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誘発性膣前庭炎(誘発性膣前庭痛)
Q:【動画】膣や陰部の痛みがあり病院へ行ったところ誘発性膣前庭炎と診断されました。どんな病気ですか?
誘発性膣前庭炎は、膣の開口部(入口のところ)が過敏な状態になり、性交時などに軽い刺激でも痛みを感じる状態です。
膣前庭痛ともいい、英語ではVulvar Vestibulitisと言います。
膣前庭とは、小陰唇と処女膜の間にある部分のことを指します。誘発性膣前庭炎ではこの膣前庭に3か月以上続く痛みが生じ、性行為の際や椅子に長く座る際に痛みや不快感などの症状が生じます。
誘発性膣前庭痛は、性交痛の最も多い原因であり、20代から60代までの女性の15%の人に発生し得るという報告もあります。数か月ないし数年続く可能性がある慢性疼痛の一種であり、しばしば顎関節症や肩こりなどほかの愁訴を伴います。
特効薬のような治療法はありませんが、膣前庭への刺激を減らすことや、塗り薬、骨盤底筋のストレッチなどで、時間をかけながら改善させていくことが一般的です。
最近になって新しい治療法も開発されています。詳しく知りたい方はこちらの治療実例も参考にしてください。
2年間、何をやっても治らなかった外陰部の痛み。誘発性膣前庭痛の治療実例
誘発性膣前庭炎の症状や原因(細菌感染、神経原性炎症)、診断、治療法について動画でも解説しています。
Q:誘発性膣前庭痛はどんな症状がありますか?
性行為の際に痛みを感じますが、重症になると日常生活でも痛みを感じるようになります。
痛みの性質としては下記のような痛みが挙げられます。
・焼けるような痛み
・刺すような痛み
・ズキズキする痛み
・ヒリヒリする痛み
・痛みで性行為ができない
誘発性膣前庭炎では、多くの場合は突然症状が出始めます。明らかな原因は思い当たらないという方がほとんどです。症状の出る時間は、常時痛いという人もいれば、触った時だけ痛いという人もいます。部位についても、陰部全体が痛いと感じる場合もいれば、前庭部(入口の部分)だけが痛いということもいます。
よく観察すると膣の粘膜がわずかに赤くなっていることがあります。ただし見た目は正常に見えることも多いです。
Q:誘発性膣前庭炎を発症しやすい人の特徴はありますか?
年齢は20代から60代までがかかりやすいとされています。また、ホルモンの変化のある更年期の人、過去に尿道炎、膀胱炎や性器感染症にかかったことがある人がかかりやすいとされています。
Q:誘発性膣前庭痛の原因は何ですか?
いろいろな説がありますが、「神経原性炎症」と呼ばれる状態が生じていると考えられています。
これは、感染症や外傷、更年期などでのホルモンバランスの変化や、膣粘膜への刺激などをきっかけに、一時的に膣前庭の粘膜が赤みを帯びた状態(血管が拡張した状態)が生じ、それが通常であれば2週間ほどで改善するところが、数か月ないし数年と続いてしまうものです。
血管が拡張した状態になると、拡張した血管が近くにある神経に触れて痛みが生じます。さらに痛みが生じた際に、今度は神経の側から近くの血管を拡張させる物質が放出されます。すると、近くの血管が継続して拡張され、神経を刺激して、その神経が周りの血管を拡張させる物質を出し、という悪循環に陥ってしまいます。こうなると慢性的に過敏な状態が続いてしまうと考えられています。
この悪循環を断ち切るのに、最近ではカテーテル治療という異常な血管を標的とした治療が開発されています。詳しく知りたい方はこちらの治療実例も参考にされてください。
Q:誘発性膣前庭痛はどのように診断しますか?
