テニスで肩が痛くなった!肩障害の原因や対処法について

「肩が痛くてサーブが打てない」「テニスをしていたら肩が痛くなった」という相談をよくいただきます。テニス選手の痛みの原因として考えられることをご紹介します。

肩は複雑な動きをすることができますが、その動きを支えるのが腱板という筋肉の腱の集まりです。この腱板が損傷すると、肩関節の上腕骨頭が適切な位置に保持されず、動かすときや寝返りを打つときに痛みが生じます。

肩腱板損傷は、特に、腕を頻繁に頭上まで挙げる職業やスポーツ(テニスのサーブや野球など)をする人に多い病気です。

特に頻度が高いのは図で示すような、棘上筋(腱板を構成する筋肉の1つ)の損傷です。

症状

肩の可動域が制限されることがあり、損傷の場所によって特定の動作で痛みが出るのが特徴です。痛みは肩の表面よりも深い部分に感じられます。年齢が40歳を超えるとリスクが増加し、60歳で約25%、70歳では約半数の人が腱板断裂を経験すると報告されています。

原因

肩腱板の断裂は様々な原因で起こりえます。

  • スポーツや仕事による過度の使用
    腕を頭上に挙げる動作を繰り返す仕事やスポーツは腱板断裂のリスクを高めます。例としては、塗装作業や大工仕事、野球、テニスなどがあります。
  • 急激な外傷
    一度の怪我で腱板が断裂することもあります。このタイプの断裂は、範囲が広く、急性期には手術が必要となることもあります。
  • 遺伝的要素
    家族歴がある場合、腱板断裂のリスクが増加することが知られています。

診断方法

MRIを用いて診断が可能です。また、最近は超音波検査の精度も向上しており、これによっても正確な診断が行えます。

腱板損傷の超音波画像

治療法

  • 安静
    特に夜間の痛みが強い場合は、動かすと痛みが悪化することがあるため、安静を保つことが望ましいです。痛みが弱い場合は、筋力低下を防ぐためリハビリテーションが推奨されます。
  • リハビリ
    肩の回旋筋腱板は、4つの筋肉と腱で構成されています。この腱板の一部が損傷している場合、残りの筋肉と腱を強化し、損傷した部分を補います。これにより、上腕骨を関節の適切な位置に保つことができます。肩関節周りの筋肉や軟部組織が硬くなると動きが難しくなります。硬くなった筋肉や組織を対象としたストレッチや、筋緊張を和らげることで肩関節の可動域を改善します。
  • 手術
    腱板の再建、直接皮膚を切開する修復術、腱移植術、肩関節全置換術(人工関節)などがあります。保存的治療を1ヶ月から3ヶ月行っても症状が改善されない場合、特に慢性的な疼痛や活動制限が日常生活に影響を及ぼしている場合は、手術の選択肢が検討されます。手術後のリハビリテーションを含めると、1〜2ヶ月の期間を要することが多いです。

痛みを和らげる方法

腱板損傷に伴う痛みを和らげるためには、肩甲骨や胸郭の動きを改善するトレーニングが重要です。これらの部位の動きが制限されると肩関節に負担がかかり、結果として腱板にも負担が増えます。机や台に手を置き前方に移動させることで肩関節の可動域を広げるトレーニングが有効です。

インピンジメント症候群

インピンジメント症候群とは

腱板が損傷すると炎症を起こし、腫脹します。腱板は骨や他の組織に囲まれた空間内にあり、この空間が狭くなると、肩峰との摩擦が発生します。この摩擦がさらなる炎症を引き起こし、肩峰下の空間を一層狭める悪循環を生じさせます。特に、外転動作をする際に擦れが原因で痛みが生じる、こちら一連のことをインピンジメント症候群と言います。肩峰の変形も、腱板が位置するスペースを狭め、インピンジメントが進行することがあります。

内転・外転

外転動作をする際に擦れが原因で痛みが生じる

原因

水泳、野球、バレーボール、テニスなど、上肢の回旋運動を多用するスポーツをする人にインピンジメント症候群が多く見られます。窓拭きや塗装作業を行う人々や、直接肩に強い衝撃を受ける転落事故を経験した人にも見られます。

症状

腕を頭上に伸ばした時や側方に上げたり下ろしたりする動作、肩の前面の圧痛、疼痛部を下にした時の痛み、夜間の痛みや睡眠障害、背中のポケットに手を入れる動作での痛みなどがあります。これらは数週間から数ヶ月にわたって徐々に悪化することがあります。

診断

問診では、痛みを引き起こす特定の動作の有無や、過去に腕や肩に受けた外傷の有無など病歴を詳しく聴取します。MRIや超音波検査により、腱板の損傷や滑液包の炎症を評価します。肩峰下への局所麻酔薬注射が痛みを軽減する場合、その部位が痛みの原因である可能性が高いと判断されます。

治療法

  • 保存的治療
    目的は痛みの緩和と肩の機能回復です。安静、抗炎症薬の内服、ステロイド注射、そしてリハビリテーションが基本的な治療です。痛みが和らぐにつれて、腱板筋を強化する運動が始められます。また、肩峰下の滑液包にはステロイド注射が施されることがあります。痛みが改善するまで、頻繁に頭上に手を伸ばしたり、背中に手を回す動作は避けるよう指導されます。
  • 手術
    保存的治療で痛みが改善しない場合に検討されます。関節鏡を使用した肩峰減圧術では、腱板にスペースを作るため肩峰の一部を取り除きます。

