奥野祐次先生のコラム

COLUMN
COLUMN.67

椎間関節性の腰痛(椎間関節症)への新しい治療法

椎間関節性腰痛(椎間関節症)とは、どういう病気ですか?

背骨(脊柱)は椎骨と呼ばれる骨一つ一つが積み重なってできており、椎骨と椎骨の間にある関節のことを椎間関節と呼びます。椎間関節には滑膜(関節を包み込む膜のこと)で包まれており、この滑膜には豊富な神経終末(痛みを感知する神経)が分布する事がわかっています(文献1)。この椎間関節に微細な損傷が起こることで炎症が生じ、その結果として発生する腰痛の事を椎間関節性腰痛(あるいは椎間関節症)といいます。

 

 

椎間関節性腰痛では、どんな症状がでますか?

椎間関節性腰痛では、主に下記のような症状が出ます。(文献2,3)

・背中を反らせるときの痛み

・前かがみになって落ちているものを拾うとき、もとに戻ろうとするときに痛みが生じてすぐに戻せない。太ももに手を当てて伝うようにしてゆっくりと起き上がるようになる。

・ゴルフスイングなどの回旋動作時の痛み

・背中をそらせながら左右どちらかに上半身をひねると痛みが生じる

・痛みのために前屈や反対に背中を反らす動きに制限があり、可動域が狭くなる。

・座っている姿勢を長くとることができず、また長くとってしまうと、立ち上がって移動するのが困難となり時間がかかる。

・歩行時の痛み

・膝から下の関連痛(腰痛が出るのと関連して、膝から下が痛くなる状態)

 

腰痛があり椎間関節が悪いのでは?と言われました。椎間関節が原因で腰痛が出てしまう人は多いのですか?

椎間関節が原因で腰痛になる方は、非常に多くいらっしゃいます。

2016年に発表された山口腰痛スタディという研究の中で、320例の腰痛患者さんの原因を専門医が椎間関節性、筋膜性、仙腸関節性、心因性などに分類していますが、そのうち68例、21.3%の方が椎間関節性腰痛であったと報告されています(文献4)。また、海外の報告でも、慢性の腰痛を訴える方の中の15%から45%の人が椎間関節に原因があったと報告されており、椎間関節による腰痛の頻度は高いと考えられます(文献5)。

 

椎間関節性腰痛はどうやって診断しますか?

症状に関する問診や身体所見、画像検査で総合的に診断することが一般的です。

症状としては上記に記載したような腰痛の出方を参考にします。また、身体所見では、圧痛指で深く圧迫をすると痛みが出ること)がどこに生じているかを調べます。椎間関節が位置するのは腰部の正中(真ん中)から左右に2cmほど外側の部分ですが、この位置に圧痛が生じていると椎間関節による腰痛を疑います。

また、患者さんに背中を反ってもらった状態で体幹をひねる動きを加えたときに痛みが生じた場合は椎間関節性腰痛が疑われます(kemp テスト陽性)。またゆっくり腰を反っていくとある進展角度の時点でズキンと痛みが生じることも特徴です。

賀三検査ではレントゲンやMRIなどで椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などの器質的原因を除外しなければなりません。また、椎間関節にキシロカインなどの局所麻酔剤を注入し、痛みが一時的に改善することで確定させる方法もあります。正確に診断するには専門の医療機関での診断が望まれます。

 

椎間関節性腰痛の原因はなんですか?

椎間関節性腰痛では、外傷などの単回の機械的刺激や、スポーツや日常業務による繰り返しの負担、加齢などが原因となり、椎間関節に炎症が起こることで痛みが生じます。そのような状態では、椎間関節の滑膜という関節を包む袋状の組織に、細かな異常な血管が生じ、その周りに神経が一緒になって増えてしまい、治りにくい痛みの原因になっていることが知られています(文献6)。

最近では、このような異常な血管を標的とした、運動器カテーテル治療という新しい治療法があり、注目されています。興味のある方はこちらの治療実例も参考にしてください。

30年間続いていた腰痛への運動器カテーテル治療の実例

 

椎間関節症へのリハビリはどんなものがありますか?

