慢性痛治療の専門医による痛みと身体のQ&A

がんの骨転移の痛み

Q:がんの骨転移とは何ですか?

がんがもともとの発生した場所(乳がんであれば乳房、胃がんであれば胃粘膜)から離れて、骨で増殖する現象のことです。

ほぼすべての癌は骨転移する可能性を持っていますが、なかでも骨転移しやすい癌として、乳癌、肺癌、前立腺癌が最も頻度が高く、次いで悪性リンパ腫、腎臓癌、甲状腺癌、消化器癌が骨転移の頻度が高いとされています。

骨転移は初期には症状がないですが、進行すると痛みを伴い、骨折を引き起こす可能性があります。一部の例外を除いて、骨転移を完治させることは困難で、症状の緩和や身体の機能を保つことが治療の目的となります。

Q:どんな症状がでますか?

骨転移があっても何も症状がないことは多いです。
しかし、腫瘍が大きくなると以下のような症状を引き起こします。

1.骨性の痛み
時間の経過とともに徐々に増していく痛みで、性質としては深部の刺すような痛みやズキズキとした痛みのことが多いです。

2.骨折
骨転移の部位が折れてしまうことがあります。どんな運動はしてもいいのかなどは主治医の先生と相談してください。

3.脊髄への圧迫による症状
背骨に転移した腫瘍が大きくなり、そばにある脊髄を圧迫することで生じる症状です。痛み、しびれ、尿失禁、便失禁、四肢の脱力などがあります。

4.貧血
赤血球は骨の中(骨髄)で作られていますが、腫瘍ができて占拠されてしまうことや、骨転移の治療で放射線や抗がん剤をすることで骨髄の機能が低下してしまい、貧血の症状が起こり得ます。

Q:骨転移はなぜ起きるのですか?

がん細胞は、もともと発生した場所(原発巣といいます)にとどまらず、直接近くの組織に進んでいったり(直接浸潤)、血液に乗って体内を循環したりします。血液内を循環する癌細胞をCirculated tumor cellと呼びます。この血液内を循環するがん細胞が、骨髄などを通り過ぎる際に、そこに定着し、その場所で増殖を始めることがあり、これが骨転移のメカニズムとなります。

Q:骨転移はどうやったらわかりますか?どのように診断しますか?

採血検査ではアルカリホスファターゼという検査項目の数値が上がることが知られているので、これを確認することで、骨転移の可能性を調べることができます。しかし、成長期の子供や、骨折の治癒過程でもアルカリホスファターゼの数値は上がるので、これが高いからと言って必ず骨転移があるとは言えません。

画像検査では、全身をくまなく探すための全身検索と、調べたい部位が限定されている場合の局所評価によって分かれます。全身検索ですとCTや骨シンチグラフィー、局所評価ならMRIが有用です。

Q:がんの骨転移はどのように治療しますか?

骨転移への治療は、がんを小さくすることで症状を改善させる治療と、がんには働きかけずに他の細胞などに働きかける治療とに分かれます。下記のような治療法があります。

1.骨粗しょう症治療薬
骨粗しょう症の治療薬は、骨転移の治療にも使われ、骨転移の痛みを軽減し、骨折のリスクを低くし、また新たな骨転移の発生リスクを下げることが知られています。
正常な骨は、新しい骨を作る骨芽(こつが)細胞と古い骨を壊す破骨(はこつ)細胞が働いており、双方の働きのバランスがとれていて、正常な骨の構造が維持されています。癌細胞が骨髄に定着したあとに、骨を壊す破骨細胞の働きを過剰に活発になり、骨をどんどん溶かしていき、そのことにより癌が増殖します。骨粗しょう症薬は、この破骨細胞の機能を抑えることで骨転移の進行を抑え、また症状を緩和します。

2.静脈から投与する放射線治療
点滴をして血液の中に特殊な放射性物質を投与し、それが骨転移した病変に集まることを利用して治療する薬剤です。大きく分けるとα線治療とβ線治療の2つに分けられます。
α線治療:ラジウム-223(ゾーフィゴ)という放射性物質が含まれた、放射性医薬品の注射薬です。ゾーフィゴが注射されると、骨の代謝が活発になっているがんの骨転移巣に集まり、そこから放出されるアルファ線が骨転移のがん細胞の増殖を抑えます。
β線治療:Sr89(ストロンチウム89)という注射薬を1回注射します。注射した薬剤がカルシウムと同じような動態を示すので、骨に集積しそこで放射線を放出することで症状がよくなるというメカニズムです。

3.抗がん剤、ホルモン療法、分子標的薬
これらの薬剤は癌細胞の分裂を抑制することで、がんそのものを小さくし症状や進行を抑えます。

4.鎮痛剤
根本的にがんを小さくするのではなく、骨転移に伴う痛みの症状を緩和させるものです。癌の骨転移に対する鎮痛剤(痛み止め)には以下の2個に大きく分けられます。
非オピオイド(ロキソニン、ボルタレン、カロナール):一般的に用いられる鎮痛剤で抗炎症作用があります。消化管の粘膜障害や腎機能障害などがありますが、比較的よく使用されるお薬です。 
オピオイド:一般的に鎮痛性麻薬と言われています。上記の非オピオイドで十分に緩和されない痛みに使用されます。悪心、嘔吐、便秘などが出現しやすいので、同時にそちらの内服薬も処方されます。

