慢性痛治療の専門医による痛みと身体のQ&A

帯状疱疹後神経痛(PHN)

Q:帯状疱疹後神経痛と診断されました。どのような病気ですか?

帯状疱疹後神経痛は、帯状疱疹のあとに生じる合併症(何かの病気と一緒に起きる症状のこと)のうちで最も頻繁にみられるものです。皮疹とともに皮膚や神経に影響が現れ、皮疹が治癒した後に遷延する、焼けるような痛みが特徴です。

頻度は高く、帯状疱疹にかかった人の5%~20%に合併するとされています。特に60~65歳以上の方では20%、80歳以上の方では30%以上に発症するとされ、年齢が高くなると罹りやすくなります。根本的な治療法はないとされていますが、後述するように新しい治療法も試みられています。時間とともに症状が改善される方が多いです。

英語ではPostherpetic neuralgia(PHN)と呼びます。

治療としては、単一の治療だけを受けるのでなく、複数の治療を組み合わせることが一般的です。

Q:帯状疱疹後神経痛では、どのような症状がでますか?

帯状疱疹によって皮疹が生じた領域に痛みが生じます。体幹部に多く、ほとんどの場合は片側のみに生じます。3か月ないしそれ以上続く痛みであり、焼けるような痛み、刺すような痛み、たたかれたような痛み、深部の痛み、かゆみ、しびれなどと感じることが多いです。

また、通常は疼痛刺激とならないような、触る・撫でるといったわずかな刺激だけでも痛みを感じる状態(アロディニアと呼ばれます)も見られます。

Q:帯状疱疹後神経痛の原因は何ですか?なぜ帯状疱疹後神経痛になってしまうのでしょうか?

まずは、そのもととなる「帯状疱疹」になってしまう原因についてご説明します。帯状疱疹のウイルスは多くの方は子供のころにかかります。そのあとに、ウイルスはいなくならずに、身体の中の一部(神経節と呼ばれる部位)に潜伏しています。加齢やストレスなどによる免疫力の低下に伴い、潜伏していたウイルスが活性化して体幹部などの部位に帯状の皮疹(皮膚の炎症)を生じさせることで帯状疱疹にかかります。日本人では80歳までに3人に1人が帯状疱疹にかかるとされています。

帯状疱疹が起きた際に、皮膚や神経がダメージを受け、炎症が起きると考えられています。炎症が起きた神経は、正常の活動ができなくなり、異常な興奮伝達が生じてしまうことで、強い痛みが生じるのが帯状疱疹後神経痛の病態と考えられています。

ただし、帯状疱疹になってもその後に神経痛に至らないことも多いため、なぜ帯状疱疹後神経痛になる人とならない人がいるのかは解明されていません。

これまでに分かっているのは、発端となる帯状疱疹が生じた際に、72時間(3日)以内に抗ウイルス薬の治療を開始すると帯状疱疹後神経痛になりにくいことが知られています。反対に言うと、発症してから治療開始までが遅れると、帯状疱疹後神経痛になりやすいと言えます。

リスク因子(この要素を持っていると帯状疱疹後神経痛になりやすい)としては
・50歳以上
・発症当時の帯状疱疹の症状(痛みや皮疹)が重度であった
・糖尿病などの他の合併症がある
・体幹部や顔面に皮疹ができた
・帯状疱疹の発症から抗ウイルス薬の投与までに72時間以上経過した

などが挙げられます。

Q:帯状疱疹後神経痛を予防する方法はありますか?

帯状疱疹が疑われた際に、できるだけ早く病院を受診し治療を開始することが重要です。

また、帯状疱疹そのものの発症を予防するために、帯状疱疹ウイルスのワクチン接種が50歳以上の方に行われています。ワクチンを接種することで帯状疱疹ウイルスに対する免疫力を高めて、帯状疱疹の発症を予防する、もしくはかかったとしても軽症で済ませることができると報告されています。

高齢になると帯状疱疹にかかりやすくなることから、ワクチン接種が推奨されているのは50歳以上の方です。

Q:帯状疱疹後神経痛はどのように診断しますか?

特別な検査は特に必要としないことが多いです。病歴を聴取し帯状疱疹の皮疹が生じた部位に痛みが出ていることを医師が確認します。皮膚に触れて痛みが出ている範囲を把握することもあります。

Q:帯状疱疹後神経痛はどれくらいの期間、痛みがつづきますか?

帯状疱疹後神経痛にかかった人のうち、1,2か月で症状が落ち着く人が多いと報告されていますが、3分の1の人は3か月以上づくとされ、5分の1の人は1年以上続く、という統計が出ています。3か月以上続く人は、発症の当初から痛みが強いことが知られています。

帯状疱疹後神経痛になり1年が経過します。今までにいろんな病院を受診しましたが全く改善していません。何か良い治療法はありますか?