理学療法士や作業療法士がそれぞれの症状や体の状態に合わせて、腰部への負担を軽減するために姿勢の調整や股関節の柔軟性を獲得します。また、負担のかかりにくいような体の使い方を日常生活でもできるように練習していきます。

 

椎間関節症に有効なストレッチはありますか?

股関節の柔軟性が必要と言われています。

 腸腰筋(股関節前面)のストレッチ

1.片膝立ちになります。前側は股関節・膝関節を90°に曲げます。その状態で、後ろの脚を後ろ側に伸ばしていきます。この時、骨盤はまっすぐ前を向いたようにし、ひねらないように注意します。

 

 

2.後ろの脚の股関節前側が伸びてくると思うので、30秒ほど伸ばしましょう。両側30秒×3セット。

 

 

 お尻のストレッチ

1.椅子に座ります。片側の足首を反対側の膝の上に乗せ、できる範囲で、すねが床と平行になるように股関節を開きます。

2.背中を伸ばし、おへそを下に向けるように体を前に倒します。そうすると、上側にある方のお尻から太ももが伸びてくると思うので、30秒ほど伸ばしましょう。両側30秒×3セット。
どちらのストレッチも「筋肉が伸びて気持ち良い」程度の姿勢で30秒伸ばすようにしましょう。

 

 

 

 

椎間関節による腰痛かどうかを自分でチェックできる方法はありますか?

腰部を反りながら、左右どちらかに捻った際(右にひねる時は右膝の裏を、左にひねる時は左膝の裏を触るようなイメージ)腰に痛みが出た場合、椎間関節性腰痛が疑われますが実際は診断が難しいことも多いです。ご自身での判断が難しい場合は医療機関での診断が望まれます。

 

 

 

腰痛が1年以上続いており、治りません。椎間関節性腰痛と診断されました。自然治癒しますか?どのくらいの期間続くなどのデータはありますか?

椎間関節性腰痛は軽症であれば数週間で自然治癒することがあるのですが、症状が1年以上続いているとすると、慢性化していますので、どのくらいの期間痛みが続くというデータは得られておらず、予測するのは難しいです。人によっては10年以上痛みに悩まされている方もいらっしゃいます。最近は後述するような根治を目指す治療もありますので、早めに医療機関を受診することをお勧めします。

 

椎間関節性腰痛で様々な治療をしてきましたが、いっこうに改善しません。何か新しい治療法はありますか?

前述したように、慢性化している椎間関節性腰痛では、椎間関節の滑膜に異常な血管が生じて治りにくい痛みが生じてしまうことが知られています。最近になってこのような治りにくい椎間関節性腰痛に対して、異常な血管を減らすためのカテーテル治療という特殊な治療法が開発されており、有効であることが報告されています。腰痛の原因となっている異常な血管を標的とした治療で、完治を目的としたものです。興味のある方はこちらの治療実例も読んでみてください。

 

30年間続いていた腰痛への運動器カテーテル治療の実例

 

参考文献:

1.山下敏彦. 椎間関節性腰痛の基礎. 日本腰痛学会雑誌. 2007;13.1:24-30.

2.Cohen S.P., Raja S.N.. Pathogenesis, diagnosis and treatment of lumbar facet joint pain. Anesthesiology. 2007;106;591-614.

3.Pedersen HE, Blunck CF, Gardner E: The anatomy of lumbosacral posterior rami and meningeal branches of spinal nerves (sinuvertebral nerves). J Bone Joint Surg (Am) 1956; 38:377–91

4.Suzuki H, Kanchiku T, Imajo Y, Yoshida Y, Nishida N, Taguchi T. Diagnosis and Characters of Non-Specific Low Back Pain in Japan: The Yamaguchi Low Back Pain Study. PloS one. 2016;11(8):e0160454.

5.TM. Markwalder, M. Mérat, The lumbar and lumbosacral facet-syndrome. Diagnostic measures, surgical treatment and results in 119 patients, Acta Neurochirurgica, March 1994, Volume 128, Issue 1, pp 40-46. Level of evidence 2B

6.Mats G., Olli K., Yrjo T. K., et al.  Silver impregnation and immunohistochemical study of nerves in lumbar facet joint plical tissue. Spine 1991 Vol 16, 1, 34-38.

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