慢性痛治療の専門医による痛みと身体のQ&A

繰り返す肉離れ(反復性肉離れ)

Q:肉離れとはどういう状態ですか?

ダッシュやジャンプ、ストップ動作など、筋肉に非常に大きな力が瞬間的にかかる動作がきっかけとなり、筋肉内で出血や組織の損傷がおきる状態を肉離れと言います。

太ももの裏側(ハムストリングス)や、ふくらはぎ(下腿三頭筋)が最も発生頻度の高い部位になります。スポーツ内容としては、陸上競技、サッカー、野球、バスケットボール、バレーボールなどで多く発生しています。

治療の基本はスポーツ活動を中止して安静にすることです。損傷の程度によって、復帰までにかかる時間が異なり、軽度であれば1-2週間で復帰できますが、重度の場合は平均で6週間ほどかかります。また、まれですが最も重度の損傷が生じると、手術が必要になることがあります。不完全な状態で復帰したり、患部の柔軟性が乏しいまま復帰したりすると、再発を繰り返し癖になることがあります。

Q:肉離れになるとどんな症状が出ますか?

肉離れの受傷時には、「プチ」と表現されるような音がする体験があります。そこから患部の急激な痛み、ストレッチ痛、内出血、腫れなどの症状が出現します。患部の痛みは、損傷した筋肉に負荷がかかると増します。歩行は可能ですが、歩けるけど痛い、というような状態になります。

また、損傷した筋肉の硬さ、動かしづらさ、柔軟性の低下も見られることがあります。また歩行時に損傷した筋の力が入らず、バランスを崩しやすくなることもあります。

Q:肉離れはどのようにして診断しますか?

肉離れを診断するには、問診で痛みの性質や痛みが生じた経緯を聞いたのちに、超音波検査やMRI検査などの画像検査によって診断します(レントゲン検査では筋肉の損傷が描出できず、診断の役には立ちません)。

特にMRI検査は肉離れの重症度を正確に把握することができるため、受傷後にはMRIを撮影することが強く勧められます。MRIの検査に基づいて以下のⅠ型からⅢ型の3つのタイプに分けられます。数字が大きいほど重症となります。

Ⅰ型 出血のみ
Ⅱ型 腱膜損傷型
Ⅲ型 筋腱付着部損傷型(手術が必要)

Ⅰ型は1~2週間ほどでスポーツ復帰が可能になりますが、Ⅱ型では復帰に1~3か月(平均6週間)を要します。

MRI画像:Ⅰ型 大腿直筋の肉離れ
MRI画像:Ⅰ型 大腿直筋の肉離れ
MRI画像:Ⅲ型 ハムストリングの肉離れ
MRI画像:Ⅲ型 ハムストリングの肉離れ

Q:肉離れの起きやすい部位はどこですか?また、起きやすい年代などありますか?

ハムストリング(太ももの後ろ側)がもっとも多く、次にふくらはぎ、大腿四頭筋(太ももの前側)、内転筋の4つで99%を占めます。好発年齢は10~20代で、全体の84%を占めます。

Q:肉離れを何度も繰り返しています。反復性の肉離れとは何ですか?

反復性の肉離れとは、過去に肉離れを起こした部位に繰り返し肉離れが起きることを指します。いわゆる、肉離れが「癖になった状態」と言えます。
2回目以降は、初回よりも軽い負担でも生じてしまうことがあり、競技や練習の継続に支障をきたすことがあります。
初回の肉離れが生じた後に、適切なリハビリを行わなかったことや、患部周辺の筋が硬いままで柔軟性が欠けていること、過度なトレーニングなどが原因となり得ます。

最近になって、このような繰り返し生じる反復性の肉離れに対して、カテーテル治療や動注治療という日帰り治療が開発されています。詳しく知りたい方は以下の治療実例も参考にしてください。

