慢性痛治療の専門医による痛みと身体のQ&A

腸脛靭帯炎(ランナー膝)

Q:膝の痛みが生じて病院に行ったら腸脛靭帯炎(ランナー膝)と言われました。どのような病気なのでしょうか?どういう人がなりやすいですか?

腸脛靱帯は太ももの外側に位置しており、腸骨から脛骨のあいだを結合させているバンド(帯状の結合組織)です。膝関節の曲げ伸ばしの際の重要な支持機構となっています。

腸脛靭帯炎(ランナー膝)は、膝の屈伸運動を繰り返すことで、腸脛靭帯が膝の外側の上方にある骨のでっぱり(大腿骨外側上顆)を何度も通過するために炎症が起こると考えられています。主に長距離ランナーや自転車競技者に起こりやすいです(発生頻度は長距離ランナーの5-30%、自転車競技の15-24%)。

安静、冷やすこと、痛み止め、リハビリなどが治療の第一選択となります。一部の方は痛みが長引くことがあります。手術療法は一般的ではありません。

Q:腸脛靭帯炎になりました。病院では安静にして湿布を張っていれば治ると言われましたが、一向に治りません。どれくらいの期間で完治する病気ですか?

論文では、腸脛靭帯炎の80%の人は半年以内に保存療法で改善するとされています。一方で一部の人は、治療を受けていても痛み症状が改善せず症状が長引くことがあります。そのような場合は痛みの原因に対する根本的な治療ができていない可能性が高いです。

後述するように腸脛靭帯炎では異常な血管と神経が一緒に増えて痛みの原因となっており、それらを治療しない限り速やかに改善することはありません。専門の医療機関の受診も検討してください。

Q:36歳のランナーです。腸脛靭帯炎になり8か月かかってようやく痛みが引いたと思ったら、反対の足が腸脛靭帯炎になりました。腸脛靭帯炎の原因は何でしょうか?

発生の要因はオーバーユースです。腸脛靭帯がランニングや自転車の動作などで膝外側上方の骨のでっぱり(大腿骨外側上顆)を何度も摩擦を繰り返す(関節の屈曲30°以上で腸脛靭帯が外側上顆の前方に、30°未満で後方にスライドするため、繰り返すことで摩擦が生じる)ことで炎症が起きることが原因です。腸脛靭帯そのものよりも、腸脛靭帯と大腿骨外側上顆の間にある滑膜の炎症とも考えられています。

最近になって、このような炎症の部位には、通常では見られないような異常な血管が増えており、異常な血管とともに神経も増えることで治りにくい痛みの原因となっていることがわかっています。

リスクファクター(これらの要因が多くあると腸脛靭帯炎になりやすい)としては
1.ランニング、自転車走行の時間が長い
2.柔軟性不足(ウォームアップ不足)
3.休養不足
4.硬い路面や下り坂
5.継続的な偏ったストレス(同じ方向でトラックを走り続けるなど)
6.硬いシューズ
7.下肢アライメント(内反膝)
8.脚長差

などが挙げられます。

Q:腸脛靭帯炎で我慢して走っていると、靭帯が切れてしまうことはありますか?

腸脛靭帯炎で炎症やダメージが生じているのは、靭帯そのものではなく、靭帯直下の滑膜組織に損傷や炎症が起きていると考えられています。このため、腸脛靭帯そのものは正常であるため、走り続けたことによる腸脛靭帯の断裂は心配しなくても大丈夫です。

ただし痛みを我慢して走り続けていると、断裂はしませんが痛みが遷延化し難治化する可能性があるため、症状があるなら安静にすることも必要です。

Q:ランナー歴3年です。腸脛靭帯炎のケアに有効なテーピングの仕方を教えてください

ここでは腸脛靭帯への負担を減らすテーピングの仕方をお教えします。

痛みのある側の太ももを上にした横向きで寝ます。痛みのある側の股関節は伸ばした状態、反対側の股関節は深く曲げた状態にします。膝関節の少し下で、すねの外側から太ももの外側を通り、骨盤前側の骨が触れる部分まで貼ります。すると、大腿筋膜張筋や腸脛靭帯など太ももの外側部分への負担を緩和することができます。

1本では不十分な場合、テープの幅を半分ずらして太ももの外側に貼ります。

Q:腸脛靭帯炎を早く治す方法はありますか?駅伝の大会が近づいており、早く治す方法を探しています。

オーバーユースのため安静やストレッチ、アイシング、消炎鎮痛剤などの保存療法が原則です。ただし、このような保存療法では簡単に痛みが消失しないことも多いです。

前述したように腸脛靭帯炎では異常な血管ができて痛みを生じており、その血管を標的とした運動器カテーテル治療によって競技復帰までの期間が短縮できるケースもあります。詳しくはこちらの治療実例のページも参照にしてください。

Q:腸脛靭帯炎でインソールを探しています。どのようなインソールが効果的ですか?ちなみにマラソンをしています。

内反膝(O脚)や扁平足などの下肢アライメント異常も原因になり得るため、それらを修正するようなものを選びます。特に症状が改善され再発予防をする際に、インソールによってランニングフォームを修正することが重要な場合もあります。

Q:バスケットボール部に所属する高校生です。腸脛靭帯炎になり2回ステロイド注射して今は痛みが落ち着いています。再発する可能性はありますか?

再発の可能性はあります。ステロイド注射ではいったん炎症は落ち着きますが、負担をかけ続けると1,2か月で炎症がぶり返す可能性があります。

無理をして競技復帰した場合や、マルアライメント(止まった状態での姿勢の異常)とマルユース(動いた状態での姿勢の異常)が修正されていなければ再発してしまう可能性があります。ステロイド注射で再発した際は、根本的な治療をするために後述する運動器カテーテル治療という選択肢があります。専門の医療機関の受診も検討してみてください。

Q:自転車競技をしています。腸脛靭帯炎になりました。サドルなどのポジションや乗車フォームなど気を付けた方が良いことはありますか?

サドルが高すぎたり、サドルの位置が通常より後ろにある状態では、腸脛靭帯と大腿骨外側上顆(膝関節外側の出っ張り)の間に摩擦が起きやすく、炎症につながると言われています。サドルの位置を下げ、前方に調整することで痛みの緩和につながることがあります。

Q:腸脛靭帯炎でいろいろな治療をしていますがなかなか治りません。何か良い治療方法はありますか?

腸脛靭帯炎では、腸脛靭帯の直下にある滑膜に炎症が生じて、普段では見られないような異常な血管が生じています。この異常な血管を標的とした運動器カテーテル治療によって、今まで改善しなかった腸脛靭帯炎の痛みが改善するケースが多くあります。

治療について詳しく知りたい方はこちらのページを参考にしてください。

また、腸脛靭帯炎への治療例についてはこちらの治療実例のページも参考にしてください。

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痛みをもたらす病気・けが

執筆 奥野祐次(医師)

医師 奥野祐次

医療法人社団 祐優会 総院長
オクノクリニック 院長
慶応義塾大学医学部卒業
慶応義塾大学医学部医学研究科修了

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