5.ステロイド製剤
ステロイド製剤は炎症や腫れを抑える働きがあります。
がんの骨転移の病変の腫れを抑えることで、腫瘍の大きさがやや小さくなり、そのことで骨膜への圧迫や、骨の内部の圧力を低下させることができ、結果的に骨転移の痛みが緩和されます。

6.放射線治療(外照射)
放射線治療はX線や陽子線などの強力なエネルギービームを使用して、がん細胞を殺す治療です。
骨転移が鎮痛剤ではコントロールできない痛みを引き起こしている場合、または痛みが少数の領域に限定されている場合は、放射線療法が選択肢となる可能性があります。
痛みがある部位に放射線治療を行うと7割の患者さんで痛みの改善が期待できます。副作用は治療をする部位やサイズにより異なります。

7.カテーテル治療(血管内治療)
カテーテルを用いて骨転移の病変を栄養している動脈を塞栓することにより、即時性の痛みの改善や局所の進行を抑えられることがわかってきています。

詳しく知りたい方はこちらの治療実例も参考にされてください。
卵巣がんの背骨への骨転移の痛みに、カテーテル治療が著効した治療実例

Q:骨転移への手術にはどんなものがありますか?

がんの転移による骨折(病的骨折)と脊髄圧迫に対する手術があります。がんの転移が原因の骨折に対して、生活の質を保つための手術を行う場合もあります。また脊髄の麻痺が切迫している場合には除圧術という、神経の圧迫を解除する手術を行うこともあります。

Q:骨転移がある場合の日常生活の注意点を教えてください。

転移している骨に荷重がかかることや、ねじれが加わると骨折のリスクがありますので、できるだけ避けることが望ましいです。また大きな動き、急いで動くこともリスクがあるためゆっくりした動きを心がけましょう。

1.腕や肘に骨転移がある場合
洗濯や掃除などで重いものを持つことは避けるようにしましょう。腕をひねらないように注意しましょう。腕で身体を支えながら起き上がることは大きな負担がかかります。ベッドのギャッジアップ機能(頭側を上げる)を使用することで、起き上がりがスムーズに行えます。

2.太ももや骨盤に骨転移がある場合
荷重を軽減するために移動には杖や歩行器、車いすを使用しましょう。車いすに移乗する場合は、足を動かさずに上半身の向きを変える(ひねる)と、太ももにねじれが加わり骨折や痛みが発生するリスクとなります。一度しっかり立ち、手すりや歩行器などの支持物を持ちながらゆっくりと小刻みに身体の向きを変えて座りましょう。寝返りの時は、両膝を立てて上半身と下半身の向きを同じタイミングで向きを変えるようにします。

3.背骨や首の骨に転移がある場合
上半身をひねるような動き、過度な前かがみの姿勢や後ろに反る姿勢は背骨に大きな負担となりますので、できるだけ避けるようにしましょう。ベッドから起き上がる時はベッドのギャッジアップ機能(頭側を上げる)を使用すると良いです。身体の向きを変える時には上半身のみひねるのではなく、下半身を含めて身体全体の向きを変えるようにしましょう。

Q:背骨の転移の際のコルセットや頸椎カラーの選び方や使用方法を教えてください。

頸椎転移の場合の装具ですが、骨の安定性が保たれている場合は軟性のソフトカラーを、不安定性が中等度の場合は、フィラデルフィアカラーなど硬い素材のものを使用することが多いです。また、不安定性が非常に強い場合は、頸椎と胸椎を一緒に固定できる頸胸椎装具やハローベストを使用することが多いです。

胸椎転移の場合は頸胸椎装具を、腰椎転移の場合は胸腰仙椎装具の使用が推奨されます。不安定性が強い場合は、できる限り硬性コルセットの使用が推奨されます。

コルセットや頸椎カラーを装着に際しては、体をひねってしまうと背骨に大きな負担がかかりますので、ひねる動作は避けながら装着するようにしましょう。

Q:乳がんを患っています。癌が骨に転移したらすぐに歩けなくなるのでしょうか?余命は短いですか?

転移してすぐは症状が全くないことも多いです。このため初期は歩行は可能です。
転移巣が大きくなって骨が脆弱になると骨折が生じたり、脊髄を圧迫するような大きなサイズになると下肢の麻痺などが生じます。骨転移があるからと言って一概に余命が短いとは言えません。

Q:骨転移をした場合、癌のステージは何になりますか?

Stage4となります

Q:乳がんで骨転移があり、放射線治療を受けて鎮痛剤を使っていますが、なかなかよくなりません。何かほかに良い治療法はありますか?

がんの骨転移の痛みは、骨にできた腫瘍を栄養する血管の流れを止めることで大幅に改善することが知られています。30分ほどで終わる日帰りのカテーテル治療で、骨転移の痛みを改善できる治療があり注目されています。詳しく知りたい方はこちらの治療実例も参考にしてください。

詳しく知りたい方はこちらの治療実例も参考にされてください。
卵巣がんの背骨への骨転移の痛みに、カテーテル治療が著効した治療実例

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痛みをもたらす病気・けが

執筆 奥野祐次(医師)

医師 奥野祐次

医療法人社団 祐優会 総院長
オクノクリニック 院長
慶応義塾大学医学部卒業
慶応義塾大学医学部医学研究科修了

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