サッカー選手の膝の痛み。考えられる疾患、原因、治療法
「サッカーをしていて相手選手とぶつかってから膝の内側に痛みが出る」「ボールを蹴る際に踏み込んだときに膝のお皿の下が痛くなる」「ヘディングをして着地の際に膝を痛め、力が入らなくなった」など、サッカー選手からは膝に関する相談をよくいただきます。サッカー選手、フットサル選手の膝の痛みの原因として考えられることをご紹介します。
膝のけがの種類
サッカーなどのスポーツによる膝の痛みの原因は、痛む場所の成因により大きく分けて3つあります。その代表的な疾患について解説していきます。
- 骨・軟骨、滑膜に原因があるもの(半月板損傷・タナ障害)
- 腱に原因があるもの(ジャンパー膝・オスグッド病)
- じん帯に原因があるもの(内側側副靭帯損傷・前縦靭帯損傷)
それぞれの代表的なものについて解説します。
骨・軟骨、滑膜に原因があるもの
半月板損傷
原因
半月板損傷はサッカー選手やフットサルの選手において比較的よくある障害です。
半月板は膝関節内の大腿骨と脛骨の間に位置するC字型の軟骨で、衝撃吸収剤として機能し、膝の安定性と荷重の分散に役立っています。
半月板損傷は、膝を捻る動作(インサイドキック、切り返し、シュートブロックなど)、外傷(相手選手のタックルによる接触など)で半月板に強い負荷がかかった際に発生する可能性があります。
損傷部位ですが、通常はスポーツ活動では内側半月板の損傷が多いですが、サッカーでは外側半月板損傷が好発部位であることが特徴です。
分類
この中でも、縦断裂はそのまま放置しておくとバケツ柄断裂へ進行が懸念され、手術が必要となることが多い断裂です。
症状
膝の腫れ、引っかかり感、膝が曲げづらい、曲げると痛い、などがあります。また膝が屈曲したまま動かなくなる(ロッキング症状)することがあります。
診断
半月板損傷の診断ですが、病歴に加え、膝関節の柔軟性、安定性、特定の半月板関連の兆候の評価、および特定のテスト(McMurrayテスト、Apleyテスト、またはThessalyテストなど)の実施を行います。
McMurrayテスト
図のように、膝を曲げた状態で足首を持ち、回内、回外の動作を加えます。半月板に損傷がある場合は、この動作で痛みが出現します。
Apleyテスト
図のように、伏臥位の姿勢で、下腿を90度曲げてもらい、回内、回外の動作を加えて、痛みが出現するか確認する検査です。
半月板はレントゲンやCTには映りません。確定診断にはMRIが必要です。
治療
保存的加療(安静、理学療法、痛み止めの内服)があり、初期の段階では保存的療法で経過を見ることが多いですが、再発する場合は外科的治療(半月板修復、半月板の部分的または完全な切除)となることもあります。
競技復帰に関しまして、半月板部分切除術の場合、平均約4ヶ月程度、縫合術の場合は約半年で競技復帰が可能であったという報告があります。回復にはこれくらいの時間を要することが多いです。
腱に原因があるもの
ジャンパー膝
原因
ジャンパー膝は主に膝のお皿の下にある「膝蓋腱」や「膝蓋大腿靭帯」に負担がかかり、炎症を起こすことで発生します。バスケットボール、バレーボールなど、跳躍動作を多く行うスポーツで発症しやすいのが特徴です。
サッカー選手の場合は、特にゴールキーパーで跳躍動作が多く、起こすことが多いとされています。
症状
階段昇降時、ジャンプ時の際に痛みを認めます。思い切って跳べない、しゃがめない、全力で走れないなどのパフォーマンスの低下を訴えることがあります。
診断
問診(膝に負担のかかっている運動をしているか)、身体所見(疼痛部に圧痛があるか)、超音波検査やMRI検査を用いて確定診断を行います。
分類
痛みの部位は膝蓋腱部(膝のお皿の下)に生じることもありますし、膝蓋腱とくらべると頻度は低いですが、膝蓋骨と大腿骨を繋いでいる膝蓋大腿靭帯(膝のお皿の上)に生じることもあります。
重症度は、痛みの程度によって、3つのレベルに分類されます
- ステージ1:運動後に痛みが出るレベル
- ステージ2:運動中にも痛みがあるレベル
- ステージ3:運動パフォーマンスに影響を及ぼすほどの痛み(ステージ3になる程予後が悪くなります。)
治療
リハビリテーション:
競技特性や体の使い方、筋力、柔軟性をチェックし、痛みの原因を特定します。大腿や下腿の柔軟性を向上させるためのストレッチを行います。
注射:
ステロイド製剤は腱を脆弱にすることが知られており、使用は推奨されません。ヒアルロン酸注射も効果は限定的です。
炎症を起こしている部位に血管が増えているということに注目し、カテーテルで血管を減少させ、痛みを軽快させる治療があります。こちらをご参照ください。
