痛みと慢性炎症の関係と、調べ方、原因、改善の仕方

慢性炎症とは、体で起こっている微細な炎症が長く続いている状態を指します。通常の炎症は、体がケガや細菌などの外敵と戦うために免疫細胞を集め、赤く腫れるなど一時的に強い反応を起こしますが、慢性的な炎症ではその刺激や反応がダラダラと止まらず、じわじわと体をむしばみます。慢性炎症はがんや動脈硬化、糖尿病など多くの生活習慣病の引き金になることもわかっています。

なぜ炎症が慢性化するのか、その原因は我々は異常な血管、いわゆるモヤモヤ血管がそこに居座ってしまうことであると考えられています。慢性炎症の特徴として、体にはっきりとした異常な症状として現れにくく(体がなんとなくだるい、疲れやすい、などの不定愁訴としてあらわれます。)、そして慢性の炎症と痛みは深い関係があります。その理由を解説していきます。

以下の論文にあるように、体のなかで慢性炎症が発生すると、普段はおとなしい神経が興奮して痛み信号を発信することが知られています。

論文 Silent afferents: a separate class of primary afferents?

体の中で慢性炎症が発生すると、痛みを伝える神経が興奮することが、1996年に「Silent afferents: a separate class of primary afferents?」というタイトルでドイツから報告されています。感覚を伝える末梢神経であるC繊維(一部Aデルタ繊維)の中に、普段は機能していない感覚神経が炎症が起きたときのみ活性化し始め、痛みの信号を脊髄に送り出す機能があることがわかったというものです。(※1)

※1 Michaelis M, Häbler HJ, et al. Silent afferents: a separate class of primary afferents? Clin Exp Pharmacol Physiol. 1996 Feb;23(2):99-105. doi:10.111/j.1440-1681.1996.tb02579.x. Review.

慢性炎症でなぜ体に痛みを抱えるのか?

痛みを伝える抹消神経にはC繊維とAデルタ繊維があります。どちらも体性痛といって、皮膚、骨格筋、関節、腹膜・胸膜などが刺激を受けて発生する痛みを伝える神経ですが、両者が伝える痛みのタイプは異なります。

  • Aデルタ繊維が伝える痛み
    鋭く速い痛み。尖ったものを踏んづけた瞬間に「いたっ!」と飛び上がるあの痛みで「ファーストペイン」と呼ばれる。
  • C繊維が伝える痛み
    鈍い痛み。尖ったものを踏んづけたあと、足の裏にジワーッと残る「ジンジン」「ズキズキ」とした痛みで、こちらは「セカンドペイン」と呼ばれる。

どちらも血管に伴走している神経なのですが、炎症が発生すると、特にC繊維が痛みを発する神経となってしまうのです。

炎症は体の免疫機能のひとつですから、炎症が起きているということはなんらかのトラブルが発生しているサインです。炎症をきっかけにC線維が興奮し痛みの信号を出すのは人体の働きとして自然なこと。炎症という危機の出現を「痛み」という警告を発して脳に伝えようとしているからなのです。

ただ、体からのメッセージと理解していても、痛みを好意的に受け取れる人はいません。すぐにでも取り除きたいものですが、炎症が長期につづくと痛みも長く居座ってしまいます。体に慢性的な炎症があるとC線維は興奮し続けることになり、常に痛みを抱えるようになるのです

炎症→栄養不足→痛み 負のスパイラル

こちらのページ(鉄分の不足、栄養不足からくる痛み)で説明していますが、栄養不足により、痛みが一層感じやすくなるということも知られています。

簡単に説明しますと、栄養と痛みの関係は以下の通りです。

  • 鉄が不足すると、痛みをやわらげる下行抑制系の機能が低下する。
  • ビタミンDが不足すると、免疫機能が低下してモヤモヤ血管ができやすくなり、モヤモヤ血管とともにできた神経が痛みの発生源となる。

