ランニングで膝に痛みが!その原因と治療法、対策を医師が解説

走り始めに痛くなったり、走っていると徐々に膝が痛くなる・・・。ここでは、痛みの生じる部位(内側、外側、皿の下、膝上、裏側)などからどのような病気が考えられるか、原因や対策、治療法について紹介します。

ランニングで膝が痛くなるときに考えられる疾患

ランニングによる膝の痛みは、繰り返しの負担(使いすぎ)によって生じるものが多く、痛む部位によって考えられる疾患が異なります。特にランニング初心者の場合、急激な走行距離の増加や不適切なフォーム、シューズなどが原因となり、鵞足炎や腸脛靱帯炎といったオーバーユース(使いすぎ)症候群を引き起こしやすくなります。

痛む場所症状考えられる疾患
膝の内側膝の内側下方、すねの骨(脛骨)の上端から5〜7cmほど下に位置する「鵞足」に腫れや押したときの痛み、熱感など。鵞足炎(がそくえん)
膝の内側にある靱帯が傷んだ状態。軽症の場合は歩行は何とか可能だが、ランニングやジャンプ動作で痛みが強まり、走ると膝が不安定に感じることがある。内側側副靱帯損傷
膝の外側膝の外側に痛みが生じる。特に長距離走や自転車競技者など、膝の屈伸運動を繰り返す人に起こりやすい。腸脛靱帯炎(ランナー膝)
膝下(皿の下)ひざのお皿のすぐ下が痛む。 階段昇降が痛い、ジャンプの際に痛みが出る、走っていて痛いなどの症状が特徴的。膝蓋腱炎(ジャンパー膝)
膝上(皿の上)ひざのお皿の上が痛む。大腿四頭筋腱炎
滑液包炎
膝の裏側膝裏の腫れ・膨隆感(特に膝を伸ばした時に目立つ)、膝を深く曲げた時の圧迫感・違和感、長時間のランニング後の膝裏の張り感。ベーカー嚢腫

以下では、膝の痛む位置ごとに考えられる主な疾患について解説します。

膝の内側が痛い場合

膝の内側の痛みが代表的な疾患としては、鵞足炎や変形性膝関節症などがあります。特に鵞足炎はランナーに頻繁に生じます。

鵞足炎(がそくえん)

鵞足滑液包

鵞足炎は、膝の内側下方、すねの骨(脛骨)の上端から5〜7cmほど下に位置する「鵞足」と呼ばれる部位に炎症が生じる病気です。

症状

鵞足に腫れや押したときの痛み、熱感などが現れます。 運動時や階段を下る時に痛み、重症化すると、何もしていないときでもうずくように痛くなることがあります。

原因

鵞足にある滑液包(摩擦を軽減するゼリー状の袋)に、繰り返される摩擦とストレスにより炎症が起こる滑液包炎を起こすことが痛みの原因です。特に膝の屈曲や内旋動作が鵞足への負担となります。

ランナーやアスリートに生じやすく、縫工筋、半腱様筋、薄筋といった筋肉(鵞足に付着)に硬さが強い場合に頻繁に起こります。不適切なトレーニング、ストレッチを怠ること、急な坂道でのランニング、走行距離の急激な増加(初心者に多い要因)、ハムストリングの硬さ、肥満、変形性膝関節症、内側半月板損傷などがリスクとして挙げられます。

診断

病歴の聴取(スポーツ活動、打撲の有無)、身体所見(鵞足部の圧痛、腫脹、熱感)、およびX線検査(変形性関節症や疲労骨折の有無を確認)や超音波検査、MRI検査により軟部組織の腫脹などを観察して診断されます。内側側副靭帯損傷など、他の内側の痛みの原因との鑑別が必要です。

治療

治療の基本は、安静、アイシング、抗炎症薬、リハビリテーションなどの保存療法です。これらの治療で改善しない場合、滑液包への少量のステロイド注射が行われることもありますが、繰り返しの注射は組織の損傷にも繋がり、難しい痛みとなることがあるため注意が必要です。

痛みが長引き、なかなか治らない場合は、炎症に伴って生じた異常な血管を減らすための「カテーテル治療」が新しい治療として注目されています。

予防

太ももの筋肉の硬さが症状を悪化させるため、ストレッチで緊張を弱めることが効果的です。ただし、痛みが強い時期(炎症が強い時期)に過度なストレッチを行うと悪化することがあるため、軽いものに留める必要があります。

テーピングを使用し、動作時に膝関節が足関節より内側に入り込まないようにすることで、鵞足部への負担を軽減できます。

治療実例

内側側副靱帯損傷

内側側副靭帯

内側側副靱帯損傷は、膝の内側にある靱帯が傷んだ状態を指します。

内側側副靱帯は、大腿骨と脛骨をつなぎ、膝が内側に崩れないように支える「帯」のような役割をしており、ランニングでは膝が内側に入るクセが強い(ニーインと呼びます)ランナーに起こります。

