奥野祐次先生のコラム

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COLUMN.75

【後編】膝のアンチエイジング ― 痛みを見つけた“その時”がベストタイミング

こんにちは。痛みの専門医オクノクリニックの奥野祐次です。前編では「膝を守ること=健康寿命を延ばすこと」だとお話ししました。後編では、膝を良い状態でキープする具体策をお伝えします。

 

膝が悪くなる主な理由はこの2つ

 

膝が悪くなる原因は「年のせい」だと思っていませんか?
年齢を重ねると膝の変形は防ぎようがないことだと認識している方が多くいらっしゃいます。ドクターでもそのように考えている方が多いです。

しかし実際には同じ70歳や80歳の方でも、若い人と同じような良い状態の膝を持っておられる方もたくさんいます。一方で40代や50代でも膝の変形が進んでしまっている人もいらっしゃいます。
また、同じ一人の人でも、左右で変形の度合いが大きく異なることもあります。
このような差が出てしますのはなぜなのでしょうか?

実際には膝が変形してしまうのは単なる「年のせい」ではないことがわかっています。むしろ以下に記載する2つのことが膝の変形を「大きく加速させてしまう」のです。

① 昔の膝のケガ
過去のケガ(とくに靱帯・半月板)、前十字靱帯(ACL)の損傷歴がある方は、数十年後に変形が進みやすい傾向があります。すでに再建手術等を受けていても、将来にわたり注意深いケアが必要です。

② 中年期に起こる強い炎症
30代後半〜50代にかけては、更年期も含めた代謝の変化に伴い、体のあちこちで関節の炎症が起きやすくなる時期です。
肩に起きると「四十肩・五十肩」と呼ばれますが、同じような炎症が膝にも起こることがあります。この時期の炎症をいかに短く、以下に影響を少なくして切り抜けるかが、その後の変形スピードを大きく左右します。

また、上記の2つに加えて、その人の歩き方やO脚かどうかなど、股関節や足首の可動性も変形の進行に影響します。

 

ではどうしたらいいの?

 

「なんとなく痛い」を放置しない

階段を降りるときにチクッとする。正座やしゃがみでうずく。朝、立ち上がりでこわばる。

こうした“最初の炎症サイン”が出たタイミングで、できるだけ早く炎症を取ることが重要です。ここで放置すると、3~5年後にはレントゲンで明らかな変形が出てくる可能性があります。逆に、早期に炎症を鎮めて「通常の状態」へ戻すほど、変形は進みにくくなります。

痛みを感じ始めた“今”が、アンチエイジング開始のベストタイミング。

年代は問いません。60~70代で痛みが出てきた方にも有効です。

 

具体策① 炎症を早く落ち着かせる(ここが一番大切)

「少し痛いけど、そのうち治るだろう」と放っておくのが、いちばんよくありません。
膝の痛みの多くは、膝の中に炎症が起きているサインです。
この炎症を早めに落ち着かせることが、将来の変形や痛みの再発を防ぐ第一歩になります。

整形外科でレントゲンを撮って「骨に異常はないですね」「湿布で様子を見ましょう」と言われるケースも多いですが、それでも痛みが続く場合は、見えない炎症や血管の異常があるかもしれません。

私たちのクリニックでは、こうした炎症部分にできるモヤモヤ血管(異常に増えた血管)を見つけ、その血管を減らすことで炎症を鎮める動注治療などを行っています。

大切なのは、「早く」「的確に」炎症を取り除くこと。痛みが軽いうちに治療を始めると、将来の変形を防ぎ、長く元気に歩ける“膝年齢”を保つことができます。

10年続く膝の痛みと固さに悩む60代女性、カテーテル治療で腰のだるさも改善した症例

 

レントゲンでは悪くないのに、ひざが痛い!軽度の変形性膝関節症の症例

 

具体策② 負担のかからない体の使い方に整える

膝を守るには、日々の動作を「どう動くか」も大切な治療の一部です。歩き方や体の使い方の癖が、知らず知らずのうちに膝へ負担をかけていることがあります。

・歩き方、荷重のバランスをチェック
理学療法士による歩行チェックや、歩行解析デバイスを使うことで、どちらの膝に体重が多くかかっているか、どんな癖があるかを「見える化」できます。
必要に応じて、靴の選び方やインソール(中敷き)を調整するだけでも、膝への負担をぐっと減らすことができます。

・股関節と足首の柔らかさを保つ
膝が痛いと「膝が悪いのかな」と思いがちですが、実は股関節や足首が硬くなっていることが原因の場合もあります。股関節や足首の動きが柔らかいと、膝だけに力が集中せず、体全体で上手に衝撃を分散できます。

・筋肉づくり(太もも前・内側を意識)
膝を支えるのは、太ももの筋肉――とくに内側広筋(うちがわの支え)です。重い負荷をかける必要はありません。椅子に座ったまま膝を伸ばすような軽い筋トレを、毎日少しずつ続けることがポイントです。

 

具体策③ 日常で膝に悪い動作を減らす

膝は「動かさない」と固まり、「動かしすぎる」と傷みます。日常生活の中で、少し気をつけるだけでも膝のアンチエイジングになります。以下に膝への負担が大きい動作をまとめます。これらの動作は避けてください。

