慢性痛治療の専門医による痛みと身体のQ&A

変形性股関節症

Q:足の付け根が痛くなり病院に行ったら変形性股関節症と診断されました。どういう病気ですか?

関節の軟骨が年齢とともにすり減ってしまう病気を「変形性関節症」(英語ではOsteoarthritis)と呼んでいます。

変形性関節症は中年以降の方に非常に多く見られる疾患です。変形性関節症は膝や手の指にも生じますが、股関節に生じてしまうのが、変形性股関節症(Hip Osteoarthritis)です。

変形性股関節症は、股関節の軟骨がすり減って骨に変形が起きることで、痛みや違和感、ひっかかり、動かしにくさがおきる病気です。

股関節は最も変形性関節症が生じやすい関節の1つで、膝に次いで多いです。すり減った関節の軟骨が主な原因と考えられてきましたが、現在は関節全体の炎症が関係していると考えられています。

変形性関節症は、時間をかけて徐々に進んでいく病気なので、早めに有効な治療をした方が、病気が悪化することを避けることができます。

Q:そもそも股関節とは、どのような構造になっていますか?

股関節は人体の中で最大の関節のうちの1つです。形状による分類では「臼状関節」に分類され、ボール部位(大腿骨頭)と、ボールがはまるソケットの部位(寛骨臼蓋)から成ります。ボールとソケットの表面は軟骨に覆われています。関節軟骨は非常にスムーズに動く材質(軟骨)でできているので、骨同士の動きをスムーズにさせています。
股関節の表面には滑膜と言う薄い層の膜があり、ここから正常な時は少量の滑液と呼ばれる潤滑液が分泌され、関節の動きを滑らかにさせています。

股関節の構造
股関節の構造

Q:変形性関節症ではどのような症状が出ますか?

変形性股関節症の最も一般的な症状は、股関節周辺の痛みです。

通常、痛みはゆっくりと進行し、時間の経過とともに悪化しますが、突然発症することもあります。靴ひもを結ぶ、椅子から立ち上がる、短い散歩など日常の活動で痛みが出ます。また、夜寝ていて寝返りを打つことが痛い、安静時も痛いなど、重度になると痛みがより頻繁に発生する可能性があります。

その他の症状には次のものがあります。
・お尻や膝に広がる鼠径部や太ももの痛み
・起床時にベッドから起き上がる時や長く椅子に座った後に立ち上がる時などに股関節が硬くこわばる
・関節のロック・固定、関節可動時の捻髪音(軟骨や他の組織によるスムーズな動きの障害)
・股関節の可動域が狭くなることで、歩行能力に悪影響を及ぼし、足を引きずる可能性がある
・雨天時の関節痛の増加

Q:変形性股関節症の原因は何ですか?

変形性関節症の原因は大きく分けて2つあり、1つは何らかの構造的な異常、例えば先天的に股関節の形状に不具合がある、または怪我で損傷が生じたなどですが、そのような構造異常の影響が長年にわたることで関節に変形が起きてしまうものです。

もう1つは肥満や年齢、閉経、遺伝などの体質的な問題で変形性関節症が生じるパターンです。この場合は1つの関節にのみ起きるのではなく、膝や手指など他の関節にも変形性変化が起きてしまうことが良くあります。

下記の要因は発症のリスクを高めます。(※1)
・加齢
・変形性関節症の家族歴
・股関節損傷の既往歴
・肥満
・出生時の股関節の形成不全、股関節の発達異常・性別
・閉経後(※2)

Q:変形性股関節症はどうやって診断しますか?

変形性股関節症は、まずはこれまでの病歴を聴取することと、股関節の可動域や痛みが出る姿勢を調べるなどの身体検査を参考にしつつ、レントゲン検査で軟骨のすり減り具合や骨の変形をもとに確定診断します。レントゲン検査は病状の経過をフォローにも役立ちます。また、MRI検査では骨の異常だけでなく軟骨の菲薄化、骨髄内の異常、水腫という関節内の水分増加の度合い、関節周囲の靭帯や筋肉の状態の評価を行なうことができます。

Q:変形性股関節症はどのように進行していきますか?

