肘の痛みの原因や症状、効果的な治療法や予防策は?
目次
日常生活やスポーツで肘を使うことは避けられません。ふとした瞬間に感じる違和感や痛みを軽視して放置すると、慢性的な不調や日常生活への影響を引き起こす可能性があります。肘の痛みの主な原因や症状、効果的な予防策や治療法について詳しく解説します。
テニス肘(上腕骨外側上顆炎)
テニス肘(上腕骨外側上顆炎)は、肘の外側にある「上腕骨外側上顆」の部位が過敏状態になり、スポーツや日常生活での反復動作により痛みが生じる疾患です。
名前に「テニス」と付いているため、テニスプレーヤーだけが発症するイメージがありますが、実際にはゴルフや釣り、重い物を持つ仕事、さらには日常の家事動作や赤ん坊の抱っこなど、肘から前腕に負荷が繰り返しかかる行為であれば誰にでも起こり得ます。
痛みは軽度のうちは数週間で自然に治ることもありますが、いったん慢性化すると治癒までに長い時間を要する場合も少なくありません。特に45歳前後から患者が増える傾向があります。
症状
物を握る・持ち上げる動作で痛む
テニス肘の症状は、主に肘の外側付近(上腕骨外側上顆という場所)の痛みや違和感としてあらわれます。
日常動作では、ペットボトルのふたを開ける、ドアノブをひねる、あるいはやかんやフライパンなど重い物を持ち上げる際に鋭い痛みを感じることが多いのが特徴です。さらに、手首を後方(背側)にそらすような動きでも痛みが誘発されやすく、雑巾を絞る・タオルを強くねじる動作で症状が明確に出るケースが珍しくありません。
痛みは軽度のうちは「張り感」や「鈍痛」のように感じられますが、進行すると強く刺すような痛みに変わり、物を握る動作さえ困難になってしまうことがあります。
肘の腫れは目立たないが、押すと鋭い痛みが出やすい
肘そのものの腫れや赤みは目立たない場合が多いため、外観上はほぼ正常に見えてしまうのもやっかいな点です。なかには朝起きたときに手や前腕がだるく、肘の外側を押すと鋭い痛みが走るというパターンもあります。
痛みが慢性化してしまうと、肘から前腕部までの筋力が低下しやすく、日常生活でも「ものを落としやすくなる」「指先に力が入りにくい」といった支障が出ることがあります。
原因
繰り返しの負担と加齢が相乗して発症
テニス肘の最も大きな原因は、肘から前腕にかけての筋肉や腱が、同じ動作を繰り返すうちに微小損傷を起こし、炎症や異常血管の増殖につながってしまうことです。テニスやゴルフのようにスイングを繰り返すスポーツだけでなく、釣り、家事、乳児の抱っこ、さらにはパソコン業務でキーボードやマウスを長時間操作している場合でも発症しやすくなります。また、加齢により筋力や腱の弾力が低下すると、45歳前後から急にテニス肘を発症しやすくなるという報告があります。
モヤモヤ血管の形成が痛みを長引かせる
最近の研究では、肘の外側付近に「モヤモヤ血管」と呼ばれる異常な血管ができ、そこに神経線維が伴走して痛みを増幅させるメカニズムが注目されています。
中年以降は血管を抑制する因子が減り、こうした異常血管が消えにくい状況が続くことで痛みが長引くのです。つまりテニス肘は、腱の炎症が起こっているのですが、それが維持されるのは血管と神経の増殖という複合的な要因が絡んでいるためです、一度こじらせると治りにくいという特徴をもっています。
診断
徒手検査(トムゼンテストなど)で痛みが増すかを確認
テニス肘の診断では、まず医師が肘の外側を触診し、「痛むポイントはどこか」を確認します。次に、手首を反らすように力を入れてもらい、肘外側の痛みが増すかどうかをみる「トムゼンテスト」や、前腕伸筋群に負荷をかける「中指伸展テスト」などが行われます。これらの徒手検査だけでも高い確率でテニス肘を疑うことが可能です。
トムゼンテスト
中指伸展テスト
ただ、症状が似た疾患としては、肘部管症候群や頸椎由来の神経症状が考えられるため、レントゲンやMRIで骨や神経の異常を除外することも大切です。
画像検査では異常が出ない場合もあり、専門医の診断が重要
レントゲンでは骨に明らかな変形がなければ「問題なし」となるケースが多いのですが、実際にはモヤモヤ血管はうつりません。近年は超音波検査(エコー)で前腕伸筋腱の炎症や腱の肥厚を確認する方法が普及しており、特に慢性的な痛みに対する原因究明には有用です。もし複数の検査を受けても明確な診断がつかず痛みが続くようなら、モヤモヤ血管の有無を診断できる専門医への相談がおすすめです。
予防
繰り返し動作の休息とストレッチ
テニス肘を予防するには、肘から前腕にかけての筋肉が過度の負担を受けないようにすることが基本です。スポーツや日常生活で同じ動作を繰り返す場合、合間に小まめな休憩やストレッチを取り入れ、筋肉や腱をリラックスさせると効果的です。テニスなどのラケット競技では、グリップの太さやフォームを見直すだけでも負担が大きく変わります。
軽めの筋力強化と栄養管理で負担を軽減
一定年齢を過ぎると筋力や柔軟性が下がりやすいため、軽めのトレーニングやダンベル体操を習慣化し、前腕や握力を少しずつ鍛えると発症率の低下につながります。
さらに、栄養面でたんぱく質やビタミンB群、鉄などをしっかり摂取することも組織のメンテナンスに役立つとされ、オーソモレキュラーの専門家は鉄不足やマグネシウム欠乏を補正すると筋肉の疲労回復が早まり、慢性的な腱の炎症を防ぐ一助になると指摘しています。こうした多面的な予防策を組み合わせることで、テニス肘になるリスクを大幅に下げることができるでしょう。
