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乳がんの手術後の痛み 乳房切除後疼痛症候群(PMPS)

Q:乳がんの手術をして4か月が経ちますが、手術した傷のある胸部から脇の下がいまだに痛いです。これは何かの病気ですか?

乳癌の手術後に、数か月以上経過しているにもかかわらず、傷痕の部位や胸部、脇の下、二の腕の内側が痛みや違和感、また熱を持ったり腫れたりする方がおられます。このような状態は専門的には「乳房切除後疼痛症候群(PMPS)」と呼ばれ、決して珍しいわけではなく、後述するように乳がん手術後の一定の割合の方に生じてしまいます。

乳房切除後疼痛症候群の原因はまだ十分には理解されていません。一説には手術の時に神経を傷つけているためと考えられています。また、手術でメスを入れた部位に長く続く炎症が起きており、痛みが続いているとも考えられています。その他、放射線療法や化学療法でも起こる方もいます。

英語の「PMPS」とはPost-Mastectomy Pain Syndromeの頭文字の略です。

Q:乳がんの手術後に脇の下や肋骨が痛い状態が1年以上続いています。お医者さんからは乳房切除後疼痛症候群(PMPS)と言われました。どういう人がなりやすいのですか?頻度は高いですか?

乳房切除後疼痛症候群は、1970年頃より報告があり、乳癌術後に神経に傷がついて生じる疼痛、または炎症が長引いて生じる痛みと考えられています。頻度としては調べ方によりかなり違いがありますが、4%という少ない報告から、多いものでは乳がん手術後の68%の方に生じるという報告もあり、決して珍しい状態ではないです。

なりやすい方の特徴としては、若年の方(特に65歳未満)、乳房全摘術よりも乳房温存術を受けられた方、腋窩リンパ節の郭清(リンパ節とわきの下の脂肪を一塊として切除)をされた方、手術前からかなり痛かった方、手術後すぐに痛みが出た方、放射線治療をされた方がなりやすいと考えられています。

お困りの方はぜひ慢性痛の専門機関の受診を検討してみてください。

また最近になって異常な血管を標的にしたカテーテル治療という新しい治療法も開発されています。詳しくはこのページの後半もお読みください。

Q:乳房切除後疼痛症候群の原因は何ですか?

乳房切除後疼痛症候群の原因や病態はまだ十分には理解されていません。一説には手術の時に肋間神経を傷つけているために痛みが生じる(神経障害性疼痛とよばれるものの一種)と考えられています。しかし、神経障害性疼痛の治療薬はそこまで効果を発揮しません。

もう一方では、手術した部位が熱を持ったり長く腫れたりすることがあることから、手術をきっかけに慢性的な炎症が起きており、痛みが続いているとも考えられています。

このような慢性的な炎症では、異常な血管ができてしまっていることがわかっており、それとともに神経が一緒に増えて、治りにくい炎症や痛みの原因になることが知られています。

このため、乳房切除後疼痛症候群の新たな治療として、異常な炎症血管を標的としたカテーテル治療が開発され、新しい治療が行われています。詳しくはこのページの後半もお読みください。

Q:乳がんで乳房温存手術を受けました。脇の傷のところから脇全体、腕の内側真ん中までがピリピリと痛みます。服が触れるだけでも痛いです。治療法はありますか?

乳がんの手術のあとに痛みが長く続く場合は、乳房切除後疼痛症候群(PMPS)の可能性があります。

PMPSの治療方法としては、一般的には内服薬が処方されることが多いです。この場合、使用する薬剤は、抗うつ薬、抗けいれん薬(リリカなど)、局所麻酔薬、オピオイド(麻薬など)とされています。しかし、必ずしも効果がある訳ではないとされています。

最近になって手術で生じた傷跡の痛みを治す治療として、カテーテル治療という方法も用いられるようになっています。こちらの治療実例「乳がんの手術をしてから4年間ずっと痛かった傷痕(きずあと)の痛み」も参考にしてみてください。

この新しい治療について詳しく知りたい方は、こちらのページ「乳がんや肺がんの手術後の痛みへのカテーテル治療」も参考にしてみてください。

Q:私は乳がん手術から4年が経ちます。これまでにも術部やその周辺がチクチクと痛む事があり、その度にエコーでみてもらったりしてきました。ここ最近は乳房が熱を持って腫れていて気になっています。いつになったら治りますか?

がんの再発が否定的なのであれば、乳房切除後疼痛症候群(PMPS)である可能性が高いです。乳房切除後疼痛症候群では、痛みの原因にアプローチしない限り、放っておいてもなかなか治りません。かなり年数が経過しても痛みが続くことがあるとされています。

術後10年でも約20%に症状があるとの報告もあります。年齢が上がると少しずつ改善の可能性はある様ですがそこまで期待できません。

手術から4年が経過しているのに熱を持って腫れているとのことなので、炎症が長引いている可能性があります。

炎症が長引いている部位では異常な血管が増殖して居座っており、痛みや腫れ、熱感の原因になっていることが最近になってわかってきています。専門の医療機関の受診も検討してみてください。

Q:乳房切除後疼痛症候群と言われました。リリカやトラムセットを処方されましたが、私にはあまり効果がありませんでした。他に治療法はありますか?

神経障害性疼痛に効くとされるリリカも、乳房切除後疼痛症候群では必ずしも効くとはいえない状況です。

最近、術後痛や神経障害性疼痛に、動脈からカテーテルを使って薬剤を流す治療法が効果があることが分かってきました。ご興味のあるかたはこちらの治療例の記事「乳がんの手術をしてから4年間ずっと痛かった傷痕(きずあと)の痛み」も参考にしてみてください。

新しい治療への参加に興味のある方はこちらのページ「乳がんや肺がんの手術後の痛みへのカテーテル治療」もご参照ください。

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痛みをもたらす病気・けが

執筆 奥野祐次(医師)

医師 奥野祐次

医療法人社団 祐優会 総院長
オクノクリニック 院長
慶応義塾大学医学部卒業
慶応義塾大学医学部医学研究科修了

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