変形性関節症の進行の過程は以下のような経過をたどります。

まず関節を包んでいる滑膜という組織に炎症がおきます。炎症が起きる原因は、前述したような構造異常や、体質変化などさまざまです。

すると、滑膜から炎症物質が出て、関節内に水が溜まってしまう状態になります。このとき、少し痛みが生じるかもしれませんし、気づかないうちに進行する可能性もあります。この時はまだ骨は変形しておらず、レントゲンで見ても異常は見られません。

次いで、この水がたまった炎症状態が長く続くことで(年単位)、次第に骨の表面を覆っている軟骨がすり減っていきます。軟骨がすり減ると普段は接触するはずがない軟骨の下の骨(軟骨下骨)に力が加わるようになり、この骨のなかに嚢胞といって水の袋のようなものができたり、骨棘といって骨のでっぱりができたりします。この段階になるとレントゲンではっきりと変形がわかるようになります。

さらに、関節を取り囲んでいる靭帯、関節包の組織の変形によりストレスがさらに加わり、さらなる炎症が起きます。このような変形が強い状態になると、絶えず炎症が起きている状態になり、いつも日常生活に支障をきたすような痛みが生じることになります。

Q:股関節が痛くて病院に行ったところ「レントゲンではそれほど悪くない」といわれたのですが、足の付け根はとても痛いです。どうしてなのでしょうか?

レントゲン検査での骨の変形と、股関節の痛みの強さは、必ずしも一致するわけではありません。つまりレントゲンではそこまで変形していないのに強く痛い、という人もいれば、レントゲンでそこそこ変形しているのに痛くない、という方もいます。

実は変形性股関節症の痛みは、骨の変形だけが原因ではありません。骨の変形はかなり重度になると(ひどい変形)痛みを発生させますが、重度になる手前の段階では痛みの原因にはならないのです。では骨の変形以外で何が痛みの原因になっているのでしょうか?

一つの原因は炎症です。股関節の周りに炎症が起きていると痛みの原因になります。また、最近ではそのような炎症の部位には、異常な血管がたくさんできていて、さらにその血管の周りに神経も一緒になって増えてしまうことで、治りにくい痛みの原因になることがわかってきました。

このような異常な血管を標的とした新しい治療もできるようになっていますので、以下の治療実例も参考にしてください。
10年以上苦しんだ登山家の股関節痛

Q:変形性股関節症と診断されました。してはいけないことはありますか?

長時間立つことや、深くしゃがみこむことで股関節への負担が大きくなります。

家での生活では、できるだけ床に座り込むことを避け、椅子を使った生活をすることで股関節を深く曲げる機会が減り、負担も減ります。低い姿勢での長時間の作業、床の雑巾がけや草むしりなどは控えましょう。

また、歩く時も重い荷物を持つ、片側で荷物を持つことで負担がかかりますから、それらを避けることで股関節への負担が減ります。痛みが強い時に長歩きはせず、休憩をしながら歩くようにしましょう。長時間、寒いところで立ち続けるなども股関節への負担となりますのでやめましょう。

運動で言うと、ゴルフやランニングは股関節への負担が強い運動ですので、なるべく控えましょう。代わりにヨガ、サイクリング、水泳などは股関節への負担が少ないです。

Q:寒い日や雨の日になると足の付け根が痛くて、歩けなくなるときがあります。天気と痛みは関係がありますか?

