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肋骨の痛み(肋軟骨炎)
Q:胸が痛くて病院に行ったら肋軟骨炎と言われました。どんな病気ですか?
肋軟骨炎は、肋骨と胸骨をつないでいる胸肋関節、または肋骨と肋軟骨の接合部に痛みを生じる疾患です。左の第2から5肋骨の部位に生じることが多いと教科書的には説明されますが、実際には左だけに限らず、両側のすべての肋骨において生じる可能性があります。肋軟骨接合部痛、下部肋骨疼痛症候群などとも呼ばれることもあります。心臓疾患や乳がん、帯状疱疹の痛みなどとの鑑別が必要です。
肋軟骨炎は英語ではCostochondritisと呼ばれます。はっきりした原因無く発症することが多く、通常、腫れは認めません。ただし人によっては肋骨と胸骨の間に腫れを伴うことがあり、この場合はTietze症候群と呼ばれる病気の可能性があります。
せきや身体の動きで痛みが出ることが特徴です。
肋軟骨炎は通常は数週間で自然に治まりますが、それ以上続くこともあります。また改善と再発を繰り返すことがあります。治療は鎮痛剤などの投与が中心ですが、数年続く際は、後述するような新しい治療法が必要となることもあります。
Q:肋軟骨炎の症状にはどういうものがありますか?
肋軟骨炎の症状は、胸部やあばらの痛みです。痛みは、上肢の運動や深呼吸を伴う活動に関連することが多く、重い物を持ち上げたり、くしゃみやせき、深呼吸などでも悪化します。痛みの性質としては鋭い痛み、または圧迫するような痛みです。一つだけでなく複数の肋骨に及ぶこともあります。
Q:胸が痛いのですが、肋軟骨炎でしょうか?乳がんという可能性はありますか?
一般的に胸痛が生じている場合、その原因として可能性が一番高いのは肋軟骨炎です。肋軟骨炎が胸痛の85%を占めるという報告もあります。しかし、中には乳がんや心臓疾患の可能性ももちろん否定できません。
肋軟骨炎と乳がんの見分け方ですが、肋軟骨炎である場合、肋骨と胸骨の接合部、または肋骨の骨と軟骨の接合部にピンポイントの圧痛(押すと痛い場所)があります。そのような場所に痛みがあるなら肋軟骨炎の可能性が高いです。
とはいえ、ご自身で判断するだけでなく、乳がんのご心配があれば、乳がんのエコー検査(超音波の検査)をたくさんしているクリニックで検査を受けることや、マンモグラフィなどの乳がんの検査をお受けになることをお勧めします。
Q:肋軟骨炎は何科に行けばよいのですか?
肋軟骨炎が疑われるのであれば、内科または整形外科を受診することが適切だと考えられます。通常であればそこで痛み止めや湿布を処方され、数週間で治まることが多いです。また、数か月以上なかなか治らないのであれば、痛みの専門医を受診することも検討してみてください。
Q:肋軟骨炎の原因は何ですか?どういう人がなりやすいですか?
現在のところ肋軟骨炎の病態は十分には解明されていませんが、これまでに分かっているところで言うと、外傷(胸部に何らかの強いダメージが加わったこと)、繰り返しの負担、肋骨のゆがみ、重い物を持ち上げる、ゴルフなども含めた激しい運動、激しい咳などの負担によって肋軟骨接合部に微細な損傷が生じて、それをきっかけに肋軟骨炎が生じると考えられています。
また、一部の患者さんは特定の関節炎(関節リウマチ、強直性脊椎炎、掌蹠膿疱症性関節炎)に関連している可能性もわずかながらあります。
また、ウイルス、細菌などによる病原体が肋骨に感染して発症する可能性もあるとされ、さらには腫瘍によって肋軟骨炎を引き起こす可能性があります。 腫瘍は、乳房、甲状腺、肺など、体の別の部分から関節に転移することがあります。
Q:肋軟骨炎はなぜ痛いのですか?
肋軟骨炎に限らず、人間の身体では「微細な損傷」を起こすと、異常な血管が集まってくることが知られています。すると血管だけでなく神経も一緒に増えてしまうことがわかっており、その神経から痛みが生じることが知られています。
肋軟骨炎では、肋骨と軟骨、あるいは肋骨と胸骨のつなぎ目(接合部)に繰り返しの負担がかかり、わずかな損傷が起きて、その損傷の部位に異常な血管が集まります。するとこの異常な血管とともに神経が一緒に増えてしまい、治りにくい痛みの原因になってしまうのです。 最近では、長期に続く肋軟骨炎の治療として、異常な血管を減らすカテーテル治療というものもあります。詳しく知りたい方は、こちらの治療実例も参考にしてください。
肋軟骨炎と肋間神経痛はどう違うのですか?
肋間神経痛は、肋間神経という肋骨に沿って走る神経の障害による痛みです。肋軟骨炎は肋軟骨と肋骨との接合部に限局した痛みなので、肋間神経痛とは異なります。
肋間神経痛は、ほとんどの場合、何か他の疾患に付随して生じます。特に高齢者の肋間神経痛は悪性疾患(がん)の可能性も考慮し、原因検索が必要となります。肋間神経痛は、激しい、鋭い痛み、または灼熱痛を特徴とする痛みを伴う障害で、痛みの範囲は通常は肋間神経の走行に一致します。特徴的な症状は、背中から前方に放散する痛みと、そこを覆っている皮膚の痛覚過敏です。
また、乳房または胸部手術後に肋間神経痛が生じることも多いです。また、外傷性または医原性の神経腫、または帯状疱疹感染の患者さんでも報告されています。
Q:ティーツェ病とは何ですか?