帯状疱疹後神経痛では、皮膚の部分や、神経の周りに強い炎症が起きてしまい、それが痛みの原因になっていることがほとんどです。

このような炎症が生じた部位には、瘢痕(はんこん)という組織が残ります。瘢痕とは、火災が起きたあとの焼け跡のようなもので、血管と神経が混ざりあった組織だと考えられています。

最近になって、この瘢痕の中にできた余計な血管と神経が原因で、過敏な状態となっていることがわかりました。また、この余計な血管を減らしてあげることで、今までに改善しなかった帯状疱疹後神経痛の症状が緩和されることがわかってきました。

具体的にはカテーテル治療と呼ばれる方法で、痛みの部位にできた余計な血管を減らし、正常にする方法です。入院治療は必要なく、日帰り治療が可能です。

詳しくはこちらの治療実例のページを参考にしてください。

帯状疱疹後神経痛へのカテーテル治療実例

また、異常な血管へのカテーテル治療について詳しく知りたい方はこちらのページ「運動器カテーテル治療とは?」も参考にしてください。

Q:帯状疱疹後神経痛ですが、発症する場所としてはどの部位の頻度が高いですか?私は顔に痛みがあるのですが、顔の発症は珍しいですか?

帯状疱疹後神経痛に移行しやすい場所があります。片側のあばらや脇腹などの体幹部(胸髄神経由来)が最も多く、次いで顔(三叉神経由来)が帯状疱疹後神経痛に移行しやすい部位です。このため顔面部の発症も珍しくありません。

Q:帯状疱疹後神経痛にかかってしまいました。症状を和らげるために自分でできるケア方法はありますか?

症状を完全に制御することは難しいですが、和らげるために以下のようなことができます。

1.皮膚への刺激が比較的少ない、綿や絹でできた衣類を着用することで、皮膚刺激が少なくなり症状がやわらげられます。
2.冷却剤(アイスパック)を使うことで症状が和らぐと感じる人もいらっしゃいます。

Q:帯状疱疹後神経痛への外用薬(塗り薬・湿布)にはどのようなものがありますか?

リドカインという局所麻酔剤を含んだクリームや塗り薬があります。リドカイン軟膏や、キシロ軟膏などとして販売や処方がなされています。またよく知られている湿布のサロンパスのように冷感を感じるような湿布が用いられることもあります。

Q:帯状疱疹後神経痛への飲み薬にはどのようなものがありますか?

帯状疱疹後神経痛への確立された治療薬(すべての人に効果が得られる薬)はありません。効果には個人差がありますが、以下のような薬剤が用いられています。

1.抗てんかん薬
てんかんの治療薬は、てんかん発作を抑えるだけでなく、神経の異常な興奮全般を抑制する作用があるため、帯状疱疹後神経痛にも一定の効果が期待できます。推奨されているのは、リリカやガバペンといった神経の異常興奮を抑制するための薬剤が挙げられます。

2.抗うつ薬
人間の脳には痛みの信号を抑える働きがあるセロトニンという物質があり、この物質が脳で増えると、脳で感じる痛みの信号が弱まります。うつ病もセロトニンが減ってしまう病気のため、うつ病のお薬は痛みにも効果的です。サインバルタといったお薬が挙げられます。

3.オピオイド
オピオイドとはいわゆる医療用の麻薬の一種で、一般的なものとしてはトラマールあるいはトラムセットと呼ばれる薬剤があります。

帯状疱疹後神経痛では内服薬で完全に治るわけではありませんが、痛みを緩和することにより、症状が軽減されることで、痛みへの過敏さが和らぎ、それにより痛み刺激自体も少なくなっていくことが知られています。

Q:帯状疱疹後神経痛に効果のある漢方薬はありますか?

帯状庖疹後神経痛に対する漢方薬の有効性を示す大規模な臨床試験は現在のところ存在しません。このためエビデンスレベル(科学的根拠の信頼性)は高くないのは事実ですが、漢方薬の有効性を示す症例報告は蓄積されています。

具体的には桂枝加市附湯、補中益気湯や抑肝散などである程度の鎮痛効果が得られたとする報告があります。

Q:帯状疱疹後神経痛に対して、神経ブロックを継続しています。神経ブロックはどのくらい打つと効きますか?

急性期の帯状疱疹に伴う痛みに対する神経ブロックとは異なり帯状疱疹後神経痛に対する神経ブロックの効果を示す報告は少ないです。このため繰り返してもどんどんと治癒していくというものではなく、一時的な効果しか期待できない可能性があります。患者さんの希望に応じて施行されているのが現状だと思われますが、副作用の可能性もあるため、期間にして1,2か月、回数としては4回ほど試してみて効果が持続しないなら、むやみに反復しないほうが望ましいです。

Q:帯状疱疹後神経痛になって2年が経過します。神経ブロックや飲み薬など様々試しましたが効果がありません。何かほかに良い治療法はありますか?

帯状疱疹後神経痛は既存の治療の効果が十分に得られないことが知られており、新しい治療の開発が望まれている疾患です。

前述のように、帯状疱疹後神経痛の患部には、瘢痕(はんこん)という、余計にできた血管と神経が増えていることが知られています。この余計にできた血管と神経がふれることで、少しの刺激でも痛みが出てしまうような過敏な状態ができあがります。

最近では、この余計にできた血管を標的としたカテーテル治療によって、従来治療では改善しなかった人から効果が得られています。詳しくはこちらの治療実例のページも参考にしてください。

帯状疱疹後神経痛へのカテーテル治療実例

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痛みをもたらす病気・けが

執筆 奥野祐次(医師)

医師 奥野祐次

医療法人社団 祐優会 総院長
オクノクリニック 院長
慶応義塾大学医学部卒業
慶応義塾大学医学部医学研究科修了

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