奥野祐次先生のコラム

COLUMN
COLUMN.38

ひざ痛についての迷信

痛みで困っている人がたくさんいます。
医療機関に行っても満足した治療を受けられていない、という人もいるのではないでしょうか?

病院での治療でうまく痛みが取れないことがあるということは
痛みへの理解が進んでいないとも言えます。

痛みへの理解が進まない一つの原因は、理解を妨げる「迷信」があるからともいえます。

ここで言う「迷信」とは「根拠なく信じられていること」であり、かつ「妥当性が低いこと(つまり正しくなさそうなこと)」と言えます。

正しくないにも関わらず、あまり吟味されずに信じられていることがあると、治したつもりでも治らない、ということが起きてしまうわけです。

 

このシリーズでは、痛みの診療を妨げている「迷信」を扱います。

 

第一弾として紹介したい迷信は

「関節の袋の中こそが、痛みにおいて最も重要」という迷信です

 

ひざや肩などの関節の注射を受けたことがある人もいるかもしれません。

私が不思議に思うのは、整形外科の先生が、なぜか関節の袋の中に注射薬を入れることです。

入れるものは、ヒアルロン酸やステロイドであったりしますが、なぜか入れる場所は関節の袋の中がベスト、とされています。

しかし、なぜ袋の中に入れることが良いのか、ということは、ほとんど議論されていません。

最近では「ボルタレン」という痛み止め薬をくっつけたヒアルロン酸、というのも開発していて

それもひざの袋の中に入れようとしています。

先日、この新しいヒアルロン酸注射の研究に携わっている人の話を聞く機会がありました。

彼曰く、「関節の袋の中にボルタレンのついたヒアルロン酸を入れれば、理論的にはすべての膝の痛みは取れるだろう」と言っていました。

これは大きな間違いだと私は意見したいです。

関節の袋の中には、確かに重要な組織がいくつかあります。

ひざであれば、軟骨や半月板、滑膜、靭帯などが含まれています。

しかし、こと痛みの原因、ということになると、この中で圧倒的に重要なのは滑膜で、それ以外は痛みの原因となることはめったにありません。

半月板や軟骨は、長らく痛みの原因と信じられてきましたが、もっとも最近の考えとしては、機能の維持には必須な重要組織でありますが、一般的なひざの痛みにはほとんど関係していないだろうというのが、多くの人の同意でもあります。

例えば、軽い変形があり、ひざの痛みが治らない人で関節鏡の手術をされることが以前は主流でした。
関節鏡は関節の中をくまなく観察できます。
この手術では、関節の袋の中の異常な部分を除去するわけです。
ですから、関節の袋の中に決定的に重要な痛みの原因があれば、この関節鏡手術でほとんどの膝の痛みは解決するはずです。

しかしこの手術は、プラシボ手術(つまり手術のフリをして、何もしないこと)と成績に変わりがありませんでした。

つまり、重要な痛みの原因は、必ずしもひざの関節の袋の中に接しているわけではない、と考えるほうが自然なのです

 

関節の周囲には脂肪組織や結合組織、骨膜、腱付着部などの、soft tissueがたくさんあります。
これらのsoft tissueは、関節の袋の外にあります。
今まではあまり重要視されていませんでした。

しかしこれらのsoft tissueこそが、一般的なひざ痛のメインの原因となっている、というのが私の意見です。

これは、現時点では整形外科の教科書から離れた内容になりますが、多くの患者さんを見てきて実感していることです。

 

私の著書をお読みいただければわかりますが、関節周囲のsoft tissueに長期に残存する炎症が、ほとんどの「一般的なひざ痛」の原因と考えています。

多くの整形外科の先生方がこれらのsoft tissueにアプローチしてくだされば、ひざや肩の痛みの診療は変わります。
患者さんの満足度も変わると思います。

 

「関節の袋の中にヒアルロン酸を打っていた」というのが過去の出来事のようにならなくてはなりません。アメリカ整形外科学会も「変形性関節症の治療として推奨しない」とすでに声明しています。

迷信が、本当の意味で議論されて、ただしく痛みが理解されることを願っています!

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