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むちうち症
Q:数年にわたりむちうち症の治療をしていますがなかなか治りません。むちうち症とは、なんでしょうか?
自動車事故(特に衝突事故)により、首に急激な加減速の衝撃(ムチを打ったように過度な進展をする)が加わることで、事故後に首や背中に痛みが出る状態です。衝突事故に遭った人の50%に慢性的な症状が出現するともいわれています(※1)。
医学的な名称には「外傷性頚部症候群」や「頸椎捻挫」などがあります。英語ではWhiplash Associated Disorder (WAD)と呼ばれます。
治療は安静や痛み止めなどの飲み薬、頸椎カラーによる固定などがあります。受傷後3か月の期間に急速に症状が改善するものの、その後はなかなか変化が見られず、多くの人は完全に回復することがないという報告もあります。(※2)
Q:なぜむち打ち症になると首の痛みが起きてしまうのでしょうか?
衝突事故のような前後方向の急激な加減速の力が加わった際に、下の図の①から⑥のように体幹と頚部、頭部が前後に鞭を打ったように動き、過度な屈曲と伸展が頸椎に加わります。すると、頸椎にS字型の湾曲(英語ではS-shape curveという頸椎に過度な力が加わる状態)が作られてしまい、頸椎を支える靭帯や結合組織、関節包に損傷が起きます。
事故後すぐに首の痛みが起きることもありますが、数日してから損傷のダメージが明らかになってくることが多いです。
このような急な損傷は3か月ほどかけて修復されていきますが、一部では症状が残ってしまうことがわかっています。事故から数年経過したあとにも、PETという特殊な検査をすることで、損傷が残っていることを確かめた論文もあります(※3)。
Q:2ヶ月前に交通事故に遭いました。車にのっているときに後ろから追突されました。 それ以来、首や腰がずっと痛いです。病院に行くとむち打ちだと言われました。むち打ちにはどんな症状がありますか?
交通事故後に、首、肩、腕、背中などの範囲に痛みが生じ、痛み以外の症状としては、しびれ、めまい、微熱、倦怠感、頭痛、顎関節痛、筋膜の圧痛、動作に伴う痛みの増加、および頸部の筋肉の硬直などが含まれます。
Q:交通事故にあって2~3日は痛くありませんでした。その後、首から背中にかけて鈍痛を感じるようになりました。これはむちうちでしょうか。
はい。むち打ちが強く疑われます。むち打ちは必ずしも直後から症状が出るわけではなく、数日してから症状が出現することも多くみられます。このため、直後に病院に行った際には、症状がなくてもレントゲンなどの検査を受けておいたほうが望ましいです。
Q:交通事故以外に、むち打ちになることはありますか?
あり得ます。たとえば不意に頭を持ち上げた時に何かに強く後頭部を打つなど、あるいはスキーで転倒して頭に強い衝撃があったなど、頭部や首に強い衝撃が加わることで、交通事故でなくてもムチ打ちになる可能性があります。
Q:どうやってむち打ち症だと診断しますか?
むち打ちの診断は、まずムチ打ちの原因になるエピソードがあったかどうかを問診します。また、画像検査としてレントゲンやMRIを行ないます。レントゲンやMRIではむち打ち症と確定できるような特徴的な画像所見は未だ知られていません。このためこれらの検査の目的は、他の疾患がないことを調べるために行ないます。
交通事故などのむち打ちの原因となる出来事があり、かつ画像検査で他の原因が見当たらない場合に、「むち打ち症」と診断されます。
Q:むち打ち症には分類などありますか?