注意点
痛みが出たら無理せず負荷を調整
いったん痛みが出始めたら、痛む動作をなるべく避け、軽い作業に切り替えるなど負荷を調整することが重要です。特に仕事や育児で「休む暇などない」という場合は、エルボーバンドやタオルを巻くなどの簡易サポートを活用し、痛みの部位にかかるストレスを軽減してください。
治療法
安静、痛み止めの内服がまずは第一選択。ステロイド注射は厳禁
テニス肘の治療は、症状の軽重によって段階的に選択肢が異なります。
- 軽度・・・
安静やアイシング、患部を固定するエルボーバンドの使用、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の内服や湿布などの保存療法で回復することが多いです。 - 中等度以上・・・
理学療法(リハビリ)で筋力バランスを整える、腱や筋を補強する特定のエクササイズを行うなど、積極的な介入が必要になります。
ステロイド注射は一時的には効果があるものの、組織を脆弱化させる懸念があります。一時的な改善は見込めますが、長期的に見ると悪化しますので、ステロイド注射はおすすめしません。
長引く痛みには動注治療やカテーテル治療も選択肢
近年では、モヤモヤ血管への「動注治療」や「カテーテル治療」という新しい方法が注目されており、長引く痛みを根本的に改善する可能性があります。
手術
手術(外科的切開)も存在しますが、侵襲が大きく、術後に残存痛が生じるリスクもあるため、最終手段です。
マッサージ、ストレッチなど
テニス肘のセルフケアでは、痛みが出ている外側の筋肉(主に前腕伸筋群)を適度にほぐすマッサージやストレッチが有効です。
マッサージは強すぎず、痛みのない範囲で行う
マッサージの場合、肘から手首に向かってやさしく圧をかけるようにし、筋肉をほぐすイメージで行います。強く押しすぎると逆に炎症を悪化させる可能性があるため、痛みが出ない程度のソフトなタッチを心がけてください。
ストレッチは朝や休憩時に数回行うだけでも効果的
ストレッチとしては、腕を前に伸ばし手のひらを下に向けた状態で、反対の手を使って手首をゆっくり曲げる方法が代表的です。15秒間キープして1日数回行い、反対に手のひらを上にして同様の伸張を加えると、異なる筋線維を効果的に伸ばすことができます。
これらのストレッチは、朝起きたときや仕事の合間など、数分あればできるので日々の習慣に取り入れるとよいでしょう。
ゴルフ肘(上腕骨内側上顆炎)
上腕骨内側上顆炎は、肘の内側にある「上腕骨内側上顆」と呼ばれる骨の突起部分を中心に痛みが生じる疾患で、通称「ゴルフ肘」とも呼ばれます。
症状
重い物を持ち上げる・手首を強く曲げる・ひねる動作で痛む
重い物を持ち上げるときや、手首を強く曲げる・ひねる動作をするときに肘の内側がジンジンと痛むことが多いです。
日常生活ではペットボトルのフタを開ける、雑巾をしぼるなど手首を回内・屈曲させる動きで痛みを訴える例がみられます。痛みの程度は軽度の違和感から鋭い痛みに及ぶことがあり、放置すると症状が慢性化して動かすだけで痛む状態になることがあります。長時間のパソコン作業など、軽い負担を繰り返すだけでも痛みが蓄積することがあるため要注意です。
原因
大きな原因の一つは、手首や前腕の屈筋群に反復的な負担がかかることにあります。ゴルフや野球などのスポーツはもちろん、仕事や家事での持続的な前腕の使いすぎも発症リスクを高めます。特に中年以降になると腱や靭帯の弾力が衰えやすく、小さなストレスでも腱付着部に微細な損傷や炎症が生じ、それが慢性化して痛みを引き起こすと考えられます
診断
肘の内側に圧痛があるかどうか、手関節を曲げたときに痛みが増強することを確認します。X線やMRIでは大きな変形がないことも多いですが、骨端部に引っ張りによる小さな変化が見られる場合もあります。超音波検査で腱付着部の炎症や血管増生を確認することもあり、痛みが強い場合には他の肘疾患(肘部管症候群など)を除外することも重要となります。
予防
使いすぎを避ける
原因となる使いすぎを避けることが第一です。ゴルフやテニスを含む多くのスポーツでは、フォームを改善して前腕へかかる不必要な力を減らすことが予防のカギとされます。強い握力が必要な作業や家事の場合は、道具のグリップを太くしたり滑り止めを使ったりして、肘の内側に余計なストレスをかけないよう工夫しましょう。ウォーミングアップで前腕の屈筋群を伸ばしておくと、腱や靭帯への急激な負荷が減り、悪化のリスクが下がります。
注意点
単なる腱の炎症ではない場合も
痛みが長引いてしまう場合、単に腱の炎症だけでなく、モヤモヤ血管と神経線維が腱付着部周囲に増殖していることがあり、繰り返す注射やシップだけでは改善しないことがあります。症状が続くまま同じ動作を強行すると、炎症が進むと同時に筋力や関節可動域が落ちるケースもあるため、痛みが顕著になったら早めに整形外科などの専門医を受診するのが望ましいです。
また、糖尿病や甲状腺機能異常など代謝面の問題があると治りが遅くなる報告もあり、全身の健康状態を見直すことが回復促進につながる場合があります。
進行
早期の対処が大切
