奥野祐次先生のコラム

COLUMN
COLUMN.67

夜間痛について

夜、眠りを妨げる痛みを夜間痛といいます。

夜間痛の生じる代表的な疾患が肩関節周囲炎です。
一般に「四十肩」とか「五十肩」といわれているものです。

これまで、四十肩がなぜ痛いのか?どうして夜間に痛みが生じるのか?
これらは、疑問のままでした。

私は、ある患者さんをきっかけに、四十肩・五十肩の夜間痛の原因、ヒントとなることを見つけることができました。
私は以前、がんの患者さんにカテーテルを使って抗がん剤を血管の中から局所に投与する「血管内治療」というのにたずさわっていました。
その時、、40代の女性の乳がんの患者さんに治療をしていたところ

「先生、最近肩がとても痛くなってきて、全然腕が上がらないんです。顔も洗えないんです。夜も痛くて起きてしまいます。」といわれました。

乳がんの治療は、脇の下の血管から治療します。
このときも腋窩動脈(えきかどうみゃく)とよんでいる脇の下の血管にカテーテルを進めていました。この動脈からは、肩関節へ向かう血管がすぐ近くにあります。
そこで、肩の動脈を撮影してみました。

胸肩峰動脈(きょうけんぽうどうみゃく)という血管を撮影したところ、だれの目にもはっきりわかるような異常に増えた血管が画面に映し出されました。
肩関節の前方、腱板疎部(けんばんそぶ)と呼ばれている場所に、くしゅくしゅとした異常な血管が現れたのです。

しかもこの血管は、組織を栄養していないことがすぐにわかりました。なぜなら動脈から流した造影剤(レントゲンに映る液体の薬剤)がすぐに静脈に移行したからです。静脈が早いタイミングで映し出されました。これは、がんの血管でよく見られる現象です。異常な血管の指標ともいえます。
その場で患者さんに説明し、がんの血管と同じような異常な血管であること、この血管の流れを遮断することで炎症が改善するかもしれないことをお話しし、この異常な血管の治療にあたりました。
治療に用いたのは「チエナム」と呼んでいる粒子の薬です。カテーテルの先からチエナムを少量投与すると、くしゅくしゅとした異常な血管の流れはたちどころに減少して、正常な流れに近づきました。

私が驚いたのは、「チエナム」という薬を投与して数分後に患者さんが自分から「先生、肩の痛みが全然違う。すごい楽」とおっしゃったことでした。
そして治療を終えて帰る頃には、安静にしているときの痛みは大きく改善していました。
こんなにも早く痛みの症状がとれるということは、私にはとても驚きでした。チエナムという薬には局所麻酔剤のような痛みを感じさせなくする作用はありません。粒子として血管の流れを止めたことが効果の原因なのではと考えるようになりました。
つまり、ぐちゃぐちゃした異常な血管に血液が流れていることが痛みの原因なのではないかと思ったのです。
そして、その異常な血液の流れを遮断したことで、痛みの症状が和らいだのではないかと考えました。

さらに驚いたことがありました。
それは、この患者さんが治療当日から夜間痛で目が覚めることがなくなったとおっしゃったことです。

この「夜間痛が劇的に改善する」というのは、この患者さんだけでなくほかの多くの患者さんに共通して見受けられます。
治療後、まずすぐに喜ばれるのが「夜いたくなくなった」だったのです。

このことから私は考えました。
夜間痛は、異常な血管に血液が流れることで生じているのではないかと。

前半では、四十肩・五十肩などで見られる夜間痛が血管からのアプローチで劇的に改善することを書きました。
カテーテル治療では様々な症状が改善しますが、中でもこの夜間痛はきわめて効果が高く、如実に現れます。如実に現れるというのは、効果があまりにもすぐ出る。そして再現性がある(どの人に治療しても効果が再現される)ということです。

このことは、カテーテル治療が夜間痛の根本を治療しているからではないかと、私は考えています。
そもそも夜間痛を訴える患者さんの多くがおっしゃるのが「ズキズキと脈打つように痛む」というフレーズです。
これは、血管の拍動を反映しているように思います。

では、なぜ「夜間」なのか?

前半のコラムでも申し上げましたが、夜間痛を訴える人は「異常な血管」ができています。
正常の血管は

動脈→毛細血管→静脈

と流れます。この毛細血管を流れるときに、血液は周りの組織に栄養を供給するのです。このときはきわめてゆっくり流れます。

ところが、異常な血管は

動脈 → 静脈

となってしまいます。毛細血管を通らないのです。毛細血管を通りませんから、栄養を供給することはしません。言ってしまえば、無駄な血液の流れです。流れも非常に早いです。
このような血液の流れは無駄なだけでなく、正常な血液の流れも奪ってしまう「邪魔な」血液の流れです。このことを医学用語ではSteal(盗む)現象と呼びます。本来の流れを奪ってしまうということです。夜間痛のある患者さんは、このような異常な流れの血管を持っています。

日中は、それが顕在化してきません。日中、人間は活動的で体温も高くなり、皮膚や筋肉などの血液の流れが増えています。
このような時は、さきほどの痛みの原因となっているSteal血管への血流は相対的に減少しているのかもしれません。ところが夜になると、体温は低下し、活動もしませんから、皮膚や筋肉への血液量はぐっと減ります。
すると相対的に、異常な血管への血液流入量が増えて、脈打ちだすのかもしれません。

このサイトでも繰り返し申していますが、新しくできた血管の周りには神経繊維が密になって存在します。夜に脈打っている異常な血管、そしてその周りに密に発生している神経。これらが夜間痛の原因なのではないか。
そしてカテーテル治療でそのような血管の流れを遮断してあげることで、夜間痛が劇的に改善しているのではないかと、このような経験から考えているのです。

夜間痛は、肩だけに限りません。
ひざや肘でも夜間痛があります。そしてカテーテル治療で改善した人を多数経験しています。このSteal血管は、悪循環を生みます。血管がたくさんあるのに、栄養は供給されないわけですから組織は「もっと血管を作るように」というシグナル(指令)を出します。
このことで血管が新しく作られますが、この新しくできた血管もやはり異常なため、栄養が供給されない状態が継続するのです。
こうして、1年も2年も、それ以上、夜間痛に悩まされる、というようなことが起きてしまっているのかもしれません。

カテーテル治療を受けた多くの人が、「夜眠れるようになりました!」と言っています。

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