むち打ち症は下記の5つの型に分類されます。
1.頚椎捻挫型
むち打ち症の7割がこれに該当するとされる最も頻度の高いタイプです。頚椎を支える靭帯や結合組織、および椎間関節と呼ばれる頸椎の上下の骨をつなぐ関節の袋に断裂や損傷が生じることで症状が発生するとされています。
主に首周りの痛みに加えて、首を回す、捻るなどの動作による痛みが主体となるものです。
2.神経根症状型
脊髄から両側に分岐して腕や手に向かう神経根に圧迫が生じるタイプです。神経の圧迫のために上肢の痺れや放散痛(腕に広がる痛み)、感覚障害などが起こりえます。この場合、深部腱反射の低下や筋力低下が見られ、スパーリングテストというテストが陽性になることで判別します。
3.バレー・リュー症状型
はっきりした機序はわかっていませんが、ムチ打ちに伴ってめまい、耳鳴り、頭痛、吐き気などが生じるタイプです。頸部にある交感神経の過緊張が原因とする説もあります。慢性化する傾向が強いとされています。
4.根症状+バレー・リュー型
2の神経根症状とともに、3のバレー・リュー型の症状が合わさるタイプです。
5.脊髄症状型
脊髄自体に損傷が生じるタイプです。症状としては手足の感覚異常、運動障害が生じます。手だけでなく足にも症状が出ることが他の型とはことなる要素です。もともと脊柱管狭窄症や後縦靭帯骨化症などがあり、脊髄の通り道が狭くなっていた方に、交通事故の衝撃が加わることで発症するとされています。厳密には脊髄損傷にあたるため、むち打ち症とは呼びません。
Q:むち打ちだと思うのですが、何科に行けばいいでしょうか?
一般的には整形外科に行くのが良いと思います。ただし、整形外科に通っても改善しない場合は、専門の医療機関の受診をお勧めします。特に、受傷から半年ないし1年以上経過している場合は、一般的な整形外科の診療で改善させることは困難です。このような場合は専門的な治療が有効なことがあります。詳しく知りたい方は、下記の治療実例も参考にしてください。
Q:むち打ち症は、どのくらいで治りますか?
受傷後のはじめの3か月で症状が急速に改善することが多いです。ただし、そこから先はほとんど症状が変わらない人が多いとされます。このため、当初ほどの強い症状ではないにしても、だらだらと痛みや違和感が数年にわたり続くことも珍しくありません。
調査研究では、受傷から1年が経過した後にも、84%の人に痛みが続いていたという報告があり(※4)、また、その後も目立った改善がない、などが報告されていることから、長い期間を要する可能性があります。
Q:首と肩が痛いのでレントゲンを撮りましたが異常はないと言われ、むち打ちと診断されました。雨の日に手がしびれるような感覚や吐き気や頭痛がします。全身重くだるく感じることもあります。このような首の痛み以外の症状が起きるのはなぜですか?
むち打ちになると、頚部の筋肉が緊張します。このような筋肉の緊張は隣接する筋肉にも波及する性質があり、頭部の筋肉の緊張を引き起こして頭痛を発生させます。また、筋肉の過度な緊張とともに交感神経という神経が極度に高まることで吐き気や全身のだるさにつながることがあります。また、肩甲挙筋や僧帽筋といったいわゆる肩こりの部位の筋肉の緊張や炎症が生じることで、同じ側の手や前腕に放散するしびれが生じることがあります。
Q:むち打ちの場合、安静期間はどれぐらいでしょうか。
一般的には2週間から3週間の固定が良いとされています。あまりにも長い期間固定してしまうと、それも治りにくい状態を作ってしまうことがあるため、2-3週間経過して頚部の痛みが和らいだら、少しずつ動かすようにしたほうが良いです。
Q:むち打ちは放っておくとどうなりますか?
むち打ち症は、放っておいてどんどん症状が悪化するということは稀です。ある一定の症状がダラダラと改善も増悪もせずに続くことがほとんどです。
ただし、若いころは軽い症状だったのが、40代、50代と年齢を重ねた時に、急に悪化するということがあります。このため、可能であれば症状が軽い段階で根本的な治療をしておいた方が良いです。そのような際は専門の医療機関を受診することも検討してください。
Q:むち打ちは湿布で治りますか?冷たい湿布の方がいいのでしょうか。温かい湿布の方がいいのでしょうか。
ムチ打ち症では冷やすことや温めることは、どちらもそれほど効果が出る対応にならないことが多いです。温湿布であれ、冷湿布であれ、湿布を用いることは、根本的な治療ではありませんが、症状を和らげる一助になりえます。湿布は市販のものや整形外科などで処方された抗炎症作用があるものが望ましいです。
Q:むち打ちですがお風呂に入っていいのでしょうか。
お風呂には入っていただいて大丈夫です。むち打ちは温めてはいけないということはありません。また過度にかばって動かさないことで症状が長引く人もいます。痛くない範囲で日常生活を送りましょう。
Q:ムチ打ち症の後遺症で首に痛みがあり、治し方を探しています。自分でできるセルフケアはありますか?