軽症の段階では、動作のたびに少しジワッとする痛みを感じる程度ですが、痛いのを我慢して使い続けると慢性化し、日常生活のささいな動作でも強い痛みを感じるようになることがあります。さらに重症化すると腱付着部の微小断裂や骨膜の刺激などによって、夜間痛や安静時痛を伴うほどになる例も見られます。
上腕骨内側上顆炎が進行し過ぎると保存療法の効果が出にくくなり、完治までに長期間要する可能性があるため、早期の対処が大切です。
治療法
保存療法
保存療法としては、まず痛みを誘発する動作の制限や、前腕屈筋群への負荷を和らげるサポーター・バンドの使用が一般的です。
症状が強い場合はステロイド注射やヒアルロン酸注射が行われることがありますが、「モヤモヤ血管」が原因の痛みには根本的な効果が得られにくいケースもあります。
手術
手術療法としては、切開して腱付着部を剥がす方法や関節鏡下のデブリドマンなどが選択肢としてはあります。
マッサージ、ストレッチなど
ストレッチ
前腕の屈筋群をゆっくり伸ばすストレッチは、内側上顆部の負担を緩和するうえで有効です。
たとえば肘を伸ばし、手のひらを上向きにして指先を下へ曲げると前腕屈筋が伸びるので、痛みのない範囲で10~15秒保持しましょう。
前腕の屈筋群を伸ばすストレッチ
マッサージ
マッサージは強く揉むのではなく、やや広めの範囲を手のひら全体でさするように行うと血流を改善しやすくなります。痛みが強い場合は専門家の指導を受け、痛みを悪化させない範囲で行うことが大切です。
適度なストレッチやマッサージで筋腱の柔軟性を保つことが、再発予防にも役立つとされており、スポーツ復帰を目指す方は日々のルーティンに取り入れるとよいでしょう。
変形性肘関節症
症状
変形性肘関節症では、肘の内側・外側にかかわらず関節周辺に痛みや違和感が生じやすくなります。特に動かし始めや、重い物を持ち上げるときに「うずくような痛み」や「軋むような感覚」がみられ、症状が進むと肘を完全に伸ばしたり曲げたりする際に引っかかる感じや可動域の制限を自覚することがあります。また、肘が腫れたり、水がたまってしまう(関節水腫)場合も少なくありません。
痛みが軽度のうちは「疲労かな」と放置されがちですが、変形性肘関節症が進行すると、腕を回旋させる動作(ドアノブを回す、ペットボトルのふたを開けるなど)でズキンと痛みが走ることが増え、日常生活の質が大きく低下する可能性があります。さらに、肘関節の変形に伴って神経が圧迫されるケースもあり、手指にしびれや力の入りにくさを感じるようになるケースも報告されています。
こうした症状は徐々に進行することが多く、ある日突然「物を持ちにくくなった」「肘が伸ばせなくなった」という形で気づく場合もあるため、早期の発見と対応が重要です。
原因
変形性肘関節症は、肘の関節面を覆う軟骨が加齢や過度な使用によって徐々にすり減り、骨同士が直接こすれ合うようになることで発症します。
主なきっかけとしては、野球やゴルフなどの反復動作や重量物を扱う仕事、あるいは過去の肘関節のケガ(骨折など)が挙げられます。加齢により軟骨細胞の再生能力が衰えると、わずかな負荷でも軟骨は傷つきやすくなるため、中年以降に発症率が高まるのが特徴です。
さらに、肥満や糖尿病、栄養不足(ビタミンD・ビタミンC・カルシウムなど)の影響で、軟骨や骨の修復力が低下すると一層進行しやすくなります。近年、慢性炎症や過剰な酸化ストレスが関節変性に及ぼす影響が研究されており、栄養と関節代謝の関連も大きく注目されています。
診断
変形性肘関節症の診断は、まず医師が肘の外観や可動域をチェックし、曲げ伸ばしの際に痛みや違和感があるかを確認するところから始まります。レントゲンが診断のポイントになり、軟骨のすり減りや骨棘(骨のとげ)を確認、これにより診断します。また、MRIは軟骨や骨、周囲の軟部組織や神経の状態をより詳細に評価するうえで有用です。
予防
変形性肘関節症の予防の要点は、肘関節への過度な負担を避けつつ、筋力と柔軟性を適度に維持することにあります。具体的には、重い物を持ち上げるときに両腕をうまく使い、肘だけでなく肩や膝など全身の筋肉を連動させて負荷を分散する動作を心がけると、肘へのストレスを軽減できます。
スポーツを行う場合は、ウォーミングアップとクールダウンで前腕や上腕のストレッチを取り入れ、筋肉・腱を柔軟な状態にすることが効果的です。もし肘に少しでも違和感を覚えたら、早めに休息をとるか患部を冷やすなど初期対応をしっかり行うことで、後々の重症化を防ぐことが可能です。
注意点
変形性肘関節症は症状がゆっくり進行するため、違和感を抱えたまま日常生活を送りがちです。しかし、痛みを我慢して重労働やハードなスポーツを続けると、軟骨の摩耗が急速に進む恐れがあります。痛みが強まってきたら、なるべく無理な動作を避け、テーピングやエルボーバンドなどで保護しながら動くことを検討してください。また、痛みに慣れてしまうと関節可動域の低下に気づきにくくなり、肘をかばう姿勢が習慣化して他の部位(肩、手首など)に負担をかける二次的なトラブルも起こりやすくなります。
進行
早めの相談が大切
- 初期・・・
変形性肘関節症の進行は段階的で、初期には「ちょっと肘が疲れやすい」「朝起きると肘がこわばる」程度で済むことが多いです。 - 中期・・・
中期になると、肘を最大に曲げたり伸ばしたりした際に痛みや引っかかりを強く感じ、日常動作の一部が困難になる場合が増えます。この時期にレントゲンを撮ると骨棘の形成や軟骨のすり減りがはっきり映ることがしばしばあります。 - 重症期・・・
