慢性痛治療の専門医による痛みと身体のQ&A

腱板断裂(腱板損傷)

Q:腱板断裂と診断されました。どんな病気ですか?

肩の安定性のために必要な筋肉の腱の集まりを肩腱板と呼んでいますが、その一部あるいはすべてが損傷されてしまい、上腕骨頭を関節の受け皿(肩甲骨関節窩)に安定して保持することができなくなるために、動作での鈍い痛みや就寝時の肩の痛みが生じてしまう病気です。腱板損傷とも呼ばれます。

頭上で腕を使う仕事やスポーツをする人に多く見られます。

多くの人はリハビリ治療で損傷していない筋肉の動きを改善させることで症状が緩和されます。それでも改善しない場合は手術などの選択肢もあり得ます。

動画で詳しく解説しています。こちらをご覧ください。

Q:腱板とは何ですか?

腱板とは、肩関節を取り巻く四つの筋肉のグループ(棘上筋、棘下筋、肩甲下筋、小円筋)の腱から構成される構造体で、上腕骨頭という腕の骨を肩甲骨の受け皿に保持しています。関節の回旋運動(大まかには棘上筋が外転運動,棘下筋と小円筋が外旋運動,肩甲下筋が内旋運動)に重要な役割を果たしています。

Q:腱板断裂ではどんな症状が出ますか?

腱板断裂の症状としては

・肩の深い位置に感じる重い痛み
・寝ているときの痛み(特に損傷した方の肩を下にしたときに痛む)
・髪の毛に触れたり、背中を触ったりすることが痛くてできなくなる。
・上腕の筋力低下を伴い、繰り返し運動をしているとだるくなってくる。

などが挙げられます。

Q:腱板断裂の原因は何ですか?どういう人がなりやすいですか?

スポーツや仕事での酷使などが原因となることが多いです。特に腕や手を頭よりも高い位置に挙げて繰り返し作業をする仕事やスポーツをする人に多く見られます。塗装業や大工さん、スポーツだと野球やテニスなどが挙げられます。

また、加齢によっても切れやすくなってしまいます。40歳以上の男性で右肩に好発し、60歳で1/4が、70歳では半数が断裂しているという報告もあります。

また、一度の外傷のみの原因で切れてしまうことがあり、この場合は早急な手術をして元に戻すことが望ましい場合もあります。

リスク因子(これがあると腱板損傷になりやすい)としては
・加齢 特に40歳以上
・特定のスポーツ(野球、テニスなど)
・塗装業や大工さんなどの特定の職業
・遺伝的な要素(ご家族の方が腱板断裂になったことがあると、ご自身もなりやすい)

などが挙げられています。

Q:腱板断裂にはどんな種類がありますか?分類は?

断裂が全層におよぶ完全断裂と、全層には及んでいない不全断裂があります。不全(部分)断裂には、関節に近い方の関節面側の断裂と、遠い方の滑液包側の断裂とがあります。

MRIでの腱板断裂範囲による棘上筋という筋肉の脂肪変性の程度を分類したGoutallier分類があり、手術方法の選択につかわれます。

Q:腱板断裂はどうやって診断しますか?MRIは必要ですか?

問診と身体所見、およびMRIまたは超音波の画像評価で診断します。

身体所見としては、圧痛点の有無を確認したり、複数の方向への筋力を測定したりします。また一定の角度で痛みが生じるかを確認するPainful arc signといった身体所見を評価します。

MRIでは腱板断裂の有無や関節水腫や滑膜炎の有無、腱板筋の萎縮や脂肪変性を評価できます。超音波検査も有用とされ、超音波検査のみで診断されることも増えてきています。

Q:なぜ腱板断裂では痛みが出てしまうのでしょうか?

腱板断裂や腱板損傷がある人のうち、全員に痛みが生じるわけではありません。実は、6割の人は腱板断裂があっても痛くないとされています。ではなぜ痛い人と痛くない人に分かれるのでしょうか?

