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顎関節症
Q:顎が痛く、大きく口を開けることができません。ネットで調べると顎関節症と出てきました。顎関節症とはどんな病気でしょうか。
「口を大きく開け閉めしたときに痛みがある」
「口を開けた時に耳の前でガクッ、ゴリなどと音がする」
「口を大きく開けられない(縦に指3本以上入らない)」
このような症状がでるのが顎関節症です。
顎関節症は顎関節やそれを動かしている筋肉に痛みや動きの制限が生じる病気です。
原因を一つに特定することは難しく、いくつかの要因が複合的に関与することがほとんどです。これらの要因には上の歯と下の歯を接触する癖、日々の習慣的動作による繰り返しの負担、顎関節への外傷、心理的負担(ストレス)などがあげられます。
顎関節症は男性より女性に多く2倍ないし8倍という報告もあります。20代から50代で発症することが多いとされます。
ほとんどの場合、症状は一時的で、セルフケアや対処療法で改善します。しかし中には難治化する人もいます。
Q:顎関節とは何ですか。
左右にひとつずつある関節で、あごの骨と頭蓋骨の骨を結んでいる場所です。耳の穴の少し前方に位置します。
顎関節は下顎骨の「下顎頭」とよばれる突起とその受け皿となる側頭骨の「側頭腔」とよばれる構造からなり、その間には、「ディスク」とよばれる衝撃を吸収する軟骨が挟まった形をしています。顎関節は咀嚼する・飲み込む・話すという日々の動作によって生じるストレスを分散させるために重要な役割を果たしています。
Q:顎関節症はどんな症状が出ますか
顎関節症の症状には以下のものが挙げられます。
- 口を大きく開けた時に、耳の前で「ゴリッ」「カクッ」などの音がする
- 顎関節に片方ないし両方の顎関節の痛み 特に口を開けると痛い
- バケットのような硬い食べ物を噛んだときに「ゴリ」などの音とともに痛みが出る
- 口が大きく開けられない(人差し指から薬指までの指3つが縦に入らない)
- 顎関節を押すと痛みが出る(圧痛)
- 顎関節がロッキングしてしまう(開けたり閉じたりすることが困難になる)
Q:顎関節症の原因は何でしょうか。
顎関節症の原因として以下のものが挙げられます。これらのうちどれか一つのみが原因となるというより、複数の要因が関与して発症することがほとんどです。
1.TCH(Tooth contacting habit:日中に無意識に行なわれる上の歯と下の歯の接触させる習慣のこと。以下に詳細を記載しています)
2.日中の動作:頬杖をつく、ガムを噛む、爪噛み、片方の歯で噛む、猫背
3.夜間の習慣:歯ぎしり、うつぶせ寝
4.精神的要因:ストレス、緊張の続く仕事
5.単回の外傷
6.特定のスポーツ、楽器演奏、職業
「1」のTCHは顎関節症の患者さんの8割以上に見られる習慣とされ、またこの習慣を意識して減らすだけで症状が改善する人が非常に多くいることから、顎関節症の最大の要因と考えられています。
普段、意識していないときに私たちの上の歯と下の歯の間には隙間があり、接触していないことが普通とされています。上の歯と下の歯が接触する時間は1日のなかでわずかに20分未満という報告があります。
ところが、顎関節症の人では、これよりもはるかに長い時間、上下の歯を接触させる癖をもっていることがわかっています。歯並びを気にするために上の歯と下の歯を無意識にかみ合うような癖を持っている人もいます。また、緊張を強いられる仕事や、不良姿勢でスマホやタブレット、PC の画面を見る際にも、無意識に上の歯と下の歯が接触していることがあります。
このように無意識で上下の歯の接触が長時間繰り返されることで、顎関節に負担が蓄積され、顎関節症に移行しているとされています。