慢性炎症を抱えていると、座っていても寝ていても、常に体内は活動しているのと同じ状態にあります。炎症を鎮めるためには大量のエネルギーが必要になるからです。常にジョギングをしているような状態というとわかりやすいかもしれません。

エネルギーを生み出す栄養素はタンパク質、脂質、糖質(炭水化物)で、それらの代謝にはミネラルやビタミンが不可欠です。本来なら健全な体の活動に使われるはずのこれらの栄養素が、炎症を鎮めるために消費されてしまう…。慢性炎症の体内では栄養素の無駄遣いが進み、それにより引き起こされた栄養不足によって一層痛みを感じやすくなる「痛みのスパイラル」が組み上がってしまうのです。

慢性炎症には自覚症状がないことも

慢性炎症は、初期段階では明確な自覚症状がほとんどの場合でありません。

強いて挙げるとしたら、「寝ても疲れがとれない」「常にだるい」「シミやシワ、白髪が増えてめっきり老けた」といった「ぼんやりとした」症状でしょうか。

ぼんやりといえば「brain fog(脳の霧)」も慢性炎症の症状のひとつです。頭に霧がかかったようにぼーっとするため、集中して思考を深めることができません。そのせいでうっかりミスや忘れ物が増え、仕事や家庭生活に支障をきたすこともあります。しっかりしなくてはと思っているのに慢性炎症がそれを許さず、当人も周囲も慢性炎症の仕業とは気がつきません。

慢性炎症の調べ方

生活上のトラブルは厳然とあるのに自覚症状が曖昧な慢性炎症ですが、血液検査によってその有無を調べることはできます。炎症が発生すると血清中に増えるCRPというタンパク質があります。その数値が高ければ体のどこかで炎症が起きているとわかります。

CRPの基準範囲~0.30mg/dl
※0.3に近ければ、慢性炎症を起こしている可能性が高い

CRPは体の炎症反応を表す数値。基準範囲は0.30mg/dl までですが、その中でも0.3に近ければ、体は慢性炎症を起こしている可能性が高いです。基準範囲であっても微細な変化を見逃さないことが大切です。

ほかにも体が炎症を起こしている採血上のサインがあります。それは「鉄」に関連する結果。体は炎症があるときに鉄分の輸送を慎重にするようになります。炎症があるというのは、体にとっては危機状態であり、もしかすると細菌に感染しているかもしれません。細菌は鉄が大好物です。ですから、体は鉄をできる限り輸送しないようにします。そうすると体のフェリチンという貯蔵鉄の指標が上昇するのです。貧血の割にフェリチンが高い、となると体が慢性炎症の状態にあると判断できます。

慢性炎症の原因

慢性炎症を起こす要因はひとつとは限らず、複数存在します。いくつもの要因が複合的に重なって引き起こされるということは、慢性炎症は生活習慣から発すると考えられます。

要因のひとつとなるのが、今や万病の原因とされる「肥満」。増えすぎた内臓脂肪は炎症性サイトカインを分泌し、内臓脂肪が減らない限り分泌が続きます。内臓脂肪は胃や腸を守るという任務を担っているため、皮下脂肪に比べて免疫系の細胞が多く存在します。本来、体を守るはずの免疫系の細胞ですが、内臓脂肪型の肥満の人の体内では、炎症物質に姿を変えてしまうのです。

そのほか、喫煙、過度な飲酒、生活リズムの乱れ、ストレスなども慢性炎症のリスクを上昇させます。

慢性炎症の改善の仕方

慢性炎症を栄養面から改善するコツを1つお伝えします。それは、「脂肪酸」に着目することです。

食べ物で取り入れるもの、体内でつくられるものを合わせて、体には 種類ほどの脂肪酸が存在します。脂肪酸は「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」のふたつに分類され、不飽和脂肪酸はさらに「一価不飽和脂肪酸」「多価不飽和脂肪酸」に分かれます。一価不飽和脂肪酸は人体内で合成可能ですが、多価不飽和脂肪酸は合成できないため食べ物から摂取する必要があります。その多価不飽和脂肪酸は「オメガ3系」と「オメガ6系」から成ります。

