慢性痛治療の専門医による痛みと身体のQ&A

五十肩(肩関節周囲炎)

Q:五十肩はどういう病気ですか?

五十肩は正式名称を「肩関節周囲炎」と呼びます。または「凍結肩」とも呼びます。
英語ではFrozen shoulder ないしAdhesive capsulitisと呼ばれることが一般的です。

肩の関節には袋があり、関節包と呼ばれますが、この関節包という袋に炎症が起きてしまうことで痛みが出て、さらに炎症によって袋が固くなり肩が極端に動きにくくなってしまうのが五十肩という病気です。

五十肩で痛くなる場所について、下の動画で解説しました。

Q:どういう人が五十肩になりますか?

肩関節周囲炎は中年以降に発症することが特徴です。40代で発症した場合は四十肩、50代で発症した場合は五十肩と呼び、呼び名が変わりますが同じ病気です。全人口の2-5%がかかるとされており、特に40歳から60歳の女性に多いとされています(※1)。また糖尿病の人は五十肩になりやすく、10%近く頻度が増加します(※2)。

Q:五十肩はどんな症状が出ますか?

特に大きなきっかけがなく肩に痛みが発生し、その後数週間から数か月かけて徐々に、あるいは急速に痛みが増します。はじめは「なんとなく肩に違和感がある」程度であったものが、「少し動かすだけでとてつもなく痛い」や、「夜寝ていて痛みで起きてしまう」などの強い症状を呈するようになることが多いです。人によっては痛みのために1,2時間以上眠れないという状態が数か月から1年以上続くこともまれではありません。

病気が進行すると関節包に線維化(固くなること)が生じ、肩の動かせる範囲が著しく狭くなります。このために、つり革を持てない、エプロンの紐を後ろで結べない、洗顔ができない、寝返りが打てない、など多彩な症状を呈し、著しく生活の質が低下します。

Q:五十肩はどれくらい症状が続きますか?治療法は?

すぐに治るのではなく最低でも数か月、長ければ数年の経過をたどることが特徴です。重症であれば7年後にも3割の患者が何らかの痛みを有しているという報告がされています(※3)。

病院で通常受けられる一般的な治療では対症療法が主になることが多く、湿布や痛み止めを処方されてただ時間が経過するのを待つという診療を受けることが多いです。また関節の袋の中にステロイドの注射をすることも一般的です。

最近になって、このような重症な五十肩に効果的な運動器カテーテル治療という治療法も普及しています。詳しく知りたい方は以下の治療実例のページもご覧ください。

湿布や注射で全く改善しなかった五十肩の症例

Q:肩が痛いのですが、五十肩で間違いないでしょうか?

五十肩(正式名称:肩関節周囲炎)は多くの人がかかる病気ですが、肩が痛ければすべてこの「肩関節周囲炎」であるわけではありません。

同じように肩が痛くなる病気としては、腱板断裂というものや、石灰沈着性腱炎、肩峰下滑液包炎、上腕二頭筋腱長頭炎などが挙げられます。これらの病気も広い意味で「五十肩」とよばれたりしますが、病気としては異なります。レントゲンやMRI、エコーの検査でどちらか判断ができます。

これらの病気と五十肩との違いは、五十肩は「肩が極端に動きにくくなっている」という点です。五十肩の場合は、痛いほうの手が身体の後ろに回らずに、ズボンの後ろポケットに手を入れることも痛くてできなくなります。また腕が上がらずに、髪の毛を洗うことも困難になることもしばしばです。このような場合は五十肩(肩関節周囲炎)です。

それに対して五十肩以外の他の病気では、痛みはあるけれどそこまで固くなっていない、という特徴があります。手を上げる動作の途中で痛みが走るけど、手はちゃんと上がる、といったようになります。参考にしてみてください。

Q:どんな症状が出たら五十肩と診断できますか?

五十肩であると診断するためには、次のような状態を把握することが重要です。

① 前からバンザイをして腕を挙げていったときに、顔の高さくらいまでしか上がらない
② ズボンの後ろポケットに手を入れるのが痛くてつらい、あるいはできない。
③ 夜寝ていて肩に痛みがある

この3つがすべて当てはまれば五十肩(肩関節周囲炎)である可能性が極めて高いです。

病院ではレントゲン検査をします。五十肩ではレントゲンは異常がありません。反対に石灰沈着性腱炎などほかの病気ではレントゲンで異常が見つかります。さらに病院ではMRIの検査をすることもあります。腱板断裂などの病気はMRIにて確認することができます。そのような病変がない場合は五十肩を疑います。

Q:なぜ五十肩になってしまうの?