さらに進んで重症期に入ると、肘の変形が目立ち、可動域が大きく制限されるだけでなく、神経が圧迫されて手指にしびれや筋力低下が出るケースもあります。
このように放置すると痛みだけでなく、関節の歪みにより腕の動作全般に影響が及び、最悪の場合は手術が必要になることも少なくありません。初期の段階で治療介入すれば、軟骨の損傷や骨の変形を遅らせることができるので、少しでも肘の違和感や可動域の低下を感じたら早めに専門医へ相談するのが理想です。
治療法
変形性肘関節症の治療は、保存療法と手術療法に大きく分かれます。
保存療法
初期~中期の軽~中等度の症例では、まず痛みや炎症を抑える目的でNSAIDsなどの鎮痛薬や注射を用いる保存的療法が中心となります。リハビリではストレッチや筋力強化を行い、肩や手首の動きも含めて総合的に改善を図ることが重要です。
手術
重症になり肘の変形や強い可動域制限が生じた場合には、骨切り術や人工関節置換術などの手術を検討する段階に入ります。ただし、手術は回復に一定の期間を要し、術後のリハビリも欠かせないため、慎重な選択が必要です。
肘頭滑液包炎
肘頭滑液包炎は、肘の先端(肘頭)にある滑液包という小さな袋状の組織が炎症を起こす病気です。
症状
初期の段階では肘頭部分が腫れ、軽い痛みや違和感を覚える程度ですが、進行すると腫れが大きくなり、皮膚を通してコブのように見えることも少なくありません。痛みは肘をついた姿勢や、机に肘をつけて体重をかけたときに強まるのが特徴です。
また、腫れが著しくなると夜間にうずくような痛みが出て眠りにくくなることもあります。場合によっては膿を伴う感染症を併発し、皮膚が赤く熱を帯び、発熱など全身症状を伴うケースも見られます。
原因
肘頭滑液包炎の原因は、大きく分けて「慢性的な刺激や圧迫」と「細菌感染」の二つが考えられます。
慢性的な刺激や圧迫
パソコン作業や読書の際に肘をつき続ける癖、工場や介護現場などで肘を頻繁に使う仕事をしている人などが、同じ部分に繰り返し負荷をかけると滑液包が炎症を起こすことがあります。
細菌感染
ケガや傷口から細菌が入り込み、化膿するタイプの滑液包炎もあり、この場合は急激な痛みと発熱を伴いやすく、糖尿病や免疫力の低下がある方は感染が重症化しやすいため、より注意が必要です。
診断
診断では、腫れの具合や痛む部位を視診・触診で確認し、レントゲンや超音波検査などで腫れの内部状態(液体の溜まり方や関節の骨の変形の有無)をチェックします。感染が疑われる場合、針を刺して滑液を一部採取し、細菌培養や白血球数の測定を行うこともあります。
慢性化した肘頭滑液包炎の場合には、レントゲンで骨の突出や変形がないかを調べることで、他の変形性関節症や腫瘍との鑑別診断を行います。腫れが顕著で熱感や発熱を伴う場合は、感染のコントロールが最優先となります。
予防
日常生活
予防策としては、日常動作や仕事環境で肘を長時間強く圧迫しないように工夫することが第一です。机に肘をつく癖がある方は肘置きやクッションなどを活用し、前腕全体で体重を支える姿勢をとるとよいでしょう。また、作業が長時間にわたる場合は、こまめに休憩を入れて肘を伸ばし、同じ部位に負荷がかからないようにします。
スポーツ
スポーツでの過度な練習や仕事に伴う繰り返し動作が避けられない場合は、手首や肩の動きを連動させて肘だけに負担が集中しないよう身体の使い方を見直すことが大切です。
細菌感染を防ぐ
傷口からの細菌感染を防ぐために、皮膚を清潔に保つ習慣や傷ができた際に早めに消毒をするなどの対策も取りましょう。
注意点
肘頭滑液包炎の痛みが軽度であっても、腫れを伴う場合は早期に対処するほうが慢性化を防げます。特に感染による化膿性の場合、痛みが急速に増して皮膚が赤く腫れ上がるほか、発熱など全身症状が出ることがあるため要注意です。
仕事やスポーツで肘への負担を減らせない方は、サポーターやパッドを装着して衝撃を和らげる工夫をしながら、炎症が長引くようであれば専門医を受診してください。
進行
肘頭滑液包炎は、初期段階では「なんとなく腫れている」「肘をつくと少し痛い」程度ですが、慢性的に刺激を加え続けると滑液包が肥厚して大きく盛り上がるケースがあります。慢性炎症が続く場合、滑液包内部に石灰化が生じたり、組織が繊維化してしまったりすることも報告されており、一度そこまで進むと保存的な治療だけでは痛みが十分に軽快しない場合もあります。
繰り返す炎症が周囲組織や骨に影響を及ぼすと、可動域の制限や変形性関節症を併発するリスクも高まるため、早めの対処が重要です。
治療法
安静
治療の基本は安静と患部の保護です。軽症のうちは、肘をつかないようクッションを使うなどして炎症を静めるとともに、アイシングや消炎鎮痛薬で症状の進行を抑えます。
治療・手術
滑液包の腫れが顕著で痛みが強い際には、注射で溜まった液を抜いたりステロイドを局所注射したりする方法もありますが、繰り返し行うと組織の弱化や再発リスクが増えるため注意が必要です。慢性期や再発を繰り返す重症例では、滑液包そのものを切除する外科手術が検討されるケースもあります。
マッサージ、ストレッチ