「4」のストレスは、「1」のTCHの原因になるとともに、精神的なストレス自体が身体へ炎症を起こすことがわかっており、要因となります。
「5」は一度の外傷であり、転倒して顔を打った、顔をぶたれた、などのエピソードのあとに顎関節症を発症する人がいます。
「6」のスポーツには、強くかみしめることがあるテニス、サッカー、ゴルフ、ラグビーなどのコンタクトスポーツが挙げられます。また、サックスやフルートなどの吹奏楽器の演奏は顎関節への負担が増えることが知られています。
Q:顎関節症は何科の病院に行けばいいのでしょうか。
歯科や大学病院にある口腔外科で診てもらえることが多いです。顎関節症の専門外来を設置している機関もあります。また、一部の整形外科でも診療してもらえる医院があります。
Q:顎関節症はどのように診断するのでしょうか。
診断はまず身体所見として口を開くときや閉じるときに顎関節で音が鳴るかどうかを調べます。また開口の角度を調べます。
ほかに顎関節を指で圧迫して痛みや違和感があるかを調べます。さらに画像検査としてはレントゲン、CT、MRIが行われることがあります。レントゲンやCTでは顎関節の骨の状態に変形があるかどうかが分かります。MRIでは関節のディスクや周囲の軟部組織の状態も評価できます。
Q:顎関節症は自然治癒しますか。
「治癒」をどのように定義するかによります。痛みや開口障害などの症状が十分緩和され、生活に全く支障がなくなる、ということを治癒と定義するなら「十分に治癒する可能性が高い」と言えます。
しかし、顎関節症では顎関節が構造的にダメージを受けていますが、このダメージが治癒することはありません。傷ついた状態は残ります。それでも症状はコントロールできるものです。
というわけで、顎関節症の症状はセルフケアで十分改善できます。ただし構造的なダメージは残ります。また、中には痛みや違和感、開口障害などが慢性化してしまう人もいます。そのような場合は専門的な医療機関の受診も検討してください。
Q:顎関節症はどうやって治療しますか?
顎関節症の治療は、セルフケア、理学療法、内服治療、スプリント(マウスピース)治療が一般的です。手術や歯並びの矯正をすることはほとんどなくなりました。以下で詳しく述べます。
Q:顎関節症のセルフケアはどのようなものがありますか?
セルフケアとして重要なのは、なんといっても顎関節症の最大の原因である上の記事で紹介したTCHに気づき、それを減らすことです。
TCHを持っているかどうかは、目を閉じて力を抜いて唇を軽く閉じた時に上の歯と下の歯が接触しているかを調べることでチェックできます。このやり方で上下の歯が接触している場合、普段から上下の歯を接触させている習慣がある可能性が高いです。
TCHを減らす方法は、まずは自分がTCHを行なっていることを認識します。日常生活で気づくようになり、中断できるきっかけになります。TCHに気づいたら中断し、そしてあえてぼーっと口を空ける時間を取ったりします。軽く口を閉じたとしても上下の歯が当たらないようなポジションを確認してそれを1日に何回かは実践することもできます。
Q:食事内容はどのようにしたらいいでしょうか?
顎に負担のかかるたべもの(バケットや、硬い肉、ガムなど)は避けてください。症状が強いころは、ほとんど噛まずに飲み込める、おかゆ、そば、などがよいでしょう。
Q:内服治療にはどんなものがありますか?
鎮痛薬としては、非ステロイド系のロキソプロフェンやジクロフェナク、副作用の少ないアセトアミノフェンなどがすすめられています。痛みが慢性化したり、痛みの程度が強い場合には、トラムセットの様な非麻薬性オピオイドや抗うつ薬、顎の筋肉の力を弱める筋弛緩薬が使われることもあります。
Q:顎関節症のスプリント治療とはどんな治療ですか?
