長引く痛みの原因について、何が思い浮かびますか?
多くの人は、骨の痛みや、使い過ぎや負担によって筋肉や腱が損傷していることを想像するかもしれません。これらは長い間、痛みの一般的な原因と考えられてきました。
しかし、近年の研究により、長引く痛みの原因の一因として、「血管」が関係していることが明らかになってきました。特に、正常な機能を果たす血管とは異なり、痛みや病気の原因となる異常な血管が存在することが分かってきました。超音波検査の技術が進歩したことで、痛みのある部位における血流の増加が確認されるようになりました。
これら異常な血管は、わかりやすく「モヤモヤ血管」と呼ばれており、細くて脆弱で不要な血管が新しく形成されることが、長引く痛みの一因となっています。
このような血管を効果的に治療する方法の一つが、カテーテルを用いて異常な血管を塞ぐ(塞栓療法)ことです。この治療により、問題の血管の血流を低下させることができ、結果として痛みを緩和することが可能になります。
モヤモヤ血管が痛みを引き起こすメカニズム
「関節や腱が損傷を受けるから痛みが発生する。ならば、関節や腱の状態を改善すればいい」
痛みに対する治療は、このような発想で進められてきました。
しかし、痛みを感じているのは「神経」です。その神経はどこにあるかというと、モヤモヤ血管に寄り添って存在しています。神経は血管が増えると対になって増えていく法則があります。「血管と神経は伴走する」と表現しますが、モヤモヤ血管ができると血管も一緒にでき、モヤモヤ血管に沿っている神経が興奮することで痛みが発生するのです。
血管とともに伸びた神経の興奮が痛みを起こす
モヤモヤ血管は「性能が低い」血管なので、健康な血管のような働きができません。安静時には血流はあまり必要ないため、健康な血管内では血流が低下しますが、モヤモヤ血管はそうしたコントロールができず、血流が減ることがありません。血流が活発だと神経興奮が誘発され、何の刺激も受けていないのに痛みが発生する「自発痛」を起こすようになります。自発痛のひとつが「夜間痛」です。
夜間痛には、「体を動かしていないのにジンジンとした痛みが出る」「眠っても痛みで起きてしまう」「朝、起きたときに痛む」といったものがあります。
夜間痛は四十肩や五十肩の典型的な症状のひとつですが、整形外科でも鍼灸整骨院でももっとも苦手とする症状でもあります。強い神経興奮が起きていると、外からほんのちょっと刺激を加えるだけで、さらに興奮が助長され痛みが悪化していきます。すぐにでも取り除いてほしい激痛であればあるほど、その最中には手立てがないのです。
では、四十肩や五十肩で夜も眠れないほどの激痛に耐えた患者さんは、朝一番でどこに駆け込むべきか? 答えはひとつ、モヤモヤ血管の治療を受けられる医療機関です。夜間痛は明らかにモヤモヤ血管が存在することを示します。
「眠っていても続く痛みをどうにかしてください」と訴える患者さんには「大丈夫です。その痛みはラクになります」と請け負うことができます。
剥き出しの神経から絶えず送られる「痛みの信号」
夜間痛のほか、「動き出しが痛い」ときもモヤモヤ血管の仕業。モヤモヤ血管に付随した神経は常に興奮しているため、動き出しの少しの刺激だけで即座に激痛を発するのです。例えばウォーキングのときなど歩き始めて5分くらいで痛みが出るのは運動器に問題があることが多いのですが、「一歩目ですぐに痛む」のはモヤモヤ血管によるものです。すでに興奮状態にある神経が、「ほんの一歩」の動作でさらに興奮度を高め、痛みを発するのです。
神経には「脂肪組織で包まれているタイプ」「剥 む き出しタイプ」があります。電化製品の電源コードをイメージしていただくとわかりやすいでしょう。金属の導体の周囲をゴムのチューブで覆っているのが前者、導体が剥き出しなのが後者。モヤモヤ血管に付随しているのは主には剥き出しタイプの神経です。
剥き出しの神経からの痛みの信号はひっきりなしに脳に送られ、痛みの感じ方として「ズキズキ」「ジンジン」と表現されます。このリズムは心拍や血流の流れに符合しているのかもしれません。
こんな症状があったら「モヤモヤ血管」のサイン
以下の項目のうち、ふたつ以上当てはまる場合は、「モヤモヤ血管」がある可能性があります。
チェックリスト
- 指で押してみると、明らかに痛い場所がある(押す強さは、自分の爪が白くなる程度)
- じっとしているときも痛い
- 夜、寝ているときに痛い
- 朝、起きたときの動き出しが痛い
- 動き始めが痛い。動いたあと、しばらくすると改善する
- 痛みを表現すると「ズキズキ」「ジンジン」「チクチク」「重い」感じ
- 痛い場所が赤くなることがある。腫れることがある。腫れている
- 天候によって痛みが変わる。クーラーに当たると痛い
- お酒を飲んだあと、あるいは次の日に痛みが増す
- 激しく運動したあとに痛みが増す
免疫細胞から分泌されるタンパク質のひとつに「サイトカイン」があります。免疫や炎症に関わる働きがあり、体内で炎症が生じるとサイトカインが増え、その作用によって血管が拡張し、血流も増大します。
しかし、モヤモヤ血管はもろいため大量の血流に耐えきれません。血液成分中の水分が血管から漏れ出して「腫れ」が生じます。また、血流が増加すると熱量が上がるため腫れた部分は赤く熱を帯びています。
体内にあるモヤモヤ血管そのものを目で見ることはできませんが、皮膚にあらわれた腫れや赤みから、そこに存在することがわかるのです。
上のチェックリストで、ご自身にモヤモヤ血管があるか調べてみましょう。
モヤモヤ血管が原因ではない痛みの見分け方
運動器カテーテル治療や動注治療で痛みを取り除くことができるのは、モヤモヤ血管が痛みの犯人のとき。
「痛みに苦しんだ方に朗報」「最新痛み治療」と、メディアで紹介されることも増えたこの治療法ですが、残念ながらすべての痛みを解決できるものではありません。治療が有効ではないケースもご紹介しましょう。
例えば脊柱管狭窄症という病気があります。脊柱管と呼ばれる脊髄の神経が通っている骨が変形して、脊髄が圧迫される病気です。
圧迫により間欠性跛 行と呼ばれる特徴的な症状が出現します。具体的には歩き始めではなく、歩いていると足が痛くなる、そして歩くのをやめると症状は改善します。この症状が出ている方は、物理的な圧迫により症状が出現しているため、モヤモヤ血管はあまり関与してないと考えられるのです。
このような方は、まずはリハビリテーション、症状が続くようであれば手術を検討します。
モヤモヤ血管ができやすいのはどんな人?