  • オメガ3系・・・炎症を抑制
  • オメガ6系・・・炎症を促進

オメガ3系は炎症を抑制、オメガ6系は促進と、炎症に対しておおまかには正反対の働きをします。しかし、「炎症はよくない」とばかりにオメガ3系だけを摂取しても炎症を抑えることはできません。体に侵入してきた外敵を駆逐し免疫力を高めるために、炎症は絶対に必要な反応です。

ただし、炎症がいつまでも続いてしまうと、生活習慣病、がん、認知症などにつながってしまいますから、「ちょうどよい炎症」にするため、炎症を促す物質が出ているときは同時に抑制する物質も出ています。促進と抑制のバランスを適正に保つには、それぞれに作用するオメガ3系とオメガ6系をバランスよく摂取しましょう。

また、脂肪酸のひとつに「トランス脂肪酸」があります。トランス脂肪酸には、天然のものと、植物油を原料に人工的につくられたものがあります。また、植物油を高温で処理する際にも生成されます。海外では、トランス脂肪酸を摂りすぎると心疾患やがんになるリスクが高まるとして、含有量を規制したり含有量の表示を義務付けたりしています。しかし現状、日本ではこうした規制が行われていません。トランス脂肪酸は、マーガリンやショートニング、ファットスプレッドのほか、パンやスナック菓子、加工食品などに多く含まれているため、こうした食品を摂りすぎないことも大切です

炎症を抑制するオメガ3系・促進するオメガ6系、それぞれの特徴は以下のようになります。

オメガ3系…亜麻仁油や魚油に含まれる

働き・炎症を抑える
・動脈硬化・血栓を予防し、血圧を下げる
・内臓脂肪を減らす
・心血管疾患の予防
含まれる成分と食品α‐リノレン酸:亜麻仁油、シソ油など
エイコサペンタエン酸(EPA):サバ、マイワシ、サバ缶詰、イワシ缶詰など
ドコサヘキサエン酸(DHA):サバ、ブリ刺身、マイワシ、イクラなど

オメガ6系…ベニバナ油、コーン油、大豆油に含まれる

働き・侵入した外敵に対抗するため炎症を起こす
・白血球を活性化して免疫力を高める
含まれる成分と食品リノール酸(体内でアラキドン酸に変わる):大豆油、コーン油など
アラキドン酸(AA):卵黄(生)、豚レバーなど

オメガ3系・オメガ6系は体内ではつくられないため、食べ物から摂取する必要があります。体内の同じ場所に取り込まれるのですが、そこはスペースに限りがあります。両者は体内で陣取り合戦をしている関係なので、偏った摂取をすると片方だけが優位に働くことになります。

当院の痛みの治療法

当院は、痛みのある部位への超音波検査(モヤモヤ血管の確認)、血液検査による体の栄養状態の検査を通じ、痛みの原因を特定して根治を目指す慢性疼痛専門のクリニックです。

ここまで、慢性炎症と痛みの関係、慢性炎症の解消方法を説明してきましたが、慢性炎症があるかどうか、血液検査でわかります。健康診断で取った採血で、正常だといわれていても、詳しく見てみると、炎症が起こっているかもある程度わかります。

ご自身の体が炎症を起こしているのか?ご興味おありの方は、まずはご相談いただければと思います。

著者プロフィール

澁谷 真彦
澁谷 真彦院長
オクノクリニック神戸三宮院、宮崎治療院院長。循環機器内科専門医。

医学部卒業後、循環器内科医として心臓血管カテーテル治療に従事。2012年11月~2014年10月アメリカSkirball Center for Innovation (ニューヨーク州、血管内治療デバイス研究施設)に研究留学。2016年3月大学院博士課程修了 研究テーマ「冠動脈ステント留置後の病理組織と光干渉断層法の画像の比較について」。