奥野祐次先生のコラム
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オフセット鎮痛
皆さんは「オフセット鎮痛」という言葉を聞いたことがありますか?
オフセット鎮痛とは次のような体験をするときに実感します。
温泉施設や銭湯に行ったと考えてみてください。
目の前に二つの湯船があります。
一つは43度のお湯がはってあり、もう一つは45度のお湯が用意されているとしましょう。
最初に43度のお湯につかります。それなりに熱いです。
次に45度のお湯につかったとします。かなり熱いです。そこでじっと我慢します。
それからもう一度43度の湯船につかるとどうなるでしょうか?
最初の43度のときに感じていた熱さとは異なり、しばらくの間は「熱くない」と感じる事でしょう。
このしばらくの間に「熱くない」と感じているとき、脳の中では何が起きているでしょうか?
実はこのとき、脳の中では中脳水道周囲灰白質periaquidactal gray(PAG)という部位が活性化されていることが知られています。
このPAGという場所が活性化すると、本来感じるはずの痛みや熱刺激を感じなくなります。
これは直前に少し熱いお湯につかっていたことから生じていることは想像できます。
この時、実は熱刺激は脳に入っているのですが、脳の側がこの信号を抑えている状態なのです。
実は脳から痛みを感じなくさせるような仕組みがあるのです。
これを下行抑制系と呼んでいます。
オフセット鎮痛は、今感じている痛みよりもちょっと強い痛みを感じることによって
もとの痛みを「ほとんど痛くない」と感じる鎮痛作用です。
私は、たとえばマッサージなどはオフセット鎮痛を利用しているのだと考えています。
実際にマッサージに行くと、もまれることで痛み刺激は増幅しますが、揉み終わた後にはスッキリと重さや痛みを感じなくなる時間帯がやってきます。
しかしもちろん根本を対処していませんから、しばらくすると痛みは再発してきます。
あるいはこれは社会に出て厳しい経験をしたり、あるいは部活動の「しごき」などの経験を経て、人間が強くなることのメカニズムにもなっているかもしれません。
よく「あの時のつらさに比べたら、今は屁でもない」といった言葉を耳にすることがあります。
これらもオフセット鎮痛を利用して人生を軽やかに生きている実例ではないでしょうか。
痛みは人間生活や人生とも類似するところがあって面白いですね!!
以上、オフセット鎮痛についてでした。