五十肩では肩の関節に炎症が起きていることが確認されています。しかしなぜ炎症が起きてしまうかは解明されていません。

骨折や脱臼など明らかな怪我がきっかけで炎症が起きるというのではありません。むしろ軽微な損傷(つまり転んで手をついた、とか大掃除の際に棚の上のものを運んだなどの小さな負担)がきっかけとなり、しばらくしてから五十肩となることが多いです。

Q:五十肩になり2か月がたちました。いつ治るのでしょうか?自然に治りますか?

五十肩は、ある程度の期間は痛みが続きますが、最終的には(治療をしてもしなくても)痛みがなくなるという特徴があります。ですが、痛みの期間や強さには個人差があり、一言で「五十肩」と言っても軽症から重症まで幅があることが知られています。

重症であるほど痛が長く続きます。軽い場合は数週間から数か月で痛みは治りますが、重症の場合は(適切な治療を受けなければ)最低でも1年半は痛みが続きます。海外の研究では、重症の五十肩の場合、(湿布や痛み止め、リハビリなどの治療をしていても)3年経過しても4割近くの患者さんに痛みが残っていることが報告されています。

腕が上がらない、肩が動かせないといった動きの制限の度合いが強い人ほど重症ということが言えます。

重症の五十肩は炎症期、拘縮期、回復期という時期を経て治っていきます。
3つの期を合計したトータルの罹病期間は1年半から3年ほどかかります。

炎症期(2-9か月):
夜間の痛みが出ていることが多く、肩がどんどん動かなくなっていく時期。安静時痛(じっとしている時の痛み)が強い。

拘縮期(4-12か月):
腕の動かない状態が続く時期。痛みのある側を下にして寝ると痛みが出る、朝起きた時に痛みがある、特定の姿勢で痛みが出る、腕を動かした時に痛みが出る、腕を動かす範囲が狭くなったまま、などの症状がでています。ただし炎症期ほど強い痛みではないです。

回復期(12‐42か月):
痛みが大幅に減り、だんだんと関節が動くようになる時期です。

ご自分が重症なのかもと思った方や、いつまでも治らない、という方はぜひ専門医の診察をお受けください。

Q:夜寝ていて肩が痛いのですが、五十肩でしょうか?

夜寝ていて肩が痛いという状態を「夜間痛」と呼びますが、五十肩の典型的な症状のひとつです。寝返りを打つと痛い、痛いほうの肩を下にして眠れない、眠ってから1,2時間ほどすると痛みで起きてしまう、朝起きると肩が痛いなどの症状を持つ方が多いです。

夜間痛が強い場合は重症な五十肩になっていることが考えられますので、専門的な治療を受けたほうが望ましいです。

最近になって、このような重症な五十肩に効果的な運動器カテーテル治療という治療法も普及しています。詳しく知りたい方は以下の治療実例のページもご覧ください。

湿布や注射で全く改善しなかった五十肩の症例

Q:五十肩は動かしたほうがいいのでしょうか?

五十肩になると、肩が動かなくなってしまうのでは?と心配して、痛いのに無理をして動かそうとしてしまう人がいますが、痛みの強い時期(寝ていて痛い、じっとしても痛いなどの症状があり痛みが増している時期。炎症期とも言います)は無理をして動かさないほうが良いです。炎症期に無理に動かすと炎症が余計に増して痛みが治りにくくなります。

治療や自然経過で炎症期が過ぎれば痛みは徐々に落ち着いてきます。そのタイミングで動かしていくのが最も早く治るコツです。専門医に適切なアドバイスをもらうことが重要です。

Q:マッサージは受けたほうがいいですか?温めたほうがいいですか?冷やしたほうがいいですか?