顎関節症では、物を噛む際に特定の歯のみが接触していて、歯の全体を使えていないことがほとんどです。特定の歯だけに負担がかかると、その負担を最終的に顎関節が一手に担うことになり、顎関節への負担増大の原因になります。
このような特定の歯だけに接触が起きる状態を改善し、歯の全体を使えるように噛むために作られるのがスプリントで、マウスピースのようなものです。それを装着して顎関節症を改善させる治療がスプリント療法です。
マウスピースをはめることで、特定の歯だけに生じていた接触を、他の歯にも接触するように調整します。治療期間は半年から1年ほどかけるのが一般的です。
Q:顎関節症に効くストレッチやマッサージはありますか
まずは開口訓練が重要です。
顎関節症では口を大きく開けられない状態になっています。少しずつでいいのであかなくなった開口を広げる練習をします。写真のように親指と人差し指を用い、親指で上の歯を持ち上げ、人差し指で下の歯を抑えることで、開口を大きくします。
強い痛みが出ない範囲で行なってください。
また、写真のようにこめかみや頬に指の腹をあてて、軽くくるくるとなでて、筋肉を柔らかくする方法もできます。それぞれ側頭筋や咬筋という筋肉のマッサージになります。1日に2,3回でいいですからそれぞれ取り組んでみてください。
Q:顎関節症の痛みはどれくらいの期間続くのでしょうか?
多くの場合は保存的治療で、2週間から長くて3か月程度で、痛みや開口障害などの症状は改善してくるとされています。統計的には、約7割の患者さんは1年以内に症状が問題ないレベルまで改善しています。しかし、反対に言うと3割の人は1年以上続いていることになり、充分に改善しない方もおられます。この場合はMRIを撮像したり、より専門な医療機関での診療が必要になることもあります。
最近になっていつまでも治らない、あるいは治りにくい顎関節症への新しい負担の少ない治療としてカテーテル治療というものがあります。詳しくはこちらのページも参考にしてください。
Q:顎関節症は再発する可能性はありますか?
再発はあり得ます。特に顎関節の変形性変化が強い場合に注意が必要です。前述しましたが一度構造的に傷ついた顎関節はもとに戻りません。症状だけは改善し支障がなくなりますが、再び良くない習慣が続くと痛みが出たりすることがあり得ます。
Q:顎関節症の治療に手術は必要なのですか?
現在は顎関節症はセルフケアやストレッチ、スプリント治療で改善されることが多く、手術が行われることはほとんどありません。一部の難治性の顎関節症や、変形性変化が非常に強い場合に手術が行われることがあります。
耳の前に穴をあけて顎関節を洗浄する手術、関節鏡で関節の癒着を剥離する手術、関節円板を整復したり切除したりする手術、人工関節に置換する手術などがあります。数日間入院して全身麻酔で手術するものが多いです。
Q:顎関節症にかかっています。やってはいけないことは何かありますか?
生活習慣の見直しをせずに、不良な習慣や癖を放置しておくことは良くありません。
また、「かみ合わせが悪いからだ」と決めつけて、すぐに矯正に取り掛かったり、かみ合わせを変えるために歯を削ったりすることは良くないです。これらのことをしなくても、セルフケアによってほとんどの人が改善することが知られているからです。
Q:顎関節症はかみ合わせが悪いことが原因と聞きました。かみ合わせを改善するために矯正をしたり、歯に詰め物や銀歯などをしたほうがいいですか?
顎関節症の治療のために矯正や詰め物を作ることは、お勧めしません。まずはセルフケアを徹底して行ないましょう。顎関節症の治療として以前はかみ合わせを変えるための矯正や詰め物、歯を削るなどが行われていましたが、それらの効果は疑問視されてきています。セルフケアを徹底して行ない、それでも改善しない場合は専門の医療機関の受診を検討してください。
Q:顎関節症で生活習慣の見直し、スプリント療法を1年続けていますが、治りません。他に治し方や治療法はありますか?
顎関節症の症状は1年以内に7割の人が症状が改善するとされていますが、反対に言うと3割の人は症状が続く可能性があります。
最近になって、そのような難治化した顎関節症の痛みの出ている部位には炎症で生じた異常な血管が増えていることが知られており、そのような異常な血管を減らすカテーテル治療という日帰りでできる手術が開発されています。
興味のある方は以下のページも参考にしてください。