指先に痛みがあるときに考えられる病気と、その原因や治療法
手指は日常的に使う部位ですので、痛みがあると日常生活に支障をきたしますし、放っておくと慢性の炎症が持続することで関節の変形が進行していくと考えられています。原因を特定し、早めの治療がおすすめです。手の指先、手のひらや、その周辺に痛みが出る主な疾患について解説します。
目次
へバーデン結節
指先の痛みとして一番有名なものはヘバーデン結節が挙げられます。
ヘバーデン結節とは手の指の第1関節(遠位指節間関節)に発症する変形性関節症です。特徴として、関節の背側に2つのコブ(結節)ができ、関節の炎症により骨が変形していくことが特徴です。通常、複数の指に発症し、40代以上の女性に多く見られます。
症状
第1関節の赤み、腫れ、痛みが続くことが特徴です。また、関節の可動域制限と動きの悪化、朝起きた時に手のこわばりが出現します。日常動作(食器洗い、パソコン入力など)に支障をきたします。朝起きた時に手全体がこわばっていたり、腫れた感じがする、というのも特徴です。
ミューカシストという、関節の変形や炎症に伴い関節液が外に膨らんでくる(嚢腫と言われる)状態を合併することもあります。
原因
まだ不明な点が多いですが、女性ホルモンの変化により、特にエストロゲンの減少が発症に関わっているとされています。エストロゲンの減少は更年期障害の原因でもありますので、更年期障害に合併して起こることもしばしばです。
遺伝的な要因として、両親がへバーデン結節である場合は、罹患する可能性が高くなります。
女性に多い、とされていますが、男性にも起こる疾患で、男性の場合は関節の変形を認めるものの、痛みやこわばり症状がでることが少ないため、病院を受診するのは圧倒的に女性の方が多いです。
診断
第1関節の腫れとレントゲン所見(関節裂隙の狭小化と骨の隆起)によって診断されます。関節リウマチ、乾癬性関節炎、痛風などの他の疾患との鑑別も重要です。
予防
へバーデン結節の予防のためには、関節への負担を軽減する(固定や負担の多い作業を避ける)ことが重要です。
また、食事は豆乳製品、大豆製品を食べることで、大豆イソフラボンである女性類似ホルモンのエクオールの生成を促します。青魚に含まれるDHA、EPAという脂肪酸は、炎症を低下させることが知られており、長期的に見た時に骨の変形の進行を予防できる可能性があります。
治療法
安静
痛みが強い時は、強い炎症が起きており、軽い刺激をくわえるだけでも悪化することがあります。このような状態の時は刺激を減らす、手を使う仕事をしている人は、少しお仕事を休む事が重要です。
消炎鎮痛薬
痛みを抑え、炎症を落ち着ける作用があります。長期服用により、胃腸障害や、腎機能障害などが起こりえますので、漫然と続けるのはお勧めできません。
テーピング
テーピングにより可動域を制限したり、血流を少し減らしてあげることで痛みが改善することがあります。
痛みがある時期に関節を無理に動かしたり、マッサージをしたりすることはすすめられません。刺激を加えることで炎症が悪化することがあります。
どうしても痛みが強い場合に、関節を固定する手術、という方法もありますが、指の繊細な動きが制限され、感覚障害が残ることもありますので、強くお勧めできる治療ではありません。
エクオール
大豆イソフラボンから生成されるエクオールというエストロゲンに似た構造の物質を補充することで、進行を予防できる可能性があります。痛みを低下させる作用は強くはありません。
進行
ヘバーデン結節は、変形性関節症といわれる病気です。骨の変形がなぜ進行するのかのメカニズムについて、「微細な慢性炎症が関節の変形の原因である」ということがわかってきました。炎症状態(小さな火がついている状態であると想像してください)が持続することで、骨を変形させる物質がでて、その影響で骨が変形するのです。必ずしも使いすぎて、骨がすり減っているわけではないのです。
放置すると約10年かけて変形が進行します。初期症状は腫れ、赤み、痛みで、数年かけて変形が進み、最初は第一関節だけにとどまっている痛みが、第2関節に広がったり、親指の付け根が膨らんだりしてきます。そして最終的には関節が固まります。早期治療が重要で、放置すると元に戻せない変形に至る可能性があります。
新しい治療
動注治療―血管を減らす治療(5分程度の簡単な処置)
慢性炎症、つまり炎症が持続する原因として、血管が関わっていることがわかってきました。「血管?」と思われた方もおおいのではないでしょうか。
関節の腫れている部分には、少なからず血管が増えている(生まれつきは持っていない血管)ことがわかってきました。この血管が存在することで、炎症が持続しているのではないか、ということに注目して、その血管を治療することで、炎症を軽減させる、新しい治療「動注治療」があります。こちらをご参考になさってください。
