オーソモレキュラー医学(分子栄養医学)の考え方

オーソモレキュラー(orthomolecular)医学は、最適な量の栄養素の摂取と、身体の構成要素がmolecular(分子)レベルで、ortho(ひずみのない、正しい)となることを目的としています。

健康の基本は、栄養状態が良いことである、という事に異論を唱える人はいないでしょう。その健康を目指すために、オーソモレキュラー医学の考え方として、食事の原則は、『良質のタンパク質をしっかり摂取し、炭水化物の摂取量、摂取方法に注意しながら血糖の変動を穏やかにする』、『ジャンクフードを食べないこと』、『調子の悪くなる食物を避けること』を大切にしています。ジャンクフードとは、砂糖と添加物の入った食物すべてを指します。すべてを取り除くことは難しいですが、極力そういう物を控え、また最適量を摂取できてない栄養素(個人により大きく必要量は異なる)をサプリメントとして補うこと、また適切な運動や、良好な睡眠、ストレスをマネージした生活習慣を重要視しています。

また、後述しますが、最適な栄養素は個人個人で大きく異なります。不足している栄養素は採血を深く解釈することで、わかります。それを、食事、サプリメントにを用いて、補うことを目的としています。

オーソモレキュラー医学の考え方

適応疾患

オーソモレキュラー医学はすべての疾患の治療のために必要な身体の基礎となるものです。

適応疾患
  • 原因不明と言われている体調不良 慢性疲労症候群
  • 慢性疼痛(肩こり、腰痛、肩膝の長引く痛み)
  • 精神疾患
  • アレルギー疾患
  • 小児科領域(発達障害、ADHDなど)

オーソモレキュラー医学は、ライナスポーリングが、Science誌に1968年に発表した『Orthomolecular Psychiatry』というタイトルの論文を発表したことが始まりと言われています。Psychiatryというのは精神医学で、さまざまな精神疾患に対して、たとえばナイアシンの大量投与による統合失調の治療など、精神科領域の疾患については今まで多くの報告、実績があります。精神疾患だけではなく、他にも癌、神経疾患、アレルギー疾患、小児科領域であれば、発達障害やADHDなど、幅広い領域で有効性が証明されています。

当クリニックでの適応疾患

当クリニックでは4年間オーソモレキュラー医学を取り入れています。痛みのクリニックですので、長引く痛みを抱えた患者さんが来られます。そのような痛みに対して、オーソモレキュラーが有効であることがわかってきました。

膝痛や肩こり(肩痛)、腰痛などの長引く痛みに悩まされている方、一旦は良くなったが、繰り返し痛みが起こる、というようなお悩みをお持ちの方に、オーソモレキュラー医学が良い適応です。

投薬との違い

副作用がほとんどない

まず副作用がほとんどない事が挙げられます。体に必要な栄養素を補充しますので、本来は体にあるべき栄養素です。そのため、副作用がほとんどありません。栄養状態が極めて悪く、消化をする酵素が作れない(酵素のもとはタンパク質ですので、タンパクが十分に摂取できていない人に多くみられます)方は、サプリメントの補充で一時的に胃腸の調子が悪くなることもありますが、適切に栄養素が補充されていくと、解決します。

適切な量が個人で異なる

また、投薬と違い、適切な量が個人によって異なります。人間は人それぞれ顔が違うのと同じで、体が使うエネルギー、筋肉量、内分泌のバランスなど、大きく異なるのです。そのため、必要とされる栄養素が大きく異なります。『サプリメント何取ったらいいかわからない』、『ご飯たくさん食べているから栄養大丈夫じゃないの』と言われることが時々あります。

オーソモレキュラー医学が面白いのは、採血により、体が本当に足りてない栄養素を特定して、その栄養素を効果的に補うことにあるのです。そして、採血をフォローすることで、適切に食事療法やサプリメントで補われているか、を確かめることができます。つまり個人個人に応じて、オーダーメイドの治療が可能となるわけです。採血の結果が改善するより先に、痛みなどの症状が改善することがほとんどです。

治療の流れ

①問診
まずは、現在の生活習慣、体の不調などについて、問診します。
問診
②採血
採血を施行します。採血項目は健康診断では調べることがほとんどない項目が含まれています。
採血
③治療
①②の結果を元に、カウンセリングを行い、食事療法、サプリメントの摂取、生活指導などを行います。

オーソモレキュラー医学との出会い

オーソモレキュラー医学は、分子栄養医学ともいい、ビタミン、ミネラル等の栄養素を適切に体に取り入れること病気の予防や治療を行うもので、欧米を中心に発展してきました。

