痔のカテーテル治療とは?
肛門に一切触れることなく痔の治療をすることができる新しい治療法です。
手首、または足の付け根(鼠径部)から治療を行ないます。点滴と同じようにカテーテルというきわめて細長い(直径0.6㎜)チューブを血管内(動脈の中)に挿入し、長いチューブを進めて内痔核の近くまで移動させ、チューブの先端から血液の流れを遅くするデバイス(医療機器)を用い、内痔核への異常な血液の流れを部分的に遮断します。
約1時間~1時間半の治療になります。傷口は採血や点滴と同じように小さいためバンドエイド貼り、その日にご帰宅いただけます。
カテーテルは細く柔らかいため、途中の血管を傷つける心配はありません。血管の内側には神経はないため、カテーテルを進めている最中に痛みは一切生じません。 治療後は通常の生活を送っていただいてかまいません。
この治療は、特に内痔核の進行度2度・3度の方に推奨しております。
※参考
内痔核進行度
2度 出血を改善
3度 出血と痛みを改善
4度 カテーテルでは対応が難しいことが報告されています。
※別途ご相談ください。
●2度の進行度とは
いぼが排便時などに出ますが、自然にもどる状態です。出血があり、痛みがともなう場合もあります。
●3度の進行度とは
いぼが肛門から出てきて自然には戻らず、指で押すと戻る状態です。
症状は人によりますが、出血がひどくて貧血になる人もいます。また痛みがつらい人もいます。またいちいち肛門の中に戻すのが煩わしいと感じる人も多いようです。
●4度の進行度とは
いぼがお尻から出てきたままの状態。指で戻そうとしても引っ込まない状態です。
なぜカテーテルなの?
痔は、直腸の「静脈」が腫れていることが原因と思われていますが、実際には静脈が腫れているのは根本の原因ではなく「結果」に過ぎません。では根本の原因は何でしょうか?
2006年の研究報告によりますと、実は内痔核の患者さんを調べてみると、静脈ではなく内痔核に向かう細い「動脈」の流れが速いことが分かってきました。
しかも動脈から毛細血管を経由せずに直接静脈に流入する異常な血管(専門的には「シャント」と呼びます)が増えており、余計な血液が大量に流れ込むことで、静脈に負荷がかかり静脈自体が腫れ、痔になることがわかってきたのです。
お尻の穴から静脈を標的にして治療することも可能ですが、根本的な原因である動脈の速い流れを緩やかにする新しい治療法があり、海外で普及され始めています。
◎痔の患者による動脈流の速さを現した表
痔のカテーテル治療を
導入した経緯について
ヨーロッパやアメリカでは国際的なカテーテル治療の学会があり、私たちは「痛みのカテーテル治療」の開発者として毎年招待され講演をしています。そこでは、他のカテーテル治療の第一人者とも話す機会が多数あります。そのような学会で、痔のカテーテル治療を開発したフランス人のカテーテル専門医ヴィンセント ヴィダル医師と知り合い、互いに開発者として意見交換などするようになりました。情報交換を行う中でヴィダル先生の所属するマルセイユ大学の学会にも招待していただき、実際に新しく開発された「痔のカテーテル治療」を自分の目で見て、大変感銘を受けました。
従来の痔の治療(手術や注射など)は、肛門に触れて患部に直接処置をする必要があるため、治療時や治療後にも傷口に痛みを感じる方も少なくありません。また、メスを入れることで肛門括約筋など本来必要な機能を損なう可能性もあります。このため治療を受けるのに不安を感じている方も多いです。
フランス生まれの痔のカテーテル治療は、患部に全く触れないため、患部に痛みを一切感じずに治療を終えることができます。肛門にメスを入れることによって生じる肛門括約筋の機能不全などの心配もありません。またカテーテルを入れる部位の傷は小さく、絆創膏をはってその日に帰宅することができます。治療成績の論文報告実績も豊富にあります。この新しい痔のカテーテル治療は、フランスだけでなくアメリカ・イギリス・スペイン・ドイツ・中東・南アフリカ・ブラジルにも広がっており、最近になって認知され始めている方法です。
痔のカテーテル治療の症例
40歳 女性 会社員
30歳をすぎたあたりから、いぼ痔に気づき肛門科など通っていらしたそうです。ほぼ毎日お通じは出ていたのですが、35歳ころから出血がひどくなりました排便時に、ポタポタと便器が赤く染まるほどの鮮血の出血が生じるようになったそうです。
痔の進行を抑える方法を探し、いつも座りっぱなしの生活をあらため軽く運動をしたり、食事内容に気を遣ったりして生活をするものの、改善は見られなかったようです。
肛門科で、注射の治療をしていったんは落ち着いたものの半年くらいでぶり返してしまいました。進行度は2度(排便時にイボが肛門の外へ出てしまうが、排便が終わると自然に肛門の中にイボが戻る状態)ということで、手術をするほどでもないと肛門科では言われたものの、違和感もあり出血がひどく困っていたようです。
そのような際に、オクノクリニックでの痔のカテーテル治療のことを知り受診されました。
治療の際は超音波を使い、肛門周辺の血流状態を確認しました。やはり異常な血管が増えていることが確認できたため、カテーテル治療を行ないました。
カテーテル治療では、左右の直腸の動脈から内痔核(イボ)に向かう異常な血管が観察され、コイルを用いて血流を低下させました。
カテーテルは、足の付け根より極細のチューブを入れるので肛門には一切触れず、コイルの留置も痛みを感じないため治療中、痛いと感じることなく終わったとおっしゃってくださいました。
治療当日から排便時に必ず生じていた鮮血がポタポタと便器にたまってしまう症状はなくなりました。
2週間後には内痔核(イボ)の大きさも小さくなったと感じています。
現在も出血の心配がなく忘れるぐらいに日常をとりもどし、暮らせることが一番うれしいと話してくださいました。
異常な血管が幾重にもみうけられます。