寒さや雨天などの天気と股関節の痛みには強い関係があります。

一番大きく関係するのは、雨天や寒い日は低気圧の日であることが多く、気圧が低いと関節の痛みが増すようにできています。
これは、前述したように痛みのある股関節では血管と神経が一緒に増えてしまうのですが、この血管が気圧の低いときは拡張する(ふだんよりも空気の圧力が少なくなり、低気圧の日は全身の血管が少しだけ拡張します。そうすると血管のすぐそばにある神経に触れて、痛みが増します。低気圧の日に頭痛が強くなるのも同じ原理です)ので、それで近くにある神経が刺激され痛みが強くなるためです。

また、もう一つの理由として、気温が低くなると、人間のからだは様々な刺激に過敏になることが知られています。これは人間の身体に備わっている痛みの信号を弱める働き(下降抑制系と呼びます)が、寒いときに弱くなるためとされています。

上記のような理由から、雨天や寒さによって股関節の痛みが増してしまうのです。
詳しく知りたい方は、慢性痛専門の医療機関の受診も検討してみてください。

Q:股関節唇損傷と診断され、リハビリや注射の治療を受けましたがなかなか痛みが治りません。手術を勧められていますが、手術以外の方法で痛みを改善させる方法はありますか?

人工関節の手術は身体への負担が大変大きいため、確かに慎重に選択したほうが良いです。手術以外の方法としては、様々な治療を組み合わせる「集学的治療」が効果的です。

集学的治療とは、股関節の痛みを解消するためのいくつかの「手術以外の方法」を組み合わせることです。
例えば、股関節の周りに生じた異常な血管を減らすためのカテーテル治療というのがあります(詳細はこちらのページ「運動器カテーテル治療とは?」を参照)。

そのような日帰り治療を取り入れ、それだけではなく骨を強くする薬を加える、さらに脳のセロトニンという物質を多く出すための生活習慣を見直す、さらに食事管理を積極的にして体重を落とす、などを組み合わせて、なるべく手術をしないで痛みを取る治療です。

Q:変形性股関節症と言われました。リハビリではどんなことをしますか?

現時点での痛みや可動域(関節の動く範囲)、股関節周りの筋肉の筋力などを評価し、歩行状態や日常生活での動作、趣味やスポーツの動作も評価して、それぞれの目標に合わせたプランを理学療法士が立てて、リハビリテーションを進めていきます。

リハビリの内容としては、関節の動く範囲を広げる運動、筋力トレーニング、座位・立位でのバランス練習、日常生活やスポーツ動作の練習などを行います。

Q:変形性股関節症に有効なストレッチはありますか?

股関節には様々な方向に動きますが、変形性股関節症になると特に硬くなってしまう動作方向として屈曲動作、外旋動作が挙げられます。これらの方向のストレッチをすることで、変形性股関節症を改善させることに役立つことがあります。また体幹部のストレッチも変形性股関節症を改善させるには重要です。それぞれを伸ばすためのストレッチを以下に紹介します。

■屈曲方向のストレッチ

あお向けに寝ます。片側の膝を曲げて両手で抱え、膝を体幹に引き寄せます。反対側の脚は浮かないように注意しましょう。痛みが強く出るようなら無理はしないでください。できる範囲で構いません。痛みなくできるなら、ゆっくり呼吸しながら30秒ほど伸ばしましょう。

屈曲方向のストレッチ

1.仰向けに寝ます。
2.片側の膝を曲げて両手で抱え、膝を体幹に引き寄せます。
3.お尻のあたり(赤い○)が伸びてくると思うので、ゆっくり呼吸しながら30秒ほど伸ばしましょう

屈曲方向のストレッチ 悪い例
伸ばしている側の膝はできるだけ浮かないように注意しましょう

■外旋方向のストレッチ

あお向けに寝ます。片側の膝を90度に曲げて、外側に倒します。無理なく痛みが出ない範囲で行ないます。反対側のお尻が浮かないように注意しましょう。ゆっくり呼吸しながら30秒ほど伸ばしましょう。

外旋方向のストレッチ

1.あお向けに寝ます。
2.膝を約90度に曲げて、片側だけ外側にゆっくり倒します。
3.動く範囲で倒したら、ゆっくり呼吸しながら30秒ほど伸ばしましょう。
両側ともに3セットずつしましょう。