首の周りの筋肉が過緊張状態であると、痛みが出やすくなります。痛みのない範囲で首をゆっくり動かすことや姿勢を整えること、首を支える筋肉の働きを良くすることで過緊張状態が軽減しやすくなります。
急性期の痛みが強い時期やしびれがある場合は、首の運動は控えた方が良いと思います。また、急性期でなくても痛みの出ない範囲で行うようにしてください。
1.首の可動域を広げる運動 各10回ずつ
首の動く範囲を広げます。急な動きをすると痛みが出る可能性がありますので、ゆっくりと痛みの出ない範囲で動かすようにしてください。
2.体幹の可動域を広げる運動 各10回ずつ
首の動きは単独で起こるわけではなく、体幹の動きと連動しています。体幹の動きを良くすることで、首への負担を減らすことができます。
3.首の筋力トレーニング 各5秒間×10回ずつ
首を支える筋肉が正常に働くようにトレーニングを行います。急に大きな力を出すと痛みが出る可能性がありますので、ゆっくりと力を出すようにしてください。
Q:むち打ちにマッサージや電気治療、針治療は効果がありますか?
マッサージで患部をあまりにも強く刺激することはお勧めしません。針治療は筋肉の収縮を和らげてくれるので、推奨されると思います。電気治療も筋肉の過緊張を一時的にですが緩めてくれる働きが期待できます。しかし根本的な治療とは言えません。
最近になって、長く続くむち打ち後の首や背中の痛みに有効なカテーテル治療という治療が開発されています。
詳しく知りたい方はこちらの治療実例も参考にされてください。
Q:むち打ちは再発する可能性はありますか?
ムチ打ちは残存することはありますが、一度回復した症状が再発することは稀です。ただし、再度交通事故に遭ってしまえば、当然ながら再びむち打ちになることはあり得ます。
Q:むち打ちの後遺症に悩んでいます。様々な治し方を試していますが、なかなか治りません。固定や安静にする以外、何か有効な治療法はありますか?
むち打ち症は数年以上経過しても残存してしまうことが知られています。
これは頸椎という骨の近傍の組織に損傷が残存してしまうことが原因と考えられています。このような残存した損傷のみを適切に治す治療はこれまではありませんでした。
しかし最近になって、むち打ちで生じた慢性的な損傷を治すためのカテーテル治療という治療法が開発されています。詳しく知りたい方は下記の治療実例も参考にしてください。
20年以上苦しんでいた、交通事故後の首こりへのカテーテル治療実例
むち打ち後の首の痛みに悩んでいた方の治療実例を動画で紹介しています。この方は、8年前に交通事故に交通事故でむち打ちになり、2~3か月で良くなりましたが、その8年後にむち打ちになったところがまた痛くなりました。ペインクリニックでの星状神経節ブロック、首の神経ブロック、鍼治療、マッサージ、運動などいろいろ試したのですが良くならないとのことで、当院にお越しくださいました。
動画では
・どんな検査をするの?
・もやもや血管と痛みの関係
・もやもや血管のカテーテル治療とは?
・治療の結果
などをお話ししています。
(※1)Walton D, et al. Rick factors for persistent problems following whiplash injury: results of a systematic review and meta-analysis. J Orthop Sports Phys Ther. 2009;39(5):334–5
(※2)Michele Sterling. Chapter 8 - Whiplash associated disorders. Neck and Arm Pain Syndromes 2011, Pages 112-122
(※3)Clas Linnman et al. Elevated [11C]-D-Deprenyl Uptake in Chronic Whiplash Associated Disorder Suggests Persistent Musculoskeletal Inflammation. PLoS One. 2011 Apr 19;6(4):e19182.
(※4)Kyhlback M, , Thierfelder T, , Soderlund A. and Prognostic factors in whiplash-associated disorders. Int J Rehabil Res. 2002; 25: 181– 187.