痛み・出血の原因となる異常な血管が消滅しています。
痔のカテーテル治療の費用について
(保険診療)
初診・肛門鏡検査
痔のカテーテル治療
(3割負担)※高額療養費制度が使えます。
※使用する医療の材料費により異なる場合がございます。
※出血をともなう症状の方が対象となります。
※地域によっては保険治療でできない場合があります。
よくあるご質問
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どうして痛くないのでしょうか?肛門には一切触れることがないため、肛門や直腸に傷がつきません。このため患部には痛みなく治療が終わります。ただしカテーテルを入れる際に、手首または足の付け根などに、採血の時と同じようなチクっとした痛みを一瞬感じます。
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治療時間はどれぐらいですか?1時間~1時間半です。
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治療後は日常生活の制限はありますか?治療当日は入浴はさけてください。翌日からは入浴も含めてふだんどおりの生活を送ることが可能です。ただし、術後2週間程度は、「激しい運動」や「自転車」、「旅行」、「長時間座りっぱなし」、「刺激物」はできるだけ避けるようにしましょう。
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治療後にはどのようなケアが必要ですか?入浴・食事・排便時など一般的に痔に良いとされるケアや日常生活管理は治療後も重要です。便秘や腸内環境の悪化、飲酒、ストレス、座りすぎなどの背景にある生活習慣の改善にも取り組むほうがベターです。当院では治療前から上記のような背景因子を改善していくことも治療プログラムに組み込んでいます。
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通院は必要ですか?必要です。治療後の1か月、3か月後は来院いただき、患部の状態を観察させていただきます。ただしそれ以外のタイミングでは生活指導が中心になるため、オンラインの診療にて来院せずにも経過をフォローさせていただくことが可能です。
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そもそもどうして肛門に異常な血管ができてしまうのでしょうか?肛門に限らず、人間の身体には繰り返しストレスにさらされると異常な血管ができてしまう構造になっています。たとえば打撲などをして強く身体の一部を打ち付けたことを想像してください。そのような場合は打った場所が赤くはれて熱を持つと思います。これは生体の反応として血管が拡張したり新たに血管が増えるために赤くなったり腫れたり熱を持つのです。
一度だけ打撲しただけなら放っておけばそのような反応は消失しますが、それが一度でなく何度も繰り返されたと考えてみてください。すると赤くはれた状態はどんどんと続き、やがて異常な状態が当たり前となります。そのような状況では異常な血管がたくさんできてしまい、静脈も腫れあがることになります。
便秘や座りすぎ、飲酒などによる腸内容物の粘膜への刺激など、直腸の粘膜は生活習慣によって何度も刺激や負担にさらされます。これが重なると上記のように異常な血管ができて腫れるようになり、そのまま悪化すると内痔核のステージが進行していくことになるのです。しかも直腸粘膜には痛みを感じるセンサーがありませんから、最初は痛くない状態で進行していくことになり、出血などの症状で気づくころにはそのような異常な血管状態が出来上がってしまいます。 -
血流の流れを緩やかにする方法とは?外傷で出血などをした際にそれを止めるための医療行為があります。出血源となる動脈を外科的に糸で結ぶ(結紮といいます)方法もありますが、それ以外にカテーテルを用いて結紮と同じような効果をもたらす方法が、減圧とよばれる方法です。これは血管内に留置するデバイスを用いることで、あたかも外科的に結紮したのと同じような状態を作ることができる方法です。交通事故などで出血した際には、昔は外科的にメスを使って出血の出所を確認して結紮していましたが、現在ではメスを入れずにカテーテルで上記のデバイスを用いることで出血を止めることができ、そのような新しい治療に置き換わってきており、年々そのような処置がされる回数は増えています。
痔のカテーテル治療も出血を止める際の治療と同じように行なわれます。さらに詳しい説明やそのほかのリスクについて知りたい方は無料の相談会や説明会の場を設けていますのでそちらでお聞きください。 -
デバイス(医療機器)というのは、血管内を勝手に移動したりしないのでしょうか?決して勝手に移動しません。
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通常の痔の治療と比べて、カテーテル治療のメリットは何でしょうか?手術以外の方法(ゴム結紮や注射など)に比べ、一度治療すれば再発の可能性が低いことがメリットと言えます。
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診察時、どのような服装がいいでしょうか?ズボン、スカートどちらでも大丈夫です。下着を少しずらす必要があるため、身体を締め付ける服装は避けてください。
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生理中でも診察は可能でしょうか?はい、可能です。痔の診察はうけていただけます。
プライバシーについて
一度に、たくさんの患者さんがくることはございません。
予定通り診察ができるよう取り組みをしており、
受付の際に病名や診療科目を申しあげることはございません。