慢性痛治療の専門医による痛みと身体のQ&A

大転子滑液包炎

Q:大転子滑液包炎と診断されました。どんな病気でしょうか。

大転子滑液包炎は、大転子と呼ばれる股関節の外側にある骨のでっぱりの周囲にある滑液包(潤滑性の液体で満たされた袋)に炎症が生じる病気です。主に股関節の外側に痛みが慢性的に生じます。

大転子部滑液包炎は英語ではTrochanteric bursitis またはGreater Trochanteric Pain Syndromeと呼ばれます。大転子滑液包炎を発症するのは、一般人口1,000人中の5~6人がかかるもので決してまれではなく、頻度は高いです(※1)。女性や中高年の方がかかることが比較的多いです。

Q:大転子や大転子滑液包とはそもそも何ですか?

大転子は、足の付け根の外側ほぼ真横にある骨の隆起で、成人では大腿骨頭から2~4㎝下の高さに位置しています。女性のほうが、骨盤が開いている関係から左右の大転子間の距離がはなれています。

大転子の近くには正確には3つの滑液包があります。この潤滑性の液体が入った袋はクッションの役割があり、大殿筋腱、中殿筋腱、腸脛靭帯の動きをスムーズにする働きがあります。

大転子滑液包

Q:大転子滑液包炎では、どんな症状が生じますか?

症状としては、股関節外側の痛みがメインです。加えて、大腿部外側に広がるような痛みを感じます。また大転子を圧迫すると痛みが再現されます。発症初期のころはピンポイントの痛みが主体となり、しばらくすると痛みの範囲が広がります。

日常生活の場面では、寝返りをして痛みのある部位を下にしたときに圧迫されて痛むことも特徴です。また椅子から立ち上がるときや、車から降りるときなどしばらく長く座った後に立ち上がる時に痛みが生じます。また、長く歩くと途中から痛くなるひとも多いです。また、階段の昇りで痛みが出現しやすいです。

股関節を自動外転動作(下肢を体軸の真ん中から離していく動作)や、他動内転動作(外転と反対に、体軸正中に近づける動作)にて痛みが増します。

Q:大転子滑液包炎になる原因はなんですか?腸脛靭帯と関係していますか?

大転子滑液包炎に関わる靭帯として、腸脛靱帯(腸骨と呼ばれる腰の骨とスネの外側をつなぐ大きな靱帯)と、腸脛靭帯が連続している大腿筋膜張筋があげられます。

腸脛靭帯と大腿筋膜張筋は、大腿部の横方向の力にかかわっており、大転子滑液包炎の発生に関与していることがよくあります。股関節や膝関節の動きにより、大転子滑液包に圧迫などのストレスがかかり、滑液包炎が発症すると考えられています。動作としては、ランニング、サイクリングなどの繰り返しの運動により負担が原因となります。また、階段を駆け上がったり、山登りをしたり、長時間立位を保持することが原因となります。

頻度は多くありませんが、関節リウマチ、痛風、乾癬、甲状腺疾患、そしてまれに感染症が原因で滑液包炎になることがあります。また、股関節周辺の手術の既往が原因となることがあります。

Q:レントゲンでは異常なしと言われました。大転子滑液包炎はどうやって診断できますか?

診断に際しては今までの病歴や症状、発生の契機を聞きます。また、痛いほうを下にして寝ると症状がでる、長く座った後立ち上がったら痛い、などの場合に大転子滑液包炎を疑います。身体所見では、大転子を直接指で押して圧痛があるかどうかを調べます。また歩き方をチェックすることもあります。

画像検査としてはMRIが有用です。レントゲンでは異常をきたさないことが多いです。

MRIでは下の写真のように滑液包のわずかな炎症を検出することができます。ただし炎症がそこまで強くない場合は、異常所見が見られないこともあります。

大転子滑液包炎のMRI
MRIでは滑液包のわずかな炎症を検出することができます。

Q:大転子滑液包炎に効くストレッチ、マッサージはありますか?