太ももの肉離れを繰り返していたプロサッカー選手へのカテーテル治療実例

Q:反復性肉離れは、なぜ同じ場所が繰り返し発症するようになるのでしょうか。

肉離れは筋の損傷ですが、十分に時間をかけずに不完全な修復状態で運動復帰し、治りきっていない損傷部位に再び力が加わることで発症することが多いです。また一部では過去の肉離れによって瘢痕組織(傷を治そうとしてできる脆弱な組織部分)が生じてしまい、十分に時間をあけてから復帰にしたにもかかわらず、その瘢痕組織から出血を繰り返すことで再発を繰り返す選手もいます。

Q:肉離れになりました。どうやって適切に復帰の時期を判断しますか

前述したように、肉離れはMRIによる重症度の分類があります。Ⅰ型からⅢ型まであります。

Ⅰ型 出血のみ
Ⅱ型 腱膜損傷型
Ⅲ型 筋腱付着部損傷型(手術が必要)

Ⅰ型は1~2週間ほどでスポーツが可能になりますが、Ⅱ型では復帰に1~3か月(平均6週間)を要します。
特にⅡ型の場合は、リハビリ後に再度MRIを撮影して、損傷部位が修復されていることを確認してから復帰することが重要です。また損傷した部位を伸ばしてみて、ストレッチ痛がなくなることも復帰の目安になります。ストレッチ痛の消失と損傷部位の修復が確認できれば、スポーツ復帰にむけた運動再開をすすめるリハビリを積極的に開始できます。

Q:肉離れの重症度があるのを知りましたが自分で判断する方法はありますか

受傷直後に肉離れの重症度ではMRIが決め手になりますが、検査をせずにある程度判断をするには受傷直後におけるストレッチ痛の有無が決め手となります。

太ももの裏やふくらはぎなどの損傷部位をストレッチした時に、明らかなストレッチ痛があればⅡ型以上が疑われます。しかし自己判断だけで決めつけずに病院を受診してMRIを撮影し、正確に診断することが最も重要です。

Q:肉離れをしたときの応急処置はどうしたらいいですか

Rest(安静)、Ice(冷却)、Compression(圧迫)、Elevation(挙上)の4つの処置=RICE処置(ライス処置)を行います。患部を安静に保つためになるべく体重をかけないようにすることが望ましいです。必要に応じて松葉杖を数日間使うことも検討したほうがいいです。

Q:肉離れに対するリハビリは何をしますか?

肉離れの部位に同じように過度な負担がかからないように、リハビリにおいては、身体の使い方を改善させることが重要です。たとえばダッシュをしていて肉離れを起こしたのであれば、正しく走る動作の獲得が重要になります。

また、肉離れを発症してからすぐ(初期)のリハビリテーションでは、低い負荷で筋量を増やすことが重要になります。なかでもスロートレーニングに代表されるような低負荷で、比較的長い時間筋収縮を持続させる刺激が望ましいとされます。

さらにリハビリで適切な体幹機能を獲得することも重要です。例えば骨盤が前に傾いた状態だと、太ももの後ろ側(ハムストリングス)が常に引っ張られ緊張している状態になります。このような場合は、損傷した部位だけでなく骨盤の適切な位置(アライメントと呼ぶ)を獲得することがリハビリの重要な目的となります。

Q:肉離れをふせぐストレッチはありますか

セルフストレッチには、静的ストレッチと動的ストレッチの大きく分けて2種類のストレッチがあります。
静的ストレッチは反動をつけずに行うストレッチで運動後に筋肉を休ませる目的で使用することが多いです。
動的ストレッチは軽く関節を動かしながら行うストレッチで運動前に準備運動として使用することが多いです。

運動の前に動的ストレッチで筋肉の温度を上げること、筋肉の柔らかさを出してしなやかな動きができるようになることが肉離れを予防することにつながります。

ここでは、肉離れを生じやすい大腿後面(太ももの後ろ)と下腿後面(ふくらはぎ)のストレッチを紹介します。

■大腿後面のストレッチ(繰り返す肉離れに対するストレッチ)

