慢性痛治療の専門医による痛みと身体のQ&A

首こり(首コリ)

Q:首こりが長年つらくて困っています。これはどういう状態なのでしょうか?何かの病気でしょうか?

首こりとは、首の後ろに位置する頭部を支えている筋肉群が、過度に緊張状態にあることで生じる違和感を呈した状態です。

首こりで生じる違和感のなかには、「硬い」「張っている」「疲労感」「詰まっている感じ」「鉄板のような硬いものが入っている感覚」「重い」などがあります。また、痛みを伴うこともあります。

また、それらの違和感があまりに強いために、頭痛、吐き気、嘔吐、頭重感、目の周りの重さ、めまい、うなじの痛み、などが生じます。また、首の筋肉の過緊張から、首の可動域が狭くなり、首を回して横を向いたり振り返ったりすることできなくなり、誰かに呼ばれて振り返る時に身体ごと振り向くようになります。

このようなつらい症状ではありますが、これまでは「病気」としては認識されておらず、これといった治療法がない状況が続いていました。このため、湿布を貼る、ハリ、お灸、マッサージ、枕の調整などが治療の主体でした。

しかし最近では首コリを生じている筋肉や結合組織にできた異常な血管を標的とした新しい治療法も出てきています。詳しくはこのページの後半もお読みください。

首こりの好発部位
首こりが生じやすい部位

Q:ここ数か月、首やうなじのコリがひどくMRIを撮りました。骨に異常はなくストレートネック気味ということでした。ひどいときは、頭痛や吐き気がすることもあります。頭痛や吐き気も首コリが原因ですか?

頭痛や吐き気は、首こり、肩や、うなじのコリが原因で出現することがあります。首の凝り(こり)がひどいときに頭痛や吐き気の症状も一緒にひどくなるのであれば、首コリが原因の可能性が高いです。

もちろん、頭痛や吐き気は他の病気でも発生する症状なので、そのような他の原因がないかチェックする必要はありますが、特に他に原因が見当たらずに、かつ首コリの症状と連動して増悪したり改善したりするのであれば、首コリが原因です。その場合、頭痛や吐き気の根本的な解決には、首こりを治療する事が大切です。

Q:首こりの原因は何でしょうか?

一言に「首こり」といっても、いくつかのタイプに分かれ、大きく分けると5つの原因が挙げられます。そのうちのどれか一つ、または複数が原因で首コリとなります。

1つ目の原因は「むち打ち」に代表される交通事故や頭を強く打ちつけたこと、あるいは誰かに首の上から乗っかられたなどの、大きな単回のダメージによって、頸椎という首の骨の近くに損傷が起きてしまい、それに伴いそのダメージの周囲の筋肉が硬くなってしまっているパターンです。

2つ目の原因は、1日中パソコンと向き合う仕事をしている等により、不良な姿勢から首に繰り返しの負担がかかっているというパターンです。よく言われるように頭部(頭蓋骨と内部の脳を含め)はボーリングの玉くらいの重さを持っています。首の筋肉が絶妙に調節しながら頭部を支えるのですが、頭部が前につきだしたような姿勢を続けてしまうと、それを微調整するために首の筋肉がずっと過度に緊張することになります。
お酒を飲んで酔っ払った人が、頭の重さを調節できずに、座りながら前や横、後ろに倒れていってしまうシーンを見たことがあると思いますが、普段私たちはあのようにならないように、無意識のうちに頚部の筋肉で頭の重さを常にコントロールしています。特にパソコン作業や勉強などの長時間の作業においては、その無意識の調節が長く続いてしまいそれが筋肉への負担になりコリや硬さとなってしまいます。

3番目の原因は、体質やホルモンバランスの変化によるものです。例えば40歳を超える、あるいは更年期を迎えるなどで体質やホルモンバランスが変化します。そのような変化の際に筋肉の緊張が高くなってしまうことがあり、強い首こりの原因になることがあります。特に40歳や50歳になるまでは、コリがあってもそこまで気にならなかったが、40歳を超えてからひどくなったという人が多数います。

4つ目の原因は、加齢に伴う頸椎という首の骨の変形です。骨や骨のつなぎ目の関節の変形により周囲の筋肉に炎症が波及してコリが生じてしまいます。

5つ目に上げられるのは精神的なストレスです。これについては次の質問に簡単にまとめます。

ところでこの5つのうち最初の4つには共通する点があります。それは損傷や繰り返しの負担、あるいはホルモンバランスの変化や変形がきっかけとなり、慢性的な炎症が生じてしまい、それにより血管に異常が起きてしまうということです。
「血管」と聞くとなぜそれが凝り(こり)につながるのかわからないと思いますが、実は人間の体は血管と神経が一緒に増えることによって、治りにくい痛みやコリなどの違和感が発生する原因になってしまいます。このため、頚部に異常な血管が増えてしまうと、治りにくいコリの原因になってしまうのです。
最近ではこの異常な血管を治療することで首こりを改善させることができることもわかってきています。詳しくはこのページの後半でも触れていますので読んでみてください。

また、以下の治療実例も参考にしてください。
20年以上苦しんでいた、交通事故後の首こりへのカテーテル治療実例

Q:首こりとストレスには関係がありますか?