大転子周囲に負担がかかりにくくするために、太ももの外側の筋肉の柔軟性、股関節の可動域を獲得しておくことが必要です。

■マッサージ

膝の外側からお尻の外側にかけて、手のひらを当てて少し圧をかけながら、皮膚を動かすようにマッサージをします。硬さを感じるところは痛みの出ない範囲で時間を長めに行うと良いと思います。マッサージの時間は1ヵ所につき30秒程度が良いと思います。

マッサージを行う部位は膝の外側からお尻の外側(赤丸の部分)です。手の平を当てて、少し圧をかけながら、手の平で皮膚を動かすようにマッサージします。
マッサージを行う部位は膝の外側からお尻の外側(赤丸の部分)です。
手の平を当てて、少し圧をかけながら、手の平で皮膚を動かすようにマッサージします。

■体幹~下肢のストレッチ
仰向けに寝た状態で両側の股関節と膝関節を曲げて、膝を立てます。そこからゆっくり、両膝をそろえたままで左右に膝を倒します。

仰向けに寝て、股関節と膝関節を曲げます。
仰向けに寝て、股関節と膝関節を曲げます。
両膝をそろえたままで、ゆっくりと左側に倒していきます。
両膝をそろえたままで、ゆっくりと左側に倒していきます。
同じように両膝をそろえたままで、ゆっくりと右側に倒していきます。左右交互に10回ずつ行います。
同じように両膝をそろえたままで、ゆっくりと右側に倒していきます。
左右交互に10回ずつ行います。

■股関節の運動
両膝が開くように膝を外側に倒します。動く範囲まで倒した後はゆっくりと膝を閉じるように元の位置に戻します。

両膝そろえたまま倒す運動と両膝を開く運動はそれぞれ10回から始めると良いと思います。必ず痛みの出ない範囲で、動く範囲で行うようにしてください。

仰向けに寝て、股関節と膝関節を曲げます。
仰向けに寝て、股関節と膝関節を曲げます。
片脚ずつ膝を外側に倒すようにゆっくりと股関節を開きます。動く範囲まで倒した後はゆっくりと膝を閉じていきます。反対側も同じように行います。左右10回ずつ行います。
片脚ずつ膝を外側に倒すようにゆっくりと股関節を開きます。
動く範囲まで倒した後はゆっくりと膝を閉じていきます。
反対側も同じように行います。左右10回ずつ行います。

Q:大転子滑液包炎の治療法を教えてください。手術をする必要はありますか?

痛みの出現する動作を避けることが基本となります。また大転子部に圧迫が加わる、長時間痛みのある部位を下にして寝る事は避けることが望ましいです。また、ステロイド注射、消炎鎮痛剤の内服、理学療法などによる治療が一般的です。

しかしこれらの治療が効かなかったり再発したりする方も多く、そのような場合に手術が選択されることもありますが、効果が疑問視される場合もあり一般的ではありません。

また最近ではカテーテル治療という特殊な治療法があります。痛みの原因になっている異常な血管を標的とした治療で、日帰りでできます。

4年間続いた大転子滑液包炎の痛みへのカテーテル治療の実例

Q:大転子滑液包炎は再発しますか?

大転子滑液包炎を安静、理学療法や注射で治療した場合、おおまかには66%の人は改善すると報告されています。(※2)

反対に一部の人は、このような治療では改善していないということになります。改善しない場合は、一般的には手術を受ける場合がありますが、必ずしも全員の人が治るわけではなく約3割の痛みが残ってしまったという報告もあります。(※3)

Q:大転子滑液包炎の予防や治療として、陸上、バスケ、サッカー、バレエなどのスポーツをやめれば自然治癒しますか?激しい動きや運動はひかえていますが、痛みがおさまりません。大転子滑液包炎の治療法はありますか。

安静により改善する場合もありますが、改善が十分ではなく、痛みが3ヶ月以上持続する、いわゆる慢性疼痛に移行することがあります。

炎症を起こしている部位には痛みが長期化する原因となっている新生血管(いわゆるモヤモヤ血管)が増加していることがわかっています。その血管をカテーテルで治療する方法があります。今までの治療によっても痛みが長期化している場合にお勧めの治療です、詳細は以下の治療実例をご参照ください。

4年間続いた大転子滑液包炎の痛みへのカテーテル治療の実例

<参考文献>
(※1)Effect of corticosteroid injection for trochanter pain syndrome: design of a randomised clinical trial in general practice. Brinks A, van Rijn RM, Bohnen AM, Slee GL, Verhaar JA, Koes BW, Bierma-Zeinstra SM BMC Musculoskelet Disord. 2007 Sep 19; 8():95.
(※2)Lustenberger DP, Ng VY, Best TM, Ellis TJ: Efficacy of treatment of trochanteric bursitis: A systematic review. Clin J Sport Med 2011;21(5):447-453.
(※3)Fox JL: The role of arthroscopic bursectomy in the treatment of trochanteric bursitis. Arthroscopy 2002;18(7):E34.

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痛みをもたらす病気・けが

執筆 奥野祐次(医師)

医師 奥野祐次

医療法人社団 祐優会 総院長
オクノクリニック 院長
慶応義塾大学医学部卒業
慶応義塾大学医学部医学研究科修了

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