40歳以上の方
関節の軟骨や腱などは、強い負荷がかかる部分です。
このような部位をうがって血管を通してしまうと強度が損なわれてしまうので、血管が増えるのを防ぐために「血管新生抑制因子」が分泌されています。血管新生抑制因子の力が及ばずにできてしまったのがモヤモヤ血管です。
血管新生抑制因子は加齢によって分泌量が減っていき、その影響が出始めるのが40歳頃。四十肩を皮切りに、首や背中の張り、腰痛、膝痛など痛みが頻発するようになるのは、血管新生抑制因子が減ってモヤモヤ血管が増加し始めるからなのです。
若くても、モヤモヤ血管ができやすいケース
モヤモヤ血管による痛みは若年層でも発生しています。
まずハードなトレーニングを続けている人。反対にまったく動かない人。スポーツに故障はつきものなので納得だと思いますが、「動かなさすぎ」でも「痛み=モヤモヤ血管」は発生します。
デスクワークなどで長時間同じ姿勢でいる、猫背・体の傾きなどで姿勢が悪い、仕事で同じ動作を繰り返すといったケースでは、激しい運動こそしていませんが、長期間にわたって同じ部位に負担をかけ続けると、いずれその部位に炎症が発生します。
また、後ろを振り返る、高いところのものを取るなど、ふとした動作から組織が傷ついて炎症が起きることもあります。
スポーツでもデスクワークでも、そして日常生活でも、体の一部に負荷がかかりすぎると、そこに炎症が起きるのは同じです。炎症を修復するために血管がつくられますが、通常は2週間ほどで消えていきます。
しかし、引き続き負担がかかっていると炎症が治まる暇がなく、新たな炎症が発生、また血管がつくられ……と、血管がどんどん増えてしまいます。これらはモヤモヤ血管となり、血管とともに伸びた神経が痛みを発生させています。
私が痛みの専門医になったきっかけ
血管の専門医が出会った痛みの最先端治療
大学病院で循環器内科医として心臓カテーテル治療を専門としていた私は、ニューヨークに研究留学の機会を得ます。その後は再び大学病院に戻り、年間200件ものカテーテル治療をこなしていました。
臨床も研究も好きな私にとって大学病院は適した場ではありましたが、尊敬していた上司が大学病院を去ったことをきっかけに、今後の進路に迷いが生じます。
そのときに考えた選択肢はふたつ。開業するか、市中病院の循環器内科に行くか。
しかし、風邪から手術が必要な患者さんまで広く受け入れる開業医では、それまで培ってきた自分の専門性が活かせるとは思えません。
では、市中病院はどうかというと、組織の一員になることは経営の一端を担う、つまり数字(売上)を担わされることになります。患者さんと数字を秤にかけるというと言い過ぎかもしれませんが、それもまた私の性には合いません。
どうしたものかと考えあぐねているとき、オクノクリニックの奥野祐次総院長が出演しているテレビ番組を偶然目にしたのです。
モヤモヤ血管の説明、その治療法など、とてつもなく衝撃的で、「この治療法はすごい!」と直感が私を突き動かしました。
早速、見学の約束を取り付け、実際の治療を間近で見せてもらいました。モヤモヤ血管の画像と、メキメキよくなる患者さんの様子は、今も鮮明に覚えています。そして私が進路を決断した決め手は、奥野先生が痛みに向き合う真な姿。解明されていること、解明されていないことを明確にしながら、論文にして発言を続けている行動力。この痛みの新しい治療を世に広めていきたい、という想いに強く共感したから。
「大学病院は辞める。心臓で培ったカテーテルの技術をオクノクリニックで活かしたい。この痛みの治療を一緒に世に広めたい」
そう決意して、痛みの治療に本格的に取り組むことにしたのです。
長引く痛みを抱えながら、良くならないのではないか、もう治らないのではないかとあきらめかけている方、あなたの痛みは治療できるかもしれません。私は、このページでご紹介したモヤモヤ血管の治療と、オーソモレキュラー医学(分子栄養医学)にもとづく治療を組み合わせて慢性疼痛の治療にあたっています。ご興味のある方は、下のボタンからご相談・お問い合わせください。