問診と陰部の診察をします。
問診では、症状の部位、病歴、手術歴などについて質問します。
内診では性器や膣を目視して、感染等の徴候がないかを調べます。また、膣から細胞を採取して感染症(カンジダ症や細菌性腟症など)の検査をすることがあります。
誘発性膣前庭炎では、慎重に膣粘膜を目視すると、わずかに粘膜が発赤している(赤みを帯びている)ことが多いです。また、湿らせた綿棒などで軽く膣前庭を刺激すると痛みが生じることも診断の参考になります。この際に、膣前庭ではないところ(大陰唇など)を刺激しても痛みは生じないが、膣前庭では痛みが生じるということが特徴です。
Q:誘発性膣前庭痛に効果的なセルフケアや普段の生活で気を付けることはありますか。
誘発性膣前庭炎は、軽い刺激でも痛みを感じることで、過敏な状態が維持されてしまうという悪循環があります。このため、日常生活で膣への刺激になることを避けることが重要です。きついジーンズやパンティライナーなどの締め付けが大きい衣服はさけましょう。自転車や乗馬などによる圧迫も同様に避けてください。
入浴の際に熱いお湯につかることも刺激になるので避けたほうがいいです。石鹸など、物理的な刺激になるものは避けましょう。また、患部を冷やすことや保湿をすることは効果的とされます。性行為をする際は、行為の前に局所麻酔の成分を含むクリームや軟膏を塗ることも良いです。
また、骨盤底の筋肉をリラックスさせるために、下記のようなストレッチも効果的です。
■骨盤底筋群の柔軟性
骨盤底筋群の柔軟性を保つためには、骨を介して影響しあっている股関節周囲やお尻、お腹の筋肉の柔軟性を保つことが必要です。
骨盤底筋群を直接的にストレッチすることは難しいですが、股関節周囲やお尻、お腹の筋肉のストレッチをすることで、骨盤底筋群の柔軟性を保つことができます。
■鼡径部マッサージ
鼡径部(座った時に曲がるところ、赤丸の部分)のマッサージをします。
指の腹(青丸の部分)を鼡径部に当て皮膚を動かすように優しく円を描くように30秒程度マッサージをします。
骨盤底筋群につながる股関節の周りの筋肉をほぐすことで骨盤底筋群の柔軟性も向上する効果があります。
■骨盤底筋群・お尻のストレッチ
仰向けに寝て、両脚を曲げ膝を抱えます。
足の裏を天井に向けるように膝から先を上げます。
この時、両膝の間をこぶし1個分開けるようにしてください。
足の裏を内側から手でつかみます(赤丸)。この姿勢のまま、深呼吸を10回行います。お尻のあたりの筋肉(青丸)がじわーっと伸びてくる感じになります。
足の裏を手でつかむことが難しい場合は、太ももの裏を抱えるようにしてください。
Q:誘発性膣前庭炎にはどのような治療方法がありますか?
誘発性膣前庭炎は一つの治療だけで解決するものではなく、いくつかの治療を組み合わせて改善を図ります。また、前述したセルフケアを行なうことも重要です。
症状を和らげるために、局所麻酔のクリームを膣口に塗ることがあります。また、エストロゲンの内服も効果的とされています。
飲み薬では、神経因性疼痛の治療薬とされるリリカや抗うつ薬などが処方されることもあります。抗うつ薬は、セロトニンという物質の濃度を脳内で高めることで、痛みの信号が脊髄から脳に上がっていくのを弱める働きがあります。
また、骨盤底の筋肉に過緊張が生じている場合は、筋肉の緊張を緩めるための理学療法を行なうことがあります。
膣前庭を手術で切除する方法も報告されています。
この手術は90%以上と高い成功率が報告されており、また日常生活にもすぐに戻れるとされますが、痛みがぶり返してしまうことも報告されており、慎重な判断が必要です。
Q:誘発性膣前庭痛で痛みが半年以上治りません。手術が必要でしょうか?切らずに改善する方法はありますか?
誘発性膣前庭炎の原因の部分でも記載しましたが、この病気では、膣の痛みが出る部位に血管の拡張が起きた結果神経が過敏になり、痛みが生じていると考えられています。
この異常に拡張した血管を正常にすることで、痛みが改善することがわかっており、カテーテル治療という30分ほどで終わる日帰り治療で改善が得られる方がたくさんいます。
詳しくは下記の治療実例も参考にしてください。
<参照>
(※1)Bornstein B, Preti M, Simon JA, et al. Descriptors of Vulvodynia: A Multisocietal Definition Consensus (International Society for the Study of Vulvovaginal Disease, the International Society for the Study of Women Sexual Health, and the International Pelvic Pain Society). J Low Genit Tract Dis 23 : 161-163, 2019.