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カテーテル治療を受けて3年経過した人たちを調べてみると・・・
カテーテル治療を受けてから3年後にはどうなっているのか?
すごく気になりますね。
医療の世界では「長期成績」と呼びますが、長く経過した時にどのような変化があるのか、他の治療と比べてどうなのか?を検討することは極めて重要です。
このページでは、重症の五十肩でカテーテル治療を受けられた方の平均3年後の長期成績を紹介します。
五十肩は「しつこい痛み」の代表ともいえます。
ありふれた言葉なので簡単な病気ととらえてしまうかもしれませんが、私たちの5%ほどの人は一生涯で一度は「重い」五十肩にかかるとされています。
五十肩にも軽いものと重いものがありますが
重い五十肩(専門的には凍結肩、あるいは肩関節周囲炎といいます)にかかると痛みが取れるのに非常に時間がかかります。
そして、治りきらない。痛みが残ったりします。
重い五十肩(凍結肩)になった人を年単位で長期間追いかけていった研究がイギリスから出ています。
この研究によると、病院での治療開始から1年経過して痛みが残っている人の割合、2年経過して痛みが残っている人の割合、3年経過して・・・と長く経過を見ていきました。200名を超える患者さんについての研究です。
この研究では、7年経過した時の数字を出しているのですが
皆さん、どれくらいの人が痛みが残っていると思います?
病院に初めてかかってから7年後の痛みが残っている人の割合です。
なんと35%の人が何らかの痛みが残っていることがわかっています。
これは、今までに掲載されてきた論文の中でも最も多くの患者さんを観察した研究なので、最もあてになる数字ということになります。
35%です!
この研究で観察された患者さんはどんな治療を受けたかというと、様々です。
200名を超える患者さんのうち95人は何の治療も受けていません(自然経過といいます)
55人は理学療法を受けています
139人はステロイド注射を受けています。
10人は受動術という処置を受けています。
20人は受動術と関節鏡の手術を受けています。
このような治療を受けた人や自然経過の人を集めてきて解析したところ、全体としては35%の人が7年経過したのにも関わらず何らかの痛みを持っていたということでした。
ここまではイギリスのグループの研究結果です。
一般的な治療を受けた人たちの数年後の痛みの残り具合の様子がわかっていただけたかもしれません。
確かに重い五十肩の人は、数年たってもまだ「この動作の時は痛い」というような痛みの残っている様子をおっしゃる方が多いです。「でもたいした痛みじゃないから仕方ないか・・」とあきらめている方が多いということでしょう。
さて、ここからが本題です。
それではカテーテル治療を受けた方はどれくらい痛みが残っているのでしょう?
これを調べた結果が下の図です
この図はカテーテル治療を受けて平均3年経過した人(合計24人)の痛みの強さによってグループ分けし、それぞれの人数をグラフにしたものです。
横軸はカテーテル治療を受けた後の時間経過になります。
痛みの度合いに応じて色分けされていて、
青が「強い痛み」がある人の人数
赤が「中くらいの痛み」
緑が「弱い痛み、わずかな痛み」
紫が「痛みは一切なし」です
そうすると、カテーテル治療をしたあとから徐々に痛くない人の割合が増えていき
治療1か月後は「一切痛くない」という人は少ないのですが、治療6か月後には紫の「一切痛くない人」が24人中19人ととても多いです。
この傾向は時間が経つとさらに強くなり、カテーテル治療1年後は24人中21人、
そして3年後には24人中22人の人が「一切痛くない」と答えています。
24人中2人なので、8%の人が「わずかな痛み」があると答えていて、残りの人は「痛みが一切ない」と答えているということです。
これは、他の治療に比べて「痛みなし」の割合がとても高いことになります。
例えば、他の治療を見てみますと、マニピュレーション(受動術)というものが昔から行われています。これは麻酔をして痛みを無くした状態で、五十肩で動かなくなった肩を外力で無理やり動かして関節の袋をちぎってしまう、という処置なのですが、
この受動術を受けた人の長期間の経過を観察した論文によりますと、治療してから平均9年経過している人19人のうち、6人は何らかの痛みが残っている(3人は軽い痛み、残り3人は中等度から重度の痛み)という報告があります。
19人中6人ですからやはり30%以上になるわけです。しかも重度の痛みの人もいます。
ですからそれを考えると、24人治療して2人だけ、それもこの2人も「この動作をしたときだけはさすがに少しだけ痛む」という程度ですから、すっきりと良くなっている人が多いことがうかがえます。
カテーテル治療をしてから3年経った人たちがおっしゃることで非常に興味深いのが、「どちらの肩を悪くしたのか思い出せない時がある」という発言です。
つまりあまりに正常になり、動きも良く、痛みもないために、どちらの肩で困っていたのかを忘れてしまっているということです。
ちなみに、カテーテル治療の場合は動きも最終的には非常によくなります。
ページの一番下のグラフは先ほどと同じ24人の患者さんにおいて、「可動域」といって動きの取れる角度を調べて記録したものです。
カテーテル治療の6か月後には、まずまずの角度まで可動域が改善しており、さらにぐんぐんと改善して1年後、3年後には極めて正常に近い可動域が得られています。
これはおそらくカテーテル治療は、手術やマニピュレーションのように肩の関節の袋にダメージを加えることをしていないからだと考えています。
このため「どっちが悪かったんだっけ?」と思い出すのに時間がかかるくらい正常に回復するのです。
また、安全性についても調べています。
カテーテル治療で用いる薬剤は体内にとどまるのは「数時間」です。
治療時に用いているカテーテルも体の中には当然残しません。
ですから長期にも安全だと考えられますが、そこは確認が必要です。
上記の24名の患者さんのレントゲンや超音波装置で長く経過を見ていったところ、肩の関節の骨や軟骨、腱やスジ、靭帯、筋肉、皮膚などに異常は見つかりませんでした。
これは当然といえば当然なのですが、こうしてきちんと確認することが大切です。
というわけで、長期的にみてみると、なおさらカテーテル治療のメリットがあることがわかってきました。