慢性痛治療の専門医による痛みと身体のQ&A

TFCC損傷

Q:手首が痛くて病院に行ったらTFCC損傷と言われました。TFCCとはなんですか?

TFCC(三角線維軟骨複合体)は手首の小指側の位置にあり、2つの骨(橈骨と尺骨)の間を結んでいる靭帯や腱、軟骨などの軟部組織によるネットワーク構造のことを言います。この部位は専門的には「三角線維軟骨複合体」と呼ばれており、この用語の英語表現(Triangular FibroCartilage Complex)の頭文字をとってTFCCと呼んでいます。

TFCCは正常状態では、手首の小指側の安定性、支持性を与えています。また、手首に回旋力(ドアノブを回す、あるいはキラキラ星の振り付けのような手首を回す動作)が加わったときに、力の伝達・分散・吸収の役割があります。

足底腱膜炎
TFCC(三角線維軟骨複合体)
TFCC(三角線維軟骨複合体)

Q:TFCC損傷とはどんな病気ですか?

TFCC損傷とは前述したTFCCが外傷や加齢、繰り返しの負担などでダメージを受けて痛みが出る病気です。転倒して手をついたりしたときや、スポーツでの使いすぎ、手首を酷使する仕事、炎症や加齢性の変化によって症状が出現します。

Q:【動画】3年前にゴルフの練習をしているときに、いきなり強い痛みを感じました。それ以降グリップをしっかりと握ることができなくなり、ズキッという痛みでスイングの動作が遅くなりました。

24歳のプロゴルファーの女性が、3年続く手首の痛みを訴えて当院に来られました。治療実例を動画で紹介しております。

Q:手首が痛くてTFCC損傷かもしれないと思っています。TFCC損傷の症状はどんなものですか?

手首(リスト)の小指側に痛みが生じます。

特にタオルを絞ったり、ドアノブを回したりする動作や重い物を持つなどの際、また手首を小指側に倒す動きや手首を捻る際に痛みが生じます。また症状が強い場合は安静にしていても痛みを覚えることがあります。さらに動作の開始時に手の抜ける感覚を感じることもあります。また、手首の腫れ、可動域の制限などの症状があります。

Q:TFCC損傷ではなぜ痛くなるのでしょうか?

手首は人体の中でも複雑な構造をしているため、種々の負担により損傷を受けやすい部位と言えます。TFCC損傷の原因には外傷(一度の過度な負担で損傷が起きて治らなくなること)や、使いすぎ(オーバーユーズ、何度も繰り返し負担がかかること)、加齢による組織の脆弱化、炎症などがあります。

実はTFCCが損傷(傷ついた状態になる)されていても「痛くない」という人がほとんどです。TFCCに傷があっても8割の人は痛くありません。ではなぜ一部の人には強い痛みが出てしまうのでしょうか?

実は痛みが出てしまっている人は、MRIで検査してみると、TFCC損傷部に異常な血管が増えてしまっていることがわかっています。さらに異常な血管と神経が一緒になって増えてしまうために強い痛みの原因となってしまっています。詳しくはこのページの最後の方も参考にしてみてください。

TFCC損傷のリスク因子(この要素を多く持つほどTFCC損傷にかかりやすい)については
1.加齢
2.関節リウマチや痛風持ち
3.野球、テニス、ゴルフなどのスポーツ活動

などが挙げられます。

Q:TFCC損傷はどのようにして診断しますか?

身体所見と画像検査により診断します。

身体所見では手首に圧痛があるか、手首の回旋で痛みが生じるかなどを把握します。MRIでは脂肪抑制T2で高信号となり、診断の根拠になります。関節造影検査などもありますが、現在はMRI検査のほうが一般的です。

Q:TFCC損傷になりサポーターをつけて負担がかからないようにしていますが、3か月経っても痛みが治りません。このまま治らないのでしょうか?