肩の痛みが増している時期(炎症期)にマッサージを受けるのは注意が必要です。特にグイグイ、ボキボキなどと肩や腕を動かすようなことをすること、あるいはされることは避けてください。

五十肩で特に痛みが強い時期は炎症が起きており、外部から動かすことで刺激となりさらに炎症が悪化します。おそらく痛みが強くなってしまうはずなので、そのような診療(おそらく接骨院など医師でない人の判断かもしれません)を受けずに、専門医の診察を受けることをお勧めします。

また極端に温めすぎても痛みが増す可能性があり、極端に冷やしてもやはり痛みを増すことがあります。温めたり冷やしたりすることで治療効果が期待できる病気ではないです。

Q:ストレッチのやり方を教えてください

ストレッチは基本的に夜間痛、安静時痛が出なくなってから行うと良いです。夜間痛や安静時痛がある時は炎症が強い状態と考えられます。この時期に肩を動かすようなストレッチなどの動作をしてしまうことで、炎症が長引いてしまう可能性がありますのでご注意ください。

また、ストレッチは痛みの出ない範囲で行うことがポイントとなります。
1日10回×2~3セット行います。

1.肩甲骨と背骨の運動
肩関節の動きには、肩甲骨と背骨の動きも必要です。
椅子に座り、両腕を肩幅に広げ、両手のひらをテーブルに置きます。みぞおちを後ろに引くように背中を丸めます。この時に肩甲骨が背骨から離れていくように意識します。次にみぞおちを前に出すように胸を張ります。この時に肩甲骨が背骨に近づくように意識します。

椅子に座り、両腕を肩幅に広げ、両手のひらをテーブルに置きます。
椅子に座り、両腕を肩幅に広げ、両手のひらをテーブルに置きます。
1.みぞおちを後ろに引くように背中を丸めます。2.みぞおちを前に出すように胸を張ります。
1.みぞおちを後ろに引くように背中を丸めます。
背中を丸める時に肩甲骨が背骨から離れていくように意識します。
2.みぞおちを前に出すように胸を張ります。胸を張る時に肩甲骨が背骨に近づくように意識します。
1日に10回×2~3セット行います。

2.肩の可動域を広げる運動
椅子に座り、両腕を肩幅に広げ、両手のひらをテーブルの上に敷いたタオルの上に置きます。タオルをすべらせるようにして、ゆっくりと前に腕を伸ばしていきます。痛みの出ない範囲で伸ばしたあと、元の位置に戻します。

椅子に座り、両腕を肩幅に広げ、両手のひらをテーブルに置きます。
1.椅子に座り、両腕を肩幅に広げ、両手のひらをテーブルの上に敷いたタオルの上に置きます。
2.タオルをすべらせるようにして、ゆっくりと前に腕を伸ばしていきます。痛みの出ない範囲で伸ばしたあと、元の位置に戻します。
1日に10回×2~3セット行います。

Q:五十肩になって痛みはおちつきましたが腕が上がりません。このまま上がらないままでしょうか?

五十肩で腕が上がらなくなる理由は2つあります。
一つは痛いために挙げられない。もう一つは関節の袋(ふつうは柔らかくて伸びがある)が固くなってしまう(繊維化する)ために挙げられなくなるためです。

これらの状態はきちんとケアをすればどちらも最終的には改善します。つまり適切に処置すれば「上がらないまま」にはなりません。

痛みが強い時期に重要なことは、まず何よりも早く痛みを治すこと、そして痛みが和らいだなら、負担のない範囲で自分で肩を動かせるようにエクササイズする(セルフエクササイズ)が重要です。簡単なものを以下に紹介しておきます。参考にして下さい。

1.前方に伸ばすエクササイズ
痛いほうの手を机の上に置き、そのまま手を机の奥にすべらせていきます。すると脇がどんどん開いていく形になり、手を持ち上げているわけではないですが、肩が手を挙げたかのような状態になるのがわかります。痛みが出ない範囲まで伸ばしていき、5秒ほど止めて、元に戻します。これを5回繰り返してください。

2.後ろに回すエクササイズ
エプロンのひもを後ろで結ぶ動作のように、痛いほうの手を後ろに持っていきます。痛くない反対の手で痛いほうの手をつかまえて、さらに体の後ろに軽く引っ張って伸ばします。これも痛みが出る手前くらいのところで5秒ほど止める、というのを1日5回してみてください。

五十肩 後ろに回すエクササイズ
後ろに回すエクササイズ

Q:五十肩になりました。寝ていると痛みで起きてしまいます。正しい寝方はありますか?