肘頭滑液包炎の場合、患部の直接的なマッサージは炎症を悪化させる恐れがあるため、基本的には周囲の筋肉をやさしくほぐす程度にとどめます。具体的には、前腕伸筋・屈筋群、二の腕(上腕二頭筋・三頭筋)の緊張を緩めるマッサージやストレッチが効果的です。また、肩甲骨まわりのストレッチも取り入れると全体の連動性が改善し、肘への局所的な負担の軽減が期待できます。
ただし、腫れや痛みが強い急性期は安静を優先させ、炎症が落ち着いてから筋肉の柔軟性を回復する目的で無理のない範囲で行うのがポイントです。痛みが増す場合は無理をせず、一度医療機関に相談してください。
肘部管症候群
肘部管症候群は、肘の内側を走る尺骨神経が圧迫や牽引を受けることで起こる疾患です。
症状
典型的な症状としては、小指と薬指にしびれや感覚異常を感じたり、手の細かい動作がぎこちなくなるなどが挙げられます。さらに進行すると、前腕から手の内側にかけてビリッとした電撃痛や筋力低下を覚える場合があり、ペットボトルのフタを開けにくい、パソコン作業でキーボードを打ちづらいといった不便が生じます。
夜間や起床時に指先のしびれが強まるケースもあり、症状が慢性化すると日常生活の質を大きく損ねます。
原因
最も多い原因は、肘関節の内側にある「肘部管」と呼ばれるトンネル状の空間で尺骨神経が繰り返し圧迫されることです。
デスクワークやスマートフォンの長時間使用で肘を曲げたままにすること、肘をついた姿勢、野球投手や体操選手が肘を酷使する動作などが、神経周囲の炎症や圧迫を招く引き金となります。加齢に伴う組織の変性や遺伝的に肘部管が狭い体質も発症リスクを高め、糖尿病などで血管・神経が脆弱化していると一層かかりやすいと報告されています。
診断
まず問診で小指~薬指のしびれや脱力感、肘を曲げたときの感覚異常を確認し、肘内側を軽く叩いて電撃痛が走る「Tinel徴候」があれば肘部管症候群を強く疑います。ほかの肘疾患(上腕骨内側上顆炎)との鑑別も重要です。
予防
肘部管症候群を防ぐポイントは、肘周辺に過度な曲げ伸ばしや長時間の圧迫をかけないことです。特にデスクワークでは、肘を肘掛けやテーブルに強くつける癖があると尺骨神経への負担が増すため、クッションを利用する、こまめに休憩して腕を伸ばすなどの工夫が推奨されます。
注意点
症状が軽度のうちに対策を取れば回復が早い反面、しびれを放置して神経ダメージが長期化すると、握力の低下や指先の精密動作障害など後遺症に発展する可能性があります。
進行
初期段階では軽いしびれや違和感程度ですが、肘を曲げる姿勢が続くほどに症状がしつこくなり、手の小指側の感覚が麻痺に近い状態になることもあります。
重症例では「爪の生え際すら触っている感じがしない」「指先に力が入らない」といった困難を伴い、日常動作に大きく支障をきたすようになります。神経損傷が進むと、リハビリや保存療法に時間がかかり、回復の見込みが下がるため、早期対応が極めて重要です。
治療法
保存療法(軽症の場合)
軽症なら、負担を減らす保存的アプローチが第一選択となります。肘を曲げる動作を控える、就寝時に肘周辺にパッドや装具をつけて神経を圧迫しないようにするなどが基本です。
注射・手術(重症の場合)
症状が強い場合、ステロイド注射やヒアルロン酸注射が用いられることがありますが、炎症は軽減しても圧迫そのものが解消されないと再発しやすいです。経皮的リリース術や内視鏡下リリースなど外科的手術が選択肢となる場合もあり、術後は神経の滑走を高めるリハビリが効果的とされています。
マッサージ、ストレッチ
マッサージ
前腕から手首にかけての筋肉が硬いと尺骨神経にかかるストレスが増えるため、肘の内側付近をやや広めに指圧や軽いマッサージを行うと血行が良くなるケースがあります。
ストレッチ
ストレッチとしては、肘を軽く伸ばした状態で手のひらを外側(小指方向)に回旋し、前腕の内側をゆったりと伸ばす動作が勧められます。痛みが強い場合は無理をせず、理学療法士などの専門家に見てもらうのが望ましいです。
肘内障
症状
肘内障(ちゅうないしょう)は主に小さな子ども(1~4歳前後)に多く起こる、肘の亜脱臼を指します。典型的には、突然子どもの手を引っ張ったり、抱き上げたりした直後に、痛みで腕を動かさなくなるケースがみられます。子どもの腕がダランと下がり、痛みを訴えたり泣き止まなかったりしますが、肘周囲を直接触るときよりも、ひねる動作で強い痛みを表すのが特徴です。
成人の場合は稀ですが、何かの拍子に肘関節がずれて痛みや可動域制限を生じる亜脱臼が“肘内障”という広義で言及されることもあります。
原因
肘内障は、手を引っ張るなどの外力で橈骨(前腕にある2本の骨のうち親指側の骨)の頭部が肘関節から半ば抜けてしまうために発生します。
幼児は骨や靱帯が十分強く固定されていないため、僅かな牽引力でも関節が部分的にずれやすいと考えられています。
実際、子どもの肘内障の発生率は家族内のちょっとした日常動作(手を引いて急に走り出す・抱っこなど)で上昇することが、救急外来での報告でも示されています。
診断
多くの場合、患児が腕を動かさなくなったという保護者の訴えや、発症時の状況(手を引っ張った、急に起こそうとしたなど)から肘内障を疑います。X線を撮影しても明確な骨折像が写らないことが多く、問診と簡単な触診・可動域検査が診断の要になります。
もし骨折や脱臼が強く疑われる場合はX線で除外診断を行い、その他の肘の靱帯損傷などの可能性もあわせて評価されます。