私はもともと循環器内科専門医であり、大学病院で10年以上の診療経験があります。診療をする中で、痛みを含めた不定愁訴(なんとなくしんどい、疲れが溜まる、頭痛がする、など)を抱えた患者様の診療にもあたるわけですが、1日で80人近くの患者を多く見る中で、重症ではない軽傷の患者さんの場合は、症状にあわせて薬を処方して、経過観察をしていました。80人も見ないといけないし、1人1人にじっくり話を聞いていたら、診療が終わらない、でも本当は患者さんにもっとよりそって、ゆっくり話を聞いて、解決方法を考えたい、とどこかでもどかしく思っていました。

オクノクリニックを開院してからは、完全予約性になりましたので、ゆっくり患者さんの話を聞くことができるようになり、とてもやりがいを感じていました。

しかし診療をしていく中で4年前に、痛みがカテーテル治療(モヤモヤ血管治療)だけでは解決しない、痛みがあるのにモヤモヤ血管がない、もしくはモヤモヤ血管の量にたいして不相応な痛みが出ている方がおられることがわかってきました。そのときにオーソモレキュラー医学に出会ったのです。

そして勉強、実践するなかで、これは革命的な治療だ、痛みにも効果があるかもしれない、と直感的に思いました。その後たくさんの痛みの患者さんにオーソモレキュラー療法を行うことで、劇的に痛みが改善することを経験しています。現在では間違いなく痛みの原因の一部がオーソモレキュラー医学で解決する、ということに確信を持っています。

現在モヤモヤ血管の診療に加えてオーソモレキュラー医学を組み合わせて診療しているところは当院以外にありません。痛みの最新治療と、そのベースになる、オーソモレキュラー療法療法を提供しているクリニックにぜひご相談ください。

オーソモレキュラー医学の歴史

ライナスポーリング博士は、20世紀における最も重要な科学者の1人として広く認められており、量子力学を化学に応用した実績から、1954年にノーベル化学賞、1962年に核実験に対する反対運動の業績によりノーベル平和賞を受賞しています。そして、1962年にScienceに発表された論文がこちらになります。https://www.science.org/doi/10.1126/science.160.3825.265

この論文の中に、The functioning of the brain is affected by the molecular concentrations of many substances that are normally present in the brain. The optimum concentrations of these substances for a person may differ greatly from the concentrations provided by his normal diet and genetic machinery.
『ヒトの脳における脳内物質の至適濃度は、日常の食事や遺伝子に制御されている生合成では得られない』という記載があります。
私はこれに衝撃を受けました。これがオーソモレキュラー医学の起源になっています。 この論文の図になります。

こちらのグラフの縦線は、人間を含む生物の成長速度や生命の機能(パフォーマンスと考えるとわかりやすいかもしれません)、横のグラフはそのパフォーマンスを発揮するのに必要とされる物質量(ビタミンやミネラルを含むものです)をあらわしています。最高のパフォーマンスをするには1.0の物質量が必要ですが(図のoptimal functioning)、それに近いパフォーマンスを0.5のエネルギーでも発揮できますよ、という曲線です。進化の過程で、半分の物質量で効率よくパフォーマンスを発揮する種が生き残っているのです。そして、余ったエネルギーをより繁殖できるように、厳しい環境条件から身を守るために使われたと考えられています。

ポーリングは、例えとして、人間がビタミンCを合成できないことを挙げています。人間は、アスコルビン酸(ビタミンC)を合成する能力を失ったため、食事にアスコルビン酸を必要とするようになり、この突然変異は、たとえアスコルビン酸の食事による供給が十分でなかったとしても、変異した時点では(利用できるビタミンCが少なくとも)有利であったかもしれなかったのです。時間が経てば、逆変異が起こる可能性は低いため、たとえ食餌条件が変わったとしても、この突然変異が修正されることはないとされています。短期間では、人間がビタミンCを合成できるようになるとは考えにくいのです。(つまり短期間で、最適なビタミンやミネラルを合成できるように人間が進化するとは考えにくいのです)

人間を含む生物は、生産するエネルギーを最小限にして効率を求めた結果、生存することの進化の過程で、最大限のパフォーマンスを発揮するための栄養素を自分自身で合成することを犠牲にしました。しかし本来の人間は、栄養素が充満することでさらに高いパフォーマンスができる可能性を秘めているわけです。その最大限のパフォーマンスを発揮することで、薬に頼らず、痛みを含めた体の不調は解決できる本来の能力があります。その能力を発揮できれば、免疫力が上がり病気にかかることは最小限になるでしょう。また回復力がつくため、体力にも自信を持てます。エネルギー産生効率が上がり、最適にエネルギーを使用できるようになり、脂肪を蓄積する必要が少なくなるため、痩せやすい体になります。

本来の人間が持っているポテンシャルを最大限発揮できる!これがオーソモレキュラー医学の魅力です。