首こりと精神的なストレスにはいくつかの理由で強い関係があります。

1つには、精神的なストレスがかかると誰でも気分が落ち込み「抑うつ」傾向になります。私たちが抑うつ的になると、脳内の活動の変化から、首や背中が痛くなったりコリが生じたりすることがわかっています。

実際にうつ病の症状の1つとして、背骨の近くが痛くなる、あるいは背骨の近くが硬くなるというのがあります。「ツレがうつになりまして」という、うつ病を発症する主人公を描いた映画では、主人公の堺雅人さんがうつ病を発症したときに、「首がはるー!」「背中が痛いー」というふうに叫んでいるシーンが何度かでてきます。

これには理由があります。普通私たちが何も感じずに過ごしている時でも、実は首や背骨からの非常に弱い痛みやコリの信号が出ています。ですが、このような弱い信号は、脳がノイズとして無視するように活動しています(これを専門的には下降抑制系と呼びます)。ですが、ストレスが強くなり「抑うつ」状態になると、セロトニンやノルアドレナリンと呼ばれる物質が脳で少なくなってしまい、この信号を無視する働きが弱まってしまいます。このため今までだったら感じなかったようなコリや痛みも感じるようになってしまいます。

また他にもストレスによって首こりが生じる理由の1つとして、ストレスを抱えた状態では人体は姿勢が悪くなるということが挙げられます。落ち込んだりあるいは誰かから怒られるかもしれないと思って緊張していると自然と身をかがめたような背中を丸めたような姿勢になってしまい、それが首の筋肉に負担をかけます。

またよく笑うことやよく食事をすることで免疫力が上がるなどといますが、実際に楽しんだり笑ったりすることによって免疫力が上がり、私たちは自分の身体の炎症を抑えています。反対に笑えない状況や、気持ちが張り詰めた緊張状況が続くと免疫力が弱くなってしまい、身体に炎症が起きやすくなってしまいます。そのことで、ある人にとってはアトピーなどの皮膚症状がひどくなったり、ある人にとってはお腹の調子が悪くなったりしますが、またある人にとっては首の筋肉に炎症を起こして、首こりがひどくなることもあります。

Q:首こりの症状にはどんなものがありますか。

首凝りが原因で起こる症状ですが、非常に多岐に渡ります。

まず、「うなじ」や後頭部、首の付け根に生じる痛みや不快感です。不快感のなかには「硬いものが中に入っている感じ」「鉄板が入っている感覚」「突っ張る」「重い」「虫が這っているような感覚」などがあります。また首を回して横を向こうとすると、ある角度で止まってしまい、それ以上首が回らないという症状が出ます。このため、誰かに呼ばれて振り返る時に、首が回らずに身体全体を回旋させることになります。

また夜寝ていて不快感で起きてしまう、首の可動域の低下、肩から腕にかけてのしびれ、手先のしびれ、筋力の低下、腕や肩の感覚の低下などがあります。また頭痛や吐き気、目の疲れ、頭重感、めまい、疲れやすさ、集中力の低下なども首こりからくる症状の代表的な症状です。

Q:首こりを解消するおススメのストレッチや体操はありますか。

首への負担を減らすためには、首より下の背中や腰のストレッチや体操を行うことが良いです。これは胸椎や腰椎を柔らかくすることで、その上の頸椎への負担を少なくすることができるからです。

■胸椎ストレッチ

胸椎のストレッチとしては、以下の手順で行ないます。椅子に座った状態で背中を丸めたり伸ばしたりします。このときに、みぞおちを後ろに引っ込めたり、前に突き出したりするように意識することで胸椎(みぞおちの高さの背骨)の動きを出すことができます。

胸椎ストレッチ 開始肢位
開始肢位
胸椎ストレッチ

1.椅子に座ります。
2.みぞおちを後ろに引っ込めるように背中を丸めます。
3.みぞおちを前に出すように背中を伸ばします。
4.「2」「3」をゆっくり10回繰り返します。

■腰椎ストレッチ

腰椎のストレッチは以下のようにします。両ひざを曲げた状態で、仰向けに横になります。両膝をゆっくりと左右に倒します。このときに、できるだけ両肩が床から離れないようにするとより腰のあたりのストレッチ感が得られます。

腰椎ストレッチ
腰椎ストレッチ

1.両ひざを曲げた状態で、仰向けになります。
2.両ひざを曲げたまま、ゆっくりと左に倒します。
3.次にゆっくりと右に倒します。
4.「2」と「3」をゆっくり10回繰り返します。

上記の2つのストレッチは、どちらもゆっくり呼吸しながら10往復ほど行います。

また、顎が前に出るような姿勢になっていると首の筋肉への負担が大きくなり、筋肉の張りが出やすくなります。以下に首の筋肉への負担を解消するのに効果的な体操のコツを書きますので参考にしてみてください。

■姿勢

姿勢
顎が前に出るような姿勢
→首の筋肉への負担が大きくなる
→筋肉の張りが出やすくなる

■首の体操

首の体操
首の体操

1.軽く顎を引きます。
2.耳の穴(赤い●)を軸として下を向きます。
3.「2」と同様に上を向きます。
4.ゆっくりと「2」と「3」を10回繰り返します。

Q:首こりに効くツボやマッサージはありますか?

