奥野祐次先生のコラム
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AI(人工知能)の進化と医療者の役割
AIの進化が私たちの生活や働き方を変える時代に突入していますね。
無人のコンビニができたり、人工知能がニュース記事を書いたり、将棋名人よりも良い手をソフトが提案したり・・・
人工知能の進化の波は医療分野にも例外なく押し寄せています。
全米でトップ10に入る皮膚科医の診断能力と同等の精度で診断できるAIが、すでに登場しています。
つまり、皮膚にできた病変の写真をとって、そのソフトに送れば、全米トップ10の医者と遜色のない精度で、何の病気なのか診断してくれることになります。もちろん原因や治療法も含めて、アップデートされた付随知識も提供してくれることは言うまでもありません。
このソフトがあれば町の開業医さんにかかるよりも前に、一般の方が自分で「より確からしい」診断にたどり着くことができるわけです。タブレットの中で。
町のお医者さんの知識がいまいちであったり、知識をアップデートしていなければ、一般の方のほうが「情報優位」な状態に立つことになります。
このことは、Google map登場後のタクシーの利用体験に近いとも言えます。
Google map登場前は、運転手の経験や裏道の知識にゆだねるしかなかったものが、登場後は運転手の判断よりもおそらく正確な情報をすでにタブレットの中で乗客が手にしているわけです。
ですから、「どこそこから回った方が早い」「いやこっちのほうが混んでない」といった議論は不要になり、運転手もGoogle mapに従うことになります。
将棋の棋士にも同じことが起きていますね。
それがお医者さんにも起きつつあります。
皮膚科の診断だけでなく、胸部レントゲン検査や、胃カメラにおけるガンの存在診断においても、AIのほうが勝るという結果がすでにでています。
Google Doctorなるものは、極めて近い将来に登場し、そして精度が磨かれていくことでしょう。
お医者さんの間では、とくに内科や皮膚科、放射線科をはじめ、診断と知識提供を主の業務としていたドクターにとっては、様々な意味で価値観のシフトを余儀なくされる時代です。
整形外科や痛みの分野でも同じです。
「五十肩ですね」「変形ですね」「筋トレをしなさい」「軟骨がすり減っています」「年齢のせいです」
これらのワードを言うだけで、あとは湿布や痛み止めを出しておしまい、という診察では、AIでも言えるよね?ということになるわけです。
むしろAIのほうがもっと丁寧にセルフケアを教えてくれるはずです。
では、(当面の間は)AIによって代替不能な医師の役割とは何でしょうか?
挙げてみると3つほど重要な役割があるのではないかと考えます。
一つ目は、「評判のよい腕」です
例えば注射や採血、外科技術の最高峰と言われる心臓手術にいたるまで、これらは人体に針やメスを入れるという「侵襲的」な行為であり、医師免許がないとできないという法的な側面も重要ですが、それ以上に人情的な点から、信頼を置いて身を任せられるような「腕」を有していなければ任せられません。
腕をみがく、評判を上げる、ということに多くの医者が注力するようになるはずです。
二つ目は「イノベーション」です。
今までに全く存在しなかった新しい検査方法、存在しなかった治療の開発、手術法のちょっとしたひと工夫など、過去には存在しなかったアイデアを具現化する仕事は、AIに容易に代替できるものではなさそうです。
つまり、今まで治せなかった病気の治療法を開発する、気づかなかったような小さながんを見つける、などの研究に力を注ぐことができます。
もう一つは「人間力」だと、私は考えています。
「人間力」とは漠然としてますが、要するに病気で不安になっている人に寄り添うこと。大丈夫だと言ってあげること。あるいは様々な想いを深く聞いて気持ちを前向きにしてくれること。
「あのお医者さんのところに行くと安心する」とか「わかってもらえた」「励まされた」などの体験を提供する能力と言ってもいいかもしれません。
そのようなコミュニケーションを鍛えることも、医師が(今後も)取り掛かるべきことの一つだと思っています。
医師にとって、自分の知識優位性(ドクターのほうが患者さんよりも知っている、わかっている)が保てる時代は終わります。
このような中で必要とされる役割は、本当の意味で喜んでもらえる「やりがいのあること」かもしれません。
すくなくても「俺の方が知っているから偉いんだ」などといって優越感を感じるよりも、よりチャレンジングなことにお医者さんは取り組むことができます。
AIの登場を悲観することもできるかもしれませんが、ドクターがより世の中に貢献できる時代になるのではないかと私は思っています。
以上、AIの発展と医師の役割を考えてみました!