関連する状態
ミューカシスト
へバーデン結節が原因となり、第一関節の変形に伴い関節液が外に膨らんでくる状態です。
ブシャール結節
第二関節に生じる同様の変形性関節症です。
乾癬性関節炎
乾癬性関節炎は、皮膚と関節の両方に症状が出現する自己免疫疾患(ご自身の免疫が自分を攻撃してしまう病気)です。
乾癬という赤い盛り上がった皮疹を特徴とする皮膚症状と、手足の指や背中の関節に痛みや腫れを引き起こす関節症状が現れます。
症状
関節症状(特に手の症状)
手足の指の関節炎(左右非対称:右側と左側で異なった症状が出現します)
特に第一関節(遠位指節間関節)に炎症が生じやすく、腫れや痛み、こわばりを感じます。朝こわばりが出現しますが、徐々に良くなってきます。
指全体が腫れ上がる「ソーセージ指」も特徴的です。指全体が均一に腫れ上がり、ソーセージのように見えます。これは指趾炎(ししえん)と呼ばれ、乾癬性関節炎の特徴的な症状です。
腱付着部の炎症(アキレス腱など)
腱が骨に付着する部位に痛みや腫れが生じます。アキレス腱炎は歩行時の痛みの原因となります。
脊椎や仙腸関節の炎症
背中の痛みや朝の背中のこわばりの原因となります。重症例では脊椎の変形により可動性が低下(動きにくくなる、動く範囲が狭くなる)します。
皮膚症状
髪の生え際、肘、膝などに赤い盛り上がりと銀白色の鱗屑が見られ、境界がはっきりしているのが特徴です。
爪の変形
爪の表面に小さなくぼみや、爪床の剥離(爪がはがれること)が見られます。これらの爪症状は乾癬性関節炎の早期発見に重要とされています。
診断
乾癬性関節炎の診断は、皮膚症状と関節症状を総合的に評価して行います。CASPAR基準という国際基準があります。
- 家族歴:ご家族で乾癬の方がおられると、乾癬性関節炎になりやすくなります。
- 爪の変化:先に述べた爪の変化があるかどうかです。
- 採血でのリウマトイド因子陰性:関節リウマチではない、ということを証明します。関節リウマチでも指の痛みがでることがあるので、その鑑別になります。
- 指趾炎(ししえん):指がソーセージのように腫れる症状です。
- レントゲンやMRIでの関節の変形
上記を総合的に判断します。
治療法
消炎鎮痛薬(NSAIDs)
痛みや炎症を抑えます。症状を抑えるためにまず使用されることが多いです。
抗リウマチ薬
メトトレキサートなど、 症状の進行を抑制します。
生物学的製剤
TNF阻害剤やIL-17阻害剤など。中等度から重度の症例に使用します。
皮膚症状と関節症状が出現するため、皮膚症状が強ければ皮膚科、関節症状が強ければ整形外科医への受診が良いでしょう。
腱鞘炎
腱鞘炎とは、腱とそれを取り巻く腱鞘に炎症が生じる疾患です。主に手首や指に発症し、反復動作や強い負担により引き起こされます。痛みや腫れ、動きの制限などの症状が特徴的です。
症状
指や手首の痛み、腫れ、熱感、朝のこわばり、指の動きの制限が強いのが特徴です。好発部位としては、親指の付け根(ドケルバン病)、手のひら(ばね指)に生じることが多いです。
原因
反復動作の多い職業(パソコン作業、楽器演奏者など)30-50代に後発します。反復的な動作による腱や腱鞘の炎症がきっかけとなります。関節リウマチなどの全身性疾患に伴うこともしばしばあります。
診断
超音波検査やMRIで腱の肥厚や滑膜炎を確認します。最近は超音波の精度が上がってきています。
治療法
基本的には安静にします。鎮痛薬(NSAIDs)の内服や外用、ステロイド注射を行うこともあります。重症例や保存療法無効例では手術療法が選択されます。
ドケルバン病(母指の腱鞘炎の一種)
ドゥケルバン腱鞘炎 頻度の高い腱鞘炎として、ドケルバン腱鞘炎があります。
原因
ドゥケルバン腱鞘炎は、手首や親指を繰り返し使うことによる負担が原因とされています。また、手首をぶつけたり、仕事や育児などの日常活動による繰り返し動作が原因となります。
筋肉と関節をつなげる腱組織は腱を覆う袋(腱鞘:けんしょう)とよばれる組織に囲まれて、固定されています。親指の付け根の腱鞘には、親指を動かす二つの腱が通っています。これらの腱)が厚くなると、腱の動きが悪くなり、痛みが生じます。
症状
手首の親指側の痛みや腫れを訴え、親指を動かすと痛みが強くなります。物をつかんだり、ひねったり、持ち上げたりする動作が難しくなることがあります。フィンケルシュタインテストの動きをしてもらって痛みが出るかを調べたりします。
フィンケルシュタインテスト
レントゲン検査では、骨に異常がでないことがほとんどです。
