ゴルフで肩(肩甲骨)に痛みが出る場合に考えられる疾患と治療法、予防法
当院には「ゴルフで右肩を痛めて、それからなかなか治らない」「肩甲骨が痛くてスイングができない」と相談にみえる方もいらっしゃいます。ゴルフに熱中すると肩を痛める方も多くいますので、このページでは、ゴルフで肩が痛くなる原因や治療法について紹介します。

ゴルフ肩(スイングショルダー)とは?
ゴルフ肩は、ゴルフのスイングを繰り返すことで、肩関節周囲の筋肉や腱(とくに回旋筋腱板=ローテーターカフ)に負担がかかり、炎症や損傷を引き起こす状態です。
ゴルフは、テークバック・ダウンスイング・インパクト・フォロースルーといった一連の動作の中で肩を大きく動かします。そのため、肩の負担が積み重なり、以下のような症状が現れることがあります。
- スイングの時に肩の関節に痛みを感じる
特にトップの位置やインパクトの瞬間に、鋭い痛みや鈍い痛みを訴えることがあります。 - フォロースルーの際に肩が引っかかるような感覚がある
フォロースルーでスムーズに動かせない、何かがひっかかるような違和感がでることがあります。
また、スイング動作が不安定だと、肩の負担がさらに増し、炎症が慢性化するリスクがあります。特に、右肩、左肩のどちらかが痛い、肩甲骨の動きに左右差があり、痛みを伴うといった症状を訴えるゴルファーは多く、適切な治療と予防が重要になります。
ゴルフ肩の原因として考えられる疾患
腱板損傷・腱板断裂
症状
肩の奥に痛みがあり、特にスイング時(テークバックやインパクト時)に鋭い痛みを感じます。肩を動かすと引っかかるような違和感や、力が入りにくい感じが出ることもあります。肩の激しい痛みは損傷時に認めますが、逆に完全に断裂すると痛みは軽減し機能障害(動かしにくさ)が前面に出ることもあります。
原因
腱板とは肩関節を支える4つの筋肉(棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋)の腱の総称です。肩の関節は三角筋という大きな筋肉と、その内側の腱板の2層構造になっています。内側の腱板は直接骨と接合しており、こちらが損傷しやすいとされます。

ゴルフの反復スイングでこれら腱板に微細な損傷が起こり、腱板の一部が傷ついた状態が「腱板損傷」です。特に腕を引き上げる動きで使われる棘上筋(きょくじょうきん)の腱は負荷を受けやすく、ゴルファーではここを痛めるケースが多いです。
過度な素振りや打ちっぱなし練習など、肩を酷使することで発症リスクが高まります。50歳以上のゴルファーでは、長年のゴルフや重労働で少しずつ腱板にダメージが蓄積し、ある時のスイングをきっかけに腱が断裂してしまうケースもあります。
診断
整形外科での診察では、腕が水平より上に上がらない、外転保持ができない、といった典型的な所見が見られます。痛みの出る動作テストやエコー(超音波)検査、MRI検査で腱板の損傷具合を確認します。部分的な損傷(部分断裂)の場合、断裂した部分が炎症を起こして、水の成分が多くなり白く映ります。
治療
基本は保存療法で、痛みを抑えつつ腱板が治癒するのを促します。具体的には数週間程度の安静(ゴルフスイングの中止)や消炎鎮痛剤の使用、患部のアイシングが行われます。その後、痛みが和らいできたら肩甲骨まわりのストレッチやインナーマッスルの筋力トレーニングを開始します。
理学療法士によるリハビリでは、肩関節に負担をかけない動きの指導や筋バランスの調整を受けると効果的です 断裂が大きかったり肩の機能障害が強い場合、関節鏡視下での腱板縫合手術が検討されます。手術後は数ヶ月におよぶリハビリが必要ですが、機能回復が見込めます。
予防
日頃から肩甲骨と肩周囲の筋肉(ローテーターカフ)の柔軟性と筋力を高めておくことが大切です。プレー前に十分なウォーミングアップとストレッチを行い、肩周りの筋肉を温めておきましょう。
またスイングフォームを見直し、無理に肩だけで振り回す癖を改善することも有効です。肩甲骨から上半身全体を使ったスイングができると肩への負担を減らせます。
痛みを我慢してプレーを続けると断裂が悪化する恐れがあるため、違和感を覚えたら早めに休むことが大切です。
痛みを伴わない場合も
一般的には腱板損傷自体が痛みの原因と考えられていますが、腱板損傷の6割は痛みを伴わない、とされる論文があります。
これが何を意味するかというと、腱板が切れても痛くない、すなわち腱板損傷自体が痛みの原因ではないと言うことなのです。
これはとても重要な知見です。我々は痛みの原因部位は炎症により新生血管(モヤモヤ血管)が増加していることに注目しています。
モヤモヤ血管の治療により、腱板損傷と診断されていても、手術を回避できる可能性があります。
治療実例
上腕二頭筋腱損傷(長頭腱炎を含む)
症状
肩の前側から二の腕にかけて痛みが走ります。特にフォロースルーの局面で「ビリッ」と前腕や肩前面に痛みが出ることがあります。上腕二頭筋は力こぶの筋肉です。