実は腱板断裂で痛みのある人(有痛性腱板断裂といいます)には特徴があり、炎症の有無を調べるPETという特殊な検査をしたところ、痛みのある人には炎症が確認され、断裂があっても痛くない人には炎症が乏しいことが報告されています。

このことから、炎症が長引くことで痛み症状がでていると考えられます。

炎症が長引く際には、異常な血管が増えてしまい、その異常な血管とともに神経も一緒に増えてしまうことが知られていることから、このような異常な血管を標的とした治療により痛みが改善することがわかってきました。詳しくはこのページの後半も読んでみてください。

Q:腱板断裂でのリハビリはどういうことをしますか?

肩の腱板は4つの筋肉とその腱で成り立っていますが、一部に損傷がある場合、残っている筋腱をうまく使えるようにすることで、上腕骨が関節の受け皿の良い位置に保てるように訓練することを行ないます。

また、肩関節周囲筋や関節包、靭帯などの軟部組織が硬くなり、様々な動作が行いにくくなっています。そのため硬くなっている筋肉などの軟部組織を対象にストレッチやリラクゼーションを行い、肩関節の可動域を改善します。

また、肩関節の動きは、肩甲骨や胸郭、脊柱など、様々な部位が連動して動く関節になります。そのため、肩関節以外の問題となる部位も改善を図ります。

Q:腱板断裂でリハビリをしても改善しません。手術をしないと痛みは取れないのでしょうか?

前述したように、腱板断裂があっても、痛くない人もたくさんいます。腱板断裂があっても痛い人は4割だけで、残りの6割の人には痛みがありません。痛みは断裂そのものではなく、前述のように炎症が原因です。上記の数字は炎症が治まれば痛みなく過ごせる人が多いことを物語っています。

炎症が生じている部位には異常な血管ができてしまい、それとともに神経が増えて痛みの原因になっていることが知られています。

このページの後半でも紹介していますが、日帰りでできるカテーテル治療により手術をしなくても腱板断裂の痛みを治療することができます。カテーテル治療について詳しく知りたい方はこちらの記事「運動器カテーテル治療とは?」も参考にしてください。

症例についてはこちらを参考にしてみてください。
手術を勧められていたもののカテーテル治療が著効した、腱板断裂の治療実例

Q:腱板断裂の痛みを和らげるための運動はありますか?

1. 肩甲骨・胸郭のトレーニング
肩関節は、様々な部位が連動して動く関節になります。肩甲骨や胸郭などの可動性が制限されると、肩関節に負担がかかる場合があります。そのため、肩甲骨や胸郭の動きを出すことが有効です。

2. 肩関節の可動域トレーニング
机や台の上に手を置き、前に移動させることで、肩関節の可動域を広げるトレーニングになります。また、脊柱の動きもあわせてトレーニングできるため有効です。

Q:腱板断裂と五十肩の違いはなんですか?

発症年齢で言うと、四十肩や五十肩は文字通り40歳代や50歳代にかかりやすいのに対し、腱板断裂は60歳以降で生じることが多いです。

また、症状も異なります。五十肩は可動域制限(腕を動かせる範囲が狭くなること)が強く、バンザイしようとしても90度くらいしか上がらない、手を後ろに回せない、などの状態になります。一方で腱板断裂の場合は腕は上がりますが、横から上げて行った時に途中が痛くなると言う症状が出ます。また、腱板断裂では断裂した筋肉が使えなくなるために、他の筋肉が代償して腕を動かすことになり、それらの残った筋に疲労や筋肉痛のような重だるい痛みが出ることが特徴です。

Q:腱板断裂になっているかどうか自分でチェックする方法はありますか?

立った状態で、腕を横から頭上に上げていく動作を行います。0°から約60°の間、約120°から180°の間では痛みは出ないが、約60°から約120°の間で痛みが出ると腱板断裂の可能性があります。

また、両腕を横に上げ、肩の高さで水平になる位置で保持します。この状態を1分間ほど維持しようとしても保てない、または肩に痛みが出るとすると、腱板断裂の可能性が高いと考えられます。

腕を上げていく時に、0°から約60°の間、約120°から180°の間では痛みが出ず、約60°から約120°の間で痛みが出ると腱板断裂の可能性があります。
腕を上げていく時に、0°から約60°の間、約120°から180°の間では痛みが出ず、約60°から約120°の間で痛みが出ると腱板断裂の可能性があります。

■セルフチェック方法

両腕を肩の高さに上げます。
両腕を肩の高さに上げます。
1分間腕の位置を水平に保てない、または肩に痛みが出ると腱板断裂の可能性が考えられます。
1分間腕の位置を水平に保てない、または肩に痛みが出ると腱板断裂の可能性が考えられます。

Q:腱板断裂になってしまいました。寝るときに良い姿勢や注意点はありますか?