治療
治療方法は症状の程度によって異なりますが、まずは保存的な治療が選択されます。
サポーター
手首と親指を固定して、腱への負担を減らします。痛みを和らげ、日常生活の動作を助けます。最近はネットで簡単に購入することができます。
ポイントは、手首と親指をしっかり固定して、痛みのでる動作に制限がかかるものを選ぶことです。
理学療法
日常生活での動作の改善方法を学びます。マッサージで筋肉の緊張をほぐすことで、腱にかかる負担を抑えます。
ステロイド注射
炎症を抑える薬を直接患部に注射します。しかし、ステロイドは効果が高い反面、複数回注射を打つことで、組織の損傷をきたしたり、痛みが逆に悪化したりします。1回の注射で改善しなければ、継続はおすすめしません。
手術
3~6ヶ月の保存的治療で改善しない場合に検討します。手術では、腱が通る部分を広げて、腱の動きを良くします。
ばね指(狭窄性腱鞘炎)
ばね指は狭窄性腱鞘炎(きょうさくせいけんしょうえん)ともよばれ、指の痛みと動きの制限を特徴とします。指の腱を覆う腱鞘(特にA1プーリーと呼ばれる部分)が肥厚し、腱の滑りが悪くなることで起こります。
原因
痛みを伴うクリック音や指のロッキング(指を曲げる時に生じます。50~60代の方に多く発症し、糖尿病患者はよりかかりやすいです。)が特徴です。
クリック音は、指を動かす際に「カチッ」や「パチッ」という音が聞こえる現象で、腱が腱鞘内で引っかかり急に滑ることで発生します。
一方、指のロッキングは、指の動きが途中で止まり、力を入れると突然動く状態を指します。これは指を曲げる時も伸ばす時も起こる可能性があります。
症状の程度は4段階に分けられます。
- 痛みのみ
- 指の動きにひっかかりが出る
- 指が曲がったまま戻らなくなる(他の手で戻せる)
- 指がまったく動かなくなる
診断は主に触診で行い、痛みや腱の状態を確認します。超音波検査も有効です。
治療
ステロイド注射
最も一般的で効果的な方法です。
手術
腱鞘を切開して腱の動きを改善します。
これらの治療で多くの場合、症状の改善が見られます。病院によっては、局所麻酔で日帰りで手術できます。
関節リウマチ
関節リウマチは、滑膜炎や関節に長引く炎症を起こす、進行性の病気です。女性に3倍多く発症し、遺伝する病気です。関節のすきまが狭くなったり、骨破壊が進行し、変形がすすんできます。
症状
手に症状が出現することが多いです。へバーデン結節が第一関節に出現することが多いのに対して、リウマチは第二関節や、さらに中枢(手首側)の関節が痛むことが特徴です。
早期にはレントゲンでは異常はでません。
進行してくるとボタン穴変形(Boutonniere deformity)やスワンネック変形(Swan neck deformity)とよばれる変形が出現します。
ボタン穴変形(Boutonniere deformity)
スワンネック変形(Swan neck deformity)
診断基準
アメリカリウマチ学会が提唱している分類があります。
以下の7項目のうち4項目以上を満たし、6週間以上持続する場合に関節リウマチと診断されることが一般的です。
- 朝のこわばり
- 3つ以上の関節領域の関節炎
- 手の関節炎
- 対称性関節炎
- リウマトイド結節
- 血清リウマトイド因子陽性
- X線所見
リウマチは採血でリウマチに特有の抗体が陽性になることも特徴です。上記の症状とあわせて総合的に判断します。
経過と予後
関節リウマチの自然経過は個人個人で大きく異なります。予後の予測は一般的に難しいとされています。
症状は緩解と増悪を繰り返しながら進行性の経過をたどります。しかし、最近は生物学的製剤などの画期的な治療が出現し、炎症を抑え、進行を予防できる可能性があります。
手根管症候群
手根管は、手首の手のひら側にある細いトンネルのような場所です。この狭い通路の中を、指を動かす腱と、手の感覚を司る重要な神経が通っています。手根管症候群は、この通路が何らかの原因で狭くなり、神経が圧迫されることで起こる病気です。
つまり、手首の中の「道路渋滞」が手のしびれや痛みを引き起こすのです。特に40-60代の女性に多く見られる症状で、手のしびれや痛みが特徴的です。
症状
手のしびれと痛みが特徴です。親指、示指、中指、薬指の橈側半分にしびれを感じます。症状が進行すると、母指球筋(親指の付け根の筋肉)の萎縮が見られることもあります。
原因
手根管内での正中神経の圧迫が主な原因です。反復動作、妊娠、甲状腺機能低下症、関節リウマチなどの要因が関与していることがあります。
診断