原因
ゴルフスイングではインパクトからフォローにかけてクラブを振り抜く際に、肩が引っ張られる力(遠心力)がかかります。この時、肩の前を走る上腕二頭筋長頭腱にも強いストレスが生じます。そして上腕二頭筋の長頭腱が損傷、炎症を起こす事が原因とされています。
スイング以外にも、ディボットを取るほど地面を強く叩いてしまった時(ダフリ)など衝撃で腱を傷める場合もあります。長頭腱は肩関節の中を通り、肩甲骨の関節上結節という部分に付着していますが、 加齢や使いすぎで摩耗したり炎症を起こしやすい部位です。

診断
診察では、肘を曲げて手のひらを上に向けるような力比べテスト(スピードテストなど)で痛みが誘発されるか確認します。
確定診断にはエコー検査やMRIが有用です。腱に腫れや断裂がないか、関節内部で腱がズレていないか(脱臼)といった所見を調べます。超音波では腱の周囲に水が溜まっているのがはっきり写ります。

力比べテスト
治療
まずは安静にして、炎症を抑えるため必要に応じて湿布・消炎鎮痛剤の内服を行います。痛みが強い場合、医師が肩に局所麻酔やステロイド注射を打つこともあります。痛みが軽減したら、上腕二頭筋腱に負担をかけない範囲で肩や肘のリハビリ運動を開始します。多くは保存療法で改善しますが、腱の部分断裂以上になっている重症例では手術(腱の修復や固定術)を検討することもあります。
モヤモヤ血管へのアプローチ
また、断裂してはいないけれども炎症が強い症例の場合は、炎症に伴って増えている血管へのアプローチが有効です。腱板損傷、腱板断裂の項でも述べましたが、モヤモヤ血管への治療が有効な場合も多いです。詳しくはこちらをご参照ください。
予防
前腕や肘周りのストレッチを十分に行い、筋肉と腱の柔軟性を高めておきましょう。また肩のインナーマッスルを鍛えて肩関節の安定性を向上させることで、スイング時に上腕二頭筋腱への過度な負荷がかかりにくくなります。日頃のトレーニングでは、ダンベルやチューブを使ったカール運動だけでなく、肩甲骨周りの筋肉もバランス良く鍛えることが大切です。
肩峰下インピンジメント症候群
症状
腕を横から上げていき、肩の高さを超えるあたりで鋭い痛みが走ります。ゴルフではクラブを持ち上げるトップの体勢で「肩が詰まる」ような痛みが出ることがあります。
ひどい時は日常生活でもコートの袖を通す動作や高い棚の物を取る動作で痛みが出ます

原因
「インピンジメント」とは挟み込みという意味です。肩峰下インピンジメント症候群では、肩を上げる際に肩甲骨の一部である肩峰(けんぽう)と、腱板の腱やその上にある滑液包(かつえきほう:潤滑液の入った袋)の間隔が狭くなり、擦れたり挟まったりして炎症が起こります。
ゴルフスイングではフォローで腕を振り抜く時など肩を大きく上げる動作でこの現象が起きやすくなります。

診断
Neerテスト
患者の後側方に立ち、一方の手で肩甲骨を保持し、もう一方の手で上肢(回内位)を最大挙上させ。大結節を肩峰前縁に圧迫させます。
挙上90°~120°で疼痛が誘発されれば陽性です。

ホーキンステスト
肩関節を内側にひねりながら上げる「ホーキンステスト」
肩90°前方挙上位、肘90°屈曲位で、肩を内旋させ、大結節を烏口肩峰靱帯および烏口突起に圧迫させ、疼痛が誘発されれば陽性です。

