モヤモヤ血管ができる原理に迫った研究
この論文は2012年に私、奥野祐次が慶應義塾大学大学院に在籍時に発表したもので、Nature Medicineという医学雑誌に投稿したものです。Nature Medicineは当時も今でも医学系研究の最高峰の論文が掲載される医学誌です。
タイトルの始めに「Pathological neoangiogenesis」とありますが、これは病的な血管が作られる過程のことを示します。
もともと私は2007年ころからカテーテルを用いて、がんや炎症の血管撮影をしていて、「なぜ、人の身体では、ぐちゃぐちゃとした異常な血管ができてしまうのか?」という疑問を持っていました。
それを調べたいと思い、母校の慶應義塾大学で、顕微鏡を用いて網膜の血管研究をしていた久保田義顕先生(現在は同大学の解剖学教室教授)のもとで研究を始めました。
そこでの3年間の研究成果を2つの論文にまとめましたが、そのうちの一つがこの研究です。
のちに「モヤモヤ血管」と名付けて、関節においては痛みを発生させてしまうような異常な血管のことを指しますが、そのような病的な血管がどうしてできるか、どんな遺伝子が働いているかを調べています。
一般的な学校の教育では「血管」というものは身体に栄養を運んでくれる「良いもの」とされてきました。皆さんもそのように習ったと思います。
しかし、2000年ころから、血管の研究者の中では、「血管には正常な血管と、病気の原因になってしまう異常な血管がある」ということがわかってきました。
ですが、なぜ異常な血管ができてしますのか?どんな遺伝子が働いているかまでは調べられていませんでした。
そんな中でこの研究においては、異常な血管ができる過程で必要になる(悪さをしてしまっている)遺伝子を見つけ、どのようにその遺伝子が悪さをしているかも解析する内容となっています。
異常な血管が制圧できれば、炎症や痛みももちろんですし、糖尿病性網膜症やがんのような病気もコントロールできる可能性があるため、Nature medicine誌のような影響力の高い雑誌に取り上げていただくことができました。
ページトップの写真は、そのときのNature Medicine誌の表紙の写真です。私たちが研究で撮影した顕微鏡写真が採用されています!
この研究で培った血管の性質についての様々な知見が、のちにカテーテル治療やモヤモヤ血管の治療を開発していくうえでも大変役に立っています。