仰向けになったとき、肩に対して肘が下がった位置になると、肩の前方に負担が生じ、五十肩で炎症を起こしている部位を刺激してしまうため、痛みが出やすくなります。

タオルやクッションを利用して肘の位置を少し高くすることで寝ている時の痛みが和らぎます。痛みの状態に合わせて調整してください。

肩と肘が同じ高さ(赤線)になるように、黄色の丸の部分にクッションやバスタオルを置きます。肩甲骨の下にも置くことで、安定性を高めることができます。
肩と肘が同じ高さ(赤線)になるように、黄色の丸の部分にクッションやバスタオルを置きます。
肩甲骨の下にも置くことで、安定性を高めることができます。
クッションを抱えるようにすることでより、腕の安定性を高めることができます。
クッションを抱えるようにすることでより、腕の安定性を高めることができます。
頭側からみた像。肩の下にできる空間(黄色の丸)にクッションやバスタオルを入れる。
頭側からみた像
肩の下にできる空間(黄色の丸)にクッションやバスタオルを入れる。

Q:五十肩は再発しますか?反対の肩もかかりますか?

五十肩は一度治ると、同じ肩に再発することは稀です。ただし反対の肩も五十肩にかかることがあります。特に先になった肩をかばうために反対の肩を酷使した結果、反対の肩に負担がかかりそちらも五十肩になるというケースは存在します。

また、糖尿病のある方は五十肩になりやすく、また一度五十肩になると治りにくいことが知られています。糖尿病の方は専門の治療を受けることをお勧めします。

Q:五十肩でやってはいけないことはありますか?

夜寝ていても痛い、安静にしても痛いなどの状態の時に、無理に動かそうとしたり、他の人にグリグリと肩を動かされたりしてしまうと、強い痛みが出てしまい、かえって痛い期間が長引きますので絶対にやってはいけません。

痛みを我慢して腕を回すことはやめてください。
痛みを我慢して腕を回すことはやめてください。
他の人が無理に腕を持ち上げようとすることはやめてください。
他の人が無理に腕を持ち上げようとすることはやめてください。

Q:五十肩になって半年が経ちます。放っておいたら治ると言われたのですが一向に良くなりません。何か良い治療法はありませんか?

五十肩には軽症のものと重症のものがあり、軽症であれば治療をしなくても一定の期間(数か月)で治りますが、重症となると簡単には治りません。重症の場合、湿布などの治療もほとんど効果が期待できません。

最近の研究で、五十肩の患者さんの関節包には余計に増えた「異常な血管」ができていることがわかってきました。しかもその血管の周りには神経線維も一緒になって増えていることが報告されています(※4)。この血管と一緒に増えている神経から痛みが生じているものとする説が最も支持されています。

通常の治療で改善が十分ではない場合は、このような異常な血管を標的としたカテーテル治療などの新しい治療法もあります。詳細はこちらの記事も参考にしてください。

最近ではこの異常な血管を治療することで五十肩を改善させることができることもわかってきています。こちらの治療実例も参考にしてください。

湿布や注射で全く改善しなかった五十肩の症例

(※1)Wolf JM, Green AS. Influence of comorbidity on self-assessment instrument scores of patients with idiopathic adhesive capsulitis. J Bone Joint Surg Am 2002;84:1167-73.
(※2)Bridgman JF. Periarthritis of the shoulder and diabetes mellitus. Ann Rheum Dis 1972;31:69-71
(※3)Hand C, Clipsham K, Rees JL, Carr AJ. Long-term outcomes of frozen shoulder. J Shoulder Elbow Surg 2008;17:231-6.
(※4)Xu Y, Bonar F, Murrell GA. Enhanced expression of neuronal proteins in idiopathic frozen shoulder. J Shoulder Elbow Surg 2012; 21(10):1391-1397.

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痛みをもたらす病気・けが

執筆 奥野祐次(医師)

医師 奥野祐次

医療法人社団 祐優会 総院長
オクノクリニック 院長
慶応義塾大学医学部卒業
慶応義塾大学医学部医学研究科修了

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