上記のような徒手検査で痛みが誘発されればインピンジメントの疑いが強まります。
確定にはMRIで腱板や滑液包の炎症所見を確認したり、関節造影MRIで腱板断裂との鑑別を行います。X線では骨棘(こつきょく:骨のとげ)の有無や肩峰の形状を確認し、インピンジメントの起こりやすさを評価します。
治療
基本的には痛みが出る動作は避けます。痛みが強い場合は肩峰下滑液包内にステロイド注射を行うこともあります。 同時に肩甲骨のモビリティを高めるリハビリや、腱板筋の筋力強化トレーニングを行います。
多くの場合、数週間~数ヶ月のリハビリで症状が改善します。保存療法で改善しない重度のケースでは、関節鏡手術で骨棘の除去や滑液包の掃除、腱板の状態改善を図ることもあります。
モヤモヤ血管へのアプローチ
インピンジメントは物理的な圧迫が強い場合は手術がおすすめですが、圧迫が強くないが痛みが強い場合は、血管が痛みの原因の場合があります。詳しくはこちらをご参照ください。
予防
普段から肩周囲の筋肉の柔軟性と筋力を維持しておくことが重要です。特に肩甲骨をしっかり動かすエクササイズ(肩甲骨回しや肩甲骨はがし運動など)を取り入れると良いでしょう。
またスイングフォームを見直し、無理に腕だけで上げるフォームになっていないかチェックしてください。正しいトップの位置を身につけることで肩の挟み込みリスクを下げられます。
変形性肩関節症(肩の関節症性変化)
症状
肩関節の軟骨がすり減って起こる慢性的な痛みです。肩を動かすと「ゴリゴリ」と軋む音がして同時に痛みがあります。
症状は一般的にはゆっくり進行します。
原因
長年の酷使や加齢によって肩関節の軟骨が摩耗し、骨同士がぶつかって炎症が起こる状態です。いわゆる「肩の軟骨のすり減り」による関節症で、50代以降に多く見られます。
ゴルフそのものが直接の原因になることは少ないですが、ゴルフ歴が長い方では過去の小さな怪我の蓄積や腱板断裂の後遺変化として関節症が進む場合があります。
軟骨が減って関節の隙間が狭くなると、動きの際に骨と骨が擦れ合い痛みや引っかかりが生じます。腱板損傷のところでも述べましたが、肩の筋肉は2層構造になっており、内側の腱板が完全に断裂すると、外側の三角筋は上腕骨と肩甲骨を引き付けるようにするため、骨と骨がひっつくようになり、こすれて骨の変形がすすむことがあります。
診断
レントゲン検査で関節の隙間の減少、骨の変形や骨棘形成を確認します。
またMRIでは軟骨の状態や関節液の溜まり具合、関節唇や腱板の状態も評価します。必要に応じて関節液の検査を行い、他の炎症性疾患(例えばリウマチ)が隠れていないか調べることもあります。
治療
痛みが強い場合は消炎鎮痛剤の内服やヒアルロン酸の関節内注射などで症状を和らげます。日常生活では肩を冷やさないようにし、痛みがある日は安静に過ごします。
リハビリでは可動域を保つためのストレッチや、肩周囲筋の筋力維持トレーニングを行います。症状が進行して生活に支障を来す場合には人工肩関節置換術などの手術も選択肢となります。
予防
関節軟骨の老化を完全に防ぐことは難しいですが、日常での工夫が有効です。例えば無理なオーバースイングを避け、肩に負担をかけすぎないスイングを心がけること、ラウンド後はアイシングやストレッチで肩周りの血行を促進し疲労回復を図ることなどが挙げられます。
また適度に休息日を設け、肩関節を回復させる時間を作ることも大切です。
ゴルフ肩を防ぐストレッチ&トレーニング
ゴルフ肩を予防するためには、日頃から肩関節の柔軟性と安定性を高めておくことが大切です。以下に効果的なストレッチとトレーニングの例を紹介します。
肩甲骨のエクササイズ
肩甲骨周りの柔軟性を高める運動を取り入れましょう。例えば、両肩をすくめるように上げてからストンと落とす肩甲骨の上下運動を行います。