■避けたい動作

長時間の深いしゃがみ込みや正座
庭仕事などでの草むしり姿勢の長時間維持
ハードなランニングやジャンプを繰り返す運動、ダンスも含める

こうした動作は膝への負担が大きく、炎症を悪化させる原因になります。

■代わりに意識したいこと

ストレッチやウォーキングなど、膝をやさしく動かす運動を日課に。
痛いときは水中ウォーキングがベスト。
ダンスや趣味の運動も、続ける際はフォームや時間を工夫しましょう。

ただし、気をつけて生活していても「なんとなく痛い」「動きにくさが取れない」場合があります。そんなときは、膝の中で炎症が長引いている可能性があります。

 

具体策④ 抗炎症の食事や栄養摂取を

私たちの身体は、摂取する食事の内容によって、炎症が起きやすくなったり、反対に置きにくい体質になったりします。以下の2つのポイントを気を付けましょう。

血糖値を急上昇させないための食事の工夫

血糖値が急に上がったり下がったりする状態を繰り返すことは、血管にダメージを与え、体が炎症を起こしやすい状態(いわゆる“炎症体質”)になってしまいます。結果として、膝などの関節にも炎症が起こりやすくなります。

血糖値の急な上昇を防ぐためには、以下のような食べる順番や食事内容の工夫がとても大切です。

〇最初にサラダやタンパク質のおかずを食べる

野菜や肉・魚・卵・大豆製品などを先に食べることで、糖質がゆっくり吸収され、血糖値の上昇が穏やかになります。

〇よく噛んで、ゆっくり食べる
ゆっくり食べることで血糖値の急上昇を防ぎ、満腹感も得やすくなります。

〇ご飯やパン、麺類などの糖質は最後に少なめに食べる
糖質をいきなり大量に摂ると血糖値が急激に上がり、炎症が起きやすくなります。

 

気をつけたい習慣

〇砂糖の多い清涼飲料水を飲むことは避ける!
炭酸飲料、エナジードリンク、清涼飲料水や野菜ジュースなどには多くの糖分が含まれています。しかも液体という最も消化が早くなる形で入ってくるため、血糖値の急激な上昇を引き起こします。
〇空腹時のドカ食い(空腹の状態で、ご飯やパンなど糖質を一気に食べること)は避ける!
空腹の状態でパンや白米、ラーメン、うどんなどを一気にとると、血糖値が急激に上がります。

これらは血糖値を急上昇させ、炎症体質につながってしまうため注意が必要です。

※完全な糖質制限は必要ありません

「糖質制限」と聞くと、糖質を極端に減らさなければならないと思われるかもしれませんが、完全に糖質を避ける必要はありません。
大切なのは、食べ方の工夫によって血糖値の急激な変動を抑えることです。

少しずつ意識していくことで、体は炎症が起きにくい健康的な状態へと変わっていきます。

オメガ3脂肪酸を摂取する!

血液の中をめぐっている脂肪酸に注目しましょう。オメガ3脂肪酸などの炎症を抑えてくれる脂肪酸が多く摂取できている人は、炎症が起きにくい体質になっています。反対に、オメガ3の摂取量が少ないと、体に炎症が起きやすくなってしまいます。

 

オメガ3を豊富に含む食材
【EPA・DHA(魚由来のオメガ3)】
特に青魚に豊富です。
サバ、イワシ、サンマ、マグロ(特にトロ)、ブリ、カツオ、ニシン、鮭(サーモン)など

【ALA(植物由来のオメガ3)】
亜麻仁油(フラックスシードオイル)、エゴマ油(シソ油)、クルミなど

オメガ3はサプリメントでも効率よく摂取できます。

また、血糖値の値も炎症の発生と密接に関連します。
血糖の急激な上昇は炎症を誘発するため、食事内容や食べる順番などが重要です。

 

 

こんな症状があるときは早めの受診を

 

次のような症状が続く場合は、膝の炎症や負担のかかり方を専門的にチェックしておくことをおすすめします。

痛みはそれほど強くないが、1か月以上なんとなく続いている

階段の下りで毎回痛みや違和感がある

朝や動き出しにこわばりが強くなってきた

レントゲンで「大きな変化はない」と言われたが痛みが残っている

昔、半月板や靭帯(ACLなど)を痛めたことがある

ひとつでも当てはまれば、早期の炎症評価や歩行バランスのチェックが大切です。
「まだ大丈夫」と思っているうちに、少しずつ変形が進んでしまうこともあります。

 

まとめ ― 5年後・10年後の自分に投資する

 

炎症は早く、そして確実に鎮めることが重要です。

歩き方・股関節・足首・筋力を整え、膝への偏った負担を減らす。深い屈曲や高衝撃の動作は、年齢や膝の状態に合わせてコントロールする。
こうした積み重ねが、「モヤモヤ血管を減らし、痛みを抑え、将来の変形を防ぐ」= 膝のアンチエイジング につながります。早めの一歩が、10年後も自分の足で軽やかに歩ける未来をつくります。

 

膝のカテーテル治療(Genicular Artery Embolization)の実績

変形性膝関節症: 1,386 件 (2020年から現在まで)
膝蓋腱炎: 309 件  (2025年10月現在)

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