に痛みがあると、がんなどの重い病気も心配になると思いますので、検診を受けられることをお勧めしますが、過度に不安になる必要はありません。

乳房の痛みから乳がんが発見される可能性図
乳房の痛みから乳がんが発見される可能性図

Q:乳房に痛みがある場合、原因は何でしょうか。また何科を受診すればいいでしょうか。

乳房に痛みを感じても、実際にはその奥に位置する肋骨や筋膜に痛みが起きていることが多いです。何かの動作をした際に脇の下から乳房の外側に痛みが走る場合、これは肋骨や筋膜による痛みの可能性が高いです。これは肋軟骨炎ともよばれ、一か月ほどで自然と無くなることが多いです。

乳房の痛みの種類

肋軟骨炎について詳しく知りたい方はこちらのページも参考にしてください。

肋骨の痛み(肋軟骨炎)

肋骨や筋膜ではなく、乳腺が原因となる(真の)乳房の痛みの場合、位置としては主に乳房の真ん中や乳首付近から上外側に多く生じます。この痛みの主な原因は、ホルモンのバランスの変化による「乳腺症」とよばれる良性疾患がもっとも多く、特に30代から40代の女性に見られ、生理前に強くなり生理後には症状が治まることが多いです。

このような月経周期に関連した乳房痛は黄体期(生理前の2週間)から症状が現れ、月経まで続き、月経が終わると治まるものがほとんどです。人によっては非常に強い痛みになることもあります。この周期性の痛みが強い場合は、将来的に乳がんになるリスクも高まることが知られています。

乳腺症の痛みで悩んでいる方は、こちらの治療実例も参考にしてください。

2年前からの乳腺症による強い痛みに、カテーテル治療が有効であった一例

また閉経期とよばれる50歳前後から60歳前の女性でも乳房の痛みが生じることがあります。この場合は前述した周期性の乳房痛と異なり、月経周期に関係なく痛みます。片側の乳房が長期間にわたって痛むことがあります。

さらに、年代に関係なく乳房が赤くはれて痛む場合は、乳腺炎という細菌感染の可能性が考えられます。乳腺炎は母乳が乳腺に溜まることや細菌感染によっておこすものです。このほか、感染や授乳とは無関係に発生する慢性乳腺炎なども存在します。

また、最近では、不妊治療や更年期障害の治療として用いられる飲み薬による副作用としての乳腺の痛みも生じることが知られています。

さらに、ブラジャーのサイズが合わないために、物理的な刺激が繰り返して生じる乳腺の痛みもあることが知られています。

Q:乳房の痛みは更年期と関係はありますか?

乳房の痛みの主な原因である乳腺症は、一般的には生理前からはじまり排卵期から生理前にかけて起き、この時期の女性ホルモンの変化に伴うものです。これは30代から40代の更年期前の女性に多くみられます。

それとは別に、更年期や閉経期、60歳手前の女性にも乳房の痛みが発生することがあります。これも閉経に伴うホルモンバランスの変化と関係しています。ホルモンバランスの変化が起きる閉経期には、乳腺の痛みだけでなく、関節の痛みも生じやすい傾向があります。

Q:乳房が痛くて乳がんを心配しています。自分でできるセルフチェック方法はありますか?

セルフチェックは、普段から乳房に注意を払うことが重要です。乳房やその周辺を優しく触れてみましょう。
そして「梅干しの種」や「石ころ」のようなものが触れないかチェックしてください。

まず、指をそろえて胸の上外のあたりを胸の壁に向かって真下に押さえてみてください。乳腺は少しデコボコしており、肋骨の真上の部分は硬く感じることがあります。しこりが感じられる場合は要注意です。

次に、『の』の字を書くようにずらしながら乳房全体を軽く押さえて、しこりやつっかかりがないか確認してください。

そして、乳首を周りからぎゅーっと押さえてみてください。乳首から血の混じったものが出てくる場合は、ポリープやがんの初期症状かもしれません。

月に1回のセルフチェックを習慣化することで、日ごろの乳房の感覚を把握しましょう。通常の乳房の感触を知ることで、異常が生じたさいに早く気づき対処ができます。

もちろん、最終的には自分だけで判断せず専門医の受診も検討してください。乳房に関しては、病院を受診することに抵抗があるかもしれませんが、気になることがあれば専門医に相談しましょう。

Q:乳房の痛みに関する治療法はありますか。

軽い痛みであれば、普通は治療しなくてもいずれ治まります。
月経前に生じる乳房痛は多くの場合、アセトアミノフェン(カロナールなど)や非ステロイド系抗炎症薬(ロキソニンなど)で緩和できます。また、漢方薬が処方されることも多いです。
しかし、上記のような対症療法では十分ではないという場合は、次の質問に記載している、「カテーテル治療」という最新の治療もありますので、参考にしてください。

Q:乳腺の痛みのために、痛み止めやピルを内服していますが、痛みが慢性化して治りません。効果的な治療方法はありますか?

乳腺に痛みが続く場合、乳腺がしこりのように硬くなっていることがほとんどです。このやや硬くなった「しこり」の部分には、乳腺に異常な血管が生じている可能性があります。この不要にできた異常な血管からは、水や線維が漏れ出るために、水の袋ができたり、硬くなります。また、血管と神経が一緒にできるため、強い痛みを伴う原因になります。

最近の研究によれば、根本的な治療法としてカテーテルを使用して異常な血管を除去する方法が痛みの改善に有効であることが分かっています。日帰りで治療でき入院も不要なことから注目されています。

興味のある方は、以下の治療実例のページも参考にしてください。

2年前からの乳腺症による強い痛みに、カテーテル治療が有効であった一例

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痛みをもたらす病気・けが

執筆 奥野祐次(医師)

医師 奥野祐次

医療法人社団 祐優会 総院長
オクノクリニック 院長
慶応義塾大学医学部卒業
慶応義塾大学医学部医学研究科修了

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