腿後面のストレッチ

運動前のストレッチ
1.足首を手で掴み、しゃがみます。
2.足首を掴んだまま、お腹と太ももが離れないよう(青の○印)に膝を伸ばし、お尻を高く上げます。そうすると、太ももの後ろ側(赤の○印)が伸びます。
「1」と「2」を10回ほどゆっくり繰り返します。

運動後のストレッチは、「2」の状態で15秒保持します。

■下腿後面のストレッチ(繰り返す肉離れに対するストレッチ)

下腿後面のストレッチ

運動前のストレッチ
1.伸ばしたい側の脚を後ろに引きます。
2.かかとを地面につける(青の矢印)とふくらはぎ(赤の○印)の部分が伸びます。
「1」と「2」を10回ほどゆっくり繰り返します。

運動後のストレッチは「2」の状態で15秒保持します。

Q:繰り返している反復性肉離れを完治させる治療はありますか?

肉離れは一度癖になってしまうと、どんなにケアをしても同じ部位を繰り返し痛めてしまうことがあります。
このような場合は、軽い負担でも肉離れが生じてしまうことから、練習の継続困難、試合参加への妨げになり、選手にとって競技や練習時間の長期損失になることも少なくありません。

実は繰り返して起きる反復性肉離れの患部には、正常では見られないような異常な血管ができていて、異常な血管の構造がもろくて出血しやすいために、そこから簡単に出血して肉離れを繰り返してしまうことが知られています。

最近になってこのようなメカニズムで生じる「癖になった肉離れ」の再発を止めて、完治するための新しい治療が開発されています。出血しやすくなっている異常な血管を標的とした新しい治療です。詳しく知りたい方は以下の治療実例も参考にしてください。

太ももの肉離れを繰り返していたプロサッカー選手へのカテーテル治療実例

Q:肉離れ、筋肉痛、こむら返りはどう違いますか?

肉離れ、筋肉痛、こむら返りは、いずれも筋肉に関連する症状ですが、それぞれ原因や状態、対処法が異なります。

肉離れは筋肉に急激な伸縮や強い負荷がかかることで、筋肉の一部が出血、損傷した状態です。スポーツや重い物を持ち上げる際に発生しやすいです。急激な鋭い痛み、患部の腫れや内出血などの症状が特徴的で直後には安静、アイシング、圧迫、挙上(RICE処置)が大切です。

筋肉痛は通常、普段よりも激しく筋肉を酷使することで発症します。主に運動翌日に発生する筋肉の鈍い痛みや違和感、軽い腫れなどが特徴です。安静や軽度のストレッチやマッサージで経過を見ることで自然と治ります。

こむら返りは筋肉の不随意な収縮(力を入れようとしていないのに勝手に収縮してしまう)のことです。脱水、ミネラル不足(特にカリウム、マグネシウム、カルシウム)、長時間の運動、冷えなどが原因です。予防には、適切な水分補給と栄養摂取、ストレッチが有効です。

Q:肉離れに効くテーピング方法はありますか?

肉離れが特に多い下腿三頭筋(ふくらはぎ)とハムストリングス(太ももの裏)のテーピングを紹介します。

■下腿三頭筋のテーピング

下腿三頭筋のテーピング ステップ1

・伸縮性のあるテーピングを使用します。
・かかと〜膝の裏までの長さのテーピングを2本、ふくらはぎの幅の長さのテーピングを3本用意します。
・長い方のテーピングの端を足の裏のかかと部分に貼ります(青の○印)。
・膝の内側に向かって、ふくらはぎの内側面を通るようにテーピングを貼ります(青の矢印)。
・赤の✖️印が痛みのある部位です。

下腿三頭筋のテーピング ステップ2

・同じように足の裏のかかと部分に長い方のテーピングの端を貼ります(青の○印)。
・膝の外側に向かって、ふくらはぎ外側面を通るようにテーピングを貼ります(青の矢印)。
・赤の✖️印が痛みのある部位です。