外旋方向のストレッチ 悪い例
倒した脚と反対側のお尻が浮かないように注意します。

■体幹のストレッチ

椅子に座った状態で、以下のような方法で背中を丸めたり伸ばしたりします。背中を丸める時は、おへそをひっこめるようにして骨盤を後ろに傾けながら、上半身を倒していきます。背中を伸ばす時は、おへそを前に出すようなイメージで骨盤を立てるようにして胸を反らします。動く範囲で10回ほど繰り返しましょう。

外旋方向のストレッチ
外旋方向のストレッチ

1.椅子に座ります。
2.おへそを後ろに引っ込めるように背中を丸めます。
3.おへそを前に出すように背中を伸ばします。
4.「2」と「3」をゆっくり10回繰り返します。

Q:変形性股関節症を改善させるのに有効な筋トレにはどういうものがありますか?

変形性股関節症の自分でできる対処法として、ストレッチと合わせて筋力トレーニングも効果的と言われています。特に背骨の動きをつかさどる筋肉を刺激することが大切だと言われています。下記のような方法で行なってみてください。

■トレーニング

トレーニング

1.四つ這いになります。ゆっくり片側の脚を地面から挙げて後ろ側に伸ばします。膝も伸ばして体幹から脚が一直線になるようにします。
2.五秒ほどしたら脚をおろして四つん這いに戻り、今度は反対の脚を同じように5秒ほど挙げます。
3.両側各10回ずつしましょう。
硬い床の上ですると膝小僧を痛めることがあるので、敷布団やマットの上でしてください。

Q:変形性股関節症の保存療法として、痛くてもリハビリや運動療法は継続した方がいいのでしょうか。

リハビリや運動療法をして、翌日まで痛みが残ってしまうようなら、強度が強すぎるので弱めるかいったん中止してください。運動療法として散歩やジョギングは股関節に負担がかかります。サイクリングや水泳など、股関節へのストレスが少ない活動に置き換える必要があります。(※2)

Q:変形性股関節症の手術以外の治療法にはどのようなものがありますか?

変形性股関節症において、変形した骨を元に戻す治療法はありませんが、痛みを和らげ、可動性を改善するのに役立つ治療法がいくつかあります。

保存的(非外科的)治療には下記のようなものがあります。
・ライフスタイルの改善、体重減少
・理学療法
・補助器具:杖、歩行器
・内服薬(ロキソニン、カロナール、トラマールなど)
・注射治療(ヒアルロン酸、ステロイドなど)

また、最近では新しい保存療法として股関節の周りにできた余計な血管を減らすための、運動器カテーテル治療というものもあります。詳しく知りたい方は以下の治療実例のページも参考にしてみてください。
10年以上苦しんだ登山家の股関節痛

Q:変形性股関節症の手術にはどういうものがありますか?

保存的治療で改善されない場合、手術が勧められることがあります。

1.股関節置換術:この股関節置換術では、寛骨臼(股関節のソケット)の損傷した骨と軟骨を取り除き、金属シェルに交換します。 ただし、大腿骨頭は取り外されておらず、滑らかな金属で覆われています。

2.人工股関節全置換術:損傷した寛骨臼と大腿骨頭の両方を取り除き、新しい金属、プラスチックまたはセラミックの関節面を装着して、股関節の機能を回復させます。

変形性股関節に対する手術の後、復帰までにかかる時間とリハビリテーションは、行われる手術の種類によって異なります。股関節の力を取り戻し、可動域を回復するために理学療法を行なうことが一般的です。手術の後、松葉杖または歩行器をしばらく使用することがあります。これらの手術後の経過については専門の医療機関に詳しく聞いておくことをお勧めします。

<参照>
(※1)Felson DT. Epidemiology of hip and knee osteoarthritis. Epidemiol Rev 1988;10:1-28. DOI: https://doi.org/10.1093/oxfordjournals.epirev. a036019.
(※2)文献2. Fransen M, McConnell S, Hernandez-Molina G,Reichenbach S. Exercise for osteoarthritis of the hip. Cochrane Database Syst Rev 2014 Apr 22;(4):CD007912. DOI: https://doi.org/10.1002/14651858.CD007912.pub2.

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