肩こりとうつ病の意外な関係 ―医師が解説する最新の治療アプローチ
オクノクリニックで私は多くの肩こり患者さんを診療してきました。その経験から、肩こりにうつ病を抱えた患者様が多いことに驚きました。
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目次
「肩こり」と「うつ病」は、一見して別々の疾患に思われるかもしれませんが、深く関係し合っています。長引く肩こりが脳内の神経伝達物質に影響を与え、気分の落ち込みや不安感、いわゆるうつ病のような症状を引き起こすことがあるのです。
実際に、クリニックの問診票には痛む箇所や、痛みについての詳細だけでなく、「最近落ち込みやすい」「意欲が出ない」といった精神的な状態(HADSスコアといいます)についてもお尋ねする項目を設けています。精神面にまで症状が及んでいる場合には、治療後の経過に少し時間を要したり、治療方法に精神面へのアプローチが有用であったりと、予後予測や治療方法の選択にとても有用であることがわかっているからです。
うつ病とは?
うつ病は、脳内の神経伝達物質(セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなど)のバランスが崩れ、「気分の落ち込み」「不安感」「意欲の低下」「思考力の低下」「食欲や睡眠の乱れ」などを主症状とする精神疾患の総称です。原因としてはストレスや心理的負荷がきっかけで発症します。
うつ病の種類
うつ病はその背景や症状の特徴によって以下のように分類されます。
1.メランコリー型うつ病
いわゆるうつ病というと、こちらを指すことが多いです。抑うつ気分や意欲低下などの精神症状が中心です。
朝に気分が悪化する傾向にあり、表情が乏しくなります。早朝に目が覚めたり、睡眠障害を合併しているのも特徴で著しい食欲不振や体重減少も認めます。重症度によりますが、お仕事をしている方は、仕事を休職し休むことが勧められます。強い罪悪感や自責の念を伴うことが特徴的で、些細なことでも自分を責めてしまいます。集中力や記憶力の低下も顕著で、日常生活に支障をきたすことが多いです。
治療には抗うつ薬による薬物療法が中心となりますが、十分な休養と環境調整、栄養療法を合わせることで、多くの場合、症状の改善が期待できます。家族や周囲のサポートも重要で、早期発見・早期治療が予後の改善につながります。
2.非典型的うつ病 新型うつ病
近年、特に若い世代を中心に増加傾向にある疾患です。前述の1.メランコリー型うつ病とは異なり、過眠や過食が特徴的な症状として現れます。
気分の変動が大きく、楽しい出来事があれば一時的に気分が改善することもあります。また、休日や趣味の活動では活気がある一方で、仕事や義務的な場面では強い苦痛や倦怠感を訴えることが多いのも特徴です。対人関係においても、周囲への強い被害感や不満を表出しやすく、自責的になりにくい傾向があります。
治療においては、従来型のうつ病とは異なるアプローチが必要とされ、環境調整や認知行動療法などが重要です。
3.仮面うつ病(身体症状型うつ)
こちらはうつ病であるにもかかわらず、肩こり、腰痛、頭痛、めまい、耳鳴りなどの身体症状が強く出るタイプです。特に中高年に多く見られ、本人も周囲も精神疾患とは気付きにくいため、診断が遅れがちになります。様々な身体症状のために複数の診療科を受診することも多く、検査では異常が見つからないにもかかわらず症状が持続します。不眠や疲労感も強く、日常生活に支障をきたします。
こちらのうつ病は我々が日常診療でよく遭遇します。そして、その背景にはモヤモヤ血管による長引く、強い症状を合併した肩こりがあり、また栄養障害によりそれが増悪して、悪循環していることがよくあるのです。
うつ病が先か?肩こりが先か?
慢性的な強い痛みや肩こりが持続し、うつ病を併発するケースをよく経験します。
そして私自身の経験ですが、5年ほど前に石灰性腱板炎にかかり、とんでもなく肩が痛くなりました。最初は放って治るだろう、と楽観的にとらえていましたが、1週間くらい強い痛みが続き、徐々に「このまま痛みがよくならなかったらどうしよう、仕事もできなくなるかもしれない」という不安から、抑うつ症状が出てきたことがあります。痛みは幸いその後軽快しましたが、あの痛みがずっと続いていたらどうなるだろうと考えるだけでゾッとします。
私はこの体験や、患者さんを診療してきた経験から、肩こりや慢性疼痛が先行して、それが続くことで次第に抑うつ症状を併発、脳内神経伝達物質の不足も相まって、うつ病に移行することが多いと考えています。
また、次に示すグラフは、私がクリニックで治療した肩こり患者さんについてまとめた論文から引用しています。(Shibuya M, et al. Effects of Transcatheter Arterial Microembolization on Persistent Trapezius Myalgia Refractory to Conservative Treatment. Cardiovasc Intervent Radiol. 2020;43(8):1165-1171.)