フォロースルーを意識したストレッチ
フォロースルーでは体の前面が伸ばされます。
胸や肩前側の筋肉をほぐすストレッチとして、壁に手を当てて胸を開くストレッチや、肩甲骨を寄せたり離したりする運動、肩を大きく回すストレッチなどがあります。肩甲骨が滑らかに動くようになると、スイング時に肩関節だけに負担が集中するのを防げます。
また、前腕のストレッチ(腕をまっすぐ伸ばし、反対の手で指先を持ってゆっくり反らせる)も取り入れると上腕二頭筋への負担軽減になります。

壁に手を当てて胸を開くストレッチ

両手を背中の後ろで組んで肩甲骨を寄せるストレッチ

前腕のストレッチ
ラウンド後のセルフケア
ゴルフを終えた後はクールダウンをしましょう。プレー直後に肩周りを軽くストレッチして筋肉を整え、必要に応じてアイシングで炎症を抑えます。お風呂上がりには血行が良くなっているので、さらに肩のストレッチを念入りに行うと疲労回復に効果的です。翌日に痛みを持ち越さないことが怪我予防につながります。
これらのストレッチ&トレーニングを習慣づけることで、肩関節の可動域が広がり安定性も増し、ゴルフ肩の発症リスクを下げることが期待できます。無理のない範囲で続けてみてください。
ゴルフ肩Q&A
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ゴルフ肩になってしまいました。安静期間はどのくらい必要でしょうか?
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症状や損傷の程度によって異なりますが、軽症であれば少なくとも数週間はゴルフを休んで肩を安静にすることが推奨されます。その後、痛みが引いてきたら徐々にリハビリを開始し、筋力と可動域を回復させます。腱板損傷などがある場合、完全に競技復帰できるまで3~6か月ほどかかることもあります
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肩の痛みがあるとき、スイングを続けてもいいの?
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痛みがある場合は無理に続けない方が賢明です。特に肩の強い痛みを我慢してプレーを続けると、軽い炎症が腱の断裂に進行したり、慢性的な痛みに移行して治りづらくなる恐れがあります。プレー中に肩が強く痛み出したら一旦休む、痛みが引くまではゴルフ自体を休止する決断も大切です。
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テークバック時に左肩が痛いのはなぜ?
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右打ちのゴルファーでテークバック時に左肩が痛む場合、バックスイングで左肩の筋肉や腱が過度に引き伸ばされていることが考えられますテークバックのトップでは左腕が体の横に大きく引きつけられ、肩甲骨も深く動くため、肩の後方の組織に大きな張力がかかります。その結果、肩の腱板や関節包が引っ張られて痛みが出るのです。特に肩甲骨の柔軟性が不足していると肩関節だけで無理に動きを出そうとして痛めやすくなります。また、テークバックでの左肩痛はインピンジメント(挟み込み)や腱板損傷の兆候である可能性もあります。早めにストレッチで柔軟性を高め、必要なら専門家にフォームをチェックしてもらうと良いでしょう。
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右肩ばかり痛くなるのはスイングのせい?
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右打ちの場合、本来痛みは左肩に出やすい傾向があります。それにも関わらず右肩ばかり痛くなるということは、スイングのフォームや体の使い方に原因がある可能性があります。例えば、トップからダウンスイングで体の回転が不十分だと右肩(後ろ肩)に過度な負担が集中します。また、インパクト後に右腕でクラブを押し出す動きが強すぎると右肩の前方組織を痛めることがあります。あるいは左肩が硬くて使えず、右肩に頼ったスイングになっている可能性もあります。右肩の痛みが続く場合は、スイング時の体重移動や肩の使い方を見直してみましょう。必要であればプロコーチや理学療法士にスイング解析を依頼し、負担の偏りを修正することで痛みの再発を防げるはずです。
痛みが長引いている方へ
肩の痛みがなかなか良くならずお困りの方、モヤモヤ血管は長引く肩の痛みを抱えた方ほとんどに認めます。オクノクリニックではカテーテルを用いて、20−30分程度で日帰りで行える治療を行っています。お困りの方は、まずは診察に起こしください。
著者プロフィール

- 院長
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オクノクリニック神戸三宮院、宮崎治療院院長。循環機器内科専門医。
医学部卒業後、循環器内科医として心臓血管カテーテル治療に従事。2012年11月~2014年10月アメリカSkirball Center for Innovation (ニューヨーク州、血管内治療デバイス研究施設)に研究留学。2016年3月大学院博士課程修了 研究テーマ「冠動脈ステント留置後の病理組織と光干渉断層法の画像の比較について」。
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