診断は症状と身体所見を基に行われます。Tinel徴候やPhalen試験などの特殊な検査が用いられます。さらに詳細な診断のために、神経伝導検査や超音波検査、MRIなどの画像診断が行われることもあります。
Tinel徴候
Phalen試験
治療
治療は症状の程度に応じて選択されます。軽度の場合は、安静と手首用スプリントによる固定が有効です。痛みがある場合はNSAIDsの内服やステロイド注射が行われることもあります。
保存療法で改善が見られない場合には、手根管開放術という手術療法が検討されます。
予防
予防には、負担がかかる動作を避けること、強い症状がある場合は安静にすること、ストレッチが重要です。また、甲状腺機能低下症などの基礎疾患がある場合は、その治療も重要です。
手根管症候群も、他の手の疾患と同様に早期診断と適切な治療が重要です。症状が持続する場合は、整形外科医やリウマチ専門医への受診をお勧めします。
手の指先に痛みをもたらす病気比較表
疾患名 | 症状 |
へバーデン結節 | ・手の指の第1関節の赤み、腫れ、痛み、コブ ・複数の指に発症 ・関節の炎症により骨が変形 ・40代以上の女性に多くみられる |
乾癬性関節炎 | ・手足の指の関節に、左右非対称に発症 ・腫れ、痛み、こわばりを感じる ・指全体が均一に腫れあがる(ソーセージ指) ・爪の変形(爪床の剥離)もみられる |
腱鞘炎 | ・指や手首の痛み、腫れ、熱感、朝のこわばり ・指の動きの制限が強い |
ドケルバン病 | ・腱鞘炎の一種で、親指の付け根に痛みが生じる ・物をつかんだり、ひねったり、持ち上げたりする動作が難しくなる ・骨に異常がないことが多い |
ばね指 | ・痛みを伴うクリック音や指のロッキング |
関節リウマチ | ・第二関節や、さらに中枢(手首側)の関節が痛む ・ボタン穴変形、スワンネック変形が出現 ・女性に3倍多く発症し、遺伝する |
手根管症候群 | ・手のしびれ、痛み ・親指、示指、中指、薬指の橈側半分のしびれ ・進行すると母指球筋の萎縮 ・40-60代の女性に多い |
手指の痛みQ&A
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手の痛みは整形外科を受診すれば良いですか?
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はい、手の痛みはまず整形外科を受診するのがおすすめです。しかしここで注意点があります。
整形外科の先生は、それぞれ高い専門性をもっている先生が多いです。その専門のなかでも手の外科は、割合的には少ないため、おすすめは手を専門にしている病院を受診することです。どのようにしてそのような病院をみつけるかですが、「手の外科」「ドケルバン腱鞘炎」「へバーデン結節」「手根管症候」など、疾患名で検索することで、病院やクリニックのホームページにこの単語を掲げているところは、手の専門の先生がおられる可能性が高いです。
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へバーデン結節は加齢にともなうもので、治療方法がないといわれたのですが、、、
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一般的にへバーデン結節に対する治療方法は、保存的な治療が主になります。しかし諦めないでください。新しく体にできた血管が、痛みの原因であるということに注目し、その血管を減らす画期的な治療がでてきています。こちらを参考になさってください。
手の痛みによりできないことが増えた、お仕事や趣味ができなくなってしまった、などお悩みの方がおられるかもしれません。
痛みは個人個人で感じ方が大きく違い、なかなか人にわかってもらえないものです。
私はこの7年間、どこに行ってもよくならない長引く痛みを抱えた患者様を診療してきました。その痛みの辛さも良くわかります。適切な診断と治療を提示させてもらいます、まずはご相談ください。
著者プロフィール
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オクノクリニック神戸三宮院、宮崎治療院院長。循環機器内科専門医。
医学部卒業後、循環器内科医として心臓血管カテーテル治療に従事。2012年11月~2014年10月アメリカSkirball Center for Innovation (ニューヨーク州、血管内治療デバイス研究施設)に研究留学。2016年3月大学院博士課程修了 研究テーマ「冠動脈ステント留置後の病理組織と光干渉断層法の画像の比較について」。
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