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幻肢痛
Q:幻肢痛とはどんな病気ですか?
「切断して存在しないはずの手や足に痛みを感じる」のが幻肢痛です。
交通事故などをきっかけに腕や足を切断した後に、失ったはずの手や足の感覚があり、かつそこに痛みを感じる状態です。切断をした人の60-80%で生じるとされますが、強い痛みになる人は5-10%とまれです(※1)(※2)。以前は心理的な問題だと考えられていましたが、現在では、この感覚は、脊髄と脳、または切断した断面近傍が原因で生じていると認識されています。
幻肢痛のメカニズム(発生の機序)は解明されていませんが、切断面の神経損傷や神経腫の形成、切断部位の瘢痕組織による異常興奮、切断前の痛みの記憶、脳や脊髄での伝達異常や異常興奮など、さまざまな機序が考えられています。サイズの合わない義肢も、痛みを引き起こす原因になります。
一般的に症状の強さや持続時間は時間の経過とともに減少しますが、一部に強い痛みが残存する方がいます。
Q:幻肢痛はどんな痛みが出ますか?
幻肢痛の症状はほとんどの場合、間欠的です。間欠的とは、普段からずっと痛いのではなく、数秒、数分、ないし数時間などと特定の短い時間だけ痛みが生じ、他の時間はほとんど痛くないという性質の痛みです。常時痛いということはまれです。
痛みの種類としては、電気が走るような(電撃痛)痛みや、捻られるような痛み、ズキズキするような痛み、など様々です。他にも刃物で裂かれるような、きつい靴で締め付けられるような、しみるような、幻肢が痙攣するような、こむら返りするような、などと表現される疼痛があります。
幻肢痛が発生するのは、失った手や指、足などが多いです。肘や膝に感じることはまれです。
Q:幻肢痛はいつ発症しますか?切断してからしばらくしてから発症することはありますか?
幻肢痛は一般的には切断の手術後1週間以内に発症します。1日以内の人が約半数、8割以上の人は切断から4日以内に発症します。1週間以上経過してから発症するのは10%未満です(※3)。
Q:数年前に事故で左足膝上から切断し、義足をつけています。今でも幻肢痛に悩まされているのですが、痛みを和らげる方法はありませんか?
痛みを緩和する方法としましては、まずは義足が適切なサイズであるかを確認が必要です。また、内服治療やミラー療法などがありますが、それらだけでは改善しないことも多いです。
痛みを緩和する治療として最近はカテーテル治療という新しい方法もあります。
詳しくはこちらの治療実例も参考にしてください。
Q:幻肢痛はどうやって治療しますか?一般的な治療方法を教えてください。
幻肢痛への一般的な治療方法としては大きく分けて、薬物療法と、非薬物療法があります。
薬物療法としましては、鎮痛剤(アセトアミノフェン、イブプロフェン)、三環系抗うつ薬抗痙攣薬、プレガバリン(リリカ)などの抗てんかん薬が、神経痛の治療に使われることがあります。コデインやモルヒネなどのオピオイド系の薬を使用することもありますが、医師の指示のもと、適切な量の調節が必要です。
非薬物療法としましては、ミラーセラピーがあります。(後述)
また鍼灸治療や、反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)があります。rTMSは、額に電磁コイルを当てて、短時間のパルスをコイルに流すことで、脳の特定の部位にある神経に小さな電流を流し、脳の神経の伝達を調節する治療です。
Q:幻肢痛のミラーセラピーとはどういうものでしょうか?
ミラーセラピーは、鏡をつかって存在しているほうの四肢を見せることで、脳が「幻肢は無傷である」、という情報を受け取らせる治療です。
体の正中線上に鏡を置き、切断されていない方向から鏡をのぞき、切断部位は鏡の後ろに隠れるようにします。鏡には、無傷の腕や脚の画像が映されます。自分の健康な手足とともに、鏡の中にもう一つ別の健康な手足を見ることができます。こうすることで脳は切断が起こっていないという情報を符号化することになり、これが痛みを和らげると考えられています。毎日20~25分、鏡を見ながら穏やかな動きを行います。ミラーセラピーで一定の効果が得られる人もいますが、中には十分に改善しない人もいます。
そのような難治性の痛みへの治療も開発されていますので、興味のある人はこちらの治療実例も参考にしてください。
Q:幻肢痛のリハビリはありますか?
幻肢痛に対するリハビリはミラーセラピーが多く用いられます。詳細は前述を参照なさってください。また、義肢のサイズが合わない状態も痛みを悪化させるため、サイズを適切にするなどもリハビリで行われることがあります。
Q:幻肢痛に効くマッサージはありますか?
幻肢痛に有効なマッサージは報告されていません。
断端痛(切断した四肢の端の痛み)に対しては、保湿クリームなどを使用しながら、皮膚を動かすようなイメージで優しくマッサージすることが効果的です。
Q:幻肢痛はいつまで続きますか?
明確な答えはありませんが、時間の経過とともに痛みの強度は弱まり、時間は短くなるとされています。
ある研究では、幻肢痛の発症時と2年後の経過を調べたところ、2年経過してもほとんどの人が幻肢痛を感じていたようですが、その強度や頻度、期間はいずれも短く弱くなっていたと報告されています(※4)。
このため、全く違和感がなくなるというのには時間がかかるようですが、少なくとも時間の経過とともに強度や頻度が低下することが報告されています。
Q:交通事故によって切断した足に痛みがあり、幻肢痛と診断されました。足を切断して幻肢痛を発症する確率はどれくらいですか?患者数は多いのでしょうか?
最近の研究の報告では60から80%の人が幻肢痛を発症するとされています。このため珍しくなく、むしろ多くの方が経験すると言えます。性別による差はなく、また年齢によっても発生頻度に差はないという報告です。またどの位置を切断したかによっても発生頻度の差は無いようです。ただし、強い症状を発生することはそれほど多くなく5-10%ほどとされています。
Q:幻肢痛で強い痛みがあり困っています。ミラーセラピーや内服薬など試しましたがいっこうに良くなりません。何か治療法はありますか?
幻肢痛では切断面に炎症が残ってしまっており、そこにある神経の断端を刺激して痛みが出ている方がいらっしゃいます。そのような場合、断端付近には炎症に伴って異常な血管ができてしまっており、この異常な血管を減らすカテーテル治療という最新治療を行なうことで痛みが改善する方がいます。
詳しくはこちらの治療実例も参考にされてください。
<参照>
(※1)Houghton AD, Nicholls G, Houghton AL, et al.: Phantom pain: natural history and association with rehabilitation. Ann R Coll Surg Engl 1994, 76:22–25.
(※2)Wartan SW, Hamann W, Wedley JR, et al.: Phantom pain and sensation among British veteran amputees. Br J Anaesth 1997, 78:652–659.
(※3)Jensen TS, Krebs B, Nielsen J, et al.: Phantom limb, phantom pain and stump pain in amputees during the first 6 months following limb amputation. Pain 1983, 17:243–256.
(※4)Nikolajsen L, Ilkjær S, Krøner K, et al.: The influence of preamputation pain on postamputation stump and phantom pain. Pain 1997, 72:393–405.