軽症の場合は歩行は何とか可能ですが、ランニングやジャンプ動作で痛みが強まり、走ると膝が不安定に感じることがあります。

診断

問診で受傷の状況(ひねった、横からぶつかった、急な方向転換をした など)を確認し、膝の内側を丁寧に触診するところから始まります。

膝を少し曲げた状態で、下腿を外側に押し出すようにストレスをかける検査(外反ストレステスト)を行うと、内側に痛みが誘発されたり、不安定性がみられたりします。

外反ストレステスト

外反ストレステスト

靱帯損傷の程度の評価や、十字靱帯・半月板損傷の合併の有無を確認するために、必要に応じてMRI検査を行います。

治療

基本的には保存療法であり、多くの症例は手術を行わずに回復します。受傷直後は安静とアイシングによって炎症を抑え、必要に応じてサポーターやテーピングで内側を保護します。痛みが落ち着いてきたら、着地や片脚立ちで膝が内側に入る(ニーイン)クセがある場合、そのまま復帰すると再発しやすいため、股関節周囲の安定性を高めるトレーニングが重要になります。

予防

急激な走行距離やスピード練習の増加を避け、筋力トレーニングとストレッチをバランスよく取り入れることが大切です。特に、片脚スクワットやランジ動作などで膝が内側に倒れないフォームを身につけることは、内側側副靱帯への負担軽減に直接つながります。

シューズの摩耗パターンや扁平足の有無をチェックし、必要に応じてインソールでアライメントを整えることも有効です。膝の内側に違和感や痛みを感じた時点で、無理に走り続けず、早めに専門医に相談することが、長期的にランニングを楽しむための近道といえます。

膝の外側が痛い場合

膝の外側の痛みの原因として、ランナーに最もよく知られているのが腸脛靱帯炎(ランナー膝)です。

腸脛靱帯炎(ランナー膝)

腸脛靱帯炎は、太ももの外側にある腸脛靱帯が、膝の外側にある骨の出っ張り(大腿骨外側上顆)と繰り返し摩擦することで炎症を起こす疾患です。

腸脛靱帯炎(ランナー膝)

症状

膝の外側に痛みが生じます。特に長距離走や自転車競技者など、膝の屈伸運動を繰り返す人に起こりやすいです。

原因

最大の要因はオーバーユース(使いすぎ)により、繰り返し腸脛靱帯に刺激が加わることで血管が増えて、それに伴って神経も増えることで、治りにくい痛みの原因となっていることがわかっています。

リスクファクターには、長時間のランニング、柔軟性(ストレッチ)不足、休養不足、硬い路面や下り坂、硬いシューズ、下肢のアライメント異常(内反膝/O脚)などが挙げられます。

診断

問診にてランニングや自転車走行の状況を確認し、膝の外側の圧痛の有無などを確認します。

治療

治療の第一選択は、安静、アイシング、痛み止め(薬)、リハビリテーションなどの保存療法です。半年以内に改善することが多いですが、一部長引く場合があります。

ステロイド注射は一時的に炎症を抑えますが、負荷をかけ続けると1〜2ヶ月で炎症がぶり返す可能性があるため、繰り返し注射をすることは推奨されません。

症状が長引く場合は、異常な血管を標的とした運動器カテーテル治療により、競技復帰までの期間が短縮されるケースがあります。

予防

上で挙げたリスクファクター(ランニング時間、柔軟性、休養)の管理が重要です。 テーピングで太ももの外側(大腿筋膜張筋や腸脛靱帯)への負担を緩和できます。シューズやインソールで内反膝などのアライメント異常を修正し、ランニングフォームを修正することも重要です。

膝下(皿の下)が痛い場合

膝の皿の下、特にお皿のすぐ下の腱に痛みが生じる場合、膝蓋腱炎(ジャンパー膝)が考えられます。

膝蓋腱炎(ジャンパー膝)


膝蓋腱炎(ジャンパー膝)

膝蓋腱炎は、膝のお皿のすぐ下にある「膝蓋腱」というスジが過敏になり、痛みを生じる状態です。

名前はジャンパー膝ですが、マラソンランナーなどの長距離走者にも生じます。

症状

ひざのお皿のすぐ下が痛みます。 階段昇降が痛い、ジャンプの際に痛みが出る、走っていて痛いなどの症状が特徴的です。膝を曲げた状態でも伸ばした状態でも、皿の下に圧痛(押すと痛い)がある場合に強く疑われます。

