「慢性前立腺炎・骨盤痛症候群」のカテーテル治療の論文が学会誌に掲載されました。

カテーテル治療で前立腺のつらい痛みを軽減する最新の研究

慢性的な骨盤の痛みや下腹部の不快感、排尿トラブルなどが長期にわたって続く「慢性前立腺炎・慢性骨盤痛症候群(CP/CPPS)」にお悩みの方は、実は大勢いらっしゃいます。つらいのに原因がはっきりしない、いくつかの薬を試しても改善しない――そんな困りごとも多いのではないでしょうか。

このたび、2024年に研究論文が、発表されました。私(澁谷)も共同著者として参加したもので、慢性前立腺炎・慢性骨盤痛症候群に対するカテーテル治療の有効性と安全性を検証したものです。今回はその論文の概要を、できるだけわかりやすくお伝えしたいと思います。

前立腺の原因不明の痛み「慢性前立腺炎・慢性骨盤痛症候群(CP/CPPS)」とは?

前立腺炎と言うと、細菌感染が原因の急性前立腺炎を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし実際は、感染では説明がつかない慢性的な骨盤痛で苦しむ方のほうが圧倒的に多く、これを「慢性前立腺炎・慢性骨盤痛症候群(CP/CPPS)」と呼びます。

P痛みだけでなく、排尿障害や性生活のトラブルなども合併し、生活の質を大きく損ねるとされています。これまでの治療は抗菌薬や消炎鎮痛薬、アルファ遮断薬を試しても改善しない例も多く、「もう治らないのか…」と諦めている方も少なくありません。

今回の論文タイトルは、
Transcatheter Arterial Embolization for Chronic Prostatitis/Chronic Pelvic Pain Syndrome: A Retrospective Study of 44 Patients

日本語になおすと、「慢性前立腺炎・骨盤痛に対して、カテーテルを使った動脈塞栓術を行ったらどうなったか?」を検証した始めての報告になります。

慢性前立腺炎・骨盤痛に対して、カテーテルを使った動脈塞栓術を行ったらどうなったか?

研究の概要としては、

  • 対象: 従来の治療(抗菌薬、鎮痛薬など)では十分な効果を得られなかった 44名 の男性患者
  • 手法: それぞれの患者さんに対し、カテーテルを大腿部などから挿入し、前立腺を栄養している「前立腺動脈」に抗生物質(イミペネム/シラスタチン)の溶液を注入して、一時的に血流を遮断する
  • 評価指標: 治療前と治療後の痛みのスコア(NIH-CPSIやNRS)を比較し、どの程度症状が改善したかをフォローしました。

結果、NIH-CPSIスコア(慢性前立腺炎の症状評価)
治療前は平均 27 点だったものが、治療 6ヶ月後には平均 17 点程度まで改善し、追跡調査でも多くの方が良好な状態を維持。

痛みのNRS(数字で表す痛みの強さ)
平均 7.0 → 3.4 程度まで下がり、半分ほどに減少した。

とされています。さらに、重大な合併症は見られなかった点は非常に大きな成果といえます。

どうして「カテーテル治療」で痛みが取れるのか?

慢性前立腺炎は、前立腺に炎症が起こる病気です。慢性的な炎症が起こる部位には、不要な血管(モヤモヤ血管)が異常に増えて、痛みや炎症が長引きます。その血管を狙って血流を一時的に遮断すると、モヤモヤ血管が減少、炎症が収まり、痛みが軽減するというメカニズムを想定しています。

なぜ抗生物質を使うのか。

なぜ抗生物質であるイミペネムを使用するかというと、これは薬の成分が一時的に血管を詰まらせる「塞栓物質」として働くためです。正式には「イミペネム/シラスタチン(IPM/CS)」と呼ばれ、血管内に注入するとその粒が凝集し、一時的に血流を遮断します。その後、時間が経つと体内で溶けるため、血流は完全には失わず、壊死はいままでのところ10000例以上の経験では起こっていません。

慢性前立腺炎・骨盤痛症候群(CP/CPPS)でお悩みの方へ

オクノクリニックでは、慢性の肩こりや腰痛だけでなく、「長引く下腹部の痛み」「前立腺痛」と診断される男性の方も数多く診てきました。
これまでも、カテーテル治療は膝や肩、足底腱膜炎などさまざまな部位の慢性痛に施行して、一定の成果を得ています。今回の研究結果を踏まえて、慢性前立腺炎・骨盤痛症候群(CP/CPPS)に対する治療の可能性がさらに広がっていくと確信しています。

もし、「慢性の骨盤痛」「前立腺付近がズキズキする」「従来の薬が効かない」というお悩みをお持ちでしたら、遠慮なくご相談ください。今回の論文はまだ第一歩ですが、引き続き、オクノクリニックでは痛みとモヤモヤ血管の関係、さらには栄養面やメンタル面も含めた総合的なアプローチを探求し、患者さんの負担を最小限に抑えつつ最大限の効果を目指す治療を提供してまいります。もしお困りでしたら、ぜひ一度ご相談ください