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こちらにあります、Mood(気分障害)やEnjoyment of life(人生の喜び)のスコアは、肩こりを持っている人は大きく障害されており(グラフの棒が上に行くほど障害が強い)、治療後はそのスコアが大きく下がっていることがわかります。つまり肩こりの治療によって、不安障害、うつ症状などが改善したのです。
肩こりが良くなったらうつ病が改善した事例
実際に、当クリニックを受診された方の症例です。
半年前から左の肩こりと頭痛(左側)に悩む40代女性。整形外科やペインクリニック、マッサージを渡り歩いてもすぐ再発しました。
パソコンでデザインをする仕事でしたが、パソコン作業が辛くなり、休職し、このまま良くならなかったらどうしよう、仕事も復活できないかもしれない、、、と悩んで診療内科に行くと、うつ病の可能性がありますと言われ、抗うつ薬を処方されました。
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抗うつ薬の内服を開始したものの、肩こりはむしろ悪化している、ということで当院にお越しになりました。
当院で肩の筋肉(僧帽筋)のモヤモヤ血管を疑い、動脈注射による治療を実施。その後、栄養療法(オーソモレキュラー療法)を併用し、2か月後には肩こりや頭痛が大幅に改善。加えてご本人も「希望が見えた、気分の落ち込みが軽くなったかも」と感じ始め、最終的にはうつ病はほぼ寛解に至りました。
このように「肩こりを治療していたらうつ病まで良くなった!」という症例は決して珍しくなく、むしろ「痛みを放置していたせいで精神的にも追い詰められていた」ケースが想定以上に多いと感じています。
なぜ肩こりを解消したらうつ病が改善するのか?
前述のとおり、肩こりを放置するとモヤモヤ血管が痛みの信号を送り続け、脳の神経伝達物質(セロトニン・ノルアドレナリンなど)が乱れやすくなります。加えて、栄養不足(鉄、ビタミンB群、ビタミンDなど)も重なると、下行性疼痛抑制系が働きにくくなり、痛みとうつ症状の相乗効果が生まれるのです。
- モヤモヤ血管による痛み刺激が脳にストレスを与える
脳は痛みの刺激を大きなストレスとしてとらえ、過剰に防御反応を起こします。その結果、脳内でセロトニンなどの量や働きが低下し、メンタル面の不調や不安を招きやすくなります。 - 栄養不足が脳の修復を妨げる
神経伝達物質を合成するには、十分なタンパク質(アミノ酸)や鉄が必須です。栄養が不足すると、うまく神経伝達物質を作れず、気分を安定させるシステムが破綻してしまいます。 - 肩こり(慢性痛)が長引くほど意欲が下がる
痛みが続くと、「また痛い」「何をしても良くならない」という思い込みが強くなり、意欲が失われ、うつ症状が増幅します。
一方で、モヤモヤ血管を除去して肩こり・首こりが軽減し、さらに不足していた栄養素を補充して脳内の神経伝達物質が正常化すると、結果的にうつ症状も快方に向かうことが多いのです。
抗うつ薬でセロトニンを増やそうとしても、“痛み”というストレス刺激がずっと続いていれば効果が半減してしまいます。だからこそ、身体面(肩こりの解消)と栄養面をしっかり整えることが、うつ病治療の大事な一翼を担うと言えます。
肩こりなどの慢性痛と、うつ病を抱えていらっしゃる方へ
うつ病には実に様々なタイプや背景要因があります。すべてのうつ病が肩こりを治すだけで解決するわけではありませんが、「肩こり(首こり、頭痛などの慢性痛)」と「うつ病」が併存している方は、一度“肩こりの治療”に本腰を入れてみる価値が大いにあると私は考えています。うつ病の種類によっては、肩こり治療が抜群に効く場合があります。
以上のことから、肩こりの治療について、当クリニックでは、慢性の肩こりや首こりがある患者さんに対して、「モヤモヤ血管治療」+「栄養療法」をおすすめしています。
「肩こりを治せば薬がいらなくなる」可能性も?
うつ症状が強ければ、もちろん心療内科や精神科での治療、薬物療法は必要です。
ですが、「薬を飲んでも思ったほど効かない」「副作用がつらい」という方が、肩こり治療や栄養療法で見違えるほど改善し、主治医と相談して薬を減量、もしくは休薬できることも多いです。
長引く肩こりから、精神的にも参っている、それが原因で仕事を休んでいる、この症状が誰にもわかってもらえない、よくなるのだろうか、、、とお悩みの方、ぜひ一度ご相談ください。
著者プロフィール
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- 院長
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オクノクリニック神戸三宮院、宮崎治療院院長。循環機器内科専門医。
医学部卒業後、循環器内科医として心臓血管カテーテル治療に従事。2012年11月~2014年10月アメリカSkirball Center for Innovation (ニューヨーク州、血管内治療デバイス研究施設)に研究留学。2016年3月大学院博士課程修了 研究テーマ「冠動脈ステント留置後の病理組織と光干渉断層法の画像の比較について」。
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