下腿三頭筋のテーピング ステップ3

・短い方のテーピングを痛みのある部位(赤い✖️印)に重なるように貼ります。
・先に貼った2本のテーピングに重なるように貼ります。
・1周巻くのではなく、後面のみに貼ります。
・テーピングの幅の半分ほどが重なるように貼ります。痛みの程度によって本数を増減してください(例:痛みが弱い時は2本、強い時は4本など)。

■ハムストリングスのテーピング

ハムストリングスのテーピング ステップ1

・伸縮性のあるテーピングを使用します。
・膝の裏〜お尻と太ももの境目までのテーピングを2本、太ももの幅の長さのテーピングを4本用意します。
・前屈した立位でテーピングを貼ります。

ハムストリングスのテーピング ステップ2

・短い方のテーピングを痛みのある部位(赤い✖️印)に重なるように写真のように少し斜めに貼ります。
・痛みのある部位を中心に✖️を作るように2枚目のテーピングを貼ります。

ハムストリングスのテーピング ステップ3

・テーピングの幅の半分ほどが重なるように貼ります。

ハムストリングスのテーピング ステップ4

・膝の内側から坐骨(青い○印)に向かってテーピングを貼ります。
・先に貼った短い方のテーピングの端に重なるように貼ります。

ハムストリングスのテーピング ステップ5

・膝の外側から坐骨(青い○印)に向かってテーピングを貼ります。
・先に貼った短い方のテーピングの端に重なるように貼ります。

Q:肉離れの回復と予防に役立つ栄養素や食事は何ですか?

肉離れの回復と予防には、筋肉の修復と成長を促進し、炎症を抑える栄養素が重要です。バランスの取れた食事を心掛け、特にタンパク質(鶏肉、魚、卵、豆類、ナッツ、乳製品など)、ビタミンC、ビタミンE、オメガ-3脂肪酸、マグネシウム、亜鉛などを含む食品を積極的に摂取することで、肉離れの回復を早め、再発を防ぐことができます。また、適切な水分補給も欠かせません。

Q:肉離れの治療法にはどのようなものがありますか?

肉離れの治療法には、初期の応急処置からリハビリテーションまで、段階的に行うことが重要です。

初期の応急処置は安静、アイシング、圧迫、挙上(RICE処置)を行います。その後、安静を保ち、損傷した筋肉を保護するために、サポーターや包帯を使用します。特に怪我の直後の数日間は重要です。

ストレッチ痛の消失や腱性部の修復が確認できれば,スポーツ復帰に向けたアスレティック・リハビリテーションを積極的に進めていきます。その際にMRIで重症度や所見の改善を把握することが重要になります。 重度の筋断裂の場合、手術が必要になることがあります。手術後は、リハビリテーションが非常に重要です。

Q:肉離れの痛みがなかなか治りません。痛みを改善する治療はありますか?

テーピングや保存療法など安静にしているものの、肉離れを繰り返し痛みがなかなか改善されない方がいます。その痛みの原因は肉離れの際にできた炎症によるものです。

最近では、日帰りで身体の負担が少ない痛みのカテーテル治療が注目されています。この治療は、局所麻酔を用いてとても細くて柔らかい点滴のようなチューブ(カテーテル)を血管に進め、炎症の原因となっている異常な血管に薬を流し治療する方法です。
投与後、カテーテルは抜きますので体内には何も残りません。治療後はバンドエイドで止血しその日に帰宅できます。

詳しく知りたい方は、こちらの治療実例もお読みください。

太ももの肉離れを繰り返していたプロサッカー選手へのカテーテル治療実例

慢性痛についてのお問い合わせ・診療予約

オクノクリニック [新規予約受付時間]10:00-16:00[休診日]日曜日

オクノクリニック [新規予約受付時間]10:00-16:00[休診日]日曜日
オクノクリニック公式サイトはこちら

痛みをもたらす病気・けが

執筆 奥野祐次(医師)

医師 奥野祐次

医療法人社団 祐優会 総院長
オクノクリニック 院長
慶応義塾大学医学部卒業
慶応義塾大学医学部医学研究科修了

プロフィールはこちら