予防
抱っこや手を引くときには、腕を強く引っ張らず、肘や肩に無理な力がかからないように気を配ることが重要です。
幼児が遊んでいる最中に、周囲の大人がうっかり手を強く引いてしまう場面も少なくないため、公園や保育所などで集団活動をする際には子どもに肘内障が起こりうる危険をあらかじめ知っておく必要があります。子どもがしがみついてきたときも、腕をねじりながら引き上げないよう注意すると発生リスクを下げられます。
注意点
肘内障を繰り返す子どもの中には、関節が外れやすい体質(過可動性関節症候群など)を抱えているケースも報告されています。何度も肘内障が起こるようなら、念のため小児整形外科や小児科で精密検査を受け、併存症がないかを確認しておくと安心です。
また、痛みが治まった後も関節が不安定な期間があるため、強い引っ張りやひねり動作を控える配慮が必要となります。
進行
ほとんどの肘内障は迅速かつ適切に整復することで、後遺症を残さずに回復します。しかし、整復されないままにしておくと、関節まわりの軟部組織や靱帯が微妙にずれたまま固まってしまい、肘の可動域や筋力が低下する可能性があります。
稀に、腕を使わない期間が長引くと筋肉が萎縮し、痛みは軽減しても腕全体の機能が戻りにくい例もあるため、早期の診断と整復が欠かせません。
治療法
整復により多くのケースは治ります。具体的には、患児の前腕を少しねじりながら肘を曲げる方法や、伸ばした状態から軽く外旋・屈曲させる方法など、医師や熟練した医療スタッフが行うことで、数秒から数十秒の短い施術で関節が元に戻り、痛みが消えることが一般的です。
まれに一度では整復できない場合もありますが、複数回試しても成功しなければ脱臼や骨折を併発していないか追加検査を行います。
マッサージ、ストレッチなど
肘内障の場合、整復後すぐに日常生活へ復帰できることがほとんどですが、痛みや違和感が残るときは軽めのマッサージやストレッチで関節まわりの血流を改善すると回復が早まる可能性があります。例えば、上腕と前腕の接合部を手のひら全体で優しくさするだけでも、炎症の軽減に役立つとされています。
ストレッチについては、痛みが消失し、医師から許可を得た段階で、肘を軽く伸ばしたり曲げたりする基本的な動作から再開します。無理に捻ったり強い負荷をかけたりは避け、徐々に稼働域を回復させることが肝要です。
野球肘
症状
野球肘は、投球動作を繰り返すことで肘の内側・外側、もしくは後方などに痛みや違和感が生じる症状の総称です。
特にボールを投げる際、リリース時やフォロースルーで肘に鋭い痛みが走ったり、投球後にじんわりとした痛みが続いたりすることがあります。
痛みが進行すると、ボールのコントロールが難しくなるほか、日常生活でも肘を伸ばしきれない、あるいは曲げるときに引っかかる感じがするなどの支障が出ることも珍しくありません。
実際、10代の野球選手を対象にした研究(Fleisig et al., American Journal of Sports Medicine, 2019)では、肘の痛みを訴える選手が増加傾向にあり、早期発見・早期対処の重要性が指摘されています。
原因
野球肘の主な原因は、投球フォームの問題や過度の投球数などによる肘への反復的ストレスです。投球時には肘の内側に牽引力、外側に圧迫力がかかり、ときに後方にも負荷が集中します。
これにより靱帯や軟骨が損傷を起こし、炎症や骨端線(成長期の骨の成長帯)への悪影響が現れることがあります。特に成長期の選手は骨や軟骨が未成熟なため、繰り返される高負荷投球に耐えきれず痛みや変形を引き起こしやすいと報告されています。
診断
診断では、選手の投球歴や痛みの部位・程度を詳細に問診し、肘の内外側の圧痛や可動域制限を調べます。
X線撮影で骨端線の離開や骨棘形成が確認される場合が多いほか、軟骨の状態を確認するためにMRI検査が用いられることもあります。
超音波検査で靱帯の肥厚や損傷を推測するケースも増えており、総合的な画像診断を通じて肘関節内部の状態を把握するのが一般的です。
予防
投球数の制限や適切な休養を設けることが、野球肘の発生を抑えるうえで何よりも大切です。近年、スポーツ医学界では中高生の野球選手に対して「1週間あたりの投球数の上限」を設定するガイドラインが提唱されています(Little League Baseball指針など)。また、投球後のアイシングや軽めのストレッチを欠かさず行い、疲労や炎症を翌日以降に持ち越さないことも有効です。
フォーム修正も重要で、肘や肩に過剰な負荷がかからないようにコーチや理学療法士の指導を受けると、野球肘のリスクを大幅に低減できると報告されています。
注意点
痛みを抱えながら投球を続けると、肘だけでなく肩や手首にも二次的な障害が連鎖して発生しやすくなります。さらに、骨端線が未成熟な年代では「離断性骨軟骨炎」などの重篤な合併症を引き起こす場合があります。
痛みを我慢して出場を継続した結果、手術が必要になるケースも少なくありません。また、投球数の制限を形式的に守っていても、別のポジションで無意識に投球動作を繰り返していると実質的な休養にならないこともあるため、チーム全体で選手の投球状況を把握する意識が重要です。
進行