TFCC損傷には、軽症のものと難治性のものに分かれます。

軽症のTFCC損傷は、安静やサポーターの着用などの一般的な治療で改善しますが、一部の人(20-30%)は難治性のTFCC損傷となります。難治性のTFCC損傷の場合は、安静や装具などの治療のみでは改善しません。

TFCC損傷で痛みが治りにくい場合は、MRIの脂肪抑制T 2という画像で痛みの部分が高信号となっていることが多いです。この検査で高信号は強い炎症が起きていることを表しています。

強い炎症が起きている場合は前述したように異常な血管が多数できており、血管と神経が一緒になって増えますので、治りにくい痛みの原因となってしまっています。このような場合は安静にしているだけでは改善しないことも多いです。異常な血管を標的とした適切な治療をすることで改善させることができます。詳しくはこのページの最後の方も参考にしてみてください。

Q:TFCC損傷に有効なストレッチやマッサージ、セルフケアはありますか?

手関節小指側へのストレスを軽減するためにストレッチやマッサージなどが有効です。

肘から手にかけての前腕の筋肉を全体的にマッサージし、柔軟性を保持することで手関節へのストレスを軽減します。ポイントはあまり強く押しすぎないことです。筋肉を揉むだけではなく、筋肉をつまんで揺らします。そうすると、骨の上で筋肉が滑らかに動くようになるので、筋力の発揮がしやすくなります。痛みのあるポイントはあまり揉まないでください。

手のひらのマッサージも有効です。親指の付け根から手のひらの中央にかけて全体的にマッサージをします。手のひらの筋肉の柔軟性を保持することで手関節へのストレスを軽減することができます。

親指の付け根から手のひらの中央部をやさしくマッサージ
親指の付け根から手のひらの中央部をやさしくマッサージ

Q:TFCC損傷に有効なテーピングやサポーターはあるのでしょうか?

手首が動かないように固定するテーピングやサポーターが有効です。
特に小指側に曲げると痛みが出やすいので、その動きが出ないように固定します

伸縮性のあるテープに親指を通す穴を開けます
伸縮性のあるテープに親指を通す穴を開けます
テープの穴に親指を通します
テープの穴に親指を通します
親指の側面に沿って貼ります
親指の側面に沿って貼ります
そのまま腕の側面に沿って貼ります
そのまま腕の側面に沿って貼ります

また、手首の不安定さがあると手首に過度なストレスがかかる可能性があるため、手首のしわより少し肘側の位置で腕を一周するようにテーピングを巻きます。すると、前腕(肘から手関節まで)の安定性が高くなり、手関節へのストレスを軽減することができます。

手首の小指側から貼ります
手首の小指側から貼ります
テープを引っ張らずに
テープを引っ張らずに
手首に1周巻きます
手首に1周巻きます

詳しくは、専門の医療機関で指導を受けてください。

Q:TFCC損傷がなかなか治らないです。手術を勧められています。ただ手術をした場合4週間ギブス固定ということでためらっています。手術以外の方法はありませんか?

確かにTFCC損傷に対して関節鏡を使った手術療法がありますが、一般的に4週間のギブス固定と3-4か月は強い負担は避ける形となります。また、1度で改善せず、2回3回と手術を受ける人もいます。このため、なるべく手術は避けたい、他の方法を試したいという方は多くいらっしゃいます。

手術以外の治療方法として、痛みの部位にできた異常な血管を減らすための「運動器カテーテル治療」という治療法があります。前述したように、治りにくい痛みの部位には普通では見られないような異常な血管が増えていて、神経も一緒になって増えることで痛みの原因となっています。カテーテル治療はこの病変を改善させるための方法です。詳しくはこちらのページも参照してください。

また治療事例をご覧になりたい方は下記のページもご参考にしてください。

野球部の大学生に生じたTFCC損傷(手首の痛み)へのカテーテル治療

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痛みをもたらす病気・けが

執筆 奥野祐次(医師)

医師 奥野祐次

医療法人社団 祐優会 総院長
オクノクリニック 院長
慶応義塾大学医学部卒業
慶応義塾大学医学部医学研究科修了

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