ここでは、首こりを和らげてくれる指圧の仕方を教えます。
首の付け根で後頭部の下の出っ張り(左右にあります)のあたりを押します。両手で頭を包み込むように手をあて、後頭部に親指が当たるようにします。その状態でゆっくりと痛気持ちいい程度で押します。揉むというよりはじわ~っと20秒くらい押すと良いと思います。

■首のツボ押し・マッサージ1

首こりを和らげてくれる指圧の仕方

首の付け根で後頭部の下の出っ張り(赤い●)の位置をご確認ください。

首こりを和らげてくれる指圧の仕方

赤い●のあたりに親指が当たるように両手で頭を包み込みます。
その状態でゆっくりと痛気持ちいい程度で押します。
揉むというよりはじわ~っと20秒くらい押すと良いと思います。

■首のツボ押し・マッサージ2

あごの筋肉(咬筋)マッサージ
あごの筋肉(咬筋)マッサージ

あごの口を開けたり閉じたりすると動くところに指の腹を当てて、軽く圧をかけながら優しくマッサージします。

側頭筋マッサージ
側頭筋マッサージ

耳の上から後ろあたりに指の腹を当てて、軽く圧をかけながらマッサージします。頭皮を動かすようなイメージでします。

Q:首こりを改善するための、効果的なグッズがあれば教えてください。

首こりの改善に効果的なグッズの一つとしては、以下のようなご自分に合った枕が良いです。

枕には適度な高さのものを調節して作ると良いです。
どのくらいの高さが良いかは、年齢や首の骨の状態により異なります。目安は、両手を胸の前で交差した姿勢で仰向けになって横になり、頭に枕を載せた状態で左右にゴロゴロと寝返りをします。寝返りをしてもつらくない高さ、手の力を使わなくてもスムーズに寝返りができる枕の高さがちょうどよいです。

上記のような理想的な高さの枕を個人向けに調整するには、バスタオルなどを折りたたんで高さを調整して作ることが便利です。

市販のもので左右に膨らみがあったり、頭のところがへこんでいて首のところがやや出っ張っているようなタイプのものはお勧めしません。寝返りが打ちづらく、首への負担がかかります。

Q:首のこりは、冷やした方がいいですか?温めた方がいいですか?

首こりへの対処としては、実はどちらもあまりお勧めしません。冷やすことや温めることで解決できないことが多く、どちらも過度な刺激になると余計に過敏になってしまう可能性があります。前述したストレッチや、違和感のある部位の指圧などのほうが、ご自身でできる対処としては良いと考えられます。

Q:首のこりがひどくマッサージで一時は改善されますが、すぐぶり返します。根本的に治療する方法はありますか。

首こりの部分を強く揉んだ直後には、一時的に脳から揉まれた刺激に反応する物質(痛みを感じにくくする脳内物質)がでます。そうすると、一時的に痛みやこりが改善したように思うのですが、あくまで一時的であり、その物質がなくなっていくと(数時間で減少する)元に戻ります。また強く揉まれたあとには、首や肩への強い刺激により逆に炎症が悪化して、後々には強い痛み信号を出すことの原因になることもあります。そうすると揉み返しと言われる現象が生じるため、強いマッサージはおすすめできません。マッサージは、根本的な原因を解決ことにはなりません。

首こりの根本的な原因は、前述したように、大きな外傷による損傷や、繰り返しの負担、あるいはホルモンバランスの変化などが挙げられますが、これらはいずれも首の骨のそばに異常な血管を生じさせます。異常な血管が首の骨の周りの筋肉や結合組織にできると、それとともに神経が一緒になって増えてしまい、違和感や痛みの原因になってしまいます。

最近になってこの異常にできた血管を安全に減らすための治療ができて、首こりの長年の症状を改善できることがわかってきました。

詳しくはこちらの治療実例のページも読んでみてください。
20年以上苦しんでいた、交通事故後の首こりへのカテーテル治療実例

また異常な血管について知りたい人は、こちらの記事「治りにくい痛みの原因、モヤモヤ血管とは?」も参考にしてください。

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痛みをもたらす病気・けが

執筆 奥野祐次(医師)

医師 奥野祐次

医療法人社団 祐優会 総院長
オクノクリニック 院長
慶応義塾大学医学部卒業
慶応義塾大学医学部医学研究科修了

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