奥野祐次先生のコラム

COLUMN
COLUMN.53

とても痛い病気「CRPS」いったい何が起きているの?

手や足に非常に痛い状態が生じてしまう難病「CRPS」 

今回は一体何が起きているか?について紹介します。
前回のコラムではCRPSという病気があることを紹介しました。
骨折や打撲、あるいは手術など、体に傷を負った後にその傷にふさわしくない強い痛みが出る病気です。

今回は、CRPSの患者さんの体内で一体何が起きているのかを考えていきたいと思います。

CRPSという病気は時間経過で症状が変化していきます。
ここでは特にCRPSの初期、なったばかりから数か月のうちの話しをしたいです。なぜならこの時期にCRPSという病気の本質があるからです。

CRPSの初期の症状の特徴は、1.非常に強い痛み 2.皮膚の発赤 3.熱感 4.腫脹 などが挙げられます。
このような「赤く腫れていて痛い」というのは「炎症」という状態と同じです。後にこれらの症状は変化していくことがあるのですが(冷たくなったり、白くなったり)、まずスタートの時点では炎症と同じような状態です。

炎症と似た言葉に「炎上」というのがあります。
最近はよく耳にしますね。誰かが不適切な発言や行動をしたことで、周りの人、マスコミ、当事者でない人が過剰に反応して攻撃されたりする、そういった現象のことです。
しかも、問題発言をしたからと言って必ずしも炎上するとは限りません。

人の身体でもまさしく同じように、ちょっとした怪我がきっかけで、予測不能な「炎上」が起きてしまうことがあります。しかも、ありふれた怪我のはずなのになぜかひどい目にあってしまう、などのことが「炎上」と似ているところかもしれません。
世間一般の炎上は抗議の電話がかけられたり、Web上に誹謗中傷が書き込まれたりしますが、体内の炎上では何が起きているかというと、サイトカインという物質がたくさん出ることになります。
すると、それに引き続いて血管に変化が生じます。血管が拡張します。血管が拡張すると、血液の流量が増します。通常の血管網には水門のような働きをしている部分があり、細い血管に大量の血液が流れないようにしています。しかしサイトカインが放出されるとこの水門が開き、大量の血液が流れてしまいます。

台風などで小さな河川に急に大量の水が流れると氾濫し周囲は水浸しになります。
同じように血管に急に大量の血液が流れると、周りに水分が漏れ出してしまいます。このためその部分は「腫れて」しまいます。

また、炎症細胞という炎症の原因になる細胞もここから外に漏れ出てきます。
炎症によって生じた変化(血液量の増加)がさらなる炎症を助長してしまうのです。炎症によって血流量が増して、そのために出てきた炎症細胞がさらに炎症をひどくして、さらに血管から水がしみ出してきます。
また血管の拡張と血流の増加は熱量を高めるため、赤く熱を持った状態になっていきます。

そして痛みです。

私のコラムを読んでいる方ならおわかりかもしれませんが、小さな血管のすぐそばに痛みに関係する神経線維(神経終末)が存在していることが報告されています。
関節や皮膚にはさまざまな神経線維があります。太さで分けると3種類。太い神経線維と中くらいの神経線維、そして細い神経線維です。このうち、太いものと中程度のものはメカノレセプターといって、関節にどういう力が加わっているか、などを検知するために存在します。それに対して、もう一つの細い神経線維は「痛み感覚の発生」に関わる、つまり痛みに関わっています。

そして、この痛みに関わる細い神経線維は小さな血管のすぐ近くにあり、血管が拡張すると刺激されます。刺激されると脳に痛み信号を送ります。さらにこれらの神経線維が刺激されて引き起きるのは、痛み信号を脳に送るだけではありません。これらの神経線維は、刺激されると「サブスタンスP」などと呼ばれる物質を周りに放出します。この物質は、神経組織から分泌されるサイトカインとされていて、これらはやはり「血管を拡張」させる働きがあります。またもや「血管の拡張」が起きてしまします。(先ほどから言っているのは目に見える血管ではなく、毛細血管に近いレベルの細い血管です)こうすることで血液の流れがさらにおかしくなり、また腫れが生じ、熱が生じ、痛みが生じ・・・という悪循環なわけです。

CRPSではまさしく血流量の調整が狂ってしまい、本来ゆっくりした流れの血管に大量の血流が生じます。
そのことで腫れ、熱、そして痛みを生じさせます。しかもすぐに治るのではなく、数か月、数年と続くのです。

ここには何か治療的な介入をしてあげなければなりませんね。

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