野球肘を放置すると炎症が慢性化して靱帯の弛緩や骨棘形成が進み、肘関節の可動域が制限される恐れがあります。投球時に負荷がかかった部位の骨端線や軟骨が変性・損傷し、痛みだけでなく“しっくり投げられない”感覚が長引くことも。成長期の選手の場合、無理な投球を重ねるうちに骨や軟骨が変形し、再起までに長期間を要する深刻な状態に至るケースが報告されています。一度進行した軟骨損傷は自然には元通りになりにくいため、痛みを感じた段階での早期対応が非常に重要です。
治療法
基本的には投球の中止や休養が第一選択で、合わせて消炎鎮痛薬や湿布、理学療法などを行います。運動療法では前腕や肩甲骨周囲の筋力強化や柔軟性向上を図り、関節にかかる負荷をバランスよく分散させます。痛みが強い場合には注射やブロック療法が検討される場合もありますが、効果が限定的なケースも多いです。
近年は肘部のモヤモヤ血管を対象としたカテーテル治療・動注治療が行われるケースもあり、靱帯や軟骨に直接アプローチしないで痛みを緩和する方法として注目されています。
明確な骨軟骨の剥離や変形がある場合には、手術で損傷部位を修復・固定することも検討されます。
マッサージ
肘まわりの筋肉(特に前腕伸筋や屈筋、上腕三頭筋)の緊張を軽減するため、痛みが許容できる範囲で軽くほぐすようにマッサージします。腕の外側・内側両面を手のひら全体で円を描くように押すと、血流が改善して炎症を抑えやすくなります。
肩や背中まで含めた広範囲のマッサージを加えると、投球フォームが安定しやすくなるため、チームトレーナーや理学療法士に相談すると良いでしょう。
スマホ肘
スマホ肘は、長時間スマートフォンやタブレットを操作することで肘関節まわりに過度の負担がかかり、痛みやしびれ、だるさなどが生じる症状です。
特に肘の内側や前腕にかけて「じんじんとした痛み」や「ピリピリする感覚」が出ることがあり、手首を曲げたり伸ばしたりすると痛みが強くなる場合もあります。スマートフォンを持つ姿勢をとり続けていると、痛みだけでなく、手のかたさや肩こり、首のハリといった全身的な不快感が連動して現れることも多いです。
原因
スマホ肘の主な原因は、“肘を曲げたまま固定する時間の長さ”です。人間の肘関節は、一定の角度で長時間固定されると血流が滞りやすくなり、筋肉や靱帯に負担がかかります。
さらに、スマートフォンを片手で保持する姿勢では、握る側の前腕に力が入り続けやすく、肘の内側や手首を通る神経に圧迫が加わることがあります。特に上腕骨内側上顆周辺(いわゆるゴルフ肘の部位)や肘部管(尺骨神経が通る経路)に刺激が及ぶと、しびれや痛みが増幅しやすいです。
診断
診断では、まず患者のスマホ・タブレット使用状況(1日に何時間利用するか、どのような姿勢か)を確認したうえで、触診や神経学的検査を行います。肘や前腕を曲げ伸ばししたときの痛みやしびれの程度を調べるほか、Tinel徴候や肘部管症候群との鑑別が必要な場合は超音波検査などで神経の状態を確認することもあります。
痛みやしびれの広がりが手指まで及ぶ場合は、頸椎由来の神経根症状かどうかを区別するためにMRIを用いることもあります。近年では、スマホ肘を疑われる症例が増加していることを受け、医療機関でも「長時間のデバイス操作」が問診に含まれるケースが多くなりました。
予防
予防策としては、まず「使用時間を短くする」ことと「姿勢を変える」ことが重要です。1時間連続でスマホを触る場合でも、10分ごとに腕を下ろして肘を伸ばしたり、両腕を回す運動で血行をよくすると負担が軽減されます。また、机や台などを利用してスマホを置き、手首や肘を過度に曲げずに操作する工夫も有効です。
複数の研究(Kim et al., Ergonomics, 2016 など)では、スマホの位置や角度を高めに設定し、肩から肘にかけての角度を大きくとるほうが腱や神経への負荷が減ると報告されています。
加えて、文字入力など細かい操作を長時間行う際にはタブレット用のスタンドやキーボードを使用するなど、身体にかかる負担を分散させる工夫が推奨されています。
注意点
スマホ肘が軽度の場合、休息やセルフマッサージだけでも症状が改善することがあります。しかし、痛みやしびれが強まってきたら、自己判断で無理を続けるのは避けたほうがよいでしょう。特に、指先や手のひらまでのびるしびれ、夜間に痛みで目が覚めるような症状がある場合は、肘部管症候群や神経炎を発症している可能性があります。そうしたケースでは、早期に整形外科やペインクリニックなどの専門医を受診し、神経の圧迫状況や血管周囲の異常をチェックする必要があります。放置すると、手指の感覚低下や筋力低下につながり、日常生活に支障をきたす恐れがあります。
進行
スマホ肘を放置したまま長時間のスマホ利用や無理な姿勢を続けると、慢性的な炎症や筋緊張が起こり、痛みが広範囲に広がることがあります。前腕~手首にかけての腱や筋肉が徐々に炎症を起こしやすくなり、さらには肘周辺の靱帯や軟部組織に微小損傷が蓄積して腱鞘炎様の症状を誘発するケースも見られます。
重度になると、肘から手指にかけてのしびれやチクチク感が慢性化し、物をつかむ力が低下することもあります。こうした状態が続くと、筋萎縮や神経の過敏化を招き、治療期間が長期におよぶ可能性があるため、早期のアプローチが欠かせません。
治療法
治療の第一歩は、スマホ使用の制限や姿勢の見直しで肘や前腕への負担を減らすことです。軽度の場合は、湿布や消炎鎮痛薬の内服で症状がある程度緩和されることもあります。肘まわりの軽いマッサージやストレッチ、温熱療法などを取り入れると血流が改善し、回復を早めます。