胸の中央に位置する胸骨という骨と肋骨との間の胸肋関節(costosternal joint)に生じ、腫れや痛み、圧痛を呈する疾患です。第2-5胸肋関節に特に多く、ときに鋭い痛みを呈することがあります。
この病気は1921年にティーツェという人が報告しました。ティーツェ病は肋軟骨炎と厳密に言うと同じではありませんが、非常に似ている状態です。ティーツェ病では、肋軟骨炎に比べて、患部が腫れるのが特徴です。
Q:肋軟骨炎になりました。ストレスが原因でしょうか?
肋軟骨炎は、前述したように、繰り返しの動作による負担や、一回の外傷、繰り返す咳などで生じた、物理的な微細な損傷が原因となることが多いです。ほかに関節炎を来す基礎疾患(関節リウマチや掌蹠膿疱症など)、感染症、腫瘍なども原因となりえます。
ストレスの関与もあり得ます。ただしストレスがあるからと言って必ず肋軟骨炎になるわけではありません。そうではなく、ストレスによりもともとあった痛みが悪化する可能性があります。
もしも肋軟骨炎の痛みが続いているようでしたら、痛みの専門医の受診も検討してみてください。
Q:あばらの下の方が痛いのですが、肋軟骨炎ですか?
その可能性はあります。肋軟骨炎は、あばらの下の方(専門的には下部肋骨または季肋部と呼びます)にも生じることが多いです。下部肋骨疼痛症候群ともいわれます。
また、肋軟骨炎以外の病気としては、肝臓や胆嚢、横隔膜などに関連する痛みという場合も、確率は少ないですがあり得ると思います。
Q:肋軟骨炎は治るまでにどれくらいの期間がかかりますか?
肋軟骨炎は通常、数週間で自然に治まります。長くても数か月とされています。ただし、中には1年以上続いてしまうこともあります。また、一度改善しても再発を繰り返してしまうこともあります。そのような際は、前述したように、普通では見られないような異常な血管が残ってしまい、なかなかすっきり治らない原因になっていることもあります。
痛みが長引いてお困りの方は、こちらの治療実例も読んでみてください。
Q:肋軟骨炎へのセルフケアはどのようにすると良いですか?
肋軟骨炎は多くの場合は自然と数週間で治るので、ご自身でできるセルフケアをして症状を抑えながら改善するのを待つことも重要だと思います。
ご自分でできるセルフケアとしては、まずは塗り薬や湿布などの市販薬を購入して用いてもらうことです。また、薬以外では、熱すぎない程度の温度で温めること(温熱パッド)や、冷やすこと(最長15分ほど、タオルで包んだ氷嚢などを当てる)などが挙げられます。
また、痛い動作を生じないように、日常動作を見直して負担を減らすことも重要です。
また、腹筋が硬くなってしまい、それに引っ張られて肋骨に負担がかかっていることも考えられます。その場合は、非常に軽くで良いですから、お腹の筋肉を縦や横にゆらすようにさすってあげて、腹筋の緊張を緩めるようにすることも良いでしょう。
Q:肋軟骨炎の治療にはどのようなものがありますか?
ここでは一般的な治療について、まとめておきます。
最近は新しい治療法も出ていますので、そちらを知りたい方はこの後の記事も参考にしてください。
肋軟骨炎の一般的な治療は、内服薬や理学療法による痛みの緩和がメインになります。
内服薬としては、ロキソニンに代表されるようないわゆる消炎鎮痛剤とともに、トラマールといった麻薬製剤も使われることがあります。また、抗うつ薬の仲間であるサインバルタという薬や、抗てんかん薬のリリカ、ガバペンなどと言った神経の興奮を抑えるために使うことがあります。
抗うつ薬については、うつだから処方するということではなく、セロトニンという物質が足りなくなると痛みを感じやすくなることがわかっており、セロトニンを増やす目的で使います(うつ状態でもセロトニンが低下してしまうことが知られており、抗うつ薬にはセロトニンを増やす作用があるため)。
いずれも対症療法ですが、肋軟骨炎が重度でなければ数週間で自然に治ることから、その間の期間をしのぐために使うという意味合いがあります。
また、薬以外では理学療法をすることがあります。電気を当てたり温めたりすることもありますが、それ以外に患部の肋骨や胸肋関節、肋軟骨接合部に過度な負担がかからないように、その周りやとなり合う身体部位を調整することで症状が改善することがあります。
Q:肋軟骨炎と診断されましたが、いつまでも治りません。何か良い治療法はありますか?
肋軟骨炎では「通常は数週間で治る」と言われますが、実際には長く痛みが続いてしまう方が一定数いらっしゃいます。1年以上にわたって痛みが続くことも稀ではありません。
このように痛みが長く続いてしまう場合、患部に異常な血管が生じてしまい、それとともに神経が一緒に増えて治りにくい痛みの原因になっていることが知られています。自然に数週間で治らない場合は、上記のような特殊な状況になってしまっている可能性が高いです。その場合、根本的な原因となっている「異常に増えた血管と、その周りの神経」という原因を改善しない限り、痛みが続いてしまいます。
最近になって、このような痛みの部位にできた異常な血管を減らす、運動器カテーテル治療という新しい治療法ができています。以下の実際の患者さんの治療実例も読んでみてください。
また、カテーテル治療について詳しく知りたい方は、こちらのページもご参照ください。