じん帯に原因があるもの
内側側副靱帯損傷
サッカーだけではなく、アメフトやラグビーなどのコンタクトスポーツや、ほかにもバスケットボールなど、急な方向転換を必要とする競技においてよく見られる損傷です。
大腿骨と脛骨を結んでいる靱帯は4本あり、内側についているものを内側側副靭帯(MCL)、外側は外側側副靱帯、前後についているものを前十字靭帯(ACL)、後十字靭帯と言います。
サッカーの靭帯損傷で多いのは、MCL損傷、ついでACL損傷です。ACL損傷は自然治癒が見込みにくく、手術となることが多いのに対して、MCL損傷は保存的加療で軽快することが多いです。
原因
MCLは膝の屈曲の0度―30度(0度は完全に伸ばした状態)で膝関節が外反するのを抑制するように機能しています。
MCLの損傷は、膝の外側に加えられる外反衝撃、もしくはその外反衝撃に加えて、脛骨の外旋がくわわると発症すると言われています。
サッカーで起こるMCL損傷の75%が、コンタクトによって起こると報告されています。コンタクトでない場合、ボールを空振りしてから痛くなった、というエピソードで損傷することもあります。
分類
MCL損傷は3つのグレードに分かれます。
- 臨床グレード I
MCLの疼痛のみ、 外反ストレステスト、0度(伸ばすと痛い)、30度でともに陰性 - 臨床グレード II
外反ストレステスト0度で陰性、30度で陽性 - 臨床グレード III
外反ストレステスト、0度、30度ともに陽性
徒手検査
患者さんの患側(図では右足)の膝を左手で押さえ、右手で外反の動作を加えます。0度の伸ばした状態と30度の屈曲位で矢印⇨の方向に力を加えて判定します。
炎症を起こしている部位に血管が増えているということに注目し、カテーテルで血管を減少させ、痛みを軽快させる治療があります。こちらをご参照ください。
治療
急性期は、支柱付きの装具を装着して、外反の動作を防ぎ、早期より運動療法を開始することが一般的です。しかしGradeIIIの損傷で、側方の不安定性を認める場合は手術になることもあります。
サッカー選手が膝に痛みを感じたらまずはどうすべきか?
様子を見るだけで良い場合
練習や試合の直後に軽い痛みや不快感があるが、活動を止めると痛みが消えるような場合、軽い衝撃やねじれによる痛みで、腫れや赤みがほとんどなく、歩行に大きな支障がない場合は、まずは様子を見て、痛みが数日以内に徐々に改善していく場は経過観察可能です。
なるべく練習を控えて、膝に負担をかけないように心がけてください。膝の柔軟性や筋力を維持するための軽いストレッチや運動を行うことは効果的です。
すぐに病院に行くべき場合
活動を中断せざるを得ないほどの強く激しい痛みがある場合、強い衝撃やねじれにより、腫れ、赤み、熱感が顕著な場合。また膝の曲げ伸ばしが困難、または歩行に著しい支障がある場合は、できる限り早く近くの医療機関を受診することをお勧めします。
何年もなかなか治らない痛みで悩んでいる場合
いろいろな病院に行ったけどなかなか治らない方、痛みがある部位は炎症を起こしており、その炎症が持続している原因が新生血管(新しくできた血管)である、ということが注目されています。その血管を減らすことで痛みが軽減することがわかっています。
私は自分自身がトライアスロンとサーフィンをしています。数年前に肩の強い痛みにより全く競技ができない時期がありました。大好きなスポーツができなかったことがとても辛かったのを覚えています。
サッカー選手の方で、膝を痛めて練習や試合ができなくなっている、また痛みの原因がはっきりしなくて有効な治療ができていない選手の方、今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。長引く膝の痛みでお困りの方、一度ご相談ください。
著者プロフィール
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オクノクリニック神戸三宮院、宮崎治療院院長。循環機器内科専門医。
医学部卒業後、循環器内科医として心臓血管カテーテル治療に従事。2012年11月~2014年10月アメリカSkirball Center for Innovation (ニューヨーク州、血管内治療デバイス研究施設)に研究留学。2016年3月大学院博士課程修了 研究テーマ「冠動脈ステント留置後の病理組織と光干渉断層法の画像の比較について」。
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