就寝時でも肩に負担がかかることがあります。できるだけ痛みの少ない姿勢にします。

仰向けに寝た状態の場合、肩関節に対して肘関節の位置が下がってしまうと、写真のように肩関節の前方に負担がかかり、炎症を悪化させてしまうので、痛みが出やすくなります。

タオルやクッションを利用して肘や腕の高さを調節することで寝ている時の痛みが和らぐことがあります。 例を写真で示します。痛みの状態に合わせて調整してください。

肩と肘が同じ高さ(赤線)になるように、黄色の丸の部分にクッションやバスタオルを置きます。肩甲骨の下にも置くことで、安定性を高めることができます。
肩と肘が同じ高さ(赤線)になるように、黄色の丸の部分にクッションやバスタオルを置きます。
肩甲骨の下にも置くことで、安定性を高めることができます。
クッションを抱えるようにすることでより、腕の安定性を高めることができます。
クッションを抱えるようにすることでより、腕の安定性を高めることができます。
頭側からみた像。肩の下にできる空間(黄色の丸)にクッションやバスタオルを入れる。
頭側からみた像
肩の下にできる空間(黄色の丸)にクッションやバスタオルを入れる。

Q:腱板断裂になりましたが、今は症状も落ち着き日常生活には支障がありません。このまま放置するとどうなりますか?自然に断裂が治ることもありますか?

腱板断裂を放置しても、すぐに大きな問題になる事はありません。ただし、断裂には幅があり、その幅は年月とともに大きくなることが知られています。放置して断裂の幅が大きくなった場合に、腱板断裂後関節症(cuff tear arthropathy : CTA)と言う厄介な痛みが出る病気に移行することがあります。CTAになると非常に辛いので、避けることが望ましいです。

MRIで断裂の幅が3cmを超えると、将来的に上記のCTAになってしまう可能性が高いことがわかっているため、断裂幅が3cmを超える場合は放置せずに手術をしたほうがいいです。

また比較的若いとき(40歳や50歳前後、あるいはそれより若く)に腱板断裂になってしまった場合は、これから先も仕事や運動で肩に負担がかかる年月が長いため、やはり将来的にCTAに移行しやすいため手術が望ましいです。

また、残念ながら一度生じてしまった腱板断裂は自然と治ることは見込めません。

Q:腱板断裂の手術にはどのようなものがありますか?リスクや失敗の可能性はあるのでしょうか?

関節鏡による腱板修復術、メスを入れる形での修復術、腱移行術、人工関節置換術があります。1~3カ月以上の保存療法を行っても症状の改善を認めず、疼痛や可動域制限により日常生活に支障がある場合は手術療法が考慮されます。

腱板修復術の術後成績は比較的安定していますが、術後再断裂が問題になることがあります(20~30%という報告が多いようです。広範囲断裂の場合には40~60%と高い再断裂の報告もあります)。人工肩関節の合併症としては術中術後のインプラント周辺骨折(2.8%)、神経損傷(0.5~4%)、脱臼(0~14%)、感染(0~10%)などがあります。また、これらの合併症が理由で再手術が必要になることがあります(約3%)。

Q:腱板断裂は手術しないと治りませんか?手術しないで改善する方法はありませんか?

前半でも述べたように、すべての腱板断裂の人が痛いわけではありません。痛みの伴う腱板断裂の人では、痛みの部位に異常な血管が増えていて治りにくい痛みの原因になっていることが知られています。このような異常な血管を減らす運動器カテーテル治療という新しい治療があり、入院せず日帰りでできるため最近になって広まっています。詳しく知りたい方はこちらの症例も参考にしてみてください。

手術を勧められていたもののカテーテル治療が著効した、腱板断裂の治療実例

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痛みをもたらす病気・けが

執筆 奥野祐次(医師)

医師 奥野祐次

医療法人社団 祐優会 総院長
オクノクリニック 院長
慶応義塾大学医学部卒業
慶応義塾大学医学部医学研究科修了

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