原因

原因は、膝蓋腱の中で「血管と神経が余計に増えてしまう」ことだと考えられています。繰り返しの負担(ランニング、ジャンプ動作など)により腱に小さな傷が生じ、それに反応して血管が増えます。これに伴い神経線維も増えるため、痛みの原因になります。

診断

痛みの症状(ジャンプ、ダッシュ、階段の上り下り)についての問診に加え、身体所見として膝のお皿のすぐ下に圧痛があるかを調べます。エコー検査が簡便で多く行われ、ジャンパー膝では腱が黒く腫れ、腫れた腱に赤色の血管信号が侵入している様子が確認されます。MRI検査で診断することもあります。

治療

放置して簡単に治ることもありますが、なかなか治らず時間が経過することも少なくありません。

ステロイド製剤の注射は腱が弱くなり、最悪の場合切れてしまう可能性があります。ヒアルロン酸注射も効果はあまり期待できません。

重症化し、半年以上経過しても治らない場合は、腸脛靱帯炎と同様に痛みの原因である異常な血管を標的としたカテーテル治療が有効な治療法として選択肢になります。

予防

「使いすぎ」が一つの原因であるため、練習後に痛みが出る状態であれば練習量を減らす(休む)ストレッチが効果的です。お皿の下をぐるっと一周巻くバンドのようなサポーターは、症状を緩和するのに一定の効果があると考えられますが、痛みを我慢して無理にプレーし続けることは重症化を招くため推奨されません。

治療実例

膝上(皿の上)が痛い場合

大腿四頭筋腱炎

お皿の上に痛みを感じる場合は、正式名称は膝蓋大腿靭帯炎という病気である可能性が高いです。これは「ジャンパー膝」としてひとくくりに呼ばれることもあります。 この場合の治療方針は、膝蓋腱炎(皿の下)の場合と大きくは変わりません。

滑液包炎

こちらの疾患の原因、症状、治療、予防方法は、膝蓋腱炎とほぼ同じになりますので、膝蓋腱炎の項目をご参照ください。

膝裏側が痛い場合

ベーカー嚢腫

ベーカー嚢腫は、膝の裏(膝窩部)に関節液が貯留して袋状の腫瘤を形成する病態です。正式には「膝窩嚢腫」と呼ばれ、多くの場合、膝関節内の滑液が後方の滑液包に流入することで発生します。

ランナーにおいては、長距離走による繰り返しの膝の屈伸運動により、関節内圧が上昇し、関節液が後方に押し出されることで発症リスクが高まります。特に40歳以降のランナーに多く見られ、変形性膝関節症や半月板損傷などの基礎疾患がある場合に発生しやすくなります。

症状

膝裏の腫れ・膨隆感(特に膝を伸ばした時に目立つ)、膝を深く曲げた時の圧迫感・違和感、長時間のランニング後の膝裏の張り感が特徴です。まれに嚢腫が破裂すると、ふくらはぎに激痛が走る(偽性血栓性静脈炎)ことがあります。

ベーカー嚢腫があると、膝の可動域が制限され、特に深い屈曲が困難になります。これにより、ランニングフォームが崩れ、代償的に他の部位への負担が増加します。また、長距離走では膝裏の違和感が徐々に増強し、パフォーマンスの低下につながります。

治療

基本は、膝関節への負担を減らし、炎症を抑える保存療法(安静、アイシング、消炎鎮痛薬、関節内の炎症を抑えるリハビリテーション)です。嚢腫が大きく、日常生活に支障がある場合は、エコーで位置を確認しながら注射針で中身の液体を抜く(穿刺・吸引)治療が行われることもあります。ただし、膝関節内の原因が残っていると再びたまることも少なくありません。半月板損傷や変形性膝関節症など、原因疾患に対する治療(リハビリテーション、装具、関節鏡手術など)が重要になります。

炎症が長期化し、膝裏に慢性的な痛みが続く症例では、ベーカー嚢腫周囲や膝窩部の靱帯付着部に「モヤモヤ血管」と呼ばれる異常な血管が増えていることがあります。そのような難治性の痛みには、これらの異常血管を標的とした運動器カテーテル治療が新しい選択肢となり得ます。

予防

膝関節への過度な負担(急激な走行距離の増加、坂道ダッシュなど)を避け、少しずつ負荷を上げていくことが大切です。太もも前後の筋肉(大腿四頭筋・ハムストリング)の柔軟性を保つストレッチで、膝関節へのストレスを減らすことがベーカー嚢腫の再発予防にもつながります。

ランナーにお勧め。膝痛を防ぐストレッチ

膝の痛みの予防には、特に太ももの筋肉の柔軟性を高めるストレッチが効果的です。練習後、負担がかかったすぐにクールダウンとして行うと効果的です。

大腿四頭筋のストレッチ

大腿四頭筋のストレッチ

膝蓋腱炎、変形性膝関節症に有効

腸腰筋のストレッチ

腸腰筋のストレッチ

膝蓋腱炎に有効

太もも後側・内側のストレッチ

太もも後側・内側のストレッチ

鵞足炎の予防に有効

ランニングによる膝の痛みのQ&A

ランニング初心者です。膝の痛みを防ぐためにどんなことに気を付ければいいでしょうか?

