治療実例
INSTANCE激痛で歩行はおろか睡眠さえままならない…フィギュアスケート選手に効いた恥骨結合炎へのカテーテル治療
女性 / 10代 / 福岡県在住 / 学生(フィギュアスケート選手)
受診までの経過SIGN AND SYMPTOM
今回は、フィギュアスケートの部活動中に発症した激しい恥骨の痛みに悩み、日常生活すら送ることが困難になってしまった10代の学生さんの紹介です。
患者さんは競技としてフィギュアスケートに取り組んでいましたが、練習中に突如として恥骨(股間の骨)に激痛が走りました。すぐに近所の整形外科を受診し、「恥骨結合炎」と診断されました。しかし、そこからの日常生活は大変でした。
「寝ていても、歩いていても痛い」
これが当時の患者さんの偽らざる状態でした。 通常、スポーツ障害は「動くと痛い」ものが多いですが、炎症が強く神経が過敏になっている場合、じっとしている安静時や就寝時ですら痛みが襲ってきます。夜も痛みで目が覚めてしまうような状態で、心身ともに疲弊されていました。
また、歩く動きの振動で激痛が走るため、自力での通学が不可能となりました。これまで当たり前のように通っていた学校へ行くこともできず、1ヶ月もの間、ご家族による車での送迎を余儀なくされました。10代の活動的な時期に、自分の足で歩くことすらままならない状況は、ご本人にとって非常に大きなストレスだったと思います。
さらに特徴的だったのは、痛みの場所が一定しないことでした。ある時は下腹部が痛み、ある時はお尻(臀部)に痛みが移動するように感じる。これは、長引く炎症によって異常な血管(モヤモヤ血管)と神経が広範囲に増え、痛みの信号が複雑になっている際によく見られる現象です。 「いつ治るのかわからない」「どこが痛いのかもうまく説明できない」という不安の中、画像診断と専門的な治療を求めて当院を受診されました。
治療時の所見FINDINGS
ご持参いただいたCTおよびMRI画像を確認したところ、恥骨結合部に明らかな炎症所見(骨髄浮腫など)が認められました。 フィギュアスケートは、ジャンプの着氷やステップ、スピンなど、骨盤周りに強烈なねじれと衝撃がかかるスポーツです。
繰り返される負荷によって恥骨結合部に微細な損傷が起き、その修復過程で「モヤモヤ血管(異常な新生血管)」が増殖してしまっている状態でした。
これまでの安静や保存療法では、この増えてしまった異常な血管が減らず、そこに伴走する神経が痛み信号を出し続けていたと考えられます。 根本的な解決のため恥骨結合炎のカテーテル治療を提案しました。
治療は局所麻酔で行い、カテーテルを血管内に進めました。血管造影を行うと、特に「下腹壁動脈(かふくへきどうみゃく)」と「閉鎖動脈(へいさどうみゃく)」という血管から、恥骨の炎症部位に向かって異常な血管が濃く染まり(濃染)、モヤモヤ血管の存在がはっきりと確認されました。
患者さんは治療中、鎮静剤で少し眠られていたため、薬剤注入時の再現痛(普段の痛みが一時的に再現される現象)の確認は行いませんでしたが、確認できたモヤモヤ血管へ薬剤を投与し、治療を終了しました。
治療後の経過FOLLOWING THERAPY
治療直後の1週間ほどは、カテーテルを挿入した箇所の腫れや痛みが見られましたが、その後順調に回復していきました。
治療から2週間後の経過確認では、あれほど苦しんでいた「日常生活での痛み」が、ほぼ消失したのです。 「寝ている時も歩いている時も痛かった」状態から、普段の生活では痛みを気にすることがないレベルまで改善しました。もちろん、ご自分の足で通学できるようになり、ご家族の送迎も不要になりました。これは患者さんのQOL(生活の質)にとって非常に大きな前進です。
スポーツ復帰に関しては、まだジャンプや激しいステップ動作には痛みが残るものの、軽いスケーティング練習(負荷4割程度)であれば可能な状態まで回復されています。 日常生活の支障を取り除くという第一目標は達成されました。今後は、焦らずに組織の修復を待ちながら、徐々に競技レベルの負荷に慣らしていく段階に入ります。
恥骨結合炎は、一度こじらせると「歩く」「寝る」といった当たり前の日常さえ奪ってしまう辛い疾患です。しかし、痛みの原因となっている血管へアプローチすることで、早期に生活を取り戻せる可能性があります。同じように長引く股関節や恥骨の痛みでお悩みの方は、あきらめずにご相談ください。