予後

適切な治療計画に従うことで、患者の約60%が2年以内に改善を経験します。しかし、非外科的治療で十分な改善が見られない場合には手術がすすめられることがあります。

上腕二頭筋腱炎

上腕二頭筋は上腕の前面に位置し、肩甲骨に付着する2本の腱(長頭腱と短頭腱)と、肘の橈骨に付着する1本の腱から構成されています。上腕二頭筋腱炎は、腱が丈夫であっても過度の使用により痛みが発生する状態です。

症状

腱の断裂は腕の上部または肘に激しい痛みを引き起こします。断裂するときには特有の音がすることもあり、肩や肘に鋭い痛み、腕に打撲痕、脱力感、腕の回転に障害が現れることがあります。上腕二頭筋の断裂は手術によって治療される場合もありますが、他の筋肉で補うことで正常な機能を保つことが可能な場合もあります。

原因

繰り返しの動作が原因で発生することがあり、特にプロの野球選手、水泳選手、テニス選手、ゴルファーなど、肩や腕、肘を頻繁に使用するアスリートに見られます。急激な負荷が原因で突発的に発生する場合もあります。肩や肘に発症しますが、両方で同時に発症することは稀です。肩での上腕二頭筋腱炎は、腱板損傷と関連があることもあります。

診断

繰り返しの動作が原因で発生することがあり、特にプロの野球選手、水泳選手、テニス選手、ゴルファーなど、肩や腕、肘を頻繁に使用するアスリートに見られます。急激な負荷が原因で突発的に発生する場合もあります。肩や肘に発症しますが、両方で同時に発症することは稀です。肩での上腕二頭筋腱炎は、腱板損傷と関連があることもあります。

上腕二頭筋腱炎の超音波画像
内側の丸が腱、外側の丸と内側の丸の間が水腫です。

治療法

痛みを伴う上腕二頭筋腱炎は、適切な治療を早期に行えば、通常完治が期待できます。治療には、痛みを引き起こす動作を避けるための安静が重要で、鎮痛薬を用いた経過観察が行われます。重い物を持つ、肘を曲げる、頭上での作業などの動作は避けます。断裂がない場合は、ステロイド注射によって痛みが軽減されることもあります。

予防法

腱鞘炎の主な原因は過度の使用ですので、予防が重要です。問題となる動作を特定し避け、身体活動を段階的に始め、痛みを感じたら直ちに中止します。スポーツや仕事での動作においても、痛みを引き起こす可能性のあるものは避けるようにしましょう。

テニス選手の肩の痛みQ&A

子供のころからテニス部に所属しており、いまは大学のサークルでテニスをしています。

ここ何日かサーブをする時に肩の痛みがひどく、サーブのポーズをとるだけでも痛みを感じます。ボレーやストロークでは全く痛みは感じません。何が原因でしょうか?何をしたほうがいいでしょうか?

サーブする動作は、肩の筋肉、特に腱板と呼ばれる内側の筋肉に負担がかかる動作です。特定の動作で痛みが出る場合は、腱板損傷をおこしている可能性があります。まずは痛みがでる動作、サーブの動作を避けて、安静にしてみてください。

それでも痛みが続く場合は、近くの医療期間でMRIや超音波の検査をすることが勧められます。まだ痛みの期間が短いですので、安静により軽快することもあると思います。痛みが続く場合はぜひご相談ください。

高校の部活でテニスをしています。最近、試合の途中で肩に痛みを感じました。サーブやバックハンドのときは痛みを感じませんが、フォアハンドやボレーだと痛みます。

特定の動作、フォアハンドやボレーで痛みが出るということで、その動作でよく負担がかかる筋肉、上腕二頭筋(ポパイの筋肉)の長頭腱炎や、腱板と呼ばれる、肩の内側の筋肉に負担がかかって痛みが出現している事が疑われます。もちろん他の疾患も否定できませんが、サーブやバックハンドでは症状がでないことからすると、可能性が高いかと思います。

MRIや、最近では超音波による検査で簡単に診断できますので、痛みが続く場合はご相談ください。

肩の痛みがあり、テニスなどのスポーツを思いっきり楽しめていない、全力を出せていないのではないでしょうか?痛みの原因を早期発見し、リハビリテーションなどの適切な治療を早期に行うことで、悪化することを防げる事が多いです。もしお困りの方がおられましたら、ご気軽にご相談ください

著者プロフィール

澁谷 真彦
澁谷 真彦院長
オクノクリニック神戸三宮院、宮崎治療院院長。循環機器内科専門医。

医学部卒業後、循環器内科医として心臓血管カテーテル治療に従事。2012年11月~2014年10月アメリカSkirball Center for Innovation (ニューヨーク州、血管内治療デバイス研究施設)に研究留学。2016年3月大学院博士課程修了 研究テーマ「冠動脈ステント留置後の病理組織と光干渉断層法の画像の比較について」。