私はこのオクノクリニック神戸三宮院でどこに行っても治らない、難しい痛みを抱えた患者さんを多く診察しています。

その中で、我々の注目している新生血管による痛みとは全く異なり、原因が鉄欠乏である患者が多くいることをたくさん経験しています。特に採血をする中で、フェリチンという、体に貯蔵されている鉄分の値が著明に低い患者が多いことがわかっています。鉄欠乏性貧血は、潜在的には月経のある成人女性の36.2%で認める(2003年国民栄養調査及び日本人の栄養所要量)とされております。

また、鉄欠乏の他にも、ビタミンDが不足している患者様にも多く出会います。ビタミンDは身体の免疫力と関係しており、こちらも痛みとは無関係ではありません。 このように、当院では、栄養の観点からも慢性の痛みにアプローチします。

鉄分の不足による痛みの治療結果

症例(50代女性)

  • 3年前からの両足の足底の痛み。1日中痛く、寝ている時もジンジンしている。
  • 整形外科をいくつも受診して、湿布や痛み止め、電気の治療を行うが、まったく改善しない。
  • 体外衝撃波を5回行ったが改善せず。

整形外科をいくつも受診しても湿布や痛み止めを処方されるだけ。治療は電気治療や体外衝撃波を行ってもよくならない、こういうケース、わりと多く遭遇します。そして最後には精神的なところからきているのじゃないかと言われたそうです。

診察

  • 痛みの部位は足裏だけではなく、肘、膝、肩の疼痛もある。
  • 内服 サインバルタ(20)2錠/日、リリカ(25)2錠/日
  • 既往歴
    甲状腺機能異常
    1年前 うつ病を疑われ、内服加療をしていた。

検査

まず、超音波検査をしましたが、超音波画像では炎症像はありませんでした。痛みの原因は足にはない可能性があるわけです。そこで、血液検査をしました。当院ではオーソモレキュラー医学(後述)に基づいた、通常の診療ではチェックしない項目も調べています。

今回はこの採血の一部を紹介します。フェリチンという値を見てください。フェリチンというのは、体に貯蔵されている鉄分を鋭敏に表します。鉄というのは身体がホルモンを作ったりするのに必要な根源的なミネラルです。そのホルモンには、セロトニンやノルアドレナリンという、精神を安定させたり、痛みを適切に脳が受け取るのに必要なホルモンの減量になります。 つまり鉄が不足するとうつ病になり得ますし、痛みの原因にもなるのです。

フェリチン低値=鉄欠乏の存在
貧血は採血の数字上はない

治療(鉄分の補充)

この方には、サプリメントによる鉄分の補充、食事指導(炭水化物を減らす、野菜を先に摂取する、タンパク質をしっかりとる)を行いました。

治療の結果

3ヶ月後にフェリチンを測定すると17→30まで改善しました。
それと共に足の痛みが半分くらいになり、寝つき、寝起きが良い、疲れにくくなった、駅の階段をダッシュで登れる!と喜んでおられました。

鉄欠乏は様々な不調をきたします。体の調子が悪い、長く続く痛みがあるが、どこに行っても良くわからない、そのような方おられましたら、ぜひご相談ください。一度採血をして、血液の状態を確認してみましょう。

鉄欠乏によりあらわれる症状

鉄は体の中で様々な役割を果たしています。そのため、不足によって様々な症状をきたします。鉄不足は貧血の原因にはなるのですが、貧血まで至らなくとも、チトクローム酵素の活性に深く関与します。この酵素は体がエネルギー(ATPと言われる)を産生するのにとても重要で、この酵素の産生の低下によりエネルギー産生が十分にできなくなり、つかれやすくなったり、集中力がおちるなどの症状をきたすわけです。

  • 寝つきが悪い
  • 疲れやすい、肩がこりやすい
  • 湿疹が出来やすい
  • 頭痛や頭が重いことがよくある
  • カゼをひきやすい、微熱がある
  • 洗髪時、毛が抜けやすい
  • 注意力が低下し、イライラしやすい
  • 神経過敏
  • 歯茎からの出血、身体にアザができる
  • 胸が痛む
  • 体動時の動悸や息切れ
  • むくみがある
  • 爪が変形し、割れやすい
  • 食欲不振
  • 口角口唇炎、舌が赤くスベスベする

※鉄欠乏の自覚症状は慢性の場合は乏しい

オーソモレキュラー医学(分子栄養医学)