ランニング初心者は、特に走行距離の急激な増加や不適切なトレーニングによって鵞足炎や腸脛靱帯炎といったオーバーユースの疾患を引き起こしやすいです。予防のためには、以下の点に気を付けてください。

  • 休む
    痛みが強い場合は我慢せずに休養をとり、練習量を減らすことが重要です。
  • ストレッチ
    日頃から太ももの前側(大腿四頭筋)や内側、後ろ側(ハムストリング)のストレッチを十分に行い、柔軟性を確保しましょう。
  • フォームとシューズ
    フォームの修正や、足のアライメント異常(O脚など)を修正するインソールを選ぶなど、ご自身に合ったシューズを選ぶことも予防につながります。

ランニング中、膝サポーターはつけた方がいいですか?

サポーターには痛みの緩和や、悪化の予防効果が期待できる場合があります。

例えば、膝蓋腱炎(ジャンパー膝)の場合、皿の下を巻くバンド状のサポーターが症状緩和に一定の効果があると考えられます。 変形性膝関節症で膝のぐらつきがある場合はサポーターで楽になることがありますが、膝の前側に炎症が強い場合はかえって痛みが増すこともあります。

重要なのは、サポーターを付けてみて楽になるか、あるいは痛みが増してしまうかを確認することです。痛みが増す場合は使用を避けてください。無理をしてサポーターで痛みをごまかし練習を続けると悪化につながるため、推奨されません。

ランニングフォームで気を付けることがあれば教えてください。

腸脛靱帯炎ではランニングフォームではとくに膝が内側にはいるニーインを防ぐのが重要です。そのためには中臀筋、大臀筋の働きが重要で、こちらが使えないと、大腿筋膜張筋が頑張りすぎて、腸脛靱帯に負担がかかる原因になります。

シューズ選びのポイントはありますか?

硬いシューズは腸脛靱帯炎のリスクファクターの一つとして挙げられています。また、内反膝(O脚)や扁平足などの下肢アライメント異常は腸脛靱帯炎の原因になり得ます。そのため、ご自身の足のアライメントを修正するようなインソールやシューズを選ぶことが推奨されます。

ランニングで膝を痛めてしまいました。何日くらい休むべきですか?

痛みを悪化させないためには休むことが必要です。しかし、疾患や重症度によって必要な休養期間は異なります。

例えば、腸脛靱帯炎はオーバーユースが原因であり、症状があるなら安静にすることが必要です。ジャンパー膝も「使いすぎ」が原因であり、痛みが強い場合は休むことが推奨されます。

休む期間については、自己判断せずに専門の医療機関で評価してもらい、競技への復帰時期を指示してもらうことが望ましいです。もし痛みが長引いている(半年など)場合は、重症化している可能性があるため、速やかに専門医を受診してください。

ランニングで膝を痛め、症状が長引いている方へ

ランニングによって生じる膝の痛みは、適切な休養やストレッチ、薬の服用などによって数週間で改善することが多いです。

しかし、その痛みの背景には、鵞足炎や腸脛靱帯炎、膝蓋腱炎など、ランニングによって起こりやすい疾患が隠れているかもしれません。

そして、すでに整形外科で治療を受けたにもかかわらず、なかなか良くならない、原因がわからない等、不安を感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

治療を受けているのに痛みが治らない、あるいは痛みがぶり返す場合、現在受けている治療が「痛みの原因」に正しくアプローチできていない可能性があります。これらの慢性的な痛みの原因は、腱や関節の周りに異常に増えてしまった「余計な血管、モヤモヤ血管」とそれに伴って増えた神経であることがわかっています。

当院では、「どこに行っても治らない」「長く続く原因不明の痛み」への対応を専門的に行っています。ぜひお気軽にお問い合わせください。

著者プロフィール

澁谷 真彦
澁谷 真彦院長
オクノクリニック神戸三宮院、宮崎治療院院長。循環機器内科専門医。

医学部卒業後、循環器内科医として心臓血管カテーテル治療に従事。2012年11月~2014年10月アメリカSkirball Center for Innovation (ニューヨーク州、血管内治療デバイス研究施設)に研究留学。2016年3月大学院博士課程修了 研究テーマ「冠動脈ステント留置後の病理組織と光干渉断層法の画像の比較について」。