痛みや神経症状が重い場合は、疼痛緩和のためのブロック注射(特に肘部管周辺)を行うこともあります。また、神経が明確に圧迫されている場合には、手術で圧迫部分を開放する方法が選択されることもあります。
最近では、モヤモヤ血管を消失させる動注治療やカテーテル治療が、他の肘疾患同様、有効なアプローチとして検討されるケースも増えています。
マッサージ
肘から前腕にかけての筋肉(特に伸筋群・屈筋群)をやわらかく保つことが大切です。優しく円を描くようにマッサージし、筋肉の緊張をほぐします。特に肘の内側や外側付近が痛みやすい部位なので、痛みが出ない程度の圧で行うと血流が促進されます。
肘に痛みをもたらす病気比較表
疾患名 | 症状 |
テニス肘(上腕骨外側上顆炎) | ・主に肘の外側付近(上腕骨外側上顆という場所)の痛みや違和感 ・重い物を持ち上げる際に鋭い痛み ・軽度のうちは「張り感」や「鈍痛」 ・進行すると強く刺すような痛みに変わり、物を握る動作さえ困難に |
ゴルフ肘(上腕骨内側上顆炎) | ・重い物を持ち上げるときや、手首を強く曲げる・ひねる動作をするときに肘の内側がジンジンと痛む ・痛みの程度は軽度の違和感から鋭い痛みに及ぶことがある ・放置すると症状が慢性化して動かすだけで痛む |
変形性肘関節症 | ・肘の内側・外側にかかわらず関節周辺に痛みや違和感 ・特に動かし始めや、重い物を持ち上げるときに「うずくような痛み」や「軋むような感覚」 ・症状が進むと肘を完全に伸ばしたり曲げたりする際に引っかかる感じや可動域の制限を自覚 ・肘が腫れたり、水がたまってしまう(関節水腫)場合も |
肘頭滑液包炎 | ・初期の段階では肘頭部分が腫れ、軽い痛みや違和感を覚える程度 ・進行すると腫れが大きくなり、皮膚を通してコブのように見えることも ・痛みは肘をついた姿勢や、机に肘をつけて体重をかけたときに強まる |
肘部管症候群 | ・小指と薬指にしびれや感覚異常を感じたり、手の細かい動作がぎこちなくなる ・進行すると、前腕から手の内側にかけてビリッとした電撃痛や筋力低下を覚える場合がある ・夜間や起床時に指先のしびれが強まるケースも |
肘内障 | ・主に小さな子ども(1~4歳前後)に多く起こる、肘の亜脱臼 ・突然子どもの手を引っ張ったり、抱き上げたりした直後に、痛みで腕を動かさなくなるケース |
野球肘 | ・投球動作を繰り返すことで肘の内側・外側、もしくは後方などに痛みや違和感が生じる症状の総称 ・特にボールを投げる際、リリース時やフォロースルーで肘に鋭い痛みが走ったり、投球後にじんわりとした痛みが続いたりする |
スマホ肘 | ・長時間スマートフォンやタブレットを操作することで肘関節まわりに過度の負担がかかり、痛みやしびれ、だるさなどが生じる症状 ・特に肘の内側や前腕にかけて「じんじんとした痛み」や「ピリピリする感覚」 |
肘の痛みQ&A
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肘が痛い場合、何科を受診すればいいですか?また、どのような症状がある場合に受診を検討すべきでしょうか?
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肘が痛い場合は、まずは整形外科の受診がお勧めです。肘の痛みは頻度としては、骨に異常があるよりも腱組織に異常があることが多いです。超音波で異常を診断できますので、整形外科の中でも超音波で診断をしているところを受診するのがお勧めです。 特に特定の動作で強い痛みが出る方は、専門医への受診が望ましいでしょう。
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ひじの痛みが長期間続く場合、どのような治療が効果的ですか?
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湿布や痛み止めなどの保存的な治療で良くならない場合は、体外衝撃波やPRP治療をすすめられることもあるかもしれませんが、確実な治療ではありません。痛みの部位にできたモヤモヤ血管が長引く痛みのことが多いですので、その血管にアプローチする動注治療やカテーテル治療も考慮ください。
テニス肘、ゴルフ肘は、全身の関節の痛みの中でも難しい痛みです。リハビリテーションや、一般的な注射の治療を受けてもなかなか良くならない方、趣味のスポーツが痛みでできずに困っている方、ご相談ください。
著者プロフィール
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オクノクリニック神戸三宮院、宮崎治療院院長。循環機器内科専門医。
医学部卒業後、循環器内科医として心臓血管カテーテル治療に従事。2012年11月~2014年10月アメリカSkirball Center for Innovation (ニューヨーク州、血管内治療デバイス研究施設)に研究留学。2016年3月大学院博士課程修了 研究テーマ「冠動脈ステント留置後